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第6話 自警団

 翌朝。


 目が覚める。うっすら目を開けると、茶色い木の天井が出迎えてきて、自分の世界ではないと実感する。完全に活性化していない脳は、自然と直近の出来事、つまりは昨日の出来事をぼんやりと流してくる。


 魔法の存在。

 ()()()()()()だと目に入ることすらないもの。言葉に言い表すのが難しかったあの光と紋様。そして、それが自分の身にも宿っているという奇跡。どうしてなのかは分からずじまいであるが、それもいつかは分かるだろう。それが分かれば元の世界に帰れるきっかけにもなるかもしれない。

 そして、それを習得するための本。昨日シータさんから貰った魔法の本を思い出す。自室の机の上には、昨日放り投げていて放置していたその本がある。そこそこの厚みもあるため、読むのはまとまった時間がある時にでもゆっくりやろうと思う。


「そろそろアルトくん起こす時間かも」


「おっし、もうちょっとしたら起こしてくるわ!」


 下からノエル夫妻の声が聞こえてくる。そろそろ準備を始めるとしよう。アレンさんの目覚ましメガホンボイスは耳に非常に良くないため、毎日聞いてたら体調を崩す可能性すらある。


 1階へ降りるために、俺は自室の扉を開けて廊下へと出るのだった。



「アルト、今日は何の日か分かるかい?」


 朝食中、アレンさんがこう言ってきた。答えは1つしかないだろう。


「はい、自警団の一員として初仕事ですよね。」


 こう俺は答える。現在の俺の精神パラメーターは


 ワクワク 20%

 不安 40%

 緊張 20%


 といった感じである。詳細に言うと、



 昔の自分では絶対にしなかった「働く」という作業。よく「働いた後のメシや風呂は最高」、「汗水流す楽しさは他の娯楽の数倍はある」なんて格言的な何かを聞いたことがあるが、実際はどうなのだろうか。というワクワク要素


 護衛経験なんてものは生まれて10数年の間で初めてなので、足でまといにならないかという緊張要素


 少なからず「魔物」の存在があるため、もし目の前に現れたらちゃんと対処することが出来るのかというのが問われる。自分の命を優先するなら避けるなら逃げるなりすればいい。しかし、住民を守るためなら話は変わってくる。集落を囲ってある木の柵の内側に魔物が入ってしまったら、その中にいる人達が危ない。なので迎撃して追い払う、撃退するということが必要である。そのスキルが全くない俺が果たして任務を全うできるのかという不安要素


 この3つがぐちゃぐちゃに混ざりあって脳を満たしていき、時間が経つにつれてその水かさが増している。ぶっちゃけ気持ち悪い感覚である。昨日感じた幸福感を一瞬で塗りつぶしてしまうほど強大に膨れ上がっている。



「おい、大丈夫か?体調悪そうな顔してるけど?」


 アレンさんの掛け声で我に返る。どうやら顔に出ていたらしい。


「アルトくん大丈夫なの?今日は休む?」


「いえいえ、大丈夫です。でも、かなり不安で……」


 シータさんにも心配をかけてしまったらしい。いけないいけない。ここに泊めてもらう条件として引き受けたことなのだから、ちゃんとやらないとこの集落にいる意味がなくなってしまう。


「まぁ、今日お前がやるのは基礎練習と夜の監視の手伝いだ。まだ戦闘には出さねぇよ」


「そうですか……」


「いつかは、お前も最前線に立つことにはなるだろうが、少なからず戦闘経験0で戦場に突き出すほどキツい職場ではないぞ。ちゃんと戦いの基礎知識をつけてからだ。」


「それで、練習っていうのは……?」


「昨日あった団長いるだろ?」


「あぁ……レインさんでしたっけ?」


「おう。その人にしばらくの間稽古をつけてもらう。あの人も昔は冒険者で、ソロプレイヤーだったんだ。俺らみたいにパーティー組まないで1人で洞窟や遺跡を攻略していったらしいぜ。」


