二人の英雄
初めて「小説家になろう」で投稿させて頂きます。まだまだシステム的に分からないこともあるかと思いますがよろしくお願いします。
「我が国の繁栄に乾杯!!」
盛り上がっているのは何も今乾杯の音頭をとった2人だけではない
周りを見渡してみれば、どこもかしこもお祭り騒ぎだ
さらに言えばそれはこの大陸どの場所でも人が住んでいるところは同様に賑わっていた
余所の大陸から来た行商人はこの騒ぎの理由を知らず、熱気に圧されてオロオロとしながら酒を飲み交わす2人組に尋ねた
「なんだ?余所から来たのか。それなら仕方がねぇな。今日からちょうど100年前に我らが王様がこの大陸を統一し帝国を建国した日なわけよ」
そう言いながらガハハと笑いバシバシと背中を叩く
行商人の青年は尋ねる相手を間違ったと後悔するが、酒で饒舌になった親父は説明を止めてくれない
「皇帝陛下の高白麗様、そして平民から成り上がり献策する戦では連戦連勝の軍師として国を支え続けた柳泉様の武勇伝を語ってやろう」
上機嫌に語り始めた親父の腕はすでに青年の首をがっちりとロックしており逃げることはかなわない
「まずは2人の出会いからだ・・・・・・・・・」
夏真っ只中
俺こと高柳泉は8年続けていた剣道を引退した
有終の美というわけでもなかったが、俺としては概ねやりきったという感覚だった
次の目標は大学進学
今は亡き両親との約束をかなえるために俺は部室の荷物を全て片して帰路についていた
その道中、とある神社の前で足を止める
『龍口神社』
ここは昔から父さんと一緒に参拝していた場所であり、剣道の稽古場所でもあった
両親が亡くなった後は近所に住んでいたじいちゃん達の家に引き取られ、そこで道場を開いていたじいちゃんに稽古をつけてもらっていたから、それっきり練習のためには足を運ばなくなったが大事な大会前にはここによく来ていた
「そういえば昨日は行かなかったな」
昨日は大雨で参拝を断念している
「報告だけでもしに行ってみるか」
長く続く石階段を俺は一歩、また一歩と登り始めた
どれだけ登っただろうか、いっこうに神社の姿が見えない
いつもならそろそろたどり着いているはずだが・・・
そう思ってみても、上を見ればまだまだ先は長い
「ん~?気のせいか・・・」
久しぶりとは言っても、そんな違和感を感じるだろうか
なんとなく後ろを振り返ってみると
「・・・は?」
学校の帰り道はコンクリートで舗装されていたはずだ
しかし今目の前に見えている光景は、コンクリートなんてものは無くただの砂利道
夢を見ているのかと思った
とりあえず上まで登れば何か分かるかもしれない。そう思ってひたすら神社に向けて歩き始める
するとどうか、さっきまでが嘘のように頂上が近づいてくる
登り切った場所には確かに神社らしきものがあった
しかしそれも俺の知るそれとはかけ離れている
朽ちかけた看板には『龍神神社』
そう掲げられている
「いやいやいや・・・夢だな。きっと階段を上る途中で暑さにやられたに決まってる。起きろ、おらっ!!」
思いっきり頬をつねったが目が覚める気配がない
確かに頬は痛いのだがそれだけだ
「リアルの俺、このまま死んだりしないよな?」
熱中症で死に至るというのは毎年夏になればよく聞く話だ
誰にも発見されず階段で倒れたままの俺はそのまま死ぬのではなかろうか
言い知れぬ不安に襲われる
しかし夢の中の俺にはどうすることも出来ない
とりあえず痛みでは起きることはかなっていないのだから
「目が覚めるまで散策してみるか」
やけにリアルな夢に戸惑いつつ、神社の付近を歩き回ってみることにした
「って何もねーじゃん!」
1人で突っ込んでみても空しいだけだ
「なら降りてみるか?」
やけに長く感じた階段から下を見下ろすと、実際それほど長くない
