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吸血のススメ~主人と下僕の社会再建物語~  作者: ごごまる
第三章 酔いどれ神様のやらかしTS
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42話 女が男で、男が女で

 ルンは正直、女性として見れない。


 その大きな原因は彼女の身長。

 恋愛対象として見るには小さすぎるのだ。

 しかもムダな誘惑がうざったく思えて、少し生意気な妹感がある。


 そこでいきなり彼氏になれだの言われても、もはや返す言葉はひとつしかなかった。


「ごめん。ルンとは付き合えないや……」


 告白を受けるのは人生初だが、まさかそれを棒に振って終えることになるとは。


 きっとこれよりも相手に配慮した断り方があったろう。

 でも俺には経験がないから、思い浮かばないんだ。

 本当にごめんな……。


 ルンはそのまま去るのか、泣くのかどうするのだろう。

 その答えは――。


「もう、違うって! ルンちゃんだっておにーさんとお付き合いしたくないよ!」


 怒った。

 ……ん?


「でもお前、彼氏になれって――」


「そう! 彼氏さんのふりをしてって言ってるの!」


 ぐいぐいと俺の腕を引き、ついには建物の外へ。

 いつ、どこで、なぜ彼氏のふりをするのかもわからずにルンのエスコートが進む。


「おにーさんだーい好き! ね、早く抱いて?」


「……お前最低だな」


 日中の野外でそんな言葉を選択するカップルいねぇよ。


 俺が呆れているとルンは顔を赤くしてさらなる激怒を見せた。


「じゃあおにーさんがお手本見せてよ! 早く!」


「え!? あ、えっと……。好き……」


「もっと! ロマンチックな他の言い方!」


「つ、月がきれいですね」


「月なんて出てないよ!」


 そもそも彼氏のふりをさせるなんて、どんな理由から出た発想なのか。

 こういうのはだいたい、面倒な男にナンパされた時にするものじゃないか。


 すると、その考えは正しかったようで俺たちの前に人が舞い降りた。

 空から、別の少女。


 状況整理が追いつかないまま、その少女は第一声を放った。


「ルン、結婚しよう!」


 どストレートに愛を伝える少女。

 ルンにはまったく響いていないようだが。


「ディーアちゃんしつこい! ルンちゃんにはおにーさんがいるからダメなの」


「ルンは女の子にしか興味なかったじゃん! ボクの方がいいでしょ」


「心変わり。おにーさんは特別だから」


 そう言ってルンは俺の頬にキスをした。


 首はフィリードにされたことがあるものの、頬は初めて。

 不覚にもドキリとしてしまう。

 さっきまでロマンの欠片もない発言をしていたのに。


 演じ始めたら役に入り込むタイプか。


「ね。ルンちゃんはおにーさんと一緒に生きるの。ディーアちゃんは帰ってよ」


「やだ! ルンじゃないとボクは結婚できない!」


 そもそもどうしてルンはこの少女を遠ざけているのか。

 彼女がボーイッシュだからか?

 シエルガチ恋勢なのか?


 その()()ことディーアはルンでなく俺に話しかけてきた。


「君はどうなの。ルンを諦めようって気持ちはないの?」


「……そんなにルンが好きか」


 コイツはなかなかやべーやつだぞ。


「君よりも愛してる自信、あるよ」


 ()()は断言した。


「気が変わるかもしれないぞ」


「ううん。男に二言はないからね」


 ()()の決意は――。


「え、男?」


「うん。ボク、男だよ」


 男だった親友が女になったり、外見が完全に女な悪魔は男だったり。

 今日は性別に困惑されっぱなしだ。


「ま、でも安心したよ。ルンに彼氏がいるってことはボクにも希望があるってことだもんね。てっきり女性にしか興味がないのかと――」


「おにーさんはただの契約者だよ! ルンちゃん、女の子が大好き!」


 ルンはとうとう本心をさらけ出した。


 たとえ外見が女性であろうと、ルンはそこを譲らない。

 女という性別に恋をしているのだ。


「ボクはこんなに好きなのに……。やっぱりおっぱい?」


「ぶー! ルンちゃんはそんな単細胞じゃありません! おっぱいが大好きなのは、このおにーさんだよ」


 おい。巻き込むんじゃねぇよ。

 しかもまた不名誉なイメージを。


「ルンちゃんが追い求めるのは『かわいらしさ』だよね。顔も性格も、全部」


 しかしその理論だとディーアは合格ではないか。

 もしかすると俺の考えるかわいらしさとルンの中にあるかわいらしさは違うのかもしれない。


「真弥、大丈夫?」


 透き通る声が建物の方向から聞こえた。

 見ると、理苑(♀)が心配して顔を出している。


 悪魔から突然彼氏になれと言われて外に出れば、誰だって不思議に思うはず。


「うん、大丈夫――」


「ディーアちゃん、ああいうの! あんな感じのかわいらしさを求めてるの!」


 ルンの鼻息が荒くなった。


「ねぇ、おにーさん。あれ誰? ルンちゃんが食べていい? ねぇねぇ」


「やっぱりお前最低だよ……。そんなことしか頭にねぇの?」


「ルンちゃんなりの愛情表現だもーん。ねぇキミー、お名前はー?」


 さっき建物に入ったときには必死すぎて理苑が見えていなかったのだろうか。


 ルンは理苑に急接近。

 物理的にも、心の距離さえもお近づきになりたいようだった。


「今日からさ、ルンちゃんの恋人になってくれないかなー?」


「ぼ、僕が!?」


 全員の想いが一方通行。

 辺が一本足りない三角関係の完成である。

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