表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

第六話 十歳と謎の男達

「はぁーー!」

「おっとやるな!だが!」

「うおっ!?」

「そこまで!勝者お父様!大丈夫ですかお兄様?」

「あ、ああ、ありがとうアイリ」


 更に時は立ち、朝早くから庭で稽古をしていてルトとザストは互いに向き合い、右手に持っている木剣で攻撃をするが、惜しくもルトは負けてしまった。

 何が足りないんだ?この五年間毎日森で魔法と剣の練習を積み重ねて努力してるのに何で父さんには敵わないのだ?強すぎだろ。身体強化もしてるのに…。


「ハハハ!ギリギリだったぞルト!強くなったな!」

「そりゃーどうも」

「はいお兄様、タオルをどうぞ。それとお水もいりますか?」

「ありがとうアイリ。頼むよ」

「はい!」


 ルトの元に笑顔で駆けつけたアイリはタオルを渡し、水を持ってくる為家の中に戻っていった。


 アイリも九歳になり、身長は平均より低いが約百二十五cmぐらい。俺は平均よりほんの少し高い。アイリは前よりも更に母さんに似てきている。それに妹ながら可愛さもかなり上がっている。いきなりだがアイリの誕生日が十二月中旬で遅い。だからか、寒いのには強いけど暑いのには弱い。その為直射日光を避け、庭にあるテラスでニ人の勝負を見ていた。肌はシミ一つなく真っ白で綺麗な肌をしている。アイリの服装は白色のふんわりチュールワンピース。勿論温度調節の魔法を付与してある。スカートが短く、激しく動くと見えてしまう。これアイリの手作りなんだよ?靴は魔法使いが履くようなブーツ。色は白で、可愛い形をしている。他の野郎どもに見られると考えたら着るのをやめてほしいけどアイリが気に入ってるならいいか。今度お兄ちゃん直々のスパッツ的なのを作ってあげよ。えっ?変態だって?いいや、これは妹想いのお兄ちゃんだからこそだ。うん、変態扱いされるからこれ以上はやめよう。さて…やっぱりもっと努力しないと父さんにはまだまだ勝てない。魔法無しで勝てるようにしないと…。


 そんな落ち込んでいたルトの元にザストが近づいてきた。


「そう落ち込むな。五年前と違ってかなり成長してるぞ?」

「そうかな?」

「そうだ。さて、三十歳ともなると体が凝ってくるな。今日はここまでにするか」

「絶対に嘘だ…」ボソッ


 まだまだ余裕そうな顔をしているザストを、悔しい顔で見ていると、二つコップを乗せたお盆を持ってアイリが歩いてきた。


「はい、お兄様」

「ありがとう」

「お父様もどうぞ」

「おっ!ありがとう!」


 二人はごくごくと水を飲み干し、ぷは〜と言うと、ザストがアイリの顔を見て笑顔になる。


「娘が入れた水は世界一だ!」

「もうお父様ったら!」


 そう、俺の父さんはアイリが作った料理や服、ただの水でさえもとても嬉しそうに食べたり飲んだり着ていたりする。いや、確かにアイリの料理や服はとてもいいけど水は?となる。まー要するに娘愛が凄い。アイリに彼氏とかできたら絶対に渡さん!とか言いそう…言うな。


「よし!ルト!朝の稽古は終了だ!風呂に行くぞ!」

「えっ…」

「お父様!お風呂の用意はメイドさん達に頼んであるのでもうできているかと思います!」

「おー!そうかそうか!では行こう!」

「あ〜今日も俺ちょと森の中に行ってくる」


 よし、逃げよう。父さんと風呂入ると絶対に長くなるからのぼせる。だから絶対に父さんとは入らない。けどまさかこんなタイミングで誘ってくるとは!汗かいているけど〈浄化〉すればいい!兎に角逃げる!


