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吸血のススメ~主人と下僕の社会再建物語~  作者: ごごまる
第一章 初めての下僕とその吸血
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5話 寝すぎた朝

 ぼんやりと声が聞こえる。

 ずっと前から聞こえていたような、今初めて聞こえたような。


 どことない感覚。触覚だけが鮮明で、あとは靄がかかったように機能しない。

 と、そんな時間はすぐに聴覚から壊された。


「兄さん、起きて!」


 ぼんやりだった声がはっきりと聞こえた。

 妹の声だ。


「兄さん。おーきーてー!」


 体が揺れている。


 目を刺す光のせいでなかなか覚醒できない。


「んん……。結月(ゆづき)


 妹、結月はともに暮らす家族だ。


 両親のいない家ではとても助かる人手であり、どんな時も支えあえる仲。だったが。いや、何も仲の良さは変わらないと思う。

 こうして起こしてくれるわけだし。


 でも最近、態度が変わってきた。


 ずっと『お兄ちゃん』呼びで俺の作る夕食を楽しみにしてくれていたのに、中学に進学してからは

「兄さんおかえり。夕食は何か食べたいものある?」

 って。


 そりゃあね、助かりますよ。


 料理を覚えてくれると将来も安心だし、俺の時間も増えるし。

 でもさ、自分が作ったものをおいしいって笑ってくれたお前はどこに行っちまったんだよ。


「兄さん?」


「ん? あぁ、考え事してた」


 最近の悩みはさておき、俺は寝具から起き上がった。


「さて、朝飯作るか」


「もうあるけど?」


「もっと世話焼かせてくれよー!」


 朝の眠気なんて一片も残ってなんていなかった。


「おま、毎日毎日うまい飯作ってさぁ、何? 不満とかねぇの?」


「い、いきなりどうしたの? 兄さんに不満はないけど……」


 よくできた妹だなぁ!

 兄ちゃん誇らしいわ!


 クソっ、妹が楽しそうに家事やってんなら邪魔はできねぇ!

 俺は妹のために己の幸せを削らなければいけないんだ!


「兄さん……今日、大丈夫?」


「おう、おう。ピンピンしてるぞ」


 なんだこれ、一方的に俺だけ苦悩してるぞ。


 こんなことを考えるのはもしかして俺だけか?

 妹ウザいわー、とか、姉が欲しいわー、とか考えるべきなのか?


 否!


 だっていいやつだもん!

 『結月』って呼ぶだけで確実に反応してくれるし、飯はうまいし、最高の家族なんだよ。


 ん?


 なんか似たような状況を見たような……。


 一方的に迫る妻、困惑する夫、そしてその娘。


 そうだ、昨日の夜……。


 俺は昨夜の事件を思い出した。


 フィリード。


 半分人間で半分吸血鬼。

 そして、昨夜から俺の主人になった人物。

 と言っても、吸血されたわけでもなく、ただの口約束みたいなものだが。


「結月、先行ってな。着替えてから俺も行くから」


「テンション変わりすぎじゃない? ちょっと怖いよ」


 そう言い残して妹は部屋を出ていった。


 俺は昨日のことを考えながら制服に着替える。

 

 吸血鬼がいること、それとコミュニケーションをしたこと。

 もうこれだけでびっくりだが、まだ疑問はある。


 どうして吸血鬼は滅んだのか。

 どのようにして秀一さんはシュリネスと出会ったのか。


 そして一番気になるのが、なぜ俺が選ばれたのか。


 何をするべきかはわかった。しかし、わざわざ俺を選ばなくてもよかったはずだ。


 シュリネスは誘拐前、名前を確認してきたし、秀一さんは俺の姓を知っていた。

 つまり、何かしらの理由があって俺が選ばれたはず。


 あの両親はともかく、フィリードならどんなことでも答えてくれそうだ。

 いつか二人になった時に聞いてみるか。


「兄さーん?」


 下から妹の声がした。


「すぐ行く!」


 ちょうど着替えも済み、俺は妹と朝食の待つ下の階へ向かう。


 妹には吸血鬼のことは黙っておこう。


 言ってしまえば、信じる信じない以前に心配をかけてしまいそうだ。


 口は災いの元。


 大事な家族を巻き込むべきではないだろう。


「……兄さん、冷めるよ?」


「あぁ、すまん。食べる食べる」


 席に着き、食にありつく。


 そういえば、満月でないと吸血できない主人はどのような食生活を送っているのだろうか。


 俺は腹を鳴らしているかもしれない主人のために、次の満月を調べる決意を固めた。

 同時に、彼女がスマートフォンを持っていたことを思い出し、連絡先を交換するべきであったと落胆したのだった。

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