私はどうやら異世界に迷い込んでしまったみたいです 2
「お姉ちゃん、今日はもう休んで、身体壊しちゃうよ?」
「ありがとう……お姉ちゃんは大丈夫だから、ミユ、あなたはもう寝なさい」
「でも……」
「明日は一緒に寝ましょうね」
お姉ちゃん、やっぱり働きすぎ……このままだと倒れちゃうよ……
「寂しいな……」
よし! 明日は美味しいご飯を作ってあげよう! ママとパパの代わりに仕事をこなしてくれてるんだから、私が支えてあげないと、だめだよね!
「……おやすみなさい」
ーーー
「うぅん……あれ」
お姉ちゃん……いない!!
倒れたりしたのかな。居るとしたら書庫だよね。
「お姉ちゃん!」
「うぅ~ん、あれ? おはようどうしたの?」
どうやら、お姉ちゃんは疲れて寝てただけみたいだ。
「バカぁ~、心配したんだからね……」
「え? あれ? て痛たたた、なんか分かんないけど、ごめんなさい! 許して……」
本当によかった、ただ疲れて寝てただけだよね……働きすぎで倒れてなくてよかった。
「もぅ、こんな所で寝て……身体冷やして体調崩したらどうするの!」
「本当にごめんなさいね、次からは気を付けるから」
「次からはだめ! ちゃんと今度からはミユと寝るって約束して」
「うん、約束次からは約束する」
こんなこと、言ってもお姉ちゃんは無理をする……仕方ないことなのかもしれないけど、お姉ちゃんには健康でいて欲しい。
「嘘ついたらゲテモノ魔物のフルコースを食べさせるからね」
「あはは……働くよりそっちの方が死んじゃうかも……」
お姉ちゃん、いつでも優しい。でも、ミユの事も頼って欲しい。
「今日からミユも手伝うから」
「ダーメ、これは私がやるべきことなんだから」
「お姉ちゃん一人が無理する必要ないよ!」
「今は私一人の問題よ。私に何かあった時は……お願いね」
そうやって、お姉ちゃんはいつもミユの頭を撫でてはぐらかす。
「お姉ちゃんに何かあったら意味ないよ!」
「ミユ! あなたには今のうちに好きなことをしてほしいのよ」
「お姉ちゃんはずるい……ミユの気持ちは全然分かっていない」
何をして居たって、お姉ちゃんが元気でなければ意味がない。
「そんなことはないわよ、私はあなたのことを……」
「お姉ちゃんは、自分の気持ちをミユに押し付けてるだけ! ミユの気持ちはどうなるの! いつも、ミユの代わりにお姉ちゃんが頑張ってるの知ってるよ! でも、お姉ちゃん身体ボロボロじゃん、執筆に追い込まれて全然寝てないんでしょ!? ミユの事を考えてるなら、もっと一緒に居てよ……もっとミユを頼ってよ……このままお姉ちゃんまで居なくなったら嫌だよ……」
ミユの目と口から溜まっていた気持ちの塊が溢れ出てくる。
「……ミユ、ごめんなさい」
「お姉ちゃん……ミユを……一人にしないで……」
「ごめんなさい……ごめんね……ごめん……」
お姉ちゃんは泣きじゃくるミユを抱きしめて、ごめんなさいと謝り続けている。
「ごめん……ありがとう……ミユ……お姉ちゃんのこと手伝ってくれるかな?」
「うん……!」
ーーー
それから、ミユもお姉ちゃんと同じように執筆するようになったんだけど凄くきついです。
「ミユ……まだ慣れていないんだから、少しで大丈夫よ」
「ううん、今日はここまでの歴史を書くって決めているから」
お母さんが書き綴った歴史だけでも、今は大丈夫だけどミユ達はこの仕事に慣れていない、だからこそ油断はできない。
「お姉ちゃんは、ちゃんと休んで! そうだ、今日はカボチャのスープ作ってよ! ミユ、そしたら元気でるから」
「仕方無いわね、お姉ちゃん頑張るわ」
「うん! 楽しみにしてる!」
明日はお姉ちゃんの番だから、少しでも沢山書かないと……
「はい、とりあえず紅茶でも飲んで息抜きしましょ?」
「でも、まだあまり書けてない」
「ペンが進まないのは疲れてる証拠よ、普通の書物とは違うんだから、ゆっくりやらないとね」
「この前まで休まずに書いていた、お姉ちゃんがそれ言いますか……」
「貴女も一緒だから、心にゆとりが出来たのよ」