「そう言うなってな?もうここ何年も一緒に入ってないじゃないか!それと毎日行ってて飽きるだろ?ほら?男同士の話でもしようか!」

「俺はまだやる事があるの。それじゃー行ってくるね」

「ま、待ってくださいお兄様!でしたら私も連れてってください!」

「いいよ。行こっか今日も」

「はい!準備しますのでちょと待っててください!」

「了解」

「父さんも〜…」

「父さんは王都で仕事あるんでしょ?仕事サボったら母さんに怒られるよ?」

「うぐっ…そうだな。仕方ない。気を付けていくんだぞ?」

「分かった」


 一瞬しゅん…となったザストだが、スレインの話を出した瞬間、顔が真っ青になり、すぐにやめた。

 いや、どんだけ恐てんのよ。確かに怒ると怖いけど。

 そんなことを思っていると、アイリとすれ違いざまに、メイドのメアリさんが竹製お弁当箱を二つ手に持って歩いてきた。


「ルト様これをどうぞ。お昼ご飯が入っております」

「ありがとうございますメアリさん!」


 流石メアリさん!何も言わなくても仕事が早い!ここ最近ずっと朝早くから稽古して、その後アイリと一緒に森の中に入って昼過ぎまでずっといるからもう分かってるのかな?


「お兄様お待たせしました!私がバックをお持しますのでお弁当をこの中にお願いします!」

「毎回悪いな」

「いえ!お兄様の為です!」

「ははは…じゃー行ってくるよ」

「行ってきます!お父様!メアリ様!」

「おう気を付けてな!変な人についてったらダメだぞ!」

「行ってらっしゃいませ」


 ルトはザストから逃げるように、森の方にアイリ共に走って入っていく。


 う〜ん…毎回何で護衛の人がいるんだろ?しかも前よりかなり腕が上がって中々振り払えなくなってきてるし。さて、今回はどう逃げるか。そうしないと無詠唱で魔法の練習できないからな〜。ちょうど一ヶ月前に十歳になって母さんがやっと俺に魔法を教えてくれた。けどやっぱり最初は詠唱が必要で恥ずかしかった。それとほとんどが低火力の魔法ばかり。オリジナルの魔法を作りたい!勿論俺が無詠唱使えるって事はアイリしか知らない。


「さて、今回はどう逃げるか」

「あ、そうですお兄様!これはどうでしょうか!」


 アイリはニコニコと楽しそうにルトの耳に手をつけて提案する。


「それはいいな」ボソッ

「ですよねお兄様!」ボソッ


 するとアイリは、空間魔法が付与されたバックから種の入った小さな瓶を取り出す。


「では!」


 瓶の蓋を開けてタネを取り出し、地面に埋めた瞬間、地面が揺れて一気に巨大な木が生えてきた。急な出来事に護衛達が敵の襲撃と勘違いして、ルトとアイリ達の元にすっと駆けつける。そしてルト達を守るように三人の護衛が前を向いて敵を探していた。

 やっぱりいた!よし!三人とも背を向けてるからチャンス!


「失礼します!」

「すみません皆さん」

「うっ!?」

「えっ!?」

「……」


 ルトとアイリはいつの間に持っていた細長い武器と珍しい型をした武器で三人の首を狙って軽く叩くと、気絶をした。


「やりました!今のうちに行きましょう!」

「おう!」


 毎日俺と一緒にいるアイリもまた無詠唱が使える。けどまだ魔法を母さんに教わっていない。でもね?俺が教えてるから使えるんだよね〜。さて、護衛の人達が魔物に襲われないようにいつも通りイメージして〜バリアを展開!


