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吸血のススメ~主人と下僕の社会再建物語~  作者: ごごまる
第一章 初めての下僕とその吸血
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8話 暗夜の兆し

 また朝がやってきた。

 それもそうか。

 たとえ自分がどんな経験をしたとしても、そんなことはお構いなしに地球は回るのだから。

 

「先に行くぞー」


「いってらっしゃい、兄さん」


 いつもと同じ道を同じ時間、同じ方向へ歩いていく。

 もちろんいつもと変わらない友と一緒に。


 だが、以前とは違う点が確かにあった。

 それは……。


「理苑。俺、昨日フィリードの連絡先ゲットしたわ」


「え!? 半吸血鬼の人だよね。いいなー」


 これだ。

 この特別感。


 自分が何かを成し遂げたわけではない。

 努力をしたわけでもない。

 それでも、近くに特別な存在がいれば、自分も他とは違う気分になれるのであった。


 わかっている。

 これはただの自慢だ。


 吸血鬼にさらわれたのが理苑だったら、この気分を味わえるのは理苑自身であって、『今回が』俺であったにすぎないのだ。

 それでも、やはり行動をとめられないのは俺のせいか、人間の性質か。


「しかもさ、今夜来るんだ。悪魔が、俺の部屋に」


「悪魔……。どんな外見なんだろうね。イメージ通り恐ろしい見た目かなぁ」


「それはちょっと……。あまりに化け物みたいな風貌だったら会いたくないわ」


 理苑はこういう話にいつも前向きだ。

 だから、まぁ、俺が今後も自慢っぽい話をしても大丈夫だろう。


 ちなみに、悪魔のことだが、フィリードから外見の情報は何も与えられていないため、多少は不安である。

 理苑の言う恐ろしい見た目がどのようなものかはわからないが、グロテスクなのはやめてほしい。

 案外、吸血鬼が普通だったから悪魔も普通な感じかもしれないが……。


 果たして、明日、理苑が喜ぶような土産話をできるかどうか。


 不安と期待と。

 ドキドキとワクワクと。

 頭の中はとにかく今晩のことでいっぱいだった。


「悪魔かぁ……。取引しちゃダメだよ」


「取引……?」


 取引と言われても、そんな高額な値段は払えないぞ。

 と、俺は最初、売買のような現金なやりとりを想像したが、そうではないようだ。


「一説によると、自分の魂と引き換えにひと時の夢を見ることができるんだって」


「夢……?」


「そう。悪魔なら願いはなんでも叶えられる。けれど、その契約によって得たもの以上に大切なものを奪ってしまうんだって」


 信じられん。

 迷信だろう。


「それ言ったら、悪魔とか吸血鬼だって夢物語だったじゃん。伝説上の存在にかかれば、僕らなんて弱い生き物なんだから、気をつけてね」


 理苑の言葉には力が入っていた。


 よくよく考えてみたらフィリードに慣れてしまったせいで軽く捉えていたが、人間じゃない存在に会うのは危険なことかもしれなかった。

 正直、シュリネスと二人っきりでいたらどうなっていたかわからないし、悪魔となれば、さらに邪悪な存在だろう。


 悪の魔だもんな。

 てか、魔ってなんだ……。

 魔物?

 悪の魔物?


 とりあえず、邪悪の塊と表現しても過言ではなさそうなものと対面するのだ。

 

 しかも先ほど理苑から出た話。

 もしも理苑がいなければ、他に警鐘を鳴らす人なんてゼロだろうし、危うく悪魔に命を差し出すかもしれなかった。


「いきなり不安になってきたぞ……」


 つか、そもそもなんで悪魔と会うことになってんだ?

 たしか、悪魔サイドは生き残っている吸血鬼を探すために協力してくれているんだったか?


 となると、俺がいることは悪魔側からしたらなんのメリットもないのでは。

 フィリードたちのためにやっているのだし、俺が特別な役目を担うわけでもない。

 つまり、悪魔が機嫌を損ねて俺を蹂躙(じゅうりん)することもあり得てしまう。


「フィリードさん呼べばいいんじゃない? 真弥の安全を第一に考えてくれるでしょ」


「そ、そうするか」


 さすが我が友。


 確かに、フィリードを加えた三者面談ならば命は奪われない……かな。

 最初は距離感がどうとか、威厳がどうとか言っていたフィリードも結局、俺に対して緩いしな。

 俺がなにかしでかしても守ってくれそう。


 なんなら、どうしてフィリードが最初から三者面談にしなかったのか疑問に感じるほどだ。

 何か用事でもあるのか?


 悪魔は吸血鬼捜索を、総力を挙げて協力しているらしい。

 それについての情報交換を異種間でやるなんて、外交みたいだ。

 もしかすると、吸血鬼界の繁栄を、今日で左右するかもしれないし、絶対に失礼でない一挙手一投足を心掛けねば。

 茶室のマナーさえ知らないけれど、どうにかなるかな……。


 自分が道を早足で進むように、時間はすぐさま過ぎ去っていく。

 悪魔に対する不安で悶々としたまま、夜は始まろうとしていた。

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