どうやら私は異世界に迷い込んでしまったみたいです 3
『これを読んでいるあなたへ、まずはごめんなさい』
始まり方の掴みはバッチリですね。
『私の名前はミレイユ、アーシャお姉ちゃんの妹。そして、あなたをこの場所に呼び寄せた犯人です』
ふむふむ、なるほどなるほどアーシャさんの妹……妹さん!? あと、私を呼び寄せた真犯人ってどういう事でしょう。
『これをあなたが読んでいると言うことは私の計画も成功して歴史の方も上手く進んでいることでしょう』
これは本と言うより日記とか手紙の方がピンと来ますね。計画とか歴史とか凄い事をやっているような雰囲気ですが、一体何者なのでしょう?
『私がこの日記を残したのは、あなたに私とお姉ちゃんの事を知ってもらいたいからです。私たちの事について、おそらくお姉ちゃんからは歴史作家と話を聞いてると思いますが、正確に言うと私たちは過去の出来事を書いている歴史作家ではなく、未来を書いている歴史作家です』
なんか、凄いことが書いてありますね、私の想像を遥かに超えてとんでもない話になっています。仮に想像は出来ても現実的に有り得ないです。
『あなたは今、信じられないと思いましたよね』
思いました、思いっきり思いました!
『そういうことです、あなたがこの時そう思うように私は歴史を記しているのです、理解出来ましたか』
バッチリ理解しました、信じ難いことですが信じることにします。
『理解したようですね、じゃあ、次に進みますね』
もはや会話していませんか、どこからどう読んでも意思ありますよね?
『気のせいです』
いやいやいや! 思いっきり会話してますし!
『気のせいです』
何だか遊ばれているような気がします、でも気にしてもしょうがないですし先を読みましょう。
『すいません、ちょっと遊びました、話を戻しますね』
やっぱり、遊ばれていましたね……不気味というよりも、文面がお茶目な為か、安心して不思議と怖くないです。読者を弄ぶ、ある意味究極の作家な気がします。
『ここからは少し話が暗くなりますので、そのつもりで読んでください』
本当に話しかけてると言いますか、日記とかの壁を超えてます、今更ですが異世界って事を痛感しますね。
『私とお姉ちゃんの家系は先にも記している通り、未来の歴史を記す使命を担っていました、私たちはその為だけの存在なのです』
そんなこと、アーシャさんは一言も言っていなかったですが……というより普通に歴史を書いていましたし、謎が深いですね。
『私たちは森の外に出ることは出来ません、なぜなら歴史を記している私達が外に出てしまえば自ら記した歴史を塗り替えてしまうからです。私たちが記した歴史は同時に私たちが森にいる事が前提条件なのです』
そうだったのですか……でも、おかしいですね。確か妹さんは外に出ていってしまったと聞いていますし。アーシャさんは普通に外に出ることもありました。
『色々と疑問があると思いますが、全部この先に記してあるので、読み進めて言ってください』
なるほど、色々と事情があるんですね。
『私たちは森から出れない代わりに、この力を使って色々な事ができます。目の前に欲しいものを用意したり、記憶を操作したと、簡単に言えば未来に起こることなら、だいたい思い通りにできます。そして、その力を使ってやらなければいけない大事なことが一つあります。それは、子孫を残す事です、私達の使命は歴史を作る事ですが、身体は普通の人間と変わらず朽ちます。そして、厄介な事に命だけは人との繋がりがなければ生み出す事は出来ないのです』
食べ物とか生活に必要な物は用意できるけど、人は生み出す事が出来ない、何か複雑なルールがあるのでしょうか……
『私はお姉ちゃんから子供を作る為の馴れ初めを組むよう任されました。正直乗り気では無かったです、何故なら普通の人がしているように、出会って惹かれて恋して、好きになるっていう工程を運命として作らないといけなかったから』
アーシャさんの恋が自然ではない事が嫌だったんですね、私も、もし好きな人が出来たとして、その恋が仕組まれた物だって知ったら嫌になるかもしれません。
