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24.ソレイヤ・最悪の失敗

すみません、1話飛んで投稿してしまいました。24~26が変更になっています。

いつもは歩かせて行く馬を走らせる。強く握れない手綱に懸命にしがみつき、ソレイヤは振り落とされないよう必死だった。


(嫌な予感がする)


こんな日に限ってセリーヌがいるような予感がして心臓が早鳴る。バランスを崩しそうになりながら馬から飛び降りれば、賢い愛馬(かのじょ)は勝手に厩へと向かっていった。


「魔導師様、おはようございます」


などと言う悠長な図書館職員の挨拶を適当に交わして魔導書室へ進むと手が震えた。

レズバス家の侍女と護衛が部屋の外に控えていたからだ。


平静を装い、汗でべたつく背中を悟られまいといつものように振る舞い魔導書室のドアノブに手をかけた。


中の空気はいつもと変わらず、必要のない者を拒むようにねっとりと重い。入り口近くのテーブルを見れば、いつもの席にセリーヌはいなかった。

段々と大きくなる自分の心音を無視して奥に進む。どうか手前の本棚にいて欲しい、と思いながらも現実は無情だった。


一番奥の突き当たり。ソレイヤが出しっぱなしにしてしまった机の前の床の上に彼女はいた。


床に(じか)に座り込み、手で顔を覆いながら嗚咽を漏らすセリーヌ。広がったスカートの上にはいくつもの近代魔導師たちの最後の記録と古代魔導書と近代魔術書、様々な本が散在している。


彼女が泣いている。それはきっと自分のためだろう、ソレイヤはそう思った。

女性を泣かせている、それなのに自分をこんなにも案じてくれる存在に仄暗い喜びを感じる、もう自分はすでにおかしくなっているのかもしれない。


「ソレイヤさま。私、わからないの…わからないんです。あんなにたくさんもらったのに…わからないなんて…どうして…」


涙声に途切れ途切れ漏れる彼女の声。


「何がわからない?」

ソレイヤは我ながら意地悪な質問だと思った。


「どうしたら…その…ソレイヤさまは…元に戻るの?」

自分もずっとその答えを探してここに通っていた。それでもおそらく彼女が読んだ本の数には足りない。自分よりも多くの書物に目を通したセリーヌがわからないというのだ、ソレイヤはもうあきらめがつくというものだ。


「俺はもういい。セリーヌ…自分のことを考えろ」

「いや。いやです。もっとソレイヤさまといたいの…もっといろいろ教えてほしいの…」

自分がこの子に何を教えてやったというのか?教えられたのは自分の方だ。そして結論は出たのだ。


全ては自分勝手で傲慢だった自身の責


泣いて震える彼女を抱きしめたのは、きっと緩む頬を見られたくないからだ。だっておかしいじゃないか!彼女は消えゆく己の命を惜しんで泣いてくれているのに、ソレイヤ自身は嬉しいなんて!


柔らかくて小さくてでもしっかりしているセリーヌの体。初めて感じた人の温もりは想像以上に心地よい。


「お母さま、お願い助けて」


微かに聞こえた彼女の呟き。

それだけ言うとまるで何かを乞うようにセリーヌがソレイヤを見上げる。そう、何かを求められているとソレイヤには見えたのだ。


じっと見上げるセリーヌの濡れた瞳を見ていたソレイヤはモラルとか羞恥心などと言う考え以前に行動していた。ぼんやりと開いた彼女の柔らかそうな紅い唇に己のそれを押し当てたのだ。それが彼女の不安を取り除くかどうかなどわからない。でもどうしてもそうしてやりたかった。そう思ってしまった。


しかしその後でソレイヤの体内になだれ込んできたものに彼自身驚きを隠せなかった。

じわりと温かい物がソレイヤに流れ込む。冷え切って硬くなった彼の体の芯がわずかに灯るような錯覚がした。


(動いた)


確かに自分の中で長いこと凝り固まっていた魔力が震えたのだ。


「セリーヌ、お前…」


話しかけようとして気がついた、セリーヌから力が抜けている。先程までソレイヤに齧り付くようにして震えていた体から力が抜けていた。


(まずい)


ソレイヤはそのままセリーヌを抱き上げると急いで入り口に向かい外にいる侍女と護衛に声をかけた。


「セリーヌ嬢が倒れた」


急いで馬車を呼び寄せる。侍女に護衛が忙しく動き回る中で侍女に預けるには心許なく、迎えに呼んだ馬車が来るまでと彼女を抱いていた。

馬車が来て名残惜しいが迎えの者にセリーヌを預けようとして彼女の手が自分の服を握りしめていることに気がついた。指を開こうとしたが爪を痛めてしまいそうでうまくいかない。「宜しければご一緒いただけますでしょうか」そう言われてとっさに頷くと馬車に乗り込んだ。


初めて入る女性の部屋。

それなのに思いの外装飾が少ない。その代わりに書棚が書斎のように並んでおり学者の部屋のようだった。それでも甘く香る空気は部屋の主人がセリーヌだと告げているようだ。


結局ここまで抱きかかえてきたがセリーヌはベッドにおろしてもソレイヤの上着の裾を握りしめていた。

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