魔方陣遊びをして過ごしました
あの後気が付くと病院のベッドに寝かされていた、魔力が枯渇して倒れたらしい。
幼児が魔法を使ったと先生に驚かれた。
それから何度か魔力枯渇で運び込まれたが、検査の結果も正常だったので問題ないそうだ。
そうそう、残像に魔力を流すとちゃんと発動した。
そうやって遊んでいる内に俺は疑問に思った。
残像は所詮残像で虚像だ、そこに存在しているわけじゃない。
そこに魔法陣があると思い込めば発動するんじゃないか?
なんと発動した。
しかもこの状態だと光る魔法陣を発動前の状態で維持出来るのだ。
俺はこの魔法陣の特性を調べてみる事にした。
この頃にはミカサンテの方も同じ事が出来る様になっていたので二人で色々と遊びながら試した。
その結果、俺は自由に動かせる事と、発動中の魔法が発動前の魔法陣に触れると魔法が暴発し、しかもこのとき発動用の魔力が要らない事に気付いた。
このことで両親達にむちゃくちゃ褒められた。
何でも暴発現象を利用することで、起動魔力が大きい魔法陣を簡単に起動できるようになるらしい。
女の子の方は両手等に魔法陣を複数出せる事と、この宙に書いた魔法陣が元の魔法陣と少し違っていて、しかも此方の方が魔力効率が良い事に気が付いた。
母に教えるとすぐに何処かに連絡して調べてくれた。
その結果、どうも元の魔法陣には余計な線があってその分効率が落ちているらしい事が判明した。
こちらも両親達からむちゃくちゃ褒められていた。
そして次に俺たちが始めたのが魔法陣追いかけっこ。
発動した魔法陣を発動前の相手魔法陣に当てると言う遊びだ。
最初は動きも悪くすぐに眠くなっていたが、慣れるに従ってどんどん早く長く遊べる様になっていき、年が変わる頃には結構白熱した勝負となっていた。
俺にとっては自分が成長しているのが解る充実した一年だった。
そして年が変わって……。
「あーん、マー君寂しいよー」
俺は絶賛母親に泣きつかれていた。
何故こうなったかを説明する前にこの国の暦と育児教育制度を説明しておきたい。
まず暦だが一週が五日で曜日は無い。
休みは各区が隣の区と重ならない様に設定しているそうだ。
一月が五週(25日)で、月の位置がずれた時は月の日(閏日)が入るらしい。
一年が十四月(350日)で星座の位置がずれた時は星の月(閏月)が入るそうだ。
前世で言う太陰暦(旧暦)の様な考え方だな。
一年の長さが大体同じなので安心した。
因みに年号は4つほど混在している様なので詳しく解ってから説明する。
そして育児制度なんだが、これ以降は()の中に前世での年齢を入れるので参考にしてくれ。
まず妊娠した女性は産児病院(産婦人科と小児科が合わさった様な専門病院)の周囲に作られた育児専用の家にペアで住む。
初産の場合は必ず育児経験者とペアを組み子供が12歳(10~11歳)に成るまで此処で暮らす。
母親は子供が4歳(2~3歳)までは休暇を取り育児に専念しなければならない。
その後はペアの人間と通常勤務と内勤務を交互に取り、子供の面倒を常に見られる状態を保つ。
最後に教育制度だが、全て公立で学費や給食も無料だ。
4~8歳(2~7歳)は幼学校、主に言葉、人付き合いを学ぶ。
8~12歳(6~11歳)は初学校、幼学校に加え歴史、料理、読み、書き、計算を学ぶ。
ここまで学ぶのが国民の義務で、この学校を出れば軍属となり、階級が与えられる。
正し、此処で止めると移動や就職にかなりの制限を受けるそうだ。
軍的には見習士官という感じ?
12~16歳(10~15歳)は中学校、初学校に加え、周辺国情報(社会)、魔法、サバイバル術、戦闘術を学ぶ。
この学校では戦闘、事務、研究、魔法などの適性を見てふるいに掛けられる。
まあ余程人間的に問題が無ければ此処で落ちる事はないらしい。
落ちても退学などではなく、何処まで行けたかが社会評価の基準になるのだそうだ。
落ちれば見習士官、卒業出来れば下士官扱いになる。
因みに此処を卒業しないと結婚権や居住権が持てない。
その事から事実上の成人は、此処を卒業した時になる。
その為か、此処までは後からでも学び直すことが可能だ。
16~20歳(14~19歳)は高学校、中学校に加え戦術、陸海空宙の運用を現場で学ぶ。
入る為にはある程度の魔法適性、学力、戦闘力、技術力が必須となる。
此処では多くの人間がふるいに掛けられる。
兵士として戦場に出られる人間が残り、後は農業、商業等の国を支える仕事に就く。
もちろん卒業したからと言って進路が決定するわけではないが、予備役として招集に応じる義務が発生する。
しかし社会的評価が上がる為、家を継ぐ様な人間は此処の卒業を目指す。
卒業出来れば少尉扱いになる。
20~24歳(18~23歳)は軍学校、高学校がより専門的になる。
ここに入ると軍属が確定する。
全寮制で実習には実戦も含まれるそうだ。
此処で何処まで行けたかが各軍の中尉大尉の扱いになる。
そして此処を無事卒業出来れば少佐扱いとなる。
もちろん扱いとは言ってもいきなりその階級になるのではなく、それぞれその階級相当の仕事をこなさなければ位は確定しないのだが。
卒業出来るのは年10人ほどと言うのだから相当な狭き門になるな。
前世で言うと士官学校?
因みに母は此処を主席で卒業したらしい。
さて、うちの母が泣きついている理由だが、俺が4歳になったので今日から職場に復帰しなければならないのだ(笑)
「かーさ、なかないで」
「マーくーん、優しいー」
「おしごとおくれるよ?」
「そんな正論はいやー!」
うーむ、俺にどうしろと?
「それにマー君のおかげで時間に余裕はあるモン!」
モンってあなた……しかし俺のおかげ?何のことだ?
俺が首をかしげているとネスト父さんが答えてくれた。
「マーシェル君が見つけた暴発現象の特性があったでしょ?あれを利用する事で転送ゲートの稼働率が上がったんだ。今までは決まった時間に予約した人間しか使えなかったんだけど、それが今では少人数でもすぐに使える様になったんだ。軍は規律もあって前の時間割で動いているけど、商人達は大喜びしているよ」
「そうよ!マー君は流通に革命を起こしたのよ!」
なんとそんな事になっていたのか。
嬉しそうに息子自慢を始めた母を後ろに控えていた父が止める。
「それでもそろそろ出ないと間に合わんぞ?」
「もうちょっと……」
父は無言で時計を見せる。
「うっ……、解ったわよう……」
母は項垂れながらも立ち上がる。
成る程、ハイテンションの母とローテンションの父、バランスは取れているのか……。
ただちょっと気になることが在って、ミカサンテの父親を見上げる。
「ネウとーさ、りうつうって?」
「まだ理解出来ないと思うけど、間違いなくマーシェル君は流通に革命をもたらしたよ」
イケメン中年がものすごい笑顔で断言する。
そんな事になってるなんて、全然知らなかった……。
――――母に泣きつかれたこの日、俺は流通革命を起こしていた事を知った――――