「よし、行こっか」

「はいお兄様!」


 二人は護衛の人達から離れるように魔法を使い、自分の身体を強化して走ってその場から離れる。


 あ、そうそうこの細い武器は刀と言うもので、俺がやってたゲームで使っていた…いや、使えなかったと言うべきか、の相棒『氷龍刀(ブリューナク)』である。

この刀はゲームでは本来まだ行けないエリアで獲得したラストアタックボーナスの刀で、スキルも意外と凄い。何故持ってるの?と思うかもしれないけどこれには色々と理由がある。と、その前にもう一つ、アイリが持ってる武器は『魔法銃』と言えばいいのかな?まずはこの武器に付いて説明をしよう。


 『魔法銃』は言えば魔力だけで弾が撃てる銃。ゲームでは名前が無いバグ武器と言っていいだろう。これがあったからこそゲットできた『氷龍刀(ブリューナク)』である。この『魔法銃』はアップデートで追加させる筈だった武器で見た目はデザートイーグルに似ている。勿論反動はアイリでも使いやすい様に抑えてある。これは魔力弾で実弾ではないからわざわざ実弾を生み出さなくても言い訳だ。見た目は神々しく白銀で、金色の線が少し入っている。


 これをゲット出来たのは第五十階層にいた事が原因である。追加される筈だったこの『魔法銃』は出たら強すぎる!と言う理由で無しになったみたいだが、そのついでに追加させる次の階層アップデートの時に何故か俺は手に入れた。よく分からないけど原因はその日第五十階層でちょうどボスを倒している時にギリギリまでその階層に居たのが原因だと思う。


 本来はアップデートの日は街に戻って待機するのが決まり!みたいなのがあるけどその日だけはそれに逆らいそこの階層に留まってしまった。んで帰って開いてみれば第五十階層ではなく第百階層に居たと。追加されたのは第六十階層までの筈なのに。けど俺は警戒というよりワクワクしながら言ったら目の前に巨大な守護神?が居て近づいてみると何と動かなかった。だから時間は掛かったけどずっと攻撃してたら倒れた。


 そこでバグが起こり手持ちには『???』と言う謎のアイテムが手に入って装備してみたらこれだったて言うわけ。スキルも何も書いてなかったし運営にバレたらまずいと思って使わずに保管して置いた。これはいい思い出だったな。


 さて、次が本題だ。使いたかったけど実装されるまで使えなかった刀の『氷龍刀(ブリューナク)』で、これは第九十階層で手に入れた物である。『???』を持った状態で第五十階層の帰還ポイントに触れたらバグで飛ばされ、第九十階層まで行ったんだよな。スキルは触れた相手のプレイヤー、モンスター、装備を必ず凍結状態にする。龍種に与えるダメージUP。刃こぼれメーターが下がらないと言う物。この刀の凄い所は相手に少しでも触れたら凍結状態にできるとチート級のスキルを持っている事である。でも何故使えなかったと言うと俺が死ぬ前にやってたゲームは当時第九十階層は解放されておらず、もし俺がこの刀を使っていたら速攻バンされるからである。


 まー使う前に死んじゃったけどここで俺の相棒として使えるのは嬉しい。とと、長くなってしまったな。この二つは俺の()()()()で作り出した。俺の固有魔法は〜『お兄様どうかなされたか?』おっとそうだったな。


「ここなら大丈夫かな?よしアイリ、いつも通り魔力制御をして狩りをしよっか!」

「分かりました!」


 いつも悪い事しちゃてるけど、何故か父さんと母さんにはこの事について怒られない。何でだろうと思ったけど護衛の人達は言ってないみたい。

 早速2人は目を瞑って集中する。するとどんどん2人に魔力が集まっていき、膨大な魔力が宿っていく。アイリはルト程では無いが上手くコントロールが出来ており、魔力量も一般よりも多くなっている。が、そんな事を知らないアイリは理想としている兄、ルトの様になりたいと思っている。


「ふぅ〜いつも通りだな。アイリも五年前と比べたらかなり量も増えたし制御もうまく出来ていているから良くなってきているよ」

「本当ですかお兄様!嬉しいです!」


 と、ガシッと嬉しそうにルトの腕に絡みついてニコニコと顔を向ける。

 くぅ!何と言う迫力!天使が!天使がここにいるぞ!


 心の中で涙を流しながらも兄として表ではグゥと我慢をする。いつでも頼れる兄でいられるよう表情を緩めずキリッとしてアイリの頭を優しく撫でる。


「えへへ」


 手間をかけさせやがって!


