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吸血のススメ~主人と下僕の社会再建物語~  作者: ごごまる
第二章 悪魔と天使の契約戦争
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35話 本物の悪魔

 焦げた地面の熱気は降り注ぐ雨で緩和されていった。

 それなりに激しい雨のせいで衣服がいつもより重い。


 今、何がどうなっているかというと――。


 まず、悪魔と天使の戦いが行われ、悪魔が勝利した。圧倒的な力の差に天使が降参したからだ。

 しかし悪魔は天使にとどめを刺さず。これは吸血鬼の『依頼』であった。


「『吸血鬼の社会再建を手伝う神がいたから天界と友好な関係を築いてほしい』と言われましてねぇ……。吸血鬼との外交の次は天使と、なんて」


 そんな事情があって、ひとまずシエルが大天使を説得中。


 吸血鬼夫婦は悪魔の拠点である冥界(めいかい)へ行ったそうだ。


「今や吸血鬼捜索は我々の最重要事項。私より彼らから天界の(たみ)と協力する趣旨を伝えたほうが、承諾されやすいと思いましてねぇ……」


 あの黒い円は冥界へも行けるのか。

 そもそもどこにあるのだろう。冥界とか天界って。


「あの二人が戻るまで自己紹介でもしましょうか、ねぇ……?」


 悪魔は執事服のような服装を整えてから続けた。


「私はデリン。(さき)に述べた通り、悪魔と吸血鬼の外交を監督しています。最高責任者ということですねぇ……」


「それで、ルンちゃんのパパ! ハンサムだよねー」


 いや、ハンサムってよりも怖い。

 ずっと口元はにやついて、目元は細くて。しかし、そんな微笑の裏にある闇が隠しきれていない気がする。

 なるべく目を会わせないようにしよう。


 そんな畏怖の塊に対して堂々と話せるのは、同じような大物だった。

 吸血鬼の社会再建を手伝う神である。


「おうおう、淫魔の父よ。妾こそが(くだん)の神じゃ。鬼へ協力してやることを感謝するがいいぞ」


「これはこれは。あなたがきっかけで、天界と冥界に素晴らしい関係が結ばれるかもしれませんねぇ……。ありがとうございます」


 放たれる禍々しいオーラとは違って、彼の器は大きかった。

 これが強者の余裕だろうか。


 この雰囲気なら、きっと円滑に話が進むはず――。


「パパ、その変態さんはルンちゃんのペットなんだよ。すごいでしょー!」


 なのにどうしてコイツはその空気をぶち壊すかなぁ!

 ルンは父親に自慢したいようで大はしゃぎ。対してデリンは困り顔だった。


「ペットですか。すいませんねぇ……、こんな娘に付き合わせてしまって」


「よ、よい! 最近、こやつに罵られるだけでおかしくなるのも事実じゃからの……」


「娘の『囁き』は強力ですからねぇ……。人体改造や性格改変まで可能にするほど、お気をつけて」


「この変態さんは根っからM気質っぽかったけど?」


 シン、と鎮まる一同。

 ルンだけが「軽く首絞めた途端にビクビク震えちゃっててさー」なんて誰も得をしなさそうな情報を垂れ流していく。

 ベラベラと余計なことばかりを言う娘に、デリンはデコピンをお見舞いした。


「いてっ! ……むぅ、パパのイジワル」


「我々は支援していただく側ですよ。あまり失礼のないように」


「はーい。お楽しみは二人っきりの時にしまーす」


 ルンはしぶしぶ引き下がった。


 けれども二人っきりならセーフなのか?

 コイツ、絶対に反省してないよな。それともサキュバスなら仕方のないことなのだろうか。


「さて、そろそろ二人を呼び戻しましょうかねぇ……」


 デリンが吸血鬼夫婦を冥界から帰還させるべく、円を展開した。


「なぁルン、あれってめちゃくちゃ費用がかかるって言ってなかったっけ」


 初めてルンと会ったあたりで言われたような気がする。契約者のもとへワープするのはタダであるが、実は金がかかるとか何とか。


「パパは自力で作ってるから無料でーす。あんなのサキュバスにはできないけどね」


「デリンさん、化け物だよな……」


「ママには弱いけどねー」


 家庭には様々な力関係があるものだと思いつつ、底なしに仲のいい夫婦の帰りを待った。

 すぐに円から人影が現れる。


「あそこ寒かったり暑かったりで最悪じゃないの! ってここも雨!? あぁ、イライラするー!」


「デリン、言っておいたよ。天使との協力、いいってさ」


 吸血鬼と人間。

 どんな馴れ初めかもわからないが、仲のいい異種族夫婦。


 夫は悪魔と話を進め、妻は天候の変化を(なげ)いていた。


「ありがとうございます。ご足労おかけしましたねぇ……」


 デリンはシエルとその母が話している様子を見る。


「あとはあちらがまとまればいいのですが。どうでしょうかねぇ……」


 視線を動かし、今度は俺に――。俺!?

 どうして。話をしてこいと伝えたいのだろうか。


「あちらがどこまで納得しているのか知りたいのですが、私が行っても逆効果でしょうし――」


「おい、悪魔よ。貴様の娘が単身で行きおったぞ」


 また、あのバカ!

 しかもそちらを見るとルンは話を聞くどころか、シエルにセクハラをしているではないか。

 ルンのターゲットはまたもや胸であった。


「ほぉら、シエルちゃん。何を話してたか吐いちゃえってば!」


「や、やめなさい! ルン、母も見てますから!」


「服の中に手入れちゃお! あれ、ちょっと大きくなった?」


「知りませんよ! ……あっ、そんなとこ触らないで!」


 最悪だ。

 こんなやつと仲良くしたいなんて思うやついないよ、絶対。


 大天使は負けたからか、ルンにさえ少し怯えていた。


「娘に手を出さないで! わ、私が代わりになりますから……」


「え、変態神様だけじゃなくてシエルちゃんのママも目覚めちゃった?」


「目覚めるって何によ! もう、悪魔のくせにぃ……!」


「あっはー、悔しそうだね!」


 大天使は涙目で屈辱を噛み締めている。

 見ていてかわいそうになるくらいだが、ルンと話していることだし、対話はできる状態だとわかった。


「俺、話してきますね」


「すいませんねぇ……、本当に」


 天使とサキュバスのけたたましい声に向かって歩く。


 最初は何を話すべきなのか。

 デリンを手本に自己紹介から始めようと決めた。

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