深層に転移しました!
宜しくお願いします!
深層
それはダンジョンの21階以降を示す言葉
冒険者でいうところのBランク以上が目指す階層
ベテランの冒険者が命をかけ、進む階層
そんな階層に僕らはいた。
リリィが1番最初目覚めた。
そして周囲を確認し、気付いた。
元いた花畑では当然ない。
そしてここは花畑をでたダンジョン地下一階でもない。
ここは...どこだ?
「ヴォルフさん、起きて!起きないと大変だよ!ヴォルフさんが絶対触らせてくれないお腹の毛でモフモフするよ!いいの?いいよね?起きなくてもいいですよ!いきま「ダメだ!」」
あぁ
なんでこうギリギリで起きてしまうのだろう。
一応言わないでしたら絶対怒られるので言ったけど起きませんでした!をしてからモフモフしたかったのに。
絶対きもちーのになー。
ってそんな場合じゃない!
「ヴォルフさん、ここどこだかわかりますか?今まで潜った階層で見覚えがあったりしませんか?」
ヴォルフさんは眠そうに目を掻いたあとに周りを見渡す。
あぁそんな仕草もかわいーなぁー。
「ここは、セーフティエリア?はっ!?なんでこんな所に?いや待て、何が起こった...?」
悩んでる姿は凛々しくてカッコいい。
やっぱりヴォルフさんは良い!
いや今はそんなことより...
「なにがあったかは私にもわかりません。ロイ兄が魔剣を抜いたところまでは覚えてるんですけど...ここはセーフティエリアなのですか?」
セーフティエリア
それは11階層以降のボスフロア前の事を指す
魔物や魔獣といった危険な生物が立ち入らないエリア
という事は
「最低でも中層以降に転移した、ということですわね」
シータさんも目覚めたようだ。
「ヴォルフさん、ここは今までに来たことありますか?」
ヴォルフさんは周りをさらに注意深く見渡す
「多分ねえな。ここの匂いは独特だ。覚えてないって事は来たこともねえってこったな。少なくとも18階層以降だ。」
18階層以降...それもボスフロア前。
戻ろうにもこのエリアをでたら凶悪なモンスターがいるに違いない。
「戻るには転移石を利用するのがいいんだが...生憎、転移石はボス攻略しないといけねえ。なんせあるのはボスフロア、それも階層毎に刻まれてる詠唱が違う。倒してからじゃなければとてもそんな余裕はないな。」
そんな...
「隠しフロアから転移なんて聞いた事もありませんわ。転移と言えば転移石、ボスフロアにしか無い物という認識でしたもの。...迂闊でしたわ。」
これは誰のせいとかじゃない。
でもシータさんは責任を感じているんだろう
「縦ロール、気にすんな。縦ロールは良くやったさ。お前に責任はねえ。あの大層な魔剣の下に罠があったならそりゃぁ魔眼でも見抜けねえわな。ついでに言えばフロア全体に行き渡っていた膨大な魔力。フロア全体に咲いていた花による匂い。今考えればあのフロア全体が罠だったのかもしれねえな。そこまで考えられなかった俺のミスでもある。気にすんな。俺も気にしねえよ!」
「言ってる事は正しいのに、なんだかコロに言われるとコロには多少気にして頂きたい気持ちになりますの。...でもそうですわね、まずは現状の把握からすべきですわね。ここは18階層以降ということで間違いはないですわね?そしてセーフティエリアということも。ボスフロア前に転移した、という事でパーティ分の転移で意識のないグラートさんは転移しなかった、または単純に意識がないから転移しなかった。ということですわね。」
確かに2人の言う通りだ。
まずは現状の把握だろう。
「あぁ、セーフティエリアはそこのボスフロアの扉から、あっちの白い扉までだ。ボスは黒、セーフティエリアの入り口の扉は白ってなぁ決まってんだ。」
つまりはいずれこの黒か白かの扉を越えて、一個上のダンジョンボスか、今いるボスかを打倒しなければいけないってことか。
「魔眼でどちらの扉も覗いてみますわ。あんまり遠くだとダメですが、その近くにいる魔物などの性質なんかはわかる可能性がありますわ」
魔眼凄いな!
そしてシータさんの活躍が凄すぎて...ハッ!
このままではヴォルフさんがシータさんに惚れかねない。
私もどこかで挽回せねば。
「リリィさん、うっすらなにを考えているかわかってしまったのでお伝えしますが、安心して下さい。貴女も充分凄いですわ、それこそワタクシよりも遥かに。それはここにいる皆がわかってますから安心して下さいませ。」
読心術?
