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第3.5話 探索準備

 目が覚める。



 異世界転移2日目。窓から差し込む陽の光により、アルトは目を覚ます。天井には白い天井ではなく、木材。違う環境にいるということをここでも実感出来る。窓を覗くと、青空と少しの雲。そして、翼をはためかせて飛び回る数話の鳥。鳴き声からして、ハトの仲間だろうか。以前までは苦痛であった朝も、今はこうしてじっくりと観察できるほどの余裕。前までの気分とは違う。やはり、環境の変化というのが大きいのだろう。こう考えると、今まで悩んでいたことが子供じみていたのかもしれないと感じる。所詮は高校1年生の悩みだ。軽い刺激で悩みが吹っ飛ぶなんてこともあるのであろう。


 それでも……


 拳を握る。いつもの(虚無と悲しみ)が頭の奥から湧き上がってくる。まだ完全に克服は出来ていない。やはり気持ちの整理はつきそうになさそうだ。



 コンコン


 扉のノックが聞こえる。誰だろう?


「はい、どうぞ~」


 扉が開く。そこからは、


「おはよぉ!アルト!!!元気かい??」


 朝の静けさをぶっ飛ばすようなアレンさんの大声量。都会なら近所迷惑ものであろう。耳栓とか売ってないだろうか。


「おはようございます。おかげ様で」


「まったく……まだその他人行儀な言葉使いしてるのかい。家族だと思ってくれってなんべんも言ってるだろう~」


 少し呆れ顔で嘆くアレンさん。そんな事言われても……本当の親はいたんだけど……とは言いづらい。


「そろそろアルトくんは起きました?ご飯の支度ができたのだけど……」


 1階からシータさんの声が聞こえる。


「おうさ! ちょうど部屋に行ったら起きてた見てぇだ」


「おはようございます」


 男ふたりが同時に応答。なんだろう、家庭っていう感じだ。


「あら、起きてるのね。じゃあ下に降りてきてって伝えといてね」


 どうやら俺の声は隣の超大音量スピーカーでかき消されたらしい。哀しきかな。


「ってことだ! 着替えてたら降りてこいよ」


「わかりました」


 俺の返答も聞くと、アレンさんは満足そうに扉を閉めて1階へ降りていった。朝からものすごく体に(主に耳)負担がかかりそうである。


 そうして、再び静かになった部屋の中で寝間着から洋服へと着替える。転移当時に着ていた服は、シータさんが洗濯をしているため、アレンさんのお下がりを着ることになった。色は少し地味めな緑色。男っぽくて十分ではあるが、やっぱり少しゴワゴワする。悪くは無いのだが、やはり現代人としては少し不満である。レビュー星3といったところ。まぁ、この世界に文句を言っても仕方がない。


 着替え終わって下に降りるとノエル夫妻2人が既にリビング中央のテーブルに腰を下ろして待っていた。テーブルには、パンとピンク色のジャム的な液体、サラダとリンゴに似た果物。パンといっても、昨晩はロールパンみたいな形だったものが、今朝はフランスパンと似た形となっている。


「おはようございます」


 俺は2人にお辞儀をして挨拶をする。


「おぅ!!」


「おはよう、アルトくん」


 夫妻もにこやか笑顔で返してくれる。


「席座って、朝ごはんにしましょ」


「はい、いただきます」


「召し上がれ」


 シータさんの呼びかけで、俺は椅子に座って、目の前に並んである食べ物を食べ始める。昨晩はまともな食事をすること自体が久しぶりであったため、無我夢中で食べ進めており細かく味わう行為はしてなかったが今はその余裕がある。異世界での食事問題は今後の生活基盤の生成で大事になると思うので、今のうちに食べれるものくらいは把握しておこう。まずはパン。手で持つとほんのり温かい。それを隣にあるピンク色のジャムらしきものを付けて一緒に口へ頬張る。パンらしい食感と香り。そして、甘酸っぱいジャムの味が口の中を巡る。昨日もそうだったが、大体の食べ物は基本的に向こうの世界と同じ感じがする。食材名や調理器具、味付けが違うとしても最終的には()()()()()()()()。向こうの世界から取り寄せたみたいにそっくりである。サラダ。上には粉チーズみたいな黄色い粉がかかっている。1口。レタスのシャキシャキと甘み、チーズの仄かなアクセント、トマト(似た何か)の酸味。こちらも、容姿は違えど食べると慣れた味である。


