サラリーマンに憧れた少年のことを思い出す日曜の朝
「なろうラジオ大賞2」応募用読み切り作品その2。
居間へ続く扉を開けると、妻がヒーロー番組を観ていた。
お気に入りの俳優が出ていると熱弁されて以来、画面に視線が釘付けとなっている妻に話しかけるのは番組終了後と決めている。
朝食は既に用意されているので、味噌汁が入った鍋を軽くコンロにかけ温めてからありがたくいただいた。
平日ならとっくに教壇に立っている時間にこうして遅めの食事を摂るとはなんとも贅沢な気分だ。
チラとテレビに目を向けると、どうやら山場に差しかかったらしく、主演の男がお決まりのポーズをとっている場面だった。使い終わった食器を食洗機に入れ、スタートボタンを押す。
——久しぶりに読み返すか。
そう思い立って書斎へと静かな足取りで向かった。
書棚から目当ての冊子を取り出した。ステープラーで止めただけの素人装丁であるそれは、自分が新米とそう変わらなかった頃に担任した学級の作文集だ。三十年近く経過し当時のことは朧げだが、印象に残っていることがあった。頁をめくる手が止まる。これだ。
小学二年生の手で拙くも懸命に書かれた文字をなぞるようにゆっくりと読み始めた。
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はたらくお父さん
白石 ただし
ぼくのお父さんはサラリーマンです。
サラリーマンはヒーローです。後ろにマンがあるからです。
お母さんにきいたらそうだねと言ったので本当です。
お父さんはまい日ぼくが学校に行くより早くいえを出ます。
スーツを着てベルトをして行きます。
変身はしないのってきいたら、これでたたかうんだよとおしえてくれました。
ふつうのふくみたいだけどとくべつなんだと思いました。
どんなおしごとなのかは、ないしょがいっぱいあるからダメっておしえてもらえませんでした。
そしきのためにはしょうがないなと思いました。
でも、お父さんはひとつだけおしえてくれました。
みんなを守るためのおしごとだって言ってました。
ぼくのお父さんはとてもかっこいいサラリーマンです。
でも、ないしょなのでみんなが知らなくてかなしいです。
だから、ぼくは大きくなったらテレビではたらく人になって、サラリーマンを人気にしたいです。
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教師として、この作文にどうコメントするべきだったかは今もわからないままだ。ただ、違うと一言で切り捨てるのは憚られた。
その躊躇は、そう間違ってもいなかったのだろう。
彼は夢を叶えたのだから。
妻を虜にした番組の名は『企業戦士サラリーマン』。企画・脚本——白石 雅。
奥さんはリアタイ派、先生は録画派。