シータさんは一体...
「あぁ、これはまずいですわね。まず、この白い扉ですが、開けたら即死です。レベルはわかりませんが、保有魔力量はリリィさん以外を全員分足しても足りないのが10数体います。そしてその全ての魔物の魔力量を合わせてもリリィさん程ではないですが、迫るものがありますわね。ワタクシは高レベルの魔物を見た経験がないので断言できかねますが、恐らく先程強化したコロでようやく一体と互角、といったレベルかと思いますわ。」
!!
強化したヴォルフさんと互角の魔物がいっぱい?
そんな...
それではここは
「深層で間違いねえな。それも相当深いってこったな。現在このダンジョンの攻略が進んでる階層は26階層だが、恐らくそこの魔物でもボスじゃなけりゃ強化してない俺でも戦えるはずだ。」
深層...
なんでそんなところに...
「それともう一つ、黒の扉の向こうにいる魔物ですが、その魔力量はリリィさんと同格です。超級、或いは天級魔術を行使できるやもしれません。性質の全てがわかるわけではないですが、わかったことはいくつかあります。」
私と同格...それはきっと多いのだろう。
私は光魔術がメインだからそんなに脅威じゃないけど、それが攻撃魔術ならきっと凶悪なはずだ。
シータさんは続ける
「この先にいる魔物は恐らく、3つ首の魔獣ケルベロスです。」
ケルベロスって確か前世の記憶でいう所の地獄の門番とかしてたモンスターで、3つ全てが頭脳を持ってて別個の動きをするとかなんとか...ゲームの知識だから正しいかはわからないけど。
「ケルベロスだぁ!?ありえん!お伽話の世界にでも転移しちまったってことかよ?」
ありえないんだ。
なんか目の前に狼の獣人がいると全然ありえるんじゃない?って思っちゃうんだけど。
「事実です。なんの属性をそれぞれ持ってるかまではここからはわかりませんが、言い伝えの通りなら左が火、真ん中が風、右が水のはずで、その3つの属性には耐性があるはずです。いずれかの首を落とせば落とした魔術耐性がなくなる...とは伝えられてますが、実際はどうでしょうね?」
え?
それ無理ゲーじゃない?
だって、風はヴォルフさん、水は私、ロイ兄は火
魔術効かないじゃない!
「あぁ、そいつは...倒す作戦じゃあ厳しいな。仮にだが強化した俺ならどれくらい時間稼げそうか?」
それを聞いた途端私は一気に血が頭に登った
「ヴォルフさん!そんな行動のために私は魔術をかけたりはしません!それなら魔術なしで、というなら私が今この場で結界でグルグル巻きにして動けなくします!冗談でも言わないで下さい!」
ヴォルフさんは後ずさりながら
「いや悪い、そんなつもりじゃぁねえんだ。どっちにしたって詠唱は2、3分はかかるんだ。一人で時間稼ぎしようにも魔術でそっちに攻撃する首が1つあれば終わる。だけどよ、詠唱を見る時間を稼げれば、どうなると思う?」
詠唱を見る時間?
詠唱なんか見たって...
あっ!
「成る程、コロにしては名案ですわね。ここには魔術刻印を用意に刻める天才がいる。なにも詠唱は転移石で行わなければいけないわけではない。転移の詠唱を誰かが覚え、それをセーフティエリアにて詠唱し、魔術刻印に刻む。あとは転移石に触れるだけで転移できるってわけですわね?」
確かにそれなら...でも詠唱するのと見るのではあんまり時間も変わらないんじゃ...
「さらに言えばここに時魔術の使い手がいる。一度見た風景は勿論、会話の内容やその全てを再現できる。ならば一度見ただけで詠唱は持ち帰れますわ」
それなら!
「ほんじゃまずは実験だな。嬢ちゃんの結界でどれくらいケルベロスの猛攻を抑えられるかが鍵だ。縦ロールの魔眼で結果を報告して貰うが...嬢ちゃんの結界はこの黒い扉の先に作る事はできるか?」
結論から言おう。
私の上級の結界では1秒と持たなかった。
1枚では、の話しだが。
同時に10枚程の結界を張り、こちらの扉を一瞬あける、そしてすぐさま戻すと3つの首からそれぞれ火の超級、風の超級、水の超級魔術が飛んで来た。
すぐに結界は吹き飛んでいくが、一度に出せるのが10枚なだけで同時に出せる限界ではない。
吹き飛んでいくと同時にこちらは10枚ずつ増えていく。
結果
扉にはなんの魔術も届かなかった。
耐えられる。
希望が見えた!