『私はお姉ちゃんに、その人を好きなってもらえるよう最低限のシナリオを考えました。きっかけを作って出来るだけ本当の恋愛に近付けるように、誤差はその都度調整すれば良いと考えていました。お姉ちゃんが恋をして幸せになって、産まれてくる子供には沢山の愛情をあげたいと、そう思っていたんです。でも、あの男は違った』
日記の執圧が代わりました、紙に痕が残る程の強さで書いたのでしょう、その先の文字からは憎しみを感じさせるような文で書かれています。
『あいつは自分の欲を満たす為だけに、私たちを騙していたんです、私達にこれっぽっちも恩なんて感じていなかった、一緒に話した時も楽しんだ時もご飯を作った時も食べた時も怒った時も遊んだ時も悲しんだ時も掃除をした時も一緒に寝た時もお姉ちゃんに告白した時も……お姉ちゃんを殺した時も』
えっ? どういうことですか、アーシャさんが殺された? 生きてます……よね……
「あの人は……誰……?」
私は全身に寒気が走り、さっきまでとは逆に得体のしれない恐怖に襲われ日記を閉じました。この先に答えはある、そう思いつつも、私の身体は日記を読む事を拒みました。
「……ぇ……よ……」
「うぉわぁいゃぁぁっ!! 誰ですか何ですか! あっち行ってください怖いです、近づかないでください」
「ひより……?」
「私の名前を……えっ?……」
私は名前を呼ばれて我に帰ります、そこには今にも泣き出して……というか泣いているアーシャさんの姿がありました。
「ひより……酷いわ……私、ただ名前呼んだだけなのに、そんなに拒絶するなんて……本当は嫌われてたのね……」
「アーシャさん、違いますごめんなさい! ちょっとうたた寝してて、怖い夢見ちゃって誤解です! 私はアーシャさんの事大好きです!」
「そう……なの?」
アーシャさんが涙目で訴えてくる、この目からは悪意は感じられないし、多分何か理由があるのでしょう。私がそう思うことも妹さんが考えた事なら、アーシャさんは安全な人です。
「そうですよ! 私がアーシャさんを嫌いな訳ないじゃないですか!」
「そっか……なら良かったわ、きっと本を読んで疲れていたのね、今日はゆっくり休んで続きは明日にしたらどうかしら」
やっぱり、今日は休めって事なんでしょうね。その方がきっと良いのでしょう。
「分かりました、今日は休みますね、ごめんなさい」
「良いわよ……おやすみなさい」
「おやすみなさい」
ーーー
私はいつものようにアーシャさんのお世話をしてから、昨日の続きが知りたくて日記を見に来ていました。アーシャさんは何者なのだろう、殺されたと書いてありましたが信じ難いです。
「おそらく、その続きも書いてあるのでしょう」
この日記が全部真実ならば……
『あの男の事を思い出したら怒りが込み上げてしまいました、もう過ぎた事ですし怨むのはやめましょう』
相当な憎しみを抱いていたんですね、紙に残っていた執圧も落ち着いたらしく、痕は残っていません。
『あいつはあなたと同じように異世界人で、育ちが悪く不幸な人でした。その方が都合が良いと思ったんです。ですが、既にあいつの心は死んでいました。幸せを感じるよりも憎しみの方が勝ってしまったのです。予想外でした、不幸な生い立ちだったのなら、この幸せを大事にしてくれると思ったので』
彼は、もう後戻りが出来ないほど心が廃れていたんですね、人に対する憎悪を拭いきれなくて、アーシャさんを殺してしまった。
『あいつはお姉ちゃんの気持ちも私の思いも両方踏みにじりました。でも悪いのは私なんです、私が二人の幸せを望んでしまったが為に、魔女になりきれなかったばかりに、私はお姉ちゃんを死なせてしまい、あいつも殺しました』
やっぱり、殺していたんですね。そうでなくてはミレイユさんも殺されて、この日記も書けるはずありませんから。でも、わざわざ二人と表現しているあたり、本当はミレイユさんも、その人の事を好きだったんですね。
『未来を弄ることは綺麗事じゃない、本来のあり方を無理矢理改竄して幸せを偽ることが、どれほど残酷なことか。私たちの生まれた理由に愛を知りたかっただけなのに、私たちがこの使命を背負い生きる理由はそれだけだったのに。こんな未来になるくらいだったら私は書きたくなかった。私たちの命はなんだったの? 先祖が愛したものは全部偽りだったの? 歪んだ愛で私たちは生かされてきたの? 私はしばらく悩みました。最終的に辿り着いた結論は自分を捨ててお姉ちゃんとして生きること。そして、この力を捨てることでした。私にはお姉ちゃんが居ない世界なんて耐えられませんでした。私の歪んだ気持ちで子孫を残すくらいなら世界を終わらせた方が良いと、そう思ったんです』
