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魔法と宇宙船は相性が良い  作者: 丸顔ゴリラ
誘拐事件の裏側で
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閑話10 父の誇り

戻ってきて帝国の間諜全員の心が折れている事を確認した准将殿は上機嫌だった。

何でも今回は生死不問だったのでナイフを使ったが、捕縛が必要な場合は木の棒などを使うらしい。

相手を無傷で捕縛しなければならない時もあるので、なかなか大変なのだと言っていた。

だがこの“魔闘術”を使えば、その辺りの加減が自由に出来るので、是非導入したいと乗り気だった。

副長と名乗った女性に、早速交渉を頼んでいたようだ。


その後、中将殿に送って頂いたんだが、此方はもの凄く不機嫌だった。

話を聞くと、公爵を名乗っていた者が本物の公爵で、それも知り合いだったそうだ。

実は中将殿は貴族や官僚の不正を取り締まる部署の責任者で、それを知っていた相手が笑顔で揉み消しを依頼してきたらしい。思わず殴ってしまったと言っていた。

それでも諦めない相手に、自分は公爵の様な貴族を取り締まる事こそが仕事である事、今回は王命で来ているので、全て国王に報告する義務が有る事、すでに子爵が国家反逆罪で捕まっており共犯として拘束されている以上、最早どうにもならない事を説明すると、その公爵は青くなって泣き崩れた。

それでも何とかしてくれと言ってくる公爵を見て、これと同じ血筋なのかと情けなくなった、とずっと愚痴られた。


さて、目的地について驚いたのだが、王城の城壁が目の前だった。

と言うか王城の城壁からはえた建物がそのまま次の外壁の一部になっているというか。

聞けば昔は城から1マギ離れた3ノ核(と呼ぶらしい)までしか無かったそうだ。

ところが戦争になって、打ち落とされた敵戦闘機が3ノ核の直ぐ外で戦術魔法を発動、魔法は届かなかったが跳ばされた瓦礫で王城にかなりの被害が出た。

そこで当時の軍工廠の前後を4ノ核、5ノ核として外壁を延長し、その間に軍、騎士団、研究、開発等の関係機関を纏めて今に至る、と。

今では3、4ノ核の間は王族等の高位貴族の街になっており、昔の外堀も残っているらしい。

出た時は全然気が付かなかった、熟々冷静では無かったと反省した。

因みに、このとき回収された魔法陣を解析して対抗魔法を開発した事が、帝国の侵攻を止める切っ掛けになったそうだ。


案内された部屋は、今まで見た事が無い程に明るい部屋だった。

“経過観察室”と書かれたその部屋で、俺は大佐殿に男女二人の医師を紹介される。


「医療部薬科主任の~、クラウセア・ミンディス中佐です~」

「医療部内科主任の、オクセリンド・ヒーリセン中佐です」

「じ、自分はナーガプライム・タージェント少佐で在ります」


俺が相手の肩書きに軽く引いていると、マーシェの状態について説明された。

内臓にも多少のダメージが在った事、外傷骨折含めてそれらの治療が問題なく終わっている事、現在は“細胞活性化”の処置が執られている事、又それによる治癒熱が出ているが、正常な範囲で在る事、この熱は一両日続き、明後日には骨折以外は治る事などが説明された。

しかし、最後に戦術魔法が打ち込まれた。


「現在は~、麻薬の中和分解も~、平行して行ってますぅ~」

「……っ!麻薬!?」

「落ち着きなさい少佐」

「しかし!」

「別にこの子が麻薬を使用したって訳じゃ無いわ、この子が治療に使った布と木片が麻薬の原料だったのよ。少佐、“クロイスト”って聞いた事が在る?」

「確か最近問題になっている麻薬でしたか?塗布式で見付けづらく、流通経路が分からないと聞いた覚えが在ります」

「正確には最近流通量が増えて問題になっている、よ。その経路の一端が分かったのよね」

「治療時に布の一部が溶けている事に気付いてね、よく調べてみたら布と木片に見せかけた水溶性の樹脂だと判ったんですよ。それをクラウセラ先生が解析した結果“クロイスト”の原料で在る事が発覚したんですな。まったく、あそこまで焚き付けソックリに見せかけて……、その労力を他で使えと言ってやりたい」