「お兄様!今何か聞こえませんでしたか!」

「ああ、確かに今何か聞こえたな」


 森の奥から男が誰かに怒鳴る様な声が聞こえてきた。


 何で森の中に人がいるんだ?こっちには馬車が通れるような道が無いはずなのに。

 ルトは少し気になり、アイリに行ってみよっかと言うと、向こうの人に気づかれない程度の声で返事を返してゆっくりと声のする方に近づいていく。

 すると…。


「たく!このガキ捕まえるのに三日もかかったじゃねーかよ!」

「そうですね。まー捕まえれて良かったです」

「リ〜ダ〜何で俺達ガキのお守りしないといけないんですか?四天王であるリーダーの役目じゃないですよね?」


 そこにはツンツン頭の赤髪、ゴツい顔、タンクトップの様な物を着ており、腕などの筋肉が強調されたリーダーと呼ばれる男。その男の背中には大きな大剣が背負われている。

 二人目は顔は見えないが、深く紫色のローブを着ており、フードを深く被った魔法使いの男。無論背中には先端がウェーブ状になった薄暗い木の杖を装備している。

 三人目は茶色で長い髪をバンダナで止めており、全身動きやすさ重視の軽装備、左右の腰には返しが付いている鋭いダガーを装備している。

 そして地面には汚れて霞んでしまった白銀の髪、ボロボロになった茶色の服、転んで擦りむいたのか足は傷だらけになっており、アザなども所々出来ていた。靴を履いていないのか裸足の状態の少女が倒れている。


 これってまさかとは思うけど…。


「アイリ、悪いけどここで待っててくれ」

「嫌です!私も行きます!」

「ダメだ。俺の大事な妹が傷ついたら後で俺は絶対に後悔する事になる。帰ったら何でも言うこと聞くから今は大人しく隠れててくれ」

「何でも…ですか。分かりました。お兄様、気をつけて下さいね。万が一は無いかもしれませんがお兄様に何かあったら私も戦います」

「ああ。だが無茶はするな」

「はい!」


 相手に気づかれない様、静かに茂みで会話をして行動を開始する。

 取り敢えずはあの女の子を救出してからあの男共を倒すか。そうしないともしかしたらあの子を人質に取ってこっちが不利になる可能性がある。よし、ならあの魔法を使ってみよう。


「そうだ!こんな事は本来俺の役目じゃないんだよ!もっと戦場的な所で人を斬って斬って斬りまくるのが俺の仕事だ!」

「そうですよねリーダー!俺達はもっと派手な事をしてこそですよね!」

「さっさとあのバカ貴族のしょんべん小僧にこのカギを渡して帰るぞ!」


 リーダーの男はイライラしながらも地面に倒れている少女を担ごうとした瞬間突如目の前に倒れていた少女の姿が消えた。それと共に何かが物凄い速さで通ったのか風が横を通り過ぎる。


「な、何が起こって…!?おい!ガキが消えたぞ!カロン支援魔法で探索しろ!」

「りょ、了解ですリーダー!…何者かに魔法を妨害されて探索ができません!」

「何だと!博士!これは如何言う事だ!」


 少女が突然消えた事に驚きつつもリーダーの男は内心焦っていた。

 クソ!何でこんな事になるんだ!あのしょんべん小僧の親父は俺達をいいように使いやがるしあのしょんべん小僧は欲しい物を絶対に手に入らないと手に入れるまで言い続けやがるしで最悪だ!そんでもって3日もかけてやっと捕まえれると思ったのに誰かに邪魔される!クソ!クソ!クソ!