じゃあ、今まで私がアーシャさんだと思っていたのはミレイユさん? 本物のアーシャさんは本当に死んでいて、その罪を償いたくてミレイユさんはアーシャさんとして生きてた……
『あなたは私の代わりに呼んだ異世界人で、お姉ちゃんの幸せには必要不可欠だった、この世界が滅ぶ時には……あなたは元の世界に帰れます、こんな身勝手なわがままに巻き込んでしまって本当にごめんなさい』
本当に身勝手です! そもそも、貴女がアーシャさんになったって本物のアーシャさんは死んでしまってるじゃないですか!! ただ現実から逃げただけ……愛を偽るのと、何が違うんですか……
「こんな真実を知って帰れたとしても……私の心は……私のこの気持ちは晴れないじゃないですか」
『最後にお願いがあります、私と……アーシャという二人の人間が居たという事をあなたの心に留めさせてください……』
「ひより……」
声の方向に目を向けるとそこにはアーシャさんが居ました。いえ、アーシャさんではなくミレイユさん。
「私思いだしたわ……私の名前はミレイユ……あなたが私の日記を読み終わった時に、私は記憶を取り戻すようになっていたの」
「なんですか、それ……酷すぎます。私、ずっとミレイユさんの手の平で踊らされてたんですか?」
「ごめんなさい、でも、私が貴女と居れた事は無駄じゃなかったわよ」
「なんですか、急にお別れみたいに」
「お別れなのよ」
言わないでください、それ以上言わないでください、聞きたくないです。
「あなたが日記を読み終わったら世界が終わる。お別れって決めていたの」
「そんな、嘘ですよね? ほら、あの日記もドッキリなんですよね! 帰れないって言ってたじゃないですか、やめてくださいよ冗談いうの!」
そうだ、これは冗談です、いつもと変わらないどうしよもない会話なんです、きっとそうです!
「何言ってるのよ、私が貴女を突き合わせちゃっただけじゃない、本当に帰れるのよ? こんな時にまで冗談は言わないわ」
冗談って言ってくださいよ……嫌です
「絶対嘘です、冗談です。どうしたんですか、いつものアーシャさんらしくないじゃないですか」
「私はミレイユよ……アーシャは私のお姉ちゃん」
そんなこと、分かってます。アーシャさんがミレイユさんだってこと分かってますよ。私が駄々こねてるのだって分かります。でも、別れるのが嫌なんです。
「だからね、私が言っている事は冗談じゃないの、お別れなの」
「分かってますよ、そんなの! 私だって馬鹿じゃないんです、そんなの分かるに決まってるじゃないですか! なんでそんな意地悪するんですか! 別れたく無いんです、心の整理がつかないんです……私がアーシャさんと過ごした時間を無くしたくないんです! 今はミレイユさんだったとしても、貴女はアーシャさんなんです、私にとってアーシャさんがミレイユさんだって関係ないです、どうでもいいんです! 一緒に居たいんです、これからもずっと」
そう、私がアーシャさんと過ごしたのは紛れもない事実で、本当の姉妹みたいだった。
「今の私はアーシャお姉ちゃんでありミレイユでもあるの……だからお姉ちゃんの気持ちが凄く分かる」
すると、ミレイユさんは私の事を抱きしめてきます。こんなに強くて優しいハグは初めてです。
「私が駄々をこねるとお姉ちゃんはいつも私を抱きしめてくれたのよ。本当に反則よね、これをされたら何も言えなくなるの……私の妹になってくれてありがとう、お姉ちゃん達がミユを愛してくれていた事は偽りなんかじゃない、たとえ記憶が書き換えられたとしてもその愛は本物だった……だって、私がひよりの事を本当の妹のように愛おしいんだもの」
何言ってるんですかそんな当たり前なこと。
「何年も一緒に暮らして居たんです! 本当のじゃなく、本当に家族なんですよ、アーシャさん……いえ、ミユ姉の二人は私の本当の姉妹なんです!」
一緒に仕事して、ご飯食べて、掃除して、買い物して。
時々一緒にお風呂にも入ったりして、どこにでも居るような仲良し姉妹です。