正直私は安心している、お姉ちゃん一人でこの宿命を背負わせたら、近いうちに命を落としていたかもしれない。
それほどこの作業は危険で精神力を削る。
「お姉ちゃんはこの人生を恨んだりしてない?」
「どうして?」
「ミユね、お母さんやお姉ちゃんがこの仕事を全うしているのを見て思うの……なんでミユ達なんだろうって」
ミユはこの力が嫌いだ、ミユ達の自由を奪ったこの力が。
「ミユたちはなんで、こんな残酷な形で産まれてしまったんだろうって、誰にも知られることもなく認められるわけでもない……そうやって、苦しんで身を削って最後は死んでいく」
私たちの力をはそういう仕組み……
私たちは自分達を犠牲にして、世界の見たこともない人達のために世界の行く末を記している。
「それは、違うわよミユ、私たちが今までこの運命を受け入れられたのは他人のためでも世界のためでもない、ミユがいるからよ」
「ミユが?」
「いえ、これは私の頑張る理由……でもお母さんや、おばあちゃん、そして、そのまた遠い先祖も皆、同じ理由よ……」
「そうなのかな?」
「そうに決まってるわ……だって私たちの先祖なのよ?」
「でも……ミユは普通の人達のように外で暮らせない」
ミユ達の家系はその特性上、森の外では暮らすことはできない。
自ら記した歴史に干渉する事で、歴史に歪みが生じてしまうからだ。
ちなみにこの森は外からの侵入はまずない、あるのはミユ達が招待した時のみだ。
「私たちは外の人達と何が違うの?」
「遊んだり、恋したり、運命に縛られず自由に生きれる」
「確かにそうね。でもねミユ、人は何かを犠牲にして生きているのよ」
「犠牲?」
「貴女も歴史を記す魔女の端くれならば分かるはずよ」
魔女と言う言葉はあまり嬉しくないけど、ミユ達を表す言葉としてはピッタリだ。
「遊ぶことも許されない奴隷の子供、好きな人と恋をする事も出来ず、親同士の勝手で婚約させられる人……ミユ、私たちって本当に不幸なのかしら? 私たちの記した未来で死ぬ人も居れば、幸せになる人もいる。守る為に戦う人もいる。私たちのしている事は外の人と何ら変わらないのよ」
「お姉ちゃんはそれでいいの!?」
「私はミユが傍に居てくれたならそれで満足よ」
お姉ちゃんはそう言ってミユを強く抱きしめてくる。
なにか強い意思があったり誤魔化したりするときはすぐこうしてくる。
「そんなの……ずるいよ……」
お姉ちゃんの事を考えていたのがバカみたい、あまり考えなくてもお姉ちゃんは大丈夫だ。
心配なのは変わらないけど。
「ミユ、私たちって凄い事をしているのよ……皆が住むべき世界を私たちは影で守っているの」
「ミユにとってはそんなの、おまけだけどね! お姉ちゃんが居れば充分だもん」
ーーー
今日は何を作ろうかな?
「お姉ちゃん、今日は何がたべたい?」
「うーん、不死鳥の唐揚げ?」
「うん! 分かった、後はポテサラとか適当に作っとくね」
「あと、オニオンスープ!」
「はーい!」
不死鳥の肉と玉ねぎと、あとジャガイモに、etc
必要な材料を思い浮かべれば……
「貴重な不死鳥の肉もこの通り!」
ユミにかかれば、目の前に材料を揃えるのは簡単なのです!
「ふん、ふふん、ふん……」
今日もお姉ちゃん喜んでくれるかな?
「盛り付けをしてと! お姉ちゃん出来たよ~」
「待ってました、うん、いい香りね! 美味しそう!」
「絶対美味しいよ! 早く食べて」
「ミユは、本当に料理が好きね」
お姉ちゃんが美味しそうに食べてくれてる。
「ミユにとって、料理は生きがいだからね」
「毎日美味しい料理ありがとう!」
もちろんお姉ちゃん有りきだから、お姉ちゃんが居る限りは美味しいのを作る!
「やっぱり、不死鳥の唐揚げは美味しい!」
「それだけ?」
私はわざとらしく鎌をかける。
「そうね! うん、オニオンスープも美味しいわ」
お姉ちゃんもわざとはぐらかせてくる。
「もう、そうじゃないでしょー」
「冗談よ、ミユが作ったから美味しいわ」
そういって、ミユの頭を撫でて褒めてくれる!
待っていました、褒美のなでなで!