「博士は辞めてくださいと何度言っているのやら」

「うるせー!今は何でガキが消えたのかだ!」

「やれやれ、そうですね何故消えたのかと言いますと相手は恐らく何かしらの固有魔法を持っているとしか言いようがないですね。人かどうかは置いておいてカロン君の探索も妨害できる魔法、そして瞬時にあの女を逃すことができる魔法。そんな事できるのは普通の魔法じゃ不可能です。空間魔法だった場合発動させると繋いだ先にも空間が現れるのでその考えもダメですね」

「固有魔法だと?はぁ!冗談はやめてくれ。二つも固有魔法を持ってるやつなんて英雄クラスしか聞いた事ないぞ!」


 リーダーの男は表向きそうは言ったものの内心は正直自分でもそう思い始めた。

 ああは言ったものの可能性はなくもないな。この世界は狭いようで広い。何処かに二つ持っているやつがいても不思議ではないが、何故そんな奴がこんな所にいるのか分からん。

 ガサ。


「リーダー!今草むらから音がしました!きっとあそこにいるんですよ!」

「どんなトリックを使ったかのか分からんが俺の邪魔をした奴は殺す!おいそこにいるのは分かってんだよ!殺されたくなきゃ大人しく出てこい!」

「ケヒャ…ケヒャヒャヒャ!」


 額に血管を浮かべながらイライラしているリーダーの男は音がした草むらに向かって大声で叫ぶと何と!その草むらから人型の化物が不気味な笑みを浮かべて出てきた。その見た目はグロく、腕や足が変な方向に曲がっており、顔はボコボコで性別もよくわからないが、クネクネと動きながら三人の男に近づいていく。


「おいおい…こいつは面白えもんが出てきたな」

「本当ですねリーダー」

「リーダー殺っちゃいますか?」

「いんやこいつの相手をするのはちと骨が折れる。取り敢えずあのガキ探しながら逃げるぞ」

「分かりました」

「了解ですぜ!」


 リーダーの男は額に汗をツゥーと流して目の前の化物から逃げるように二人に指示をした。それと同時に少女を助けたルトもまた茂みから見える化物を見てヤバいと察した。

 あの人のような形をした化物は一体何なんだ?とんでもない量の魔力を持ってるけど維持できていないのか魔力が乱れている様な…うん、これは俺でもヤバいと察した。でも!あいつを今この森から放ったら俺の家族達やまだ行ったことないけど王都がヤバいことになる!倒さないと!

 地面に寝かせていた少女を再度背中に背負って、右足で地面を蹴る様にすると、一瞬でアイリの元まで戻る。


「アイリ!この子を家まで頼む!俺は向こうにいる化物を倒した後あの男達を追うから先に帰っててくれ!母さん達には夜までに戻ると伝えといて!」

「お兄様危険です!私でも分かります!あの正体不明の謎の生命体が未知の強さだと言う事を!帰るわけには行きません!」

「アイリこれだけはダメだ!」

「お兄様の頼みでもこれは嫌です!」

「アイリ!」

「嫌です!」


 どうしても嫌だと言うアイリはルトの腕にギュッと捕まり離さないとばかりに力を入れる。

 困った…俺でも勝てるかどうか分からないあの化物にアイリを巻き込む訳にはいかない。母さん達に頼むにしても今からじゃ遅い。戻って伝えている間にもあいつの力は未知数、何処かに移動して暴れたりなんかしたらどうにもならない。なら俺がここであいつを倒して抑えるしかない。アイリには悪いけど強制的に帰ってもらうしかない。


「アイリ…ごめん!」

「…えっ?」


 するとアイリと少女の床に白く大きな魔法陣が浮かび、二人を強制送還させた。勿論家に、だ。

 今のは俺の固有魔法の一つ【帰還(リターン)】を使用したのだ。この固有魔法は指定した人物や物を登録した場所に帰す事ができると言う魔法だ。登録していない所には帰せないが部屋の中や屋敷の門の近くとかに登録する事でその位置に帰す事ができる。