門の柱にもたれかけさせていた鞄を持って俺は階段を降りる
周りは木が生い茂っていて、周辺の景色が一切分からないが少なくとも見たことない場所であることに違いはないようだ
下まで来てみたがやはり知らない道
どっちに行くか迷ったが、遠くの方を眺めたとき山が開けている方へ向けて進むことを決めた
そこからどれだけ歩いただろうか
周りは既に暗くなり始めている
スマホの明かりを頼りに山道をひたすら歩き進める
「・・・腹減ったなぁ~」
グゥ~と何度も鳴る腹を押さえながら、暗くなり始めた道を歩き続けていた
不意に何かが足に当たる
感覚で石ではないと分かった
こんな山道で他に当たる物といえば・・・
狸か狐か、はたまたイノシシか
咄嗟に働いた回避行動でその場から距離を空けたのだが、いっこうに襲ってくる気配がない
スマホのライトを当ててみると人の手のようだった
「おい、あんた大丈夫か?」
俺と同じように空腹で我慢が出来ずに倒れたのだろうか
参った、俺も何も持ってないんだよなぁ
どうしようか迷いながら倒れている人を揺すり起こそうと肩に手をかけると、なにか生暖かい液体が手が触れる
「ん?」
ライトで自らの手を照らしてみると
「ウッ!?」
真っ赤に染まる手を見て一気に気持ち悪くなった
瞬間的にそれが何か分かってしまう
空腹で胃には何もないはずだがこみ上げてくる物がある
道の反対側に逃げて吐き出した
「もしかして殺人現場とか・・・」
その後何度も吐いて、吐いて、吐いて・・・・・・
何度も繰り返した頃ようやく落ち着いた。胃の中も同様にだ
そしてもう1度さっきの人のところに戻る
覚悟を決めてライトを照らし死因を探った
死因は首を切られたことによる失血死だろう。医学に関して何の知識もないが流れ出ている血の量を見ればそうだと断定できる
「一体誰がこんなことを・・・」
乱れた衣服を直してやって手を合わせて置いた
どこかに運ぶことは出来ないし、埋めてやることも正しいのかどうか分からない
そして衣服を直している最中に気がついたことがあった
服の種類が俺のとまったく違っている
っていうよりも、どっちかというと古代の中国王朝で庶民が着ているような衣服
「・・・まさかそういうこと?いやいや、そんなわけないない」
1人ノリ突っ込みをしつつ気持ちを落ち着かせる
とにかく生きている人を探すことが大事
俺は近くの川で血を洗い流して、当初目指していた方向へと歩を進めた
その後も何度か死体が道の脇に打ち捨ててあるのを確認しながら歩いていると、ついに山が開けてきた
そしてまだ遙か先ではあるが、街の明かりのようなものも見える
・・・見えてはいる
・・・見えてはいるのだが見えなかったことにしたい
さっきのノリ突っ込みがいよいよ現実味を帯びてきた
どうみても日本の町並みではない
文明レベルがそもそも違いすぎるように見えた
「はぁ疲れているんだろうな。安全な場所探して寝るか」
道から外れた場所で一眠りすることにした俺は早速寝床探しを始める
あの死体の様子を見るに、あまり道に近いところで寝ると何者かに襲われる危険があると判断して大きく外れた大木の根元で寝ることを考えつき、該当する場所を必死に探す
無意識にだが、今までの生活では感じたことのない防衛本能が働いていたのだと思う
そしてほどよい場所を探し出して、空腹を我慢しつつようやく休めるという安堵感と睡魔に襲われる
鞄を枕にして寝転がったとき、今までは聞こえなかった音が響き渡っていることに気がついた
睡魔よりも好奇心が勝ってしまいまた身体は起き上がる
そしてその音の方へとゆっくり近づいてみた
少し進めばその音の正体はすぐにわかる
鉄と鉄がぶつかり合う音
そしてその音のもとにたどり着いた。斜面のやや下の方には数十人の人がいる
「全員殺せ!殺せ!」
