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吸血のススメ~主人と下僕の社会再建物語~  作者: ごごまる
第三章 酔いどれ神様のやらかしTS
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39話 柔肌を求めて

 少し前まで俺たちは普通の高校生だったはずだ。

 特別な長所や短所はなく、けれども楽しいと思える毎日をゆっくりと歩いてきた。

 そんな時、お互いに異常な体験をしてそれぞれ吸血鬼の『下僕』と神の『主』になる。これは確かに異常であるけれど、劇的に自分の立場は変わらなかった。


 しかしそんな事実を揺るがす大事件が。

 俺は変わっていない。まだ普通の高校生として日常を歩める状態だ。しかし変わってしまったのは――。


「あ、真弥……」


 小さく細々とした声が自分を呼んでいる。

 最初から理苑は声が高いほうだったが、高い声から可愛らしい声に変化していた。


 酒の匂いが充満する建物の中、そこにいた少女が俺の親友らしい。

 自分の認識が根本的に崩れてしまう。


「理苑って女だったっけ……」


「男だよ! 起きたらこんな姿だったの!」


 起きたら……?


「昨日、ここで寝たのか?」


 コクリと頷く男だったはずの女。

 俺は説明を求めて彩葉さんを見たが、肩をすくめられてしまった。


「あたしにもさっぱりだって。神社に戻る前にあんたの家へ行ったからさ」


 昨晩に何かがあってこんな事態を招いたのか。

 一体何が……。


「そういや、どうしてここで寝たんだ」


「お狐様が『今宵は主が肴じゃ』とか言って、帰らせてくれなかったの! 酔った勢いで布団に引きずり込まれちゃって気がついたらそのまま……」


 寝ていた、と。


 その酔っぱらい神様は奥にある布団でまだ寝ていた。とてもだらしない寝相で。

 理苑の言葉を聞いて、彩葉さんがあることに気がつく。


「『酔った勢いで』ってあの子が酔ったの? 酒に強いくせに、どんだけ飲んだんだか……」


 複数本、酒瓶が床に転がっていたが、これらすべてを一人で消費したのだろうか。

 とりあえず話を聞くため彩葉さんは幼女を起こすことに。


 俺は理苑から事情聴取。


「昨日、風呂入ったの……?」


「そ、それ聞く? お狐様と入ったけどさ……」


 あの理苑が女性と入浴を!?

 先を越された気がするが、相手は幼女。これはノーカンで処理しよう。


「お風呂場から晩酌し始めてさ、そこからずっとお酒お酒で」


「家は? 連絡したのか?」


「うん。真弥のところに泊まってることにしておいた。迷惑かけちゃうかな……」


 困り顔でじっと見つめてくる少女。

 目が合った瞬間に全身が固まってしまう。


「その目やめろよ……。今の理苑は破壊力ありすぎ」


「へ? どういうこと」


「なんでもない……」


 あざとい! いや、無知ゆえだと思うけどさ……。

 クソ、ふわふわした髪の毛しやがって。

 目の前の美少女は男だ、惑わされるな!


「おーい、神様ー。起きてくださいな」


 視線を逃がせた先では巫女が神の頬をぺしぺしと叩いていた。

 幼女は徐々に覚醒し、伸びをしてから声を発する。


「……なんじゃ」


「起きてください。昨日何をしでかしたんですか」


「昨日……。何があったかのう」


 目を閉じたままうやむやに答える幼女。


「飲み過ぎで忘れたんですか? 理苑に何かしましたね」


 単刀直入に乗りだす巫女。


「主ぃ……? おい、どこじゃ、あの抱き枕は」


 何か思い出したようで布団を握りしめていた手をバタバタと伸ばし、手探りで『抱き枕』を求めている。


「抱き枕なんてうちにはありませんよ。まだ酔ってます?」


「じゃから、その主! 妾はあやつを抱いて寝たのじゃ!」


「一緒に寝ていたことはさっき聞きました。……問題はどうして女の子になったかです」


 ついに核心をついた投げかけをした巫女。

 幼女はいよいよ細く目を開け、周りを見渡す。一番近い彩葉さん、俺、そして女になった理苑と。

 幼女は理苑を見た途端にガバッと飛び起きた。


「誰じゃ貴様! こ、これが主か!?」


「とぼけないでくださいよ! 神様がやったんでしょ!」


 巫女の追及に戸惑う幼女。たまにその足元がふらついているから完全には酒気が抜けていないようだ。

 理苑も巫女に加勢。


「お狐様と寝て、起きたらこうなってたの! 元に戻してよ!」


「……わ、妾か。妾がやったのか」


 ブツブツと言葉を並べる幼女だったがその中には「夢じゃなかったのか」と怪しい一言が混ざっていた。


「待てくりゃれ、今から整理するからの……」


 幼女は布団の上であぐらをかき、腕を組む。

 数秒すると苦々しく口を開く。


「呑んでいると眠くなっての、主を布団に招いた。ここは覚えておる」


 うんうんと頷く理苑。ここまでは合っているようだ。


「それで、軽く寝た後にまた目覚めてしまっての。いや、妾は夢だと思ったのじゃ。酒の力で心地よい幻覚を見ているとな。それで、抱き枕が硬いと思ったから女子(おなご)にして柔肌を味わいたく……」


「お狐様! 僕、トイレにも行けてないの! 早く戻してよ!」


 泣きわめくように叫ぶ理苑。

 突然性別が真逆になったのだ。困る気持ちも理解できる。



「そ、それが……。今月の妖力を使い切ってしまって……」


 場が凍りついた。

 今月はあと二週間ほどあるが理苑はずっと女のままなのだ。

 酔いつぶれてやらかした神様は申し訳なさそうに顔を伏せている。


「ぼ、僕は、どうすれば……」


「すまぬ。少しの間だけ我慢してくりゃれ……」


 絶望したように顔を歪ませた理苑だが、早くも大きな壁が立ちはだかる。


「とりあえずトイレ……」


 理苑は体そのものが変わってしまった。

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