「美味しい?」


 シータさんからの声。


「ええ、とっても」


 にこやかに返す。さっきから食レポらしい事を考えているが、結論から言うと美味しい。詳しいことは分からないが、シータさんは料理が上手い分類に入るのではないだろうか。カロリーバー常時摂取マンだった俺にはさっぱりであるが。


「だろう?うちの嫁の飯は世界でいちばん美味いのさ!」


 隣から自慢げに言うアレンさんの饒舌が炸裂する。


 その勢いで、アレンさんは(望んでもないのに)2人の馴れ初めなりなんなりを熱く語り出した。前回と同じく、割愛して要約すると


 ・元々アレンさんとシータさんは冒険家


 ・アレンさんは剣士、シータさんは魔道士だった


 ・酒場でパーティを組んだのがきっかけ


 ・プロボーズはアレンさんから


 ってことである。その後は熱い熱いデートの話などの2人の甘い新婚生活話が続き、シータさんの顔がマグマみたいに赤くなり始めてたので無理やり静止した。それと同時に疑問に思ったことを投げかける。


「お2人って元々は冒険家だったんですか?」


 冒険家。異世界らしい単語が登場する。洞窟やダンジョンに潜って、モンスターを倒したりお宝を回収したりする。子供心で捉えるとロマンがあってカッコイイ仕事であるが、大人の心で捉えるとカジノとかパチンコよりもタチが悪い賭け事に思える。勝てば一攫千金、負ければ人生終了。


「おう、これでも昔は俺らも手練の部類に入るくらいは頑張ってたんだぜ」


 アレンさんが答える。そして、それをきっかけにシータさんを交えさらに会話が続く。



「やっぱり魔術とか……?」


「そうね。私はヒーラー専門だったから回復魔法しか取得してなかったわね。戦闘はアレンがやってたわ」


「俺は上級剣士だったからな。基本的な技は全て出来たぜ」


「上級って何か基準が?」


「まぁ明確に決まってる訳じゃあないんだが、剣士を名乗るにはライセンスがいるのさ。持ってないで名乗っても問題は無いが信用問題に関わるってことさ。怪しい経歴の人は雇わないのが世の中ってもんだろ?特に命張る冒険家はな。」


「じゃあシータさんも?」


「ええそうね。魔法は剣と違って、加減を間違えたら、自分も周りも悲惨になるからね。ライセンスが必須になるわね。回復魔法なんて、ミスしたら簡単に人を殺せちゃうんだから」


「もしかして、アルトも冒険家目指したいってことかい?こんな気興味津々になっちゃって」


「えぇ……まぁ……」


 確かに似たようなことは昔憧れていた。でも、俺はそれに離れない。必要な経験(レベル)戦うための道具(覚悟)も据わってない。


「まぁ別に冒険家以外にも魔法や剣技を応用することは可能だわ。例えば、ウチだって冷房とか暖房は魔力使って操作してるし、主人だって自警団やってるでしょ?ライセンスはあくまでも正式な職業の場合ってだけ。生活の一部にするなら問題ないのよ。」


 なるほど。機械が無くても風通しがいいなと思ったらそういうことなのか。魔術は日常生活に幅広く応用が聞くらしい。


「まぁ、アルトが冒険家目指すってのも応援はしたいがまずは、自警団での下積みからだな。先は長いぜ」


「べつに冒険家目指すって決めたわけじゃないです。命かけて戦えるかって言われると不安だし。安定した収入って大事だと思いますから。」


「随分現実的な子ね。」


「つまらんなぁ……確かに命は背負うが、開放感と達成感は桁違いだと思うけどねぇ」


 仮にも息子として俺を見てるなら少しは止めてくれてもいいのでは?命投げ出すと言ってるようなもんだぞ。


「じゃあ、図書館もよるとするか」


「えぇ、そうしましょう」


「図書館とは?」


「まぁ、資料館の方が正しいかな。伝記ものとか魔術の本、生活に関するものなどの資料が眠ってる場所だな。王都の方が質も高いしも量もあるがな。まぁ、基礎的な事だけなら十分な量はあるな。」


 魔術。剣技。聞くだけで想像が膨らむ。自警団で働くなら、自衛の手段くらいは持っとかないとな。


 こうして、朝食の時間が過ぎ


「うし、出発するぞ!」


「ええ、そうね」


「はい!」


 俺たち3人は家の玄関から踏み出し、第2集落の散策を開始した。




















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