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27.レズバスの男たち・グルード

24話に抜けていた1話を追加しています。

お手数ですが、未読の方はそちらから読んでいただけると幸いです。

ソレイヤは久しぶりに王城へと足を運んだ。

そこは変わりなくきらびやかでまぶしい場所だったにも関わらず、こういった感想を持ったのは初めてだった。今は見るものすべてが興味深い。特に美しいものはその輝きをどのように再現したらよいかという観点から見入ってしまう。以前のソレイヤではありえなかったことだ。


王宮の魔術師付き従者にグルードへの面会を申し出た。忙しい彼のことだ、後日改めてとなることを覚悟してきた。本来ならば文を出してお伺いを立てることが正しいだろう。だが、ソレイヤには時間がない。無駄足を覚悟でここまできたのだった。


しかし、予想に反して通された応接室にてしばらく待つよう指示を得た。これは今日このまま会えるということだろう。

急に緊張してくる。これから魔術を使おうとして緊張したことは今までになかった。初めて魔物と対峙した時もある意味投げやりで、自分がすることが通用しなければ死ぬだけだと何も考えず魔術を放ったのだから。


「やあ、待たせてすまないね。お久しぶりだな、ユーハバック魔導師殿」

「ご無沙汰いたしております、レズバス総司令官。こちらこそ、突然押しかける形になってしまい申し訳ございません」

「まあ、私の方から来るように言ったのだから問題ないよ。仕事の話じゃないんだ、かけてゆっくり話そうか」

「ありがとうございます」

応接室のソファに二人で座ると従者がお茶を置いてすっと退席していった。


さあ、ここからが本番だ、ソレイヤは大きく息を吐いた。


「ロックから聞いていたよりは随分マシなようで正直ほっとした」

「あ、えぇ。その節は面目ありませんでした」

「少しは落ち着いたようで何よりだ」

「レズバス塔副責任者殿のおかげで目が覚めました」

「こんな時くらい名前で呼んでやってくれ。あいつの肩書はみんな私の影みたいなものだ。私が引退するまではしばらくこのままだろうから可哀想なくらいだよ。それでも腐らずやっているだろう。全く、うちの子供たちはどの子もいい子だ、ラフィーヌもきっと喜んでいるな」

ラフィーヌはグルードの妻で18年前鬼籍に入っている。

「妻は全ての子を平等に愛していたよ。顔さえ見ることの叶わなかったセリーヌさえね」

ああ、と合点がいった。この、セリーヌのものというには違和感のある魔力の正体が。


「セリーヌが魔術を使えなかった理由、わかったかな」

「はい、今はっきりとわかりました」

「ロックウッドもランスロットもはっきりはわからなかっただろうね。私は情を交わした仲だからすぐにわかったよ。貴殿に渡った魔力はラフィーヌがセリーヌの命をこの世に繋ぎ止めた時のものだってね」

セリーヌが魔力を使うとしたら根底にある母の魔力を先に出さなくてはならない。しかしそれはセリーヌが唯一母を知ることのできる掛け替えの無いものだ。


セリーヌが今までどんなに頑張っても魔力が使えない理由はそれだった。誰だって母の温もりを捨てろと言われてすぐにできるものじゃ無い。出さなくて当然だから、父親であるグルードも積極的にはセリーヌに魔術を教えなかったのだ。


「それが貴殿に渡った意味を理解したかい」

「はい」


ソレイヤは指を一本立てて目を閉じた。


(大丈夫だ、何度か成功している。ここで出来なくて何が魔導師だ)


ソレイヤの額に汗が滲む。グルードは何も言わずにただ、黙ったことの次第を見守った。


ぼっ


指先に魔力を感じたソレイヤが目を開けると、人差し指にちゃんと炎が灯っていた。


「できた」


水魔術で繰り出したどんなすごい技よりも嬉しかった。指先に灯ったほんの小さな炎なのに、だ。



「魔力をきちんと理解したようで何よりだ。魔力が如何なるものか、はレズバスでは

“汝、愛するものに魔術を捧げよ”

これに集約される。これ以外のことは己で考え、学び、時には間違えながらでもあるしか無いんだ。レズバスにある鉄の掟は、時として貴殿のような、取り返しのつかない失敗をする魔術師を減らしたい為にある。男はどうしても強い自分に憧れるからね。戒めは必要なんだよ」

「でも、私の水魔術は弱さの現れですね」

「そこも気がついたかい」

「はい。きっと私は水を抱えて生きるのが怖い。だから同じく忌み嫌われるモノにぶつけて相殺していたのですね」

「貴殿が幼少期に得た経験は、きっと想像を絶するものだったのだろうな。それが魔導師としての素質に繋がるとは皮肉なものだ」

「時として現れる魔導師たちは皆同じような経験をしたのでしょうか」

「もちろん、素地もあるだろう。しかし、きっかけの多くは恐怖心だろうね。自然の恐ろしさを知っておくのは悪くない。それを恐れる心も、だ。しかし恐れていることを忘れてはいけないんだ。忘れると恐怖心だけが暴走するからね」

「私のように、ですか」

「そうなるね」

「さて、君の決心はどうなんだろうか。我が最愛の妻の形見は今や君の中だ」

すっとグルードの視線が鋭くなった。


「できればセリーヌと話したいんです。ランスにはもう二度と顔を見せるなと言われてしまいましたが、彼女に伝えたいことがあります」

「それを私が聞くのは野暮だね。わかった、手配しよう。ところで、次に娘を泣かせたら後はないよ、それは承知しているだろうね。そうなれば地の果てまでもランスが追いかけていくよ」

「肝に銘じて、そのようなことは致しません」


レズバスの塔は一番厳しい塔として有名だ。わざと他の塔の管轄へ養子に出す者もいるくらいだ。

ソレイヤも魔術師をだった頃は、効率の悪いレズバスのやり方を嫌っていた。

だが、やっとわかった。レズバスの塔ほど丁寧に魔術を教える鍛錬塔はないんだ。と。


そんな、厳しくも懐の深いレズバスの男がくれるチャンスはこれが最後だろう。時間的にももう後がない。


だから思いの丈を打ち明けよう。

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