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吸血のススメ~主人と下僕の社会再建物語~  作者: ごごまる
第二章 悪魔と天使の契約戦争
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32話 聖戦開始

 何回体験してもシュリネスの飛行は慣れない。

 車酔いなんてかわいく思えるほどだ。


 どうしてまたもや彼女の運転を味わっているのか。それはもちろん戦場へ移動するため。

 俺が先に行けば、他はルンのワープで同行できる。

 全員が揃うのに一番早い方法はこれだろう。


 シュリネスが高度を落とす。どうやら目的地に到着したらしい。


 その場所は周りを木々に囲まれた広い平野だった。

 緑に覆われている山の中でなぜかここだけ、一本たりとも木が存在していない。

 まるで爆心地のようだ。


 地面を踏んだが、やはり飛行の後に立つと違和感がある。まだ浮遊感があって足元がふらついてしまう。


「あんた本っ当にだらしないわね。ほら、しっかり立ちなさいよ」


 そんな俺を見かねて、シュリネスが両肩を持ってくれる。


 え……?

 あの吸血鬼が自主的に……?


「……あ、ありがとうございます」


 とりあえず感謝は述べたが、普段が高圧的なせいで突然の優しさに警戒してしまう。


 肩を持たれてからしばらくして、ルンの円が目の前に出現した。

 これで全員。ついに始まるのか。


 彩葉さんが手を挙げて言う。


「はい注目! これから、戦争妨害会を始めます。それぞれ適当に頑張って、さっさと終戦させましょう!」


 挙げた手、もう片方の手を胸の前まで動かし――。


「それじゃ、始め!」


 と両手を合わせた。

 パン、と音が聞こえた瞬間に吸血鬼夫婦と狐の幼女の姿が見えなくなる。

 夫婦は妻が夫をぶら下げて飛び、幼女は煙を出して消えたのだ。


 人外たちの早すぎる行動に困惑してしまう。

 そもそもどこで戦いをしているのか。ここはとても静かなのだが。


「彩葉さん……。全然ついていけてないんですけど、何がどうなってるんですか……」


 巫女は神妙に答える。


「静かに。もうすぐ来るよ」


 来る、とは何がか。

 身構えてから5秒ほどして、その正体が判明した。


 少し遠くだがはっきりとわかる。

 左側から夜空の紺を裂き、天から光とともに舞い降りた一人の女性。右側から夜の色より暗く、まさしく闇のような円から現れた長髪の男性。


 天使と悪魔、双方の大将が睨み合う。

 が、その他に人影はない。


 まさかタイマン……? 事前情報と異なる状況だぞ。


 二人は視線を合わせたまま動かない。

 緊迫した空気が伝わって――。


「ごめんなさい! あれ、私の母です!」


「あっちはルンちゃんのパパだよー。かっこいーでしょ」


 いなかった。


 今回の戦い、天使の指揮官はシエルの母親で悪魔の指揮官はルンの父親だそうだ。

 世界が狭すぎやしないか。


「まー、ルンちゃんがシエルちゃんのおっぱい触ったのが戦争の始まりだもんね。納得」


「ですね。うちの母が過度に怒ったせいで、ルンのお母さんも激怒してしまって……」


「なぜかいるのはパパだけどねー。でもさシエルちゃんのママ死んじゃうよ、このままだと」


 衝撃の一言にシエルは目を見開いた。


「死ぬ!? ルンのお父さんってそんなに強かったのね……!」


「本当の悪魔だもーん。ママがサキュバスだから、ルンちゃんはママ似なんだー」


 いらないルンの家族構成はよそに、早く母に警告をしたそうなシエル。

 今にも飛んでいきそうだが、それを彩葉さんが止めた。


「シエル、神様のお告げ。ここから前に出ないほうがいいってさ」


「で、ですが……」


 そんなやりとりのうちに戦況が動いた。

 天使――シエルの母親が、悪魔に向けて叫ぶ。


「悪(あ)しき下等な種族よ! 天の裁きを受けなさい!」


 その声とともに右手をかざした。

 直後に雷鳴が轟き、閃光と爆音が直下する。


 雷に当たっていないはずが刺すような頭痛が襲ってきた。

 しかし、痛みを感じていたのは頭でなく耳。


 光の影響は一瞬だったものの、音がそうでなかったのだ。

 高い音のような耳鳴りに襲われて聴覚が機能しない。


 こんなものを人間が受ければ、すぐに炭へと姿を変えてしまいそうだ。

 しかしながら悪魔はそんなヤワじゃない。

 地面さえ熱気を帯びてしまったというのに、顔色ひとつ変えずに直立不動。

 あれを体一つで耐えたのだろうか。


 トントンと肩を叩かれて横を見ると、とんでもなく不安そうな理苑がいた。

 人目がなければ泣きそうだ。


「大丈夫かな……。僕たち生きて帰れるかなぁ……」


 激しく同意。

 だからといってここで弱音を言うと、本当に彼は泣き出してしまうだろう。

 俺が何か言おうとしていた時に彩葉さんが微笑む。


「あたしが傍(そば)にいるから。安心して怯えてな」


 同じ人間のはずなのに、どうしてそんなに肝が据わっているのか。

 姉御肌、すごい。


 高校生二人は雷にビビっているが人外はどうか。

 ルンはヘラヘラと笑っているが、シエルは自分たちと変わらず。フィリードは両親の心配をしていた。


「お母様はいいとして、お父様は大丈夫かしら……。一体どこにいるのか――」


「フィリーちゃん、あそこあそこ!」


 ルンが指さす方向は、彼女の父親。そして、彼と談笑する吸血鬼夫婦の姿だった。


 なんで仲良くなってんの。

 もしかして、お知り合い……?


 だが、今は戦闘中。その状況下で敵が無駄口を叩いていたらどう思うだろうか。

 チャンスと見たか、はたまた舐められていると怒ったか、大天使は再び稲妻を落とそうとしていた。


 危ない。

 そう感じた後、ギリギリのところで天使の手が止まった。

 止めたのだ。狐耳と二股の尾を揺らした幼女が。


「すまぬ、恩を仇で返すことになった。しかしな、今はこれが妾の正義なんじゃ。理解してくれよ」


「あなた、どうしてここに! 下劣な悪魔に恥辱された上に、なぜこんなことを……! さっさと術を解きなさい! 早く!」


 天使の叫び声が聞こえる。ヒステリックな金切り声。


「おい、淫魔よ。出番じゃぞ」


 神は天使を見たまま言った。

 ルンは「待ってました!」と、はしゃぎながら急行する。


「あれー、シエルちゃんのママが動けなくなってるー」


 相手を心底見下すように発言する時、ルンは一番輝いた笑顔を見せるのだ。それは大天使からしたらとんでもない屈辱であった。


「あ! 卑(いや)しい小悪魔! うちの娘になんてハレンチなことを――」


「そんなに暴れないでよ。近くに貧乳コンプレックスがいるんだから」


「この下等種族め、女体を見ては下品に胸の話ばかり! なんて汚(けが)らわしい」


「そうやって否定ばっかりじゃ、わかりっこないよね。えへへ、ルンちゃんがじっくり教えて――ア、ゲ、ル」


 まずは大天使から。

 サキュバスのみが行える無力化が今、始まった。

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