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事件です!

宜しくお願いします。

私、リリィ・アーデが誕生してからまもなく一年が経とうとしている。


アーデ家は変わらず私を褒めてばかりの親バカっぷりだ。


アーデ家、というと貴族様みたいだが実際は違う。


大商家と言えばいいのかな?


ケビンは商人としては優秀らしく、この街では有名らしい。


この大きな屋敷と使用人達を雇える位には。


その名もケビン商会!


まんまだ。




ロイはいつもちょろちょろ付いてくる。


外に遊びに行く日は良いのだが、最近は家にこもって私にくっついてばかりだ。


イタズラ好きで両親に叱られてばかりのロイだが妹には優しいのだろう、内緒でクッキーや甘いミルク等を持ってきてはくれるのだ。


私からするとロイが可愛い弟みたいな感じで逆転している。


クッキー等お菓子を持ってきたらお手拭き等を用意して一緒に食べ、終わったらロイを拭いてあげる。


可愛い可愛いお兄様だ。




さて、そろそろ限界だ。


魔術を試してみたい。


珍しくケビンが仕事に行っており、ロイも外出している。


ヘレンは庭でお茶しているがああしていると数時間は動かない。


きっと今しかない!


自室にこもりすぐさま魔術教本を開く。


書庫で見つけて以来何度も読んできた本だ。


今回は水や土の魔術は使わない。


自室で使う以上痕跡のないものにしたい。


光一択だ!


もう見慣れたものだが再度確認しておこう。


なんせ魔術だ。


確認しすぎて悪い事などないはず。


・初めて使う魔術は詠唱が必要


・詠唱した魔術をしっかり使いこなせれば身体に魔術刻印と言われる物が根付く


・魔術刻印があれば次回から魔力を通して呪文を言えば発動する。


詠唱は一回でいいってことだね!


刻印ってどんなだろ...全身刺青みたいになったらやだな...


ケビンもヘレンも身体にそんな痕あったかな?




とりあえず教本を見ながら詠唱してみよう!


「最初はやっぱりヒールだよね!レベル1はライトヒールか、えー我求めるは癒しの光、流れる力を対価に祝福を与えよ!ライトヒール!」


全身を光が包み、身体に白い光の線が浮かぶ


「成功、したのかな?」


傷があったわけでもなく、疲れていたわけでもなく成功したか失敗したかもわからなかった。


とりあえず刻印ができたのかもよくわからなかったため、予め用意していたナイフで指先を少し切る。


「今度は詠唱無しで、ライトヒール!」


みるみる指先の傷がなくなった。


身体には白く光る線が一本。魔力を通すのをやめると消えていった。


「おぉー!魔術使えてる!これで立派なヒーラーだ!」


リリィは興奮していた。


そのままレベル1の魔術を片っ端から使い刻印を増やしていった。


......





「レベル1だけでもこんなにあるなんて、とりあえず治癒だけでも立派なの使えるようにしたいからレベル2のヒール、レベル3のハイヒールを覚えよう!」


リリィはこの時失念していた。


夢中で魔術を行使し、身体に新たな刻印が刻まれるのが嬉しかったのだ。


「ヒールはこれで完成っと、なんだか少し怠くなってきたな、ハイヒール終わったら休憩しよう」


周りが少し騒がしいが気にすることはない。


これで終わりなのだから。


ハイヒールの詠唱を始めると全身に光が集まってくる。


全身を包む光は今までで1番大きく、輝きも段違いだ。


これがレベル3の魔術、興奮しながら詠唱していく。


自室全てが光で埋まるのではないかという程に集まっていく。


そうしてハイヒールの詠唱が終わるとそのままリリィは意識をなくした。


...

「...リィ、リリィ!!」


目が覚めると目の前にはヘレンやメイド達がいた。


床で倒れているリリィ、落ちている魔術教本、ページはハイヒールの魔術。言い訳はできないと悟った。


「ごめんなさいお母さん、魔術が気になって使ってみたの」


バレてしまったのなら即謝罪だ。


きっと怒られる。


そう思い、ヘレンを見ると


「上級魔術を行使したの?」


上級魔術?