ロイ兄もアレスも起きて事情を説明すると、アレスはガタガタ震え、ロイ兄はなにか考え込んでいた。
「シータさん、この魔剣の性質わかるかな?僕が感じている通りならいいんだけど。」
シータさんは言われて魔剣を注意深く見る
そして驚いた表情を見せたりしていたが決して魔剣には触れなかった。
最後にとても悲しそうな表情になり立ち上がった。
「これで全てがわかったかどうかは不明ですが、分かることだけお伝えしましょう、まずその魔剣はロイさん専用の魔剣です。他の方が触れれば魔剣に力を奪われる危険があるので注意を」
専用の魔剣!?
いつの間に...
ちょっとカッコいいなって思ってしまう。
「そして属性は闇、刺した相手の魔力を奪い自らの糧としてこの魔剣は成長します。使い手はいくつかの闇魔術が使用可能になり、魔剣が成長した分だけ使い手の魔術の幅も広がります。ですが、現在使用可能な魔術はありません。常に魔剣自体が発生させている上級闇魔術マナドレインのみです。」
物騒だよ!
危ないよ?ロイ兄には似合わないよ?
置いてこうか...
「それと...とても言いづらいのですが、使用者が死ぬとその魔剣に吸収されます。その身全てを。かといって手放せません。その魔剣は距離にして10m以上離れると持主の所に転移します。そしてその魔剣には不壊の特性がついていますわ...こんな魔剣聞いた事もありませんの」
そんな!
それは...魔剣というより呪いの剣ではないか!
「ありがとうシータさん、うん。僕が感じているのとほぼ同じだね。感じるんだ。この魔剣をかつて使っていた人達が嘆いているのを。生きてはいない、意識もない。だけどこの魔剣から抜け出せずに閉じ込められているんだ。」
私はなにも言えなかった。
ヴォルフさんもシータさんも。
なにも。
「ならば我が協力しよう。死んでも死に切れぬ魂を解放しようではないか!」
アレスが自信満々に言う。
「ポチ、貴方簡単に言うけどあてはあるのかしら?期待させるだけさせてなにもないじゃ済まされないわよ?」
アレスは不満気な顔をしていた
「失敬な!闇魔術がベースになっている魔剣なのであろう?確かに我にはその手の知識はない。だが、人脈と権力はある。この手の魔剣がまさかこの一本だけと言う事はあるまい?ならば今までで呪いを解いた成功例もあろうが。そしてここにいるリリィ殿は光魔術の天才と聞く。詠唱さえ分かれば良いのだろう?呪いを解く魔術、探し出すのに時間はかかろうが必ず見つけ出すさ。なんせ我が友人の為なのだから。それまでは精々その魔剣を有効に使うがいい。決して性能が悪いわけではないのだろう?ならば使えばよかろう。」
あっ
呪いを解く魔術...
「はぁ。なるほどですわ。まさかポチに諭される日が来るなんて思いもしませんでしたわ。確かに、解呪の詠唱があれば全く問題ありませんでしたわ。失念していましたわ。そしてもうポチが調べる必要もございませんわ」
なんと!と叫んでるアレスがいた。
でもそうだ、天級魔術ディスペル
それさえ使えれば...
全て解決する!
「なら目的は変わらないね。どちらにしても必要な事だったんだもん。単純に強力な武器を手に入れたと思う事にするよ!それとリリィ、僕のステータスを見てくれないかな?気になる事があって。」
ロイ兄は空気を変えようと空元気で言った。
けどどこか悲しい表情を隠しきれてない。
ん?ステータス?
「いいよ、じゃ背中出して。ステータス、オープン!」
ロイ・アーデ
LV14
火魔術適性LV1
闇魔術適性LV3
スキル
剣術LV1
近接戦闘LV1
怪力LV1
直感LV1
extraスキル
吸血
鬼化
なに...これ...?
「リリィ、ありがとう。やっぱりね。わかってたけど、僕はもう人間じゃないみたいだ。多分この魔剣の元になったのはヴァンパイア、吸血鬼だったんだよ。」
足に力が入らない。
そんな...ロイ兄が...
「うむ、スキルが軒並増えて羨ましいぞ!」
アレスは本気で言っていた。
「そのような目で見るな。我とて気持ちは察せる。だがな、呪いを解く方法はわかっているのだろう?伝記ではあるがかつて龍剣を使用したものが龍になったという話しは知らんか?しかしその龍剣が破壊された時、人に戻ったという。今回は破壊は出来ぬが呪いは解ける。ならばスキルが増えた事を喜ぶべきではないか?皆がそのような空気ではロイも喜ぶに喜べんではないか!」
コイツ...
