第4話 マッピング(1)
扉を開けると、暖かい日差しと吹き抜ける風が体を優しく包み込んだ。アレンさんのお下がり洋服は半袖なのだが、それでもとても快適な気候。
「よし、じゃあまずは……」
そうして、アレンさんを先頭に俺たちは第2集落内の散策、俺にとっての初めての冒険が幕を開けた。
まず立ち寄ったのは初めて第2集落を馬車の中から見た時に見えた丘である。頂上には大きな広葉樹が1本立っており、そこに至るまでの坂道には、足首くらいの丈の草が生い茂っている。特にこの丘に名前はついてないらしいが、昼寝スポットにはもってこいとの事。
「とりあえずテッペン行くぞ!」
「オー!!」
ノエル夫妻がテクテクと登っていく。アクティブ過ぎる。てか、俺への説明がメインなのに2人が先行して行っちゃっては意味が無いだろう。
「おいアルト!ついてこい~!」
「は、はい!!」
アレンさんに唆されて、俺は後ろを駆け足でついて行く。このペースが続いたら、今夜はよく眠れることだろう。体力はもつだろうか。
頂上へとたどり着く。遠目から見てもそこそこの大きさだったが、目の前まで行くとその存在感は凄まじい。第2集落を見守っているみたいな圧迫感。目線を変えて、周りを見渡してみる。周りには山々が見え、木の柵で囲われているエリアが2つ見える。
「第1、第3集落が見えるのよ。ふたつの集落も似たような地形で囲われていて、この丘は他2集落の安否を確認する目的もあるの。」
シータさんが説明してくれた。
「そうなんですか」
「おう、何か緊急事態が起こると所定の場所から信号を送るっていうシステムでな。その信号を見たら救援をするっていう3集落相互相助の関係ってわけだな。自警団はこの丘から信号とか送られないか見張るってのも仕事のひとつなんだ。」
アレンさんが補足説明。自警団の仕事は夜遅くまで及ぶ可能性がでてきた。大変そうなのが容易に想像できる。
「せっかくなら撮りましょうか」
「おう、そうだな」
軽く考え込んでいるとノエル夫妻が何かを企んでいるらしく、口元を緩めながらこう話していていた。
「撮るって何を?」
「記録よ。思い出作りの一環ね。今日は天気も良いし、景色もちゃんと見えるから絶好の機会ね。」
この世界にカメラが普及しているのだろうか。でも、そういった機械を家では見なかったのだが。ノエル夫妻の手持ちもほぼ手ぶらだし。
「じゃあ、行くわよ」
シータさんがそう言うと、彼女は水を掬うような形に手を合わせた。すると手の中に水とは違う何か透明なものが姿を現した。光がそれに反射して眩しい。
「あっち向いて!」
言われた方向に向き直すと、彼女は手にあった透明なものを空中に放り投げる。それとほぼ当時に、ノエル夫妻が俺の元へ駆け寄ってくる。
「笑って笑って!」
シータさんに急かされる。笑えって言われてもどちらかと言うと今は困惑して口が開いたまま塞がらないって感じなのだが……
すると、放り投げられていた透明なものが急に光り出す。そしてピカっと閃光弾のような眩しい光が襲いかかる。
「おしっ撮れたか?」
「えぇ、確認するわ」
後ろで2人が騒いでいるが、自分は光によって痛い目のケアが最優先。目をぱちぱちとさせて何とか改善させようと試みる。幸いにも、目の痛みは1~2分で完治した。落ち着いたところで質問を投げる。
「シータさん……さっきのあれって?」
「あれは、ミラートレースっていう魔法でね。数秒間の映像を残しておくものよ。そしてこれを……」
そしてまたシータさんは手を合わせて、ガラスのような透明の箱を目の前に出した。
「この中に入れれば、ちゃんと保管ができるってものよ」
なるほど、ビデオカメラみたいなものだろう。かなりフラッシュがキツいが、実用性はありそうである。