レベル3のハイヒールの事を指しているのだろうか。


怒ってはいない、けど初めてみる真面目な顔だった。


いつも笑顔のお母様にしては珍しく、こちらも真面目に返す。


「はい、ハイヒールの詠唱をしていたのは覚えてるのですが」


するとヘレンはいつもの笑顔にもどりいつもと同じ事をいう。


「ヘレンは天才、天才だわ!!あぁケビンなんでこんな大事な日にお仕事なんて。早く見せたいわ!」


そこに割って入るメイドがいた、確かライラさんだったと思う。


「リリィお嬢様、恐らく魔力切れで意識が無くなったのかと思われます。ヘレン奥様、お喜びになるのは結構ですが、まずはお叱りを。大変危険な行為です。」


そこで初めて知った。


魔力切れ。


MPが無くなると意識が無くなるのかぁ。


「ライラ!その通りね!リリィ、よく聞いて。貴方は天才よ。でも自分どの程度魔術を使えるのかわからないうちは母さんか父さん、またはライラ等誰かいる時に練習なさい。できれば基本は母さんがいいと思うわ!」


全然怒ってなかった。


むしろ大喜びのまま言っていた。


「リリィお嬢様、魔術は大変危険な物です。上手く扱えなければ当然リバウンドがきます。場合によっては後遺症や死に至るケースもございます。くれぐれもご注意を。また集中ししっかりと詠唱しなければ刻印は刻まれません。一回一回丁寧に詠唱する事をお勧め致します。」


え!?


聞いてない!?


魔術教本にもリバウンドの事なんて一つも書いてなかった!!


それに刻印って...


「魔術刻印って一回詠唱すればいいのではないですか?」


そう、今は魔力を通していないから光らず目立たないが、ハイヒールの魔術刻印もリリィの身体にはしっかりと刻まれていた。


「魔術刻印を肉体に刻むのは非常に困難です。初級魔術ですら数十、数百回もの詠唱をして才ある者がようやく刻めるのです。また光の適性は非常に珍しく、どのようなリバウンドが来るかも一般に知られていません。教会等に行けば多少はわかるかもしれませんが...現状では調べてからが良いでしょう」


知らなかった。


同時に自身がどれだけ無茶だったかも知った。


「お母様、ライラさんごめんなさい。魔術がそれだけ危険な物と理解していませんでした。以後気をつけます。」


本当に気をつけよう。


次は水魔術だー!と思っていたがそれぞれのリスクを見てからにしないと...


ライラさんに詳しく聞くとレベル1の魔術を初級、レベル2を中級、レベル3を上級と呼ぶのだそうだ。


中級魔法を使いこなし、魔術刻印を刻む程になると王都の王宮魔術団に入れるレベルなのだそうだ。


そうか、それは天才と呼ばれるだろうな...。


そしてライラさんは優秀だ。


困った時のライラさん。


覚えておこう。




そうして晩食の時間になるとヘレンが今日の魔術の話題をだし、ロイが驚き羨ましがり大変だった。


「見せてぇ見せてぇー!」


可愛らしいと思うかい?


これ、1時間続いたんだよ?


しかし今日の今日なので魔術を見せる事はせずその日は終えた。


ケビンはまだ帰宅していない。


帰るのは明日のお昼以降とのことだった。


きっと大騒ぎするんだろうなぁ...