「ソロで……冒険……」


 ドラ○エだって4人のパーティーで戦うんだぞ……1人で攻撃、バフ、サポートをこなしていたって考えると相当な強さってことだろう。


「あの人に鍛えてもらえば、アルトも立派な戦士として最前線にたてるはずさ」


「いや……別に私は最前線に行こうとは思ってないのですが……」


 たしかに集落を守るために戦おうとは思うが、そんな戦闘狂になろうとは微塵も思っていない。怖いし。


「もぉ、2人とも話ばっかりしてないで……早く食べないと冷めちゃいますよ?」


 アレンさんが励まして俺がゴネるという押し問答が続いていた中、シータさんが口を割って入ってくる。


「おぅ、そうだな。いずれにせよ初っ端から遅刻はマズイからさっさと食べて支度するぞ」


「は、はい。」


 アレンさんに促され、俺は朝食をかき込んだ。


 こうして、自警団に対する不安や緊張を拭えるまま朝食の時間が流れていくのだった。




「行ってらっしゃい!」


 朝食を終えて支度を終えた俺は、アレンさんと共に玄関の前にいる。そして、外に出ようとドアノブに手をかけた時、背後からシータさんが声を掛けてきた。


「おう!行ってくるわ」


 隣では、いつものメガホン級のアレンさんの大音量ボイス。


「アルトくんも、気をつけてね。初仕事、ちゃんとこなしてきなさい」


「はい、頑張ってきます」


 シータさんの励ましにできる限りの明るい声で応答する。物事に取り組む時はまず気持ちから入るっていうのが大事だ思う。多分。そう思いつつ、俺はドアノブを回して、外のやや暑いとも感じられる空気の中へ向かった。




「おぅ、来たか坊主」


 アレンさんと共に自警団の本拠地へと辿り着くと、扉の前にはレインさんが剣を地面に突き刺し、柄の部分を杖にして仁王立ちにしてるレインさんがいた。

 なんだろう。とてもカッコイイ。本物の剣も見たことがなかったが、日光が剣の銀色の刃に反射して輝きを放っている。そして、それを持つレインさんのオーラ。ヒゲ生やしてて、オヤジ見たいなタンクトップと薄茶色のズボンの組み合わせのファッションからは考えられないような圧を感じる。はっきり言って怖い。足がすくむ。


「は、はい……よろしくお願いします。」


 小声で一歩後退しながら挨拶をする。


「じゃあ、約束通り頼むわ。俺は、とりあえず柵の具合見てくるわ。」


 こう言い残して、アレンさんは行ってしまった。


「ったく……これだからあいつは……」


 なんか呆れてるレインさん。事情は知らないが、呆れていることに関しては同情する。息子(仮)の初任務の様子を見なくてもいいのだろうか。


「さてと……」


 レインさんが、地面に突き刺さってる剣を抜いて腰にある鞘に入れる。それと同時に、体に纏っていたオーラが消えた気配がした。良かった……これ以上耐えられないかもしれなかった身としては助かる。


「とりあえず坊主、こっち来い。色々説明すっすからよ」


 レインさんの声に先導され、俺は自警団の本拠地の建物内に入っていった。





「……ってな感じだ。どうだい?出来そうか?」


 レインさんからの自警団の活動やルール・俺の育成メニューなどが語られた。要点を掻い摘んで説明すると


 まず、自警団の基本的な活動について

 ・基本的には年中無休(祭事ごとは例外)

 ・活動は夜中心(昼間はみんなが起きてるため警備する必要が無い)

 ・昼の間で自警団員が少ない場合は、その場にいる人が巡回をすること


 これに関しては、当たり前のように思える。昼間は皆が仕事したりしてるから監視の目が行き届いているため基本的には活動しないとのこと。しかし、集落外へ赴くことも少なくないため、その場合は出た人以外の人たちでやりくりしていくとのこと。また、基本的に活動開始と終了の報告返してくれれば、無理に本拠地に行く必要は無いとのこと。アレンさんの行動は間違っていなかった……。


 続いて、業務内容について

 ・魔物の撃退、討伐

 ・第1.3集落で異変がないかの確認

 ・不審者がいないかの巡回


 アレンさんからある程度は聞かされていたので理解出来る。たしか、丘の上(崖だったかな?)から見渡して、サインが見えたら異常事態って事だった気がする。


 最後に、俺の育成プランについて

 ・体力トレーニング

 ・剣を扱える練習

 ・初級魔法の修得

 ・実戦でも対応出来る瞬発力と洞察力を鍛える


 うん、キツそう。ハッキリ言って学校でやる体育の何十倍もありそうである。


「なにか質問あるか?」


 一通りの説明を終え、レインさんが俺に尋ねてくる。


「あのぉ……質問というか要望なのですが……」


 思い切って言っておこう。トレーニング量が多すぎて倒れてしまう前に。生きて帰るために。


「おう?どうした?」


「私……トレーニング初心者なものでして……手加減してもらえませんか……?」


「うん、無理だな」


 即答。辛いっす……


「初心者だからこそみっちりやるんだ。体に技術を染み付かせ、どんな状況でも対応できるようにする。最初に鍛えておきさえすれば、ある程度ブランクを作ったり新しいことに挑もうとしても、ある程度のブーストがかかって物事に取り組みやすくなる。良い事だと思わないか?」


 なるほど……納得いってしまう……


「それにだ。練習メニューって言葉自体は荷が重いが、実際にやるのは集落の手伝いだ。農作業だって体力トレーニングになる。薪割りだって的確に剣を振る練習になる。魔法に関しては地道にやってくしかないだろうが、それだけさ。」


 論破されてしまった……恐るべし……自警団リーダー。


「ってことで、早速トレーニング始めるぞ。着いてこい。」


「はい、レインさん」



 こうして、俺のトレーニング生活が幕を開けた。



 

























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