二年目はパズルを作りました
そんな訳で母さんがめでたく懐妊した訳だが、あの時点では最優先任務の途中だったそうで、産休が取れたのは4ヶ月後だった。
予定では去年一杯の予定だったんだが、同僚の人達が頑張ってくれたそうだ。
因みにこういった長期任務の場合、普通はそういう事を控えるものらしい。
お腹の目立ってきた母さんを父さんが心配していると、オネス父さんが「自業自得だろう?せめて長期任務に目処が付くまでは、控えるのが当たり前だろ!」と叱っていた。
後、リンちゃんが家の子になった。
まあパル母さんが引き取ったから、正確にはミカの家の子なんだが。
何故そうなったかというとあの懐妊発表の後、センター(王立孤児保護センター)の職員さんが迎えに来た時、突然泣き出したのだ。
話を聞くと、お泊まり会とかする様になってから、帰りに無言で涙を流す様になっていたらしい。
そしてあの日、懐妊の話で幸せそうなホームから帰らなければいけない事で、とうとう声を上げて泣き出してしまったらしい。
それを聞いた母さんが引き取ると言い出したんだが、女っ気の有る家の方が良いと言ってパル母さんの家で引き取る事にしたのだ。
ところが、虐待等の有無を確認する為、最初の半年間は週に二泊迄しか出来ない法律が有った。
母さん達も忙しくてそこまで気が回っていなかったとしきりに反省していた様だ、「もっと早くに引き取るべきだった」と。
そこでセンターの職員さんが「たとえ一月でも早いほうが良いでしょう」と、長期休暇の前に遡って書類を用意してくれた。
休暇中のお泊まり会を試験外泊と見なしてくれたのである。
こうして今年、リンちゃんは正式に家の子になった。
最近では語彙も増えてきたし、時々笑顔も見られる様になってきた。
これで良かったんだと思う、まあ面倒を見ているのは主にミカなんだが。
その後母さんは予定通り女児を出産し、今はホームに帰って来ている。
そう女児、俺に妹が出来たんだ、名前はマナシス。
前世では一人っ子だったから純粋に嬉しい、ただもの凄く泣く子だった。
母さんが疲れた顔で「マー君がどれだけイージーだったか分かるわ」と言うとパル母さんが「いいえ、私の経験から言っても相当泣く方ですよ」と返していた。
ミカとリンちゃんは興味津々でよくかまいに行くんだが、俺は近くで眺めるだけにしている。
母さんに怪我させそうで怖いと言うと「マー君も男の子ねぇ」と笑われた、何でだ?
さて、そんな俺達が今何をしているかというと課題の相談だったりする。
去年課題は高評価だったので、どうせなら今年も魔法陣関係にしようという話になった。
色々と話し合っている時にふと思いついた事がある。
「パズルなんてどう?」
『パズル?』
「まほうじんをいくつかのブロックにわけて、きちんとはめるとかんせいするやつをつくる」
「いいかも。あれからいくつかみつけてるから、それもいれようか?」
「……ん、きどうできると、うれしい」
「きどう?できるのかな、あとでかあさんにきいてみよう」
その後どんな魔法陣を使うか、どんな形にするかを決めた。
材料も粗方決まったので、後は起動可能に出来るかを母さんに相談しに行った。
すると、その状態で起動出来るかは分からないけど、素材自体は心当たりがあると教えてくれた。
「”ナーブ”っていう針金みたいなのがあるのよ。魔法陣って一筆書きでしょ?軍の魔法陣はそれで記述して樹脂で固めてあるの。射的競技会でも使っているのを見たから行けるんじゃ無いかしら?細かく切っても使えるかは分からないけど」
「てにはいる?」
「お母さんに任せなさい!」
数日すると家に荷物が届いた。
荷解きするとピアノ線のような物が巻かれたボビンと液体の入った瓶が八本入っていた。
ボビンには「軍用魔法陣構築用ナーブワイヤー 10?1ミリマギカ オール20マギカ+」と書かれていた。
瓶の方は「公式魔法陣保護樹脂 ベース 1トルカ」と書かれた物が六本、「公式魔法陣保護樹脂 硬化液 1トルカ」と書かれた物が二本入っていた。
他の部分は解るけど、10?1の真ん中の文字はなんだ?
「ああ、マー君はまだ習ってないか、これはね10分の1ミリマギカと書かれていて、太さを表しているのよ」
成る程、まだ習ってないが此方の分数は前世の逆で表記するのか。
此処でこの世界の単位を説明しておこう。
魔法で作られた物を打ち出すと、作った人間から離れすぎると消えてしまう。
この最長魔法到達距離がマギと言う基準単位になっている。
そして1000分の1マギを1マギカ、1000分の1マギカを1ミリマギカと言う。
授業で使う50ミリマギカの物差しが40cmぐらいだった事を考えると、それぞれ8Km、8m、8mmぐらいになる。
液体の単位はトルカで1トルカが500mlぐらいで、まだ何が基準か解らない。
重さの単位はイクスで1イクスが1Kgぐらいで、此方は何かの種の重さが基準になっているらしい。
なんにせよこれで材料は揃った、俺達のパズル作りは始まった。
「うつくしくない!」
はい、いきなり怒られました。
このナーブと言う素材、結構堅いんだ。
丸めるのは兎も角折り曲げるのが一苦労だった。
母さんに教わりながら加工していったんだが、俺が曲げた物はでこぼこしていた。
それをハンマーで叩いて均していると、ミカに怒られた訳だ。
結局、二人が作って俺が仕上げるという作業分担になった。
それにしても二人とも鬼気迫る迫力だな、まるで何かに取り付かれた様に集中して加工している。
おっと俺も作業しないとな。
厚紙の上に正確に魔法陣(部分)を置き、樹脂で固定していく。
ナーブの端の加工も大事だ、微妙にずらして邪魔にならず且つ確実に接触する様にするにはそれなりの技術が……止めよう、空しくなってきた。
何故か母さんに優しく頭をなでられた。
「大丈夫よマー君。誰しも得手不得手はあるから」
母さん、それ慰めになってない……。
こうして作られた魔法陣パズルは概ね好評だった。
時々カラフルな光とともに驚きの声が上がるのを聞きながら三人で喜んでいると突然声を掛けられた。
「ねえ!あのまほうじんつくったのはあなたたち?」
この子は確か同じ組の……?
「……えっと」
「わたしはマクシアート・ロゼリア。しつもんをかえるね、あのまほうじんをかこうしたのはあなたたち?」
「ああ、それならこのふたりだ」
「ともだちになりましょう!」
俺達が戸惑っていると「こっちきて」と言うのでついて行く事にした。
そこにはなかなか見栄えのするアクセサリーが並んでいた。
何でも彼女の家はこういうアクセサリーを作っていて、彼女も趣味で作っているらしい。
だから一緒に金属加工をしてくれる友達が欲しかったそうだ。
アクセサリーを作れると聞いて二人も目を輝かせている、これは決まりかな。
――――魔法陣パズルを発表したこの日、俺達に新しい友達が出来た――――