有能な仲間を追放したら逆転敗北人生! 戻ってきて欲しいと懇願してみたがもう遅かった!
「いやあ、まさか意外なところであいつがパーティの戦力となっていたとはねぇ」
かつてゴブリンだった生物の遺骸を前にしながら、俺は思わず呟いてしまった。
「全く気付かなかったですね……ゴブリン相手にこんなに苦戦するとは思ってもいませんでした……」
息を上げながらパーティの治癒術師レシェンが俺に答える。
俺達は押しも押されもせぬSランク冒険者パーティであるが、たかだかゴブリン如きに苦戦していた。
認めたくはないが、これはちょっと前に一人の男をパーティから追放した事が原因だろう。
追放した男の名はハルヴィア。
戦士職である。
話によると、ハルヴィアは唯一現存する魔剣「グレヴェナー」の所持者であり剣術系の最上位スキル「剣聖」持ちだったらしい。
だがその強さについてよく分かっていなかった俺達は「なんかすごく斬れる武器を振り回してて危ない」と言う理由でハルヴィアを追放してしまったのだ。
いやだって、怖いじゃん。
オリハルコンとか言う硬い体でできたゴーレムとかもスッパリだったんだよ。
「そう言えば、徒歩での移動なんて久し振りだな。今まではハルヴィアが転移魔法使っていたからな」
弓士であるエルフ族の男、シャートが重い荷物を担ぎながら言う。
ハルヴィアは支援術の扱いにも長けてたようであり、転移魔法から荷物持ちの魔法、後は確か防御魔法まで使っていた気がする。
正直あいつ魔法たくさん使い過ぎてて、何が便利で何が凄かったのか今でもよく分かってない。
ハルヴィアを追放した理由の一つに「使ってる魔法が多すぎてちょっと引く」てのもあった気がする。
「あとはあれですね。ハルヴィアさん話も上手かったので、貴族の方や豪商との交渉もハルヴィアさんがやってませんでしたっけ」
「あ、そうなの? そんなことやってたんだ、あいつ」
その話は知らなかった。
そう言えば俺、このパーティのリーダーではあるんだけどあんまりそう言った社交的なこと、したことなかったわ。
「私、ハルヴィアさんに交友広すぎて逆に気持ち悪いって言っちゃったんですよねー……。ちょっとだけ反省しています……」
「あー、気持ち悪いは言い過ぎかもねー。まあ、仕方ないよ」
俺は形ばかりでもいいのでレシェンを慰めた。
「取りあえず、ゴブリン退治も終わったしみんなで街に戻ろうか」
思いのほか苦戦はしたが何とか仕事をこなした俺達パーティは、拠点である冒険者ギルドのある街へと戻ることにした。
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「ほら、これが今回の報酬だよ」
「あれ、なんか少なくありません? Sランク手当みたいなの入ってないんですけど」
街に戻って冒険者ギルドに報酬を受け取りに行った俺達だが、普段と比べてあまりにも額が少なすぎた為に受付のおっちゃんに文句を言った。
「いやお前達、ハルヴィアが抜けちまったんだろ? あいつ一人の冒険者ライセンスでSランクだったから、今のお前達はEランクだよ」
「はーなるほど……了解しました」
そういう事なら仕方がない。
俺は冒険者ギルドから普段よりも圧倒的に少ない報奨金を受け取り受付を後にして、併設されている酒場で待っているレシェンとシャートの元へと向かった。
「いやーしかしSランクパーティだったのもまさかハルヴィアのお陰だったとは……全然知らなかった」
二人が酒を飲んでいるテーブルに戻ると、俺は思わず二人に言った。
確かに俺自身の冒険者ランクはEだったが、これは盲点である。
「荷物持ちの魔法もこんなに有り難かったとはな……クソ、縁の下の力持ちって奴だったのかあいつは……」
いつもはハルヴィアのポーターの魔法で荷物を運んでいた俺達だったが、今回からはあいつがいないために自分達で荷物を運ばなければならない。
正直冒険者の荷物がこんなに重たいとは思っていなかったし、なんだかだんだんハルヴィアがいないことに腹が立ってきた。
「なあ、ハルヴィアのこと呼び戻そうかと思うんだが。あいつがいることの不都合についてはある程度までなら俺達の方が我慢すればいいし、それよりは奴を便利に使う方がいいような気がするんだ」
俺はレシェンとシャートに提案する。
「はい、リーダーの意見を尊重します」
「仕方ないな。俺もおまえに賛成だ」
二人も俺の意見に賛同してくれたので、ハルヴィアを探そうと冒険者ギルドに併設されている酒場の席から立とうとしたその時だった。
「すみません、おやっさん。書類の提出に参りました」
「おう! 噂をすればハルヴィアじゃねえか!」
冒険者ギルドに入ってきたのはつい先日追放した男。
さっきまで俺達には塩対応だった冒険者ギルド受付のおっちゃんが喜色満面の笑みを浮かべてハルヴィアを迎える。
探しに行こうとしていたハルヴィアが目の前に現れたのだ。
これ幸いと、俺は間に立ってハルヴィアに声をかける。
「よう、ハルヴィア。数日ぶりだな」
「あ……イーヨさん……」
ハルヴィアが俺を見ると、暗い顔を浮かべて目を伏せた。
「なあ、この間は俺も言いすぎちまって悪かったよ。お互いに水に流して、元のパーティに戻らないか?」
俺は頭をかきながらハルヴィアにあの日の事を謝る。
ハルヴィアは俺の言葉を聞いて顔をあげた。
心なしか、その顔は明るかったような気がした。
「あ、いえ、すいません。俺もう次が決まっちゃったんです」
「え? まじで??」
あれ?