「本当は、もっとお姉ちゃんと一緒に居たい、それは本心です」
「私もよ、でもダメ……あなたは元の世界に帰らないといけないの」
「能力を使えば別れなくても済むじゃないですか!」
お姉ちゃんは私の肩を掴んで言い聞かせるように私の目を見つめる、悲しいそうだけど強い力を感じる瞳です。
「私の力はもう使えないの、自分でそうしたんだもの当たり前よね、でもね私はあなたを元の世界に返す所まではしっかり練ったの……だからひより……あなたは帰らないとダメなのよ」
知っています、能力が使えなくなった事は、それでも一緒に居たいんです。
「嫌です、たとえそうだとしても私もここに残ります!」
「本当、私って詰めが甘いわね、最後の最後にひよりとずっと一緒に居たいと思ってる……私は魔女失格ね」
「そんな事ないです……あなたは……お姉ちゃんは……酷い魔女です……私の心をこんなに蝕んで、一緒に居たいと思う気持ちも……自分勝手に踏みにじって弄んで……最後まで相手の事を思ってくれている……」
優しい魔女です……
「そうね、私は魔女よ……だからあなたとは一緒に居られない……私とは住む世界が違うんだもの」
「嫌です、離れません、何があっても絶対離れません」
私は顔をくしゃくしゃにしながら必死にお姉ちゃんの胸にしがみつきます。
「ほら、もう時間……世界が崩れ初めて来たわ……」
「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!」
気がつくと私の身体は浮いて、時空の穴に吸い寄せられていました。私は必死に抵抗しますが、無情にもそのその穴は私とお姉ちゃんを剥がしていきます。
「お姉ちゃんも一緒に!」
「無理よ私はこの世界と運命を一緒にするって決めていたから」
「嫌だ! お姉ちゃん」
「さようならひより、愛しているわ」
そして、私の手は完全にお姉ちゃんから離れ……崩れる世界から私は突き放されました。
ーーー
『そして、気が付くと私は元の世界に帰ってきました、時空を超えると意識が一時的に無くなるらしく、そのためかこの出来事が夢だったのかもしれないと思う時があります』
私はあの出来事を日記に残そうと思い、この体験談を書いています。日記と言うより文献ですね、何故でしょう、私までお姉ちゃん達と同じ事をしてしまっています。もちろん私にはそんな力はありませんけども、もしかしたら私のこの行動までも……なんて……私も病気ですね。
『ですが、私が経験したこの出来事はきっと本当だったんだと思います、何故ならあの日々の事を忘れる事が無いからです、夢だったならば私はこの大切な思い出をここに残す事はないでしょう』
お姉ちゃん達はもう居ない、あの時、あの世界で二人は運命を共にしたのだから。
また、会いたいけどそれは絶対に叶わない、人が生きている以上死もあって別れもあるから。
だから、私が生きていた証を残す、二人のお姉ちゃんとあの世界の事を、私がここに記すことで紛れもない真実になるのから。
『二人の私の姉は確かに存在しました、ここに私が記すことによって、その事実は本物になります。例え誰も信じなくともこの日記がある限り、私の記した言葉と記憶は消えることはありません。アーシャ・ブルーロンドとミレイユ・ブルーロンドという優しい魔女がいた事を私は……この本は一生忘れる事はありません』
これでいいでしょうか、あまり綺麗じゃないですね……
「これで良し!」
ーーーHiyori hinata
短編という流れで書いた、この作品は今回で終わりです。
今思えば、起承転結で終わったかなと微妙な感じはあるのですが。
とりあえず、3回目は一番まともに書けたと思います。(内容はともかく)
ですが、会話のテンポとか急展開すぎる部分でこの話の深みが無さすぎるような気もします。
おそらく、キャラクターの印象も薄いでしょうし。
容姿とか最初にアーシャのことをチラッと書いただけですし、ひよりは皆さんの想像にお任せします(笑)
1・2・3と書き方が異なってたりしますが……
1と3は最終的には書き方が繋がるようになっています。
1が大分書き方が悪い分違和感があると思いますが。
とりあえず、ここまで読んでくらさった方ありがとうございます!