「帰ったら怒られるだらうな〜…」

「居たぞ!お前があのガキを何処かにやったのか!」


 そんな事を思いながらも行動して移そうとした瞬間あの化物から逃げたと思われた三人組の男がルトを見つけて怒りを露にしていた。


「そうだ。それが何か問題か?」

「生意気なクソガキが!俺の仕事を邪魔しやがって!」

「ふむふむ、この少年少し興味深いですね」

「お前がリーダーの邪魔をしたのか!」

「ケヒャヒャヒャヒャ!」


 リーダーが背中に背負っている大剣を抜いてルトに襲い掛かろうとした瞬間、三人の男達を追いかけてきたのか物凄い速さで化物が、追いかけてきた。しかも変な走り方をしながらである。


「クソ!もう追いつきやがったか!おいクソガキ!今は休戦だ!今はあいつを何とかするぞ!」

「ねぇ〜おじさん。俺みたいな子供が本気で戦えると思ってるの?」

「クソガキが!そもそもこんな危険な森にいる時点で可笑しいだろ!そんな所に普通はいねーよ!」

「そうかな?俺は散歩してたらここに迷い込んだだけなんだけど」

「あー!うるせーうるせー!こんな所まで散歩する奴がいるかよ!しかもあのガキを俺たちの目で追えないほどの速さで攫うってありえんだろ!」

「攫うって人が気が悪いな〜おじさん…あ、後ろ危ないよおじさん」

「ヒャヒャヒャ!グギャ!?」


 化物は不気味な笑みを浮かべながら目の前にいるリーダーの男を襲おうとした瞬間、化物は見えないバリアに当たり弾かれた。


「突っ込んでくれるのはありがたいけどおじさん達自分の身は自分で守ってね?」

「俺はおじさんじゃねー!まだ二十代だ!」

「そうなんだ」


 ルトはニヤニヤとしながらリーダーの男を揶揄っているが、一人だけど汗をツゥーと流しながら目を見開き口を開けながら今発動させた魔法を見ていた。


「い、今のは【絶対防御(アブシールド)】!?な、何故あの少年が使えるのです!あの固有魔法は四天王の一人であるブロッカス様が使う魔法!まさかお亡くなりになられたのですか!?」

「は、博士?今の本当に【絶対防御(アブシールド)】なのですか?」

「間違いありません!私はいくつもの固有魔法を調べに調べ尽くしています!絶対に見間違えるはずがないのです!」

「そ、それが本当ならブロッカス様は…」

「悔しいですがお亡くなりになられたかと…」


 博士は歯を食いしばり目の前でリーダーと話している少年をじっと見て、悔しさと悲しさで気持ちが一杯になっていた。カロンもまた少年の事を不思議そうに見ながらもブロッカスが亡くなったと言う事実に悲しんでいた。


「ケヒャ…ケヒャヒャ…ケヒャヒャヒャ!」

「まずい!あいつ更に魔力を暴走させてやがる!おじさん達も流石にこれはまずいから俺の後ろに移動して!」

「あん?何でお前の指示に何かに従わねーといけねーんだよ!」

「死にたくなかったら早く!」


 ルトは真剣な顔をして、リーダーの男に大声で後ろに移動する様に指示をする。


「だぁー!分かったよ!移動すればいいんだろ移動すれば!俺だってこんな所でくたばる訳にはいかねーからな!それにあいつに殺されるなんてごめんだ!おいお前達もこのクソガキの後ろに移動するぞ!」

「は、はい分かりました!」

「了解しましたリーダー!」


 三人の男は急いでルトの後ろに避難する。それと同時に化物は魔力が更に暴走して目の前に謎の塊か大きくなりながら生まれていく。

 あれは闇魔法と光魔法の混合魔法か!魔法ならあの固有魔法を使えば!