「えへへ、もっと撫でてくれてもいいんだよ?」
「あまり、調子に乗らないの! 欲深い子には代わりに、擽りをあげようか?」
「あ、それはダメ!」
ユミは擽りに弱いから、それは禁止です、少なくても今は食器をひっくり返しちゃいそうだから。
「ミユ」
少し間があいて、お姉ちゃんの声色が変わった。
「大事な話があるんだけど、今、大丈夫?」
「うん、大丈夫」
「私ね、そろそろ子供が欲しいなと思うんだけど……」
「突然だね……」
いずれは考えないといけない事だったから、頭にはあったけど。
「物事は突然起きるのよ」
「子供ほしくなったの?」
「うん、ミユも大分頼れるようになったし。そろそろかなって」
「お姉ちゃんが欲しいなら止めはしないけど……」
この場合、応援してあげるのが普通かもだけど。
ミユは少し不安、何故なら男の人を呼んで恋をさせる必要があるから。
「それなら問題ないわね」
「知らない人を好きになる必要があるんだよ?」
「前提で考えれば多分なんとかなるでしょ」
そんなに、上手く行かないと思うけど……
「もし、ダメだったら?」
「その時は強制手段よ!」
「どうするの?」
「催眠よ、無理矢理好きになる!」
「お姉ちゃん、それはどうかと……」
自分自身に催眠を掛けるって、それってどうなんだろう?
「いいのよ、これは私たちの為だもの! それに、下準備諸々はミユにやってもらうおうと思ってるし、お願いね!」
ミユがやるんですか、薄々可能性はあると思ってたけど……
「お姉ちゃん、それ、結構酷いです……」
「自分でやると、色々と残念でしょ?」
「ミユが、穢れます」
「ありがとね!」
「うぅ、そこで無理矢理話しを通すのはずるい……」
あと、頭を撫でるのは反則だよ! こんなの断れるはずない!
「少し考えるね」
「お願いします!」
「……」
ミユはお姉ちゃんに甘いな。
ーーー
こうして、ミユはとんでもない仕事を任されたわけですが。
正直、気持ち的には不安です。
「とりあえず、書き綴りますか……」
それは、何故か……人を騙すから、これは運命でもなく自由でもなく、強引な手段だ。
相手からしたら騙される自覚もないだろうけど、ミユたちからしたら心が痛い。
「流れとしては、男の人がこの森に迷い込むということにしましょう」
そうだ異世界から呼ぼう!
そうすれば自然的にお姉ちゃんを好きになるはず!
「異世界の迷い人なら、帰る手段も外界で生きる手段もないし好都合だよね」
……まだ見ないお兄ちゃん、ごめんなさい。
これは、仕方ないことなのです。
「うん? そもそも帰りたいと思わなければ、ミユが罪を感じる必要はない?」
向こうで不幸だった人を呼べば、自然にお姉ちゃんに優しくされて、恋に落ちるかも。
『不幸な異世界の少年、私たちの森に迷い込む』
こんな、感じかな……お姉ちゃんにはしっかり恋に落ちて幸せになって欲しいから、余り深くは書かないでおこう。
とりあえずおまけで。
『お姉ちゃん好みの人』
これで良しと!後はお兄ちゃんが来るのを待つだけ!
ーーー
これは……目の錯覚でしょうか、お姉ちゃんが血みどろで死んでいます。
「これは……なんですか……」
「やぁ、ミユちゃん……おはよう……アーシャさんで遊んでたら壊れちゃった」
そこには、狂気に満ちた笑みを浮かべる男が一人。
「遊んでいたって……どういうこと……ですか?」
「見ての通りだよ、少し犯して痛ぶったらなんか壊れちゃった、魔女って身体弱いんだね」
何言ってるの、この人……
「いたぶるって……あなた……こんなの……いたぶる程度じゃこんなにならないでしょ!」
「死んでるね、こんな状態だししょうがないよね」
ああ……やっぱり死んじゃったんだ、お姉ちゃん……
信じたくなかった……信じれるわけないじゃん、こんな状況。
「信じてたのに、お兄ちゃんのこと……お姉ちゃんも、私も信じてたのに!」
「ありがとう……二人とも凄く優しかったよ、アーシャさんの気持ちも嬉しかった」
「ならどうして!」
「なんか、急に鬱陶しくなったんだ」
え……なんで?