「汗で溶けて~、少しとは言え影響を受けたので~、念のために中和分解させてるんですぅ~」

「でも悪い事ばかりじゃ無いわ。少しとは言え”クロイスト”が解熱鎮痛剤の役目を果たしたから、この子の体力が予想以上に残っているのよ?」

「少量なら薬としても~、有効かもですね~」

「よしてよ。こんな物、患者に使いたくないわ」

「中毒性が在りますからな」

「でも~、このタイミングで分解出来るなら~、行けるかも~?」

「駄目」


専門的な話を始めた先生方に、俺は気になっていたことを聞いてみる事にした。


「あのー」

「ああ、話し込んじゃって御免なさい。とにかくこの子は完治させて見せるわ。勿論、麻薬の痕跡も含めてね」

「今は主任6人が受け持っていますが、明日の夜には残りの主任三人も合流する予定です」

「だから万が一も在りませんよ~。安心して下さい~」


想像以上の豪華な治療体制に一瞬気後れしたが、俺は疑問を口にした。


「その……何故皆さんはマーシェの、息子の為にそこまでして下さるのでしょうか?閣下に聞いても『後で本人に聞くと良い』としか答えて下さらなかったので……」


三人は一瞬驚いた顔をすると、互いにうなずき合った。


「自己満足かも知れませんが~、此処で感謝を伝えるのも~、有りでは~?」

「そうね、此方の事情を知らずに、いきなりだと戸惑うでしょうしね。オクセリンド先生、此処はお任せしても?」

「ええ、今は安定しているので大丈夫です」

「じゃあお願いします。少佐、説明しますので此方へ来て下さい」

「私も御一緒します~」


案内された“処置室”と書かれた部屋は明るく広い部屋だった。

左右に魔法陣がセットされたベットが4つずつ並んでいて、手前右側の壁には薬の並んだラックが、そして左側と奥の壁には板の様な物が並んだラックが据え付けられていた。


「凄い施設ですね」

「ええ、今はね。でもこの部屋には二年前まで、ベッドが一つしか無かったの」

「え?」

「私達は大抵『今まで助けられなかった人を助けたい』『一人でも多く救いたい』、そんな意志を持ってここに来るわ。そして薄暗い処置室に雑多に並んだ魔法陣を見て愕然として、一日精々二人しか治療出来ないと知って絶望するの」

「何しろ試作品ですから~、魔法力が多く要るんですぅ~。それに病気や怪我の数だけ~、魔法陣が在るので~、探すのも大変でした~」

「ここに来る患者は他の病院が匙を投げた様な患者だから、準備している間に息を引き取る人も沢山いたわ。それでも治療時間が取れる病気なら、結構助けられたのよ?私達はたとえ一握りでも救える事を心の支えにして、死因を調べ、魔法を研究し、そして魔法力を鍛えてきたの」

「それでもあの頃は~、人体実験してるとか~、色々言われましたね~。私達薬科も思う所が在って~、魔法力は鍛えてました~。後二回~、せめて一回魔法を掛けられれば~、安全な薬が使えると~」

「そうやって足掻いていた私達に、“暴発利用”の情報が齎されたの。もう直ぐに導入したわ!”光の魔法陣”を片手に魔法陣を探し、見付けたら引っ張り出してそのまま押しつけて起動する。この手法で助かる患者が目に見えて増えたの!」

「その次の“自由魔法陣”や魔法陣追い駆けっこも~、魔法力を鍛えられるから~、直ぐ導入しましたね~。最初試しの筈が~、追い駆けっこが白熱して~、徹夜して呆れられたのは~、良い思い出です~」