「くるぞ!」

「ケヒャーーーー!」


 光と闇の混合魔法が物凄い威力で発射され草木や地面を抉りながらルト達に向かっていく。それと同時に全魔力を使い切ったのか混合魔法を放ったあと化物はその場で力尽きていた。


「俺だってこんな所で死んでたまるか!絶対に固有魔法で消してやる!【魔法消滅(マジックディスペル)】!」


 ルトが覚悟を決めて大声で魔法名を叫ぶと、眩い光と共に目の前に追ってきていた混合魔法が何もなかったかの様に消滅した。消滅した後の時間は鳥の鳴き声さえ聞こえない静かな空間が広がっている。

 やった…のか?はは、本当に凄いな固有魔法ってのは。もう何でもありかよ。特にデメリット無しで使いたい放題とか。兎に角あの化物も自滅したようだし平和が訪れたな。よかったよかった。


「お、おいクソガキ。お前いくつ固有魔法持ってんだ?俺が見た限り四つ使ってたよな?」

「リーダー、私もこの少年が四つ固有魔法を使っていると思われる場面がいくつかありました。一つ目はあの少女を私達から奪った時、二つ目はカロン君の探索魔法が妨害された事。これも固有魔法でしか妨害できません。三つ目は何故ブロッカス様の【絶対防御(アブシールド)】を持っているのか。最後に今使った【魔法消滅(マジックディスペル)】で魔法を完全に消滅させた。君は一体何者なんですか?」

「あ〜俺?俺は〜」


 リーダーの男は先程まで怒ってたとは思えない程の顔をして固有魔法の事をルトに聞き、博士と呼ばれる男はゴクリと唾を飲み込みルトの事を警戒しながらも質問をした。

 流石に敵に情報を与える訳にはいかない。だからここは誤魔化して【帰還(リターン)】を使うか。



「俺はそこら辺にいる平凡な少年だよ!わーいわーい!あの大きな生物倒したよ!やったね!家帰って母さん達に褒めてもらうんだー!じゃーねーおじさん達ー!遊んでくれてありがとう!…さて…帰るとするか。んじゃあの子は俺が貰ってくのでアディオス!」


 ルトは子供みたいに一通り無邪気に喜んだ後直ぐに冷静になり、目の前の死体を空間魔法に収納して三人の男達の前から消えていった。


「あれはまさか固有魔法【帰還(リターン)】か【瞬間移動(テレポート)】!」

「あんのクソガキがー!スッカリ忘れていたが俺達の仕事を邪魔しやがってー!」

「しかもあの化物を持ってくなんてあまりですよ!お金欲しいですよ!」

「次会ったら絶対に殺す!おいお前達帰るぞ!あのしょんべん小僧とその家族は放置だ!今は酒だ酒!」

「そうですねリーダー。あの不思議な少年は気になりますが今は三日動き続けた反動もありますから休憩にしましょう」

「三日ぶりの酒!くぅ〜楽しみ!」


 三人の男達はそんな会話をしながら森の出口に向かって歩き続けた。木に止まっていた赤い目をしている黒色のコウモリが三人の男達を監視しているとも知らずに…。

 あれ?今思うとあの少年は十五歳の見た目してましたっけ?う〜ん?…まーいいです。今日は面白いものを見させていただきましたから考えるのは辞めましょう。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 とある屋敷にて太った男とその子供が高そうな赤と金色の長椅子に座って寛いでいた。


「パパ!バリバリウグゥ。僕のボリボリ。女ゴクゴクブハァー!はまだなの!もう三日もたった!早く連れてきてよ!」

「もうすぐ来ますよ可愛い可愛い我が息子よ」

「とか言ってもう三日も経った!あの無能どもは何やってるの!」

「ブッター必ず今日連れてくるよ。だからほらお菓子を食べながらゆっくりとしてなさい」

「今日来なかったらあいつら死刑ね!」


 ブッターと呼ばれる子供は丸々と太っており、顔はテカテカと光っていた。母や父にとても甘やかされて育ったブッターはとても我儘で欲しいものが手に入らないと手に入るまでしつこく言い続ける。その為手段を選ばないやり方でやっても母や父は甘やかすばかりで誰も止めようとはしない。