「おいアルトー!目がぼーっとしてて全然笑ってねぇじゃねえか~」
アレンさんが俺の肩を叩きながら言ってくる。
ミラートレースと呼ばれているらしい物体の中を覗いてみると、中央にはポカンとしている俺、左には俺の肩を掴んでピースサインのアレンさん、右にはにっこり笑顔のシータさん。見事なミラートレース目線である。
「仕方ないじゃないですか……いきなり出てきてビックリしたんですし……」
「これが俺たち家族の初めての集合写真になるんだから、しっかりしてもらわんと」
アレンさんが少し呆れた口調で続ける。まだ家族になったという実感は無いんですけどね……
その後は、隣接する崖、王都へ通るための道(馬車で通った道)、集落共用の野菜畑と花畑、牧場などの散策が続いた。どれも、都会暮らしでは考えられないほどのどかで落ち着く感じであった。季節の花とかはさっぱり分からないので、今の季節は知らないが体感的に春~夏の間であろう。とても快適で過ごしやすい。絶対に昔では体験できなかったし、しなかっただろう。あの時の感動。幸せだったあの頃を思い出す。
外回りの次は、集落内の散策となる。村長的な存在は無いとのことで、皆が皆を助け合い支えていく暮らしらしい。日本の歴史でいう縄文とか弥生時代の生活なのではないかと錯覚する。
まず向かったのは、これから世話になる予定である自警団の施設である。
「よぉ!久しぶり!」
アレンさんが扉を開けて先陣を切った。
「アルトくんも付いて行きな。これからお世話になるんだし」
シータさんの声に押されて俺も後に続く。中はノエル家よりも暗い感じである。あと汗臭い。
「お、お邪魔します……」
小さく入室の挨拶をする。こういう少し暗くて閉鎖的な空間にいる人となると、少し怖いヤンキーみたいな姿を思い浮かべてしまう。タバコとか吸ってそうなイメージあるし。
「お?その声はアレンの野郎かい」
奥から野太い男の人の声。敵ではないと分かって入るけど妙な緊張を体が縛り付ける。
「久しぶりだな~」
そうして奥からやってきたのは、髭を生やして銀色のレギンスと薄緑色のシャツに身をまとっている髭を生やした男の人がでてきた。アレンさんよりも年上そうである。おっさんというイメージが強い。
「隣のは?噂のか?」
「あぁ、しばらく引き取ることにしてな。明日から参戦するかは怪しいが、挨拶だけはと思ってな」
「なるほど。センスはどんな感じだい?」
「最低限の運動はしてるっぽいが、それどまりっぽいねぇ」
「じゃあ、実戦は早くて1週間だな。監視だけならまだしも魔物退治は危険すぎるぞ」
「そんな事は分かってるぜ! だから鍛えてやってくれって話だ」
「そうかい。なら承った。とりあえず自分の身は自分で守れるくらいにはしてやるよ」
そんな会話が続き、(その間俺は眺めてるしかできなかった)
「おい坊主」
急におっさんがこっちへと話題をふってきた。
いきなりは怖いからやめて欲しい。
「は、はい」
思わず声が裏返る。ノエル家に帰りたいです。
「名前はなんて言うんだ?」
「あ、アルトです。」
そして、髭のおっさんは俺の体を検査するように見回して、
「おし、これからよろしくな。俺はレイン・ソイルだ。自警団のリーダーをしてるものだ。」
と自己紹介をしてにっこり笑顔で右手を差し出してきた。なんだろう、ギャップがすごい
「は、はいよろしくお願いします」
自分も右手を出して握手を交わす。男らしい大きくて温かい手であった。
その後は、レインさんとアレンさんによる自分のこの後のスケジュール調整の打ち合わせがあるとの事で、アレンさんと別れて俺とシータさんは引き続き、辺りの散策となった。