「止めて言わないで。あれはあくまでも鍛えてたのよ」


二人は冗談めかして言っていたが、俺は驚くしか無かった。

それはつまり、患者を救いたい一心で魔法陣を一晩維持できるほど、魔法力を鍛えていたという事だからだ。

そして試作魔法陣が、それ程多くの魔法力を必要としていた証でもある。


「でも本当のブレイクスルーは~、その次でしたね~」

「その次というと……“魔法陣の観察日記”の事ですか?」

「ええ。少佐はあの“日記”の最後の一文を覚えてる?」

「勿論です。と言うか、あの一文を見て“魔闘術”の再現に成功しましたから」

「やっぱり試す人は試すのね。私達もね、ずっと思っていたのよ。『こんな魔法があったら助けられるのに』『あんな魔法があったら便利なのに』とね。だからあの一文を見て、まさかと思いながら試したの。そうしたら“光の魔法陣”がどんどん変型して、今まで見た事の無い魔法陣になったの。あの時は鳥肌が立ったわ。しかもその魔法陣は期待通りの効果なだけで無く、もの凄く効率が良かったのよ。もう皆で狂喜乱舞したわ」

「私も~、調合に便利な魔法が出た時は~、小躍りしちゃいました~。その後研究部と合同で~、医療用魔法陣の解析と効率化を~、行ったんですね~」

「その結果、この部屋の中の魔法陣を2分の1ぐらいに減らせたの。『これなら同時に3人ぐらい治療出来るね』と話していたら次が来たのよ」


大佐殿はラックに歩いて行くと、其処に並んだ板を一枚引き出して此方に向けた。

それは樹脂で固められた、魔法陣の一部みたいだった。


「少佐、これが何か解るかしら?」

「ひょっとしてパズルのパーツですか?」

「正解。とは言ってもパズルじゃ無いけどね。あのパズルを見た時、ふと思い付いたのよ。パーツを換えて色を変える手法が、医療用魔法陣にも使えるんじゃ無いか?って。それを皆に相談して検討した結果7つの、そうたった7つの魔法陣で殆どの治療が可能な事が解ったの」

「あの時は手が震えましたね~」


大佐殿はパーツを元に戻すと、今度はベッドに触れた。


「それから専用のベッドを発注して、改良して、複数並べて問題点を洗い出して、効率よく治療できることで皆が水を得た魚の様に頑張って……。それでも此処に8つのベッドが並んだのは、一年ちょっと前なの」

「8つ並んだ時は~、皆抱き合って喜びましたね~」

「因みにこの技術は“多目的魔法陣”と名付けて、あの子の功績に入れてあるわ。だって同じ物だもの」


大佐殿は俺の前に戻ってくると、上を指さした。


「そして去年はこれ“複合魔法陣”!こんな素晴らしい技術、思わず大量発注しちゃったわ!」

「皆待ちきれないからって~、徹夜で量産してましたね~」

「だって幾つかは直ぐにでも欲しかったんだもの」

「責めませんよ~、私も徹夜した一人ですから~」

「あら、そうなの?まあそのお陰で灯り要員が必要なくなって、人員が浮いただけで無く事故も減ったの。それに必要光量を常時維持出来るから患者が搬送されてきたら、此の儘治療に入れる様になったのよ!治療もどんどん効率化して、助けられる患者が更に増えたわ」

「先月患者の生存率が~、ついに6割超えたんです~。病院が匙を投げた患者なのにですよ~」

「最近は搬送する人間が、患者を励ましているそうよ?『頑張れ、もう直ぐ医療部に着く。そこまで行けば助かる』、てね」


大佐殿は俺に背を向けると、両手を広げて宣言する様に言った。


「少佐、解るかしら?『最先端技術で未知の病気と闘いたい』『今まで助けられなかった患者を助けたい』『一人でも多く救いたい』等々。そんな私達の夢は今、此処に叶っているのよ!」


そして両手を下げると上を向いて、今度は囁く様に語る。

その声はだんだん涙声に変わっていった。


「あの子の発見は、私達を絶望の淵からすくい上げ、今までの足掻きが無駄では無かったと証明してくれたわ。あの子の発明は、私達の夢を叶え、医者の誇りを取り戻してくれたわ。本当に……本当に、感謝しているの……しない訳が、無いじゃない……」


大佐殿は、そのまま暫く動かなかった。

隣の中佐殿も涙ぐんでいる様だった。

俺は声を掛ける事も出来ず、只待つしか無かった。

そして思い知らされる、マーシェはもう俺だけの誇りじゃ無いと。

マーシェが元気で居る事は、すでに多くの人の誇りになっていたのだ。

自分も共にその誇りを守るのだと、俺は覚悟を新たにした。



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