第5話 マッピング(2)
「じゃあ、次はお楽しみのあそこに行きましょうか」
シータさんがそう尋ねながら、俺の方へ体を向けてくる。
アレンさんと別行動となった俺とシータさんは、引き続き第2集落の散策となる。今は昼過ぎ。集落散策もそろそろ終盤へと進む頃である。
「あそことは?」
「図書館よ。アルトくん、行きたがってたでしょ?」
朝ごはんの際に話した、ノエル夫妻との会話を思い出す。
「じゃあ、図書館もよるとするか」
「えぇ、そうしましょう」
「図書館とは?」
「まぁ、資料館の方が正しいかな。伝記ものとか魔術の本、生活に関するものなどの資料が眠ってる場所だな。王都の方が質も高いしも量もあるがな。まぁ、基礎的な事だけなら十分な量はあるな。」
確かに、こんな感じの話をしていたような気がする。
「目がキラキラしてたわよ。子供らしい可愛い顔だったわ。」
「あはは……恥ずかしい限りです。」
どうやら顔に出ていたらしい。恥ずかしい。そして、子供らしいって……俺は高校生だというのに……。
でも、正直かなり気になっている。異世界といえばの代表格の魔法や剣術が載っている資料はかなり気になる。見たい。
「じゃあ行くわよ。少しここから遠いけど」
こうして、俺とシータさんは図書館と呼ばれる場所へと歩みを進めた。てっきり、集落内にあるのかと思いきやノエル家の方へと向かい、家を通り過ぎて、さらにその奥へと進む。整備されていない山肌が目の前にある。1歩進むだけで呑まれてしまいそうな不気味な雰囲気を醸し出している。昼過ぎでまだ明るいはずなのに、山の中は薄暗かった。
「ここよ」
シータさんが歩みを止める。山の奥地へと進もうかというくらいギリギリの所の脇に小さな木造の小屋があった。さっきの自警団本拠地よりもボロそうだし、山道よりも暗い。窓ガラスがあったと思われる場所は、ガラスがなくてクモの巣らしきものが張られている。「廃墟」と呼んでもいいレベルである。
「こ、ここですか……」
思わず、そう口に出してしまう。「図書館よりも資料館の方が正しい」的なことをアレンさんは言っていたが、もはや館とも呼べない。
「えぇ、そうよ。アレンが図書館とか言ってたけど、あれは嘘ね。愛しの我が子を騙すのはどうかと思うわ。」
そういうことは最初からそう言って欲しかった。どんな外観か期待していた俺の心を返して欲しい。利子付きで。
「でも、中身は本物よ。ついてきて」
そう言ってシータさんは廃墟へと入っていく。俺も、少し躊躇いながらも後に続く。
中は、外見からおおよそ察せた通りかなり年季の入っている感じだった。床板を踏めしめる度にミシミシとそこが抜け落ちるのではないかと不安になるような音がする。上を見上げても特に電球のような類はなく、薄暗い。しかし、ただのオンボロ廃墟という訳ではなかった。目の前に広がるのは、5~6列ある自分の背よりも少し高い本棚の列。建物はボロボロなのに、本棚だけは腐ってる木材など無くて新品そのもののように見えた。また、本棚の周りだけは明るい。
「どう?凄いでしょ?」
「……はい……」
シータさんの返事に対して、単純な返事しかできない。別に美しいとか綺麗とかという訳では無いのだが、見続けてしまう。神秘的?なオーラが漂う、本棚の周りの空間。立ち入ったものを誘うように照らす光。でも、本棚の周りには電球らしきものは設置されていない。
「どうして本棚の周りだけ明かりが?」
俺は、シータさんに気になってたことを尋ねる。
「魔法よ。本棚の中を見てみれば分かるわよ。」
そう言われて、俺は本棚を覗いてみる。高さや厚さがバラバラの本が横一列に並んでいる。特にラベル整理されているという訳ではなく、少し表紙が汚れている。その上には、不思議な模様?紋様?のようなものを纏っている青いダイヤモンドのような物体が置かれている。これが照源となって明かりが発せられているようだ。
「これって……?」
「これはマジックアイテムの1つよ。周囲に魔力さえあれば、それに反応して光が発せられるのよ。」
なるほど。以前の世界でも人の姿に反応して電源が付く家電とかよく売られていたが、それの異世界バージョン。魔力に反応して電気がつくらしい。恐らく、元魔道士だったシータさんの魔力に反応したのだろう。
ここで、1つ疑問が生まれた。これは異世界に転移した以上確認したい事柄でもある。その疑問をシータさんに投げかける。
「シータさん、俺にも魔力ってあると思います?」
聞いてみる。異世界ゲームの定番、「主人公には秘めたる魔力があるのか」問題。こういう時に、とてつもない真価が発揮されて周りに驚かれるというのが一般的な展開。果たして、モブ的な立ち位置の俺にはあるのだろうか?
「じゃあ、確かめてみる?」
そうして、シータさんは本棚から離れていった。自然と、本棚と自分の1体1となる。ここで、あのマジックアイテムに変化が。ちょっとずつ明るさが減っていく。その輝きはみるみる失われていき……
消えるか消えないかで止まった。息を吹きかければ消えてしまいそうな小さな小さな光の玉。でも、明るさがあるということは……
「シータさん……これって……」
「おめでとうアルトくん。あったわね、魔力。」
喜び。この一言に尽きる。どうやらモブでもこの世界で舞うことはできそうだ。
「でも……シータさんと比べて……」
「そりゃあ、私は訓練を受けてたからね。でも、あなたも練習すれば魔力量くらい簡単に増やせるわ。」
成長の余地も有り得そう。これは嬉しい情報だ。これを応用すれば、自警団でも多少の役には立てそうだ。
シータさんは話を続ける。
「魔力はね。血筋によって存在するかしないかが決まるの。だいたい全人口の半分くらいが、魔力を保持してるとされてるの。どうやら、あなたのご両親は魔力を持っていたみたいね。」
うちの父さんが魔力を持っていたってことか?まさかそんなこと……有り得ないだろう……
「じゃあ、せっかくだからこれを借りていきましょうか。」
いつの間にか手に本を持っていたシータさんが、俺にはその本を渡してくる。そこそこのページ数のある濃い赤色の本である。ちょっと汚れている。
「この本は?」
「魔法の基本が記されている本よ。まぁ、教科書って感じね。これを見れば初級魔法の大体が使えるわよ。頑張れば、魔法戦士みたいになれるかもね。」
シータさんがにっこり微笑みながらこう言ってきた。魔法戦士。憧れる。
「ありがとうございます。頑張ってみます」
あの小さな光。以前の世界では目にできないであろう光景。魔法という新要素。これを使いこなしてみたいという欲求は、止められそうに無さそうだ。
こうして、俺とシータさんはオンボロ図書館から退いて、ノエル家へと帰ることにした。
アレンの帰宅、夕食、入浴を済ませて、今俺は自室のベットの上にいる。
日が沈み、空には星と月が輝いている。部屋の窓を開けると、外から若干涼しい風が吹いてくる。
魔力。そして魔法。実際に見てみると凄い。それを使いこなせるかもしれない。そう考えるだけで少し胸が膨らむ。
明日は、自警団の初仕事がある。果たして自分は役に立つのだろうか。でも、やらないと俺の立場がない。
そうして、俺は目を閉じて寝ることにした。