明るかったと思ったけど気のせいだった?
「ハルヴィア、次のところ決まったのか! よかったな! で、どこだ? 雷帝ボルストのパーティか!? 勇者ファルセガのところか!?」
俺達を押しのけるように、受付のおっちゃんがハルヴィアの前に出しゃばってきた。
「いえ。地元の叔父さんのコネで、町役場の職員やることになりました」
「はぁ!?」
おっちゃんが素っ頓狂な声を上げる。
「あーそっかー。じゃあ仕方ないなー」
町役場の職員になるのならしょうがない。
ハルヴィアにとっては危険で自分の実力がものを言う冒険者よりも、稼ぎは少ないながらも安定した職業の方が合っているだろう。
「いや、既に生きた伝説の冒険者が小さな町役場の職員!? そんな事ってねーだろ!?」
「いやーでも、叔父さんには無理言ってねじ込んで貰いましたし、今更『やっぱ無しで』はできませんよ」
「他の冒険者パーティとかに誘われなかったのか!? いくらでもあっただろ、そんな話!!」
「あるにはありましたけど、あんまり他でやってく自信が無かったんですよねえ……畏れ多くて全部断っちゃいました」
おっちゃんは恐ろしい形相でハルヴィアに詰め寄るが、当のハルヴィアの心は既に役場の職員に決まっているようだった。
「お……お前のその剣聖スキルと魔剣はどうするんだ……役場の職員なんかじゃ……宝の持ち腐れだろ……!?」
「ええと、今まで冒険者で積んだ経験を活かして、ボランティアとして休日に町の子供達に剣術を教えようと思ってます。今どきの子供は結構シビアなんで、そこそこの腕と武器を持ってないとついて来てくれないみたいなんですよ」
「ポ……荷物持ちの魔法とか転移魔法は!? あそこまで支援術を使いこなせたのはお前くらいしかいないのに!?」
「うちの町はご老人が多いので、買い物の手助けとかに使えると思います。意外と役に立つかもって話です」
「意外とじゃねえよ! お前の支援術はトップの冒険者パーティどころか、国が欲しがるレベルだからな!?」
何やらおっちゃんとハルヴィアの押し問答が続いているが、このままじゃ埒が明かないだろう。
俺が間に入って助け舟を出してやることにする。
「おやっさん、ハルヴィアはもう冒険者を続ける気はないみたいだからやめとこうぜ。正直あんまりこういう仕事、向いてなかったみたいだしさ」
「いやお前、何言ってんだ!? ハルヴィアはもう既に伝説に片足どころか腰まで突っ込んでるレベルだぞ!?」
おっちゃんは尚も訳の分からないことを言っているが取りあえず無視して、俺達はハルヴィアに別れの挨拶をすることにした。
「町役場への就職、おめでとう。お前ならやっていけると思うぜ、根拠はないけどな」
「この間は酷いこと言ってしまってごめんなさい。新しい職場でも、頑張ってね」
「お前と一緒の冒険、まあまあ楽しかったぜ」
俺とレシェンとシャートは改めて、ハルヴィアに別れの言葉を告げる。
「イーヨさん、レシェンさん、シャートさん……。俺、さっきのイーヨさんの『パーティに戻らないか』って言葉、凄く嬉しかったです……。役場の職員になってもちゃんと頑張ります。皆さんも頑張ってください……!」
そう言うと、ハルヴィアは今度こそ明るい顔をして冒険者ギルドを後にしていった。
「いやあ、ハルヴィアも新しい道に進めたし俺達も心のわだかまりが無くなったし、近年稀にみるハッピーエンドだったな」
「はい。円満に別れられて、よかったです」
「ああ。ハルヴィアと俺達の未来に、乾杯」
俺とレシェン、そしてシャートは三人ともいい笑顔をしながら改めて飲み直す。
「いや……正直誰も得してないからな? お前達は最強の仲間を手放しちまったし、俺達冒険者ギルドは生きる伝説を失ったよ。ハルヴィアがこのまま町役場の職員で終わっちまったら、ここまで誰も得しないケースは珍しいよ。どうしてこうなった……」
何やらまだぶつくさ言ってるおっちゃんを尻目に、俺達はご機嫌な夜を過ごした。
……あれからしばらく経ったが、ハルヴィアはそこそこ優秀な町役場の職員として今日も元気に仕事をしているらしい。
俺達はと言えば何故だか冒険者稼業が行き詰まり、ケチなコソ泥をして牢屋にぶち込まれてしまった。
ここからは俺が得た教訓なんだが、何と言うか、縁の下の力持ちってやつは結構重要だから、大事にしておこうな!
猫らてみるくさんから素敵なレビューを頂きました。
ありがとうございます。