てか、なんて言ったのこいつ……
「優しくされるうちに、自分の居場所がここだけしかないと思ったらさ……一周回って君達が憎くなっちゃって……結局誰かのコマにされるくらいなら、なんにもない人生だったし、好きにしても良いかなって」
なんですか、それ……
なんにもない人生、希望にあふれてるじゃないですか……
「お姉ちゃんのこと、嫌いだったの? ……お姉ちゃんとの子作るんじゃなかったの?」
「あのさぁ、その気持ちが重いってこと分からないの? お前らの家系がこの世界の歴史を作るだの……その為に子供を作るだの……結局人を利用してただけじゃん……」
なんなんですか……この人……そんな言い方、私たちは別にそんな気持ちで接してなんていない……
「私たちはお兄ちゃんの居場所を……あなたに幸せになってほしくて……」
「お前らは結局自分たちのことだけで、俺の気持ちは考えて無かったんだよ」
「そんなこと……」
「そうなんだよ、だいたい魔女なら最初から俺に暗示でも掛けとけば良かったじゃん、そしたらこんなことにはなんなかったんじゃないの?」
そっか……そう言えばそうでしたね……私って魔女でした……
「そうですね、こうなる前に何とかすれば良かったです」
「あとさ、俺、実はアーシャさんよりミユちゃんの方が好みだったんだよね、だから、君とも遊びたいな」
つい数刻前まではお兄ちゃんだった彼は……名前は何でしたっけ?
「ねぇ、ミユちゃん聞いてる?」
いえ、この男には名前なんて必要ありませんね。
「返事がないなら、別にいいよって事だよね」
「その汚いてで、触ろうとするな……ケダモノ」
「うがぁ!! 何だ……急に足が」
そうだ、こいつの名前は私から生きる意味を奪った、ケダモノだ。
「今あなたの足は使い物にならなくなりました……いいですよね、これから使う必要は無くなるのですから」
「うあぁぁ! 何だ、何がおこったんだ、おい! ミユ!お前、俺に何をした!?」
「その腐れきった言葉しか言えない口で私の名前を言うな!」
ケダモノは床に転がり、うるさく騒いでいる……
そうだ、声も出せなくしてあげましょう。
「!!」
「あら、声も出せなくなってしまったみたいですね……必要無いものでしょうからあなたの未来から消しさりました」
「!」
ケダモノは手を激しく床に叩いて音を立てています。
哀れでですね、手も無くなっちゃいました……
「そうだ、目も見えなくしてしまいましょう……聴覚を失ったらただの植物ですね……」
聴覚と痛覚だけは残しておきましょう可愛そうですから。
「どうですか、自分が遊ばれている気持ちは……あなたは自ら道を踏み外したのですよ……」
痛みを感じているようですね……胴体と頭だけになった身体が気持ち悪く動いています。
「失ったものは戻って来ないのです……分かります? あなたが殺したお姉ちゃんは戻って来ないんですよ……ですが、私は優しいので貴男を殺したりしませんし、最後には痛覚は残しといてあげます……私は魔女ですから普通の人より優しいんでし……」
ただの、人間の分際で……魔女である私達に逆らうからこうなるのです。
魔女である私に……
「私たちが、何をしたって言うんですか……ミユはただ幸せを望んだだけなのに……」
ミユは最後にケダモノの聴覚を奪ってから、思いっきり泣きました……
この声を聞いてくれる人はもう居ません。
ーーー
数日が経ってミユは色々考えました。
これから、どうするかどう生活していくか色々と。
ちなみに、あのケダモノは森の奥の方に生き埋めにしました。
痛覚を残したまま、不死身の身体を与えたので、この先の未来は一生痛みを感じ続けることでしょう。
「ミユは正真正銘の魔女になりました」
お姉ちゃんは何故抵抗しなかったのか……お姉ちゃんだってミユと同じ事はできるので、あのケダモノを普通に殺せたはずです。
それをしなかったのは……
「あんな事をされて生きていたとしても、おそらくもう男を好きになる事はないから……でしょうか……」
私は考えました……もう、悲しい思いは嫌です、この残酷な運命を受け入れる事はもうできません。
「だったら……いっそのこと……」
そうして、私は最後の歴史とまた来る異世界人にメッセージを書きました。
次回へ続く
短編の筈が続編を書いてしまい、第2話です。
今回はアーシャの家族について深く触れました。
伏線などをかなり雑に引いているので、出来はかなり悪いと思います。
次で最終章なので、どういう結末になるかはわかる人にはわかるかも知れません。
ちなみに、子供の話しの流れからは少し月日が経っています。
ミユの名前は、本当はミレイユと言います。
小説内では触れていないので、ここで←