でもなんだか救われた気がする。
そうださっき治せるわかったばかりではないか!
「ロイ兄、ロイ兄は人間だよ。呪いは必ず私が解く。だからそれまでまっててね。すぐに呪いが解けるように私も頑張るから。それとアレス、それだけ言ったのだから地上に戻ったら協力して貰うから!まずは光魔術の超級の詠唱を集めて!出来るだけ沢山!」
アレスは慌てて
「なんだか知らんが任された。我に出来ぬ事はない!」
なんだかんだで公爵家の人だし、多少はあてにしよう。
大丈夫。全部うまくいく。
「このextraスキルは恐らく魔剣の使い手になった事で得たものとして、他のスキルは何故こんなにも増えたんですの?これほどのスキルがあればグラートなど一捻りでしたでしょうに。」
グラートを悪く言うな?!とアレスが後ろで叫んでる
「これは魔剣を使っていた人達スキルだね。まだこの魔剣との繋がりが弱いからレベルは1だけど十分使えるスキルだよね。それと闇魔術と基本のレベルなんだけど、これはマナドレインの魔術刻印が僕に刻まれたからだと思う。extraスキルは多分使わないかな...どっちもリスクの高いスキルみたいだから」
魔術刻印!
それは素直に嬉しいけど、リスク?
鬼化は確かに戻れなくなりそうな感じはあるけど。
「吸血、これは対象の生き血を直接すすることで相手の能力の一部を奪うスキルだね。鬼化は鬼になることで肉体も魔力量も強化されるみたいなんだけど、精神も鬼に引っ張られるみたいでね。場合によっては暴走して皆の事を襲うかもしれないから使えないね。」
どちらも強力なスキルではあるけど確かに使えないね。
ロイ兄は今のままでいい。
変わって欲しくはない。
「上手くお前を使ってみせるさ、ブラド」
ブラド?
「ん?ロイ坊そりゃ魔剣の名前か?」
しばらく黙っていたヴォルフさんが聞く
「うん。ブラドはかつて勇者と戦って、聖女に封印されたらしいんだ。年月が立ちすぎて肉体は完全に剣と同化して、意識も以前とは異なるみたいなんだけど、意思がある。でも名前を覚えてないみたいなんだ」
え?その魔剣意識あるの?
「そいつぁ驚いたな。魔剣ブラド、いい響きじゃねえか」
魔剣ブラド、確かに私の中の厨二的ななにかにも刺さる。
「それでね、ここからが本題なんだけど、この魔剣ブラドは魔力を吸うんだよ。かつ僕もマナドレインを同時使用できる。直接的な作戦ではないんだけど、第2案としてこれを組み込めないかな?」
ーーー「なるほどなぁ。いいんじゃねえか?」
ヴォルフさんは答える。
確かに作戦としてはいい作戦なんだろうけど...
「我も良い案と思うぞ。策はいくらあっても良い!」
アレスも...となるとシータさんは
「正直、ロイさんの負担が大き過ぎるとは思いますの。ただ作戦内容としては文句もつけられない、あくまで第2案という事でしたら納得しますわ。」
そうなのだ。
その作戦内容だとロイ兄が危険すぎる。
一歩間違えば死んでしまうかもしれない。
...
「大丈夫だよリリィ。あくまで基本は詠唱を把握、その後一度離脱して全員で転移。もし何かしらそれが出来なかった場合の第2案だよ。」
ロイ兄...
「わかった。ロイ兄、危険は出来るだけ避けてね。」
わかってるよ-と気軽に答えるロイ兄
本当にわかってるのだろうか?
「ほんじゃ縦ロール、行く前に一言全員にたのんまぁ!ここは景気よくな、リーダー!」
ヴォルフさんが空気を変えようと笑顔でいう。
「コロの癖に...まあそうですわね、では僭越ながえらワタクシから一言。予期せぬ展開でこんな所にまできてしまいましたが、ワタクシ達はこんな所では終われません。さっさと帰宅してアーデ家の美味しいぷりんを食べるとしましょう!ワタクシ達には帰りを待っているぷりんがいます!何があっても全員無事帰還しましょう!」
全然締まらなかった。
そうして私達は笑いあって、それから全員で扉に触れる
大丈夫。
何があっても私が皆を守るから。
ーーー絶望の瞬間まで残り2分
この時の私達はまだ知らなかった。
ここはただの深層ではなく、より深い絶望の淵だという事を。
吸血鬼って良いですよね。
ロイ君は最初から吸血鬼にしようと思ってました。