時代劇でしか見たことのないような典型的な山賊的な奴らが、これまた時代劇でしか見たことのないような高貴な服を着た人たちを取り囲んでいた
馬車を守るように戦っているのを見て、きっとその中には何か大切なものがあるのだとすぐに分かった
助けに入るべきか
しかし俺が仮に飛び込んだとして、俺にあいつらを撃退する術はあるのか
頭によぎるのはここに来るまでに見かけた骸の数々
「・・・くっそ!!」
一応護身用に持ってきていた竹刀を掴んでその場から立ち上がった
一気に斜面を駆け下りて、山賊の1人の頭を思いっきり竹刀で打つ
確かに痛いが死にはしないはずだ
「「誰だ!!」」
高貴そうな人と山賊の声が重なる
「助太刀する!」
俺は高貴そうな人に向けてそう叫んだ
足下には数人が血を流して倒れている
俺は竹刀、目の前の敵は本物の刀
震える手を必死に押さえて先手を打った
俺という乱入者に虚を突かれた山賊は、一気に反撃に遭い逃げていった
初っ端殴り飛ばした奴は気絶していたようでそのまま縄でぐるぐる巻きにされている
「援護、助かった。ワシは許雄全と申す。そなたは?」
俺のじいちゃんくらいの爺さんが名乗った名前は最初の予想通り日本っぽくはない
いよいよ嫌な予感が現実味を帯びてきた
「俺は泉といいます。・・・ちょっと訳あって街へ向かっていました。その最中にあなた方を見かけたので」
もし本当にここが異世界なのだとして、本当のことを全て話していいのかの判断がつかない
その時
『じぃ、開けてくれ』
「はっ!」
馬車の中から幼い声が聞こえ、目の前の老人がその声に従う
そして扉が開くと思った通りまだ幼げな、しかし立派な服を着た少年が立っていた
「我を助けてくれたこと感謝を言う。悪いとは思うたがさきの話聞かせてもらった。命を救ってくれた恩人だ。何でも申せ」
最初こそ「偉そうな」とは感じたが、この爺さんの態度を見ても身分のある子供なのだと理解させられる
そんな人に誤魔化しても大丈夫なのだろうか?さっき恩人だと言ってくれていたから、ひどい扱いは受けないはず
特に根拠はなかったが、現状を打開する方法も見つからず結局全て話すことにした
「・・・あまり人に聞かれたくないのですが」
ちなみに年下であろうにも関わらず敬語なのは、周りの護衛の人たちからの無言の圧によるものである
「そうか。では入れ」
そう言って不用心にも俺を馬車に招き入れようとした
流石に信用しすぎではないだろうか?いや、当然何もする気は無いけど
「それは流石に危険です!」
年若い護衛が止めるように進言したが、意に介した様子もない
「行かれよ。くれぐれも・・・」
爺さんに釘を刺されて、背中を押された
馬車の中は、豪華絢爛といった感じでこの子の身分の高さがうかがえた
「それで何を困っておる?」
「実は・・・・・・」
俺はこの子に全てを話すことにした
この子でなくても、感謝してくれたその子の親が手を貸してくれるかもしれないと思って包み隠さず全てを
日本というこことは違う国から来たこと、気がついたら龍神神社という場所にいたということ、あとは聞かれたことを正直に答えた
しばらく考えたその子は
「父上に口利きをしてやろう。おそらく気に入られるじゃろうで」
確かに言質を取った。まぁそんなことに意味がないことは薄々勘づいてはいるが
「名乗るのが遅れたな。我の名は高朱光この国を治めておる王白麗の長子じゃ」
突然のカミングアウトにリアクションが遅れた
高貴な人だとは思っていたが、まさか王の子息だとは・・・
くっそ、そうだとわかっていればさっさと逃げ出していたものを
程々でよかったのに、過度な権力はきっと面倒事に巻き込まれる
逃げ腰の俺を無視するかのように、馬車は王都へと進み始めたのだった
この作品は別の投稿サイトで不定期に更新しているものであり、次回更新日は全くの未定です