そんな事しか考えていなかった。





翌日

お昼を過ぎてもケビンは戻らずまもなく晩ご飯という頃

事件は起きた。


「奥様ぁーーー!!大変です、ケビン様が、ケビン様がぁ!!」


執事長のジルフォートさんがらしくない大声で屋敷に入ってきた。


全員晩ご飯で集合していたため私にも聞こえていた。

嫌な予感がする。


「行商に出た折に盗賊の集団に囲まれまして、雇っていた護衛が応戦したものの...」


「ケビンは?ケビンは無事なの!?」


そういうと運ばれてきたのは腹部を包帯で巻かれているケビンが。


血だらけで素人目にもこれは危険だと判断できた。


「ケビン!あぁケビン!こんな、こんな事って...ジル、すぐに教会に連絡を!」


「奥様、こちらから連絡入れておりますが、現状治癒士は出払っており、この傷を癒す事は出来ないそうです。そのためケビン様が最後は自宅に帰りたいと...」


「馬鹿な事言わないで!最後?最後だなんて許しません!ケビン、聞こえる?ケビン?すぐに治癒士を呼び戻すよう伝えて頂戴!いくらかかっても構わないわ!」


私は状況を理解すると前にでた。


きっとこの瞬間のために私は魔術を覚えたのだ。


昨日使えたのだ、今日は魔術を使っていないし体調も万全だ。使える。絶対に成功する。


「お母様、ここに治癒の魔術が使える娘がいます。まだ覚えたてで成功するかはわかりません。ですが!どうか試させて下さい!」


私は全力で魔力を魔術刻印に通す。


昨日よりもずっと強く、全ての魔力注ぐつもりで魔力を通す。


全身を光が包む。屋敷全体に広がっていき、屋敷が輝いていた。


「リリィ、お願い。ケビンを助けて!」


近くにいたライラがすぐさまケビンの包帯や薬草を取り除く、傷口は腹部。こんな怪我前世でも見たことない。


それでもやらなければ、ケビンは死ぬ。


私はケビンに近づくと手を腹部にあてて呪文を唱える。


「ハイヒール!」


すると光が一気にケビンを包んだ。


癒しの光が瞬く間に傷を癒す。


ケビンの腹部に傷痕はなく、青かったケビンの顔色も元に戻る。


成功だ!


「ケビン!あぁケビン、良かった。本当に良かった。これで大丈夫なのよね?ケビンは助かるのよね?」


すぐさまヘレンがケビンに近づくと確かめるように腹部に触れながら言った。


「奥様、恐らく大丈夫です!助かります。ですが失った血は戻りませんので、安静にする必要がございます。一度寝室にお連れしましょう。」


ライラが冷静に伝えるとなにが起こったか未だ理解できていないといった風のジルフォートが口を開く。


「ハイヒール...?上級魔術をこの歳で?いつから...お嬢様、この魔術はいつから」


「昨日からです、覚えたてで成功するかは不安でしたが上手く出来て良かったです!今日は昨日より調子もいいみたいなのでまだ使えそうですが、他にも怪我をされた方はいませんか?」


昨日はハイヒールを行使すると意識がなくなったのだが、今日は昨日より強く魔力を消費した確信はあるものの、昨日より調子がいい。


恐らくあと数回ハイヒールが使用できそうだ。


そう答えるとジルが申し訳なさそうに言い出す。


「護衛に雇っていた冒険者が数人怪我をしております。現在屋敷前の馬車で待機させていますが頼めますか?」


ケビンを守るために怪我をしたのだ。


このまま放置はできない。


「成功するかはわかりませんが、連れてきてもらえますか?出来る限りやってみます!」





護衛の冒険者全員で5人いた。


怪我をしているのは3人で二人は軽症、1人は腕に傷を負い、骨まで傷は達していた。


重傷の男は初めて見る獣人だった。


銀色の髪に体毛も銀色。


そして犬耳だ。


そんな場合じゃないのに触りたいと思ってしまった。


重傷の男性から癒し、使うのはハイヒール。


その後2人には念のためヒールを使用した。


「ありがとうお嬢ちゃん、もう冒険者は引退かと思ったよ。」


「その年で光魔術を使用できるなんて!」


「それもそうだが、上級魔術刻印を身体に刻んでるぞ!神に愛されているとしか思えない!」


口々にお礼と称賛の声が出る。


でも私はチートだから。


転生した特典でもらったから努力なんてしていない。


なんだか少し罪悪感が湧いてしまう。


「ありがとうございます、父を助けて頂いて。私が魔術を使えるのが凄い事だと言われますが、私では護衛はできません。貴方達が居なければお父様は死んでいたかもしれません。本当にありがとう!」


一歳の子供常識的に考えて魔術を使えるのは異常だ。


だがこの可愛らしい子供を見ているとそんな気は失せていく。


獣人は言う。


「お嬢ちゃん、その魔術は大きくなるまでは人に出来るだけ見せないようにすることだ。今回は助かった。礼も出来る限りする。だけど悪い奴に目をつけられればお嬢ちゃんは捕まってしまうかもしれん。世の中には悪い奴はいっぱいいるんだ。」


この獣人はきっといい人だ。


真剣な眼差しでこんな子供に言ってくれるのだ。


悪い人なわけがない。


そしてどんなお礼がいいかと獣人は考えていた。


私は答える。


「お願いがあります!お名前を聞かせてくれませんか?私の名前はリリィ、リリィ・アーデと申します!」


私はこの獣人に恋をした。


異世界で初めて見る獣人に恋をした。


名前も知らない獣人に恋をした。


心優しい犬耳に恋をしたのだ。


「そうか、まだ名乗ってなかったな。俺の名前は...」





異世界転生して一年


性別変換して一年


待望の女性になってから一年


ーーーリリィ・アーデは銀色の獣人に恋をした。

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