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吸血のススメ~主人と下僕の社会再建物語~  作者: ごごまる
第一章 初めての下僕とその吸血
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6話 信頼できる友、信頼したい下僕

 朝食後。


 思ったよりも早く我が家のインターホンが鳴り、慌てて外へ出た。

 外で呼び鈴を押した主は俺の親友、神山(かみやま)理苑(りおん)


 理苑は昔からの友――いわゆる幼馴染である。

 家が近く、高校生になってからもこうして一緒に登校している。

 しかも母を亡くした時など、神山家には家族ぐるみでお世話になっていて、もう何があっても裏切れない存在になっている。


「おはよう、理苑。今日、早くね?」


「え、ご、ごめん。お姉ちゃんから逃げてきてから早かったかも……」


「謝るなって……。そんなに重い話じゃないわ」


 理苑は優しすぎるがゆえに気弱な性格というか、よく謝ってしまう人だ。


「結月、日焼け止めちゃんと塗ってから行けよー」


 俺が言うと、家の奥から小さく返事が聞こえたので、いよいよ学校へ向かう。


「結月ちゃん、紫外線アレルギー治ってないんだ。まだ日焼け止め手放せてない?」


 やり取りを聞いていた理苑が聞いてきた。


「……まぁな。でも、こまめに日焼け止めを塗っておけばどうにかなってるよ」


 始まりはいつだったか、妹は異常に日焼けをする体質であった。

 日焼けよりも火傷をしていたような、そんな状態で、医者に聞けば紫外線アレルギーなるものがあるらしい。

 その日以来、妹がひどい症状に襲われたことはないが、人より気をつけることが増えてしまった。


 俺にはどうしようもできないしなぁ……。


「結月はそんな感じだけどさ、そっちはどうよ? 美琴(みこと)さん、元気?」


 美琴さんは理苑の姉だ。


 ここの姉弟は我が家と違う空気感がある。

 姉が一方的に求めていて、弟は少しそれに反発しているように見えるのだ。


 我が家は支えあってるもんな。

 同じくらいの熱量だ。


「お姉ちゃんは、まぁ、無駄に元気だよ。って、あたかも久しぶりに会ったかのように話してるけど、昨日もお姉ちゃんのこと言わなかったっけ?」


 昨日の朝は、たしか理苑が姉の愚痴をひたすら言っていたか。


「そういや聞いたな。でも、だいたい理苑から出る話題って美琴さんについてなんだが……。まんざらでもない?」


「い、いや違うって! 本当に困ってるんだから。僕も、妹がほしかったな」


「うむ、妹はいいぞ」


 でも美琴さんと一緒に暮らすってのも悪くないだろ。


 彼女は、その……思春期に刺さる。

 思春期スレイヤー。


 待て待て、友達の姉を汚すな。

 うん。妹がいるだろう、それでいいんだ。


 孤独に理性と煩悩を戦わせていると、いつの間にか神社まで歩いていた。


 近所にある神社。

 誰かが表立って管理しているようには見えないが、正月になれば近所の人がそれなりに初詣をしに来る場所だ。


「真弥、この神社って何を祀っているんだろうね。お正月とか行くけど、なんだかんだわからないよね」


「たしかに。巫女さんいっつも同じ人だしな。そもそもこんな田舎なのに廃れてないってだけすごいわ」

 

 俺と理苑も毎年正月に行ってはおみくじを引いたり、用もないのにたまに遊びに行ったりしている。

 高確率で若い巫女が掃除をしていたり、何かしらの活動をしているが毎回同じ人だ。


「ほんとにご利益あんのか、ここ?」


「新年のおみくじは当たってる……気がする」


「そうか? 俺はそこまで信じてないんだが」


「でもさ、本当に神様がいたら面白いよね。あの巫女さん、神様かもよ」


「……俺らが小学のときからいるもんな。で、今、まだ若いだろ」


「二十代っぽいよね」


「てことは、中学生くらいからずっとあそこで働いてるのか?」


「神社を管理してる人の娘さんとか? それか、やっぱり神様だったりしてね」


 どこか楽しそうな理苑。


 神様、か。


「……なぁ、理苑。神様がいたら嬉しいか?」


「うん、僕はね。真弥は違うの?」


「いや……」


 そうか、理苑はこういう類の話好きだったっけか。


 昨夜の話、理苑なら信じてくれるかもな……。


 俺は慎重に口を開いた。


「あのさ、理苑。……俺、昨日さ、吸血鬼に誘拐されたんだよ」


「え……」


 理苑は黙ってしまった。

 それどころか固まっている。

 歩を止め、口を開けたまま一点を見つめている。


「あぁ、いや、信じなくていい。嘘、嘘、忘れて」


「いやいや。真弥の話だから、全然、バリバリ信じるけど……」


 ようやく魂が戻ってきた理苑。

 彼は小声で答えてくれた。


「別に小声になってまで話すほどの中身はないんだが」


 しかし理苑はなおも小さな声で続ける。


「だって、誰が聞いてるかわからないよ? もしかしたら命狙われるかも……」


「まさか」


 言ってから怖くなったが、シュリネスが口外したことを理由に殺しにかかってくる可能性がありそうだった。


 いや、でも口外禁止って言われてないしな。

 それに、俺が死んだらフィリードの手下がいなくなるってことだしな。

 めちゃくちゃありそうだけどきっとない話だ。


「ええと、どこから話すか……」


 俺は理苑に昨夜のことを話した。


 シュリネスが来たこと。

 秀一さんが説明したこと。

 フィリードが主人になったこと。


 そして、一通り話した後に。

「次の満月は五日後か……」


 朝、食べてから満月の日を調べるつもりであったが、理苑がすぐに来たため、今の今まですっかり忘れていた。

 昨夜のことを話したおかげで、改めて調べねばと思い出し、すぐさまスマホを取り出したのだった。


 結果は五日後の夜。

 天気は晴れ。


「日曜日の夜、ついに噛まれちまうのか……」


「それって、大丈夫なの?」


 理苑が恐る恐る聞いた。


 大丈夫か大丈夫じゃないかを決めるとしたら、きっと大丈夫じゃない。

 蚊程度ならまだしも、牙で噛みちぎってから血をすするのだから、絶対痛い。


「正直、めっちゃ怖い……」


 昨夜の甘噛みだけでもぞわりとした、気分の悪い感覚に襲われたから本番はもっとヤバい。


 なんで首を噛むかなぁ。

 殺しにかかってるだろ。


「真弥、大丈夫?」


 理苑が不安げに俺を見る。


「まぁ、どうにかなるよ」


 今後どうなるか、俺にはわからなかったので、それしか言えなかった。

 これはむしろ願望だ。

 どうにかなってほしい。収まってほしい。


 フィリードの言っていた『信頼』。

 自分の不安を消すには主人を信じるしかないと思い知らされる朝になってしまった。

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