「そこの使用人!死刑の準備をしておけ!それとお菓子が無くなった!追加して作れ!」

「か、かしこまりました!直ぐに準備致します!」

「早くしろよ!さもなければ分かってるだろうな?」

「は、はい!では失礼します!」


 女性の使用人を撫で回すように見ながら命令をした男はペロリと舌を舐めてニヤつきながら出て行くのを見届けた。


「さて、今夜はどの女と寝ようかな」

「あっ!パパだけずるい!僕の分も用意してよ!」

「当たり前だよ可愛い我が息子よ!そう言うと思ってブッターの為に朝イチで買ってきたよ!」

「さすがパパ!どんな子どんな子!」

「それは楽しみに取っておくのが一番だよ?ブッターもきっと気にいるよ」

「えー!もー分かったよパパ!だけど僕が1番抱きたいのはあの女だからね!もうあの女は僕の物同然だから早く連れてきてよ!」

「ハハハ、ブッターは余程あの娘を気に入ったんだね」

「当たり前だよ!あの女は今まで見てきた女の中で断トツでやりごたえがありそうだったんだもん!無表情なのが気に入らないけどあの顔が歪んだ姿を思い浮かべると…ゲヘヘヘ」


 ブッターは湯ダレを垂らしながらジュルリとして獣と化していた。

 あ〜早くあの女を犯してやりたい。楽しみだな〜あの顔が歪む姿!ゾクゾクしてきた!


「グヘ…グヘヘヘ」


コンコン


「どうぞ!」

「失礼します」

「お前か。あいつらはどうなった」


 扉がノックされてそれに返事をした男は許可をすると、扉がゆっくりと開きその人物が中に入る。その人物は男の声をしており、忍者のような格好をして、顔はウサギの仮面を被って見えないようになっている。腰には黒い短剣が左右二つずつ装備されていた。


「それが失敗したようです」

「何だと!」


 男は机をドン!と両手で叩きつけ、怒りながら仮面の男に近づいて行く。


「落ち着いてくださいトンコッツ様。失敗には理由があります」

「理由だー?言い訳の間違えじゃ無いのか?」

「いえ、それがあの少女を確保しようとした所それを邪魔した人物がいます」

「邪魔をしただと!誰だそいつは!」

「分かりませんが少年らしき人物が何かしらの魔法で少女を横取りしてようです。その後の少女の行方は分かっておりません」


 それを聞いた途端仮面の男の胸ぐらを掴み顔を殴る…がボン!と音と共に木に変わり、壁に寄り掛かるようにして仮面の男が再度現れた。


「やれやれ、冷静になって下さい。それとまだ理由はありますよ。あの森に魔人の失敗作が現れて苦戦を強いられていたようです。まー最後は自滅して死にましたが。ですので今回はあの方達を見逃してやって下さい。計画が狂ったのは全て謎の少年と魔人の失敗作のせいなのですから」

「ちっ!あの役立たず共が!おいお前!何年かかってもいい!可愛い息子の為に何としても捕まえてこい!分かったな!」

「かしこまりましたトンコッツ様。ではご報告は以上です」


 仮面の男は喋り終わると同時にスゥーと闇の中に消えていった。

 絶対に私達の邪魔をした事を後悔させてやる!何年かかってもか見つけ出して裁きを受けてもらう!


「ねぇーパパ!まだなの!」

「あ、ああそうだね。いつか捕まえてくるよ。だから今はパパが与えた物で我慢してね?ねぇ?」

「嫌だ嫌だ!もう僕は三日も我慢したんだよ!」

「ほ、ほら?美味しいものは後で食べた方が美味しいでしょ?」

「僕は好きな物しか食べないから知らない!早く連れてきて!」

「いい子は大人しく待つものよ?」

「ママ!うん分かった!僕は良い子だから待つね!」


 扉からマダムみたいな女性が豪華なドレスを纏い、如何にも金持ち!と言う感じの格好をしている女性がブッターに待つように言うと!トンコッツーとは違い素直に母の言葉を聞いた。


「流石ママとパパの子ね。良い子だわ」


 その後は自分の息子がお菓子を両手で頬張る姿を嬉しそうに見ていた二人であった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