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吸血のススメ~主人と下僕の社会再建物語~  作者: ごごまる
第二章 悪魔と天使の契約戦争
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29話 対戦争連合軍

「ごめん。戦争になった」


 彩葉さんが真顔で告げた。


 幼女と会った翌日。

 理苑に呼び出されて神社にやってきたら、これだ。


 俺の隣で理苑も驚いている。

 彼は昨日の首絞め事件を知っているのだろうか。知らずに聞いているとしたら、どうしてそうなったのか見当もつかないだろう。

 

「せ、戦争って……。これからどうなるんですか」


 俺は思わず危機感を帯びた声色を発してしまったが、彩葉さんの話は終わっていなかったようで。


「落ち着きな。大丈夫、これはチャンスかもしれないんだから」


 と。


 彼女の話によると、ルンがロリ神様で遊んだことはしっかりと見られていたという。

 神が下等な淫魔に負けたという落胆、高貴な存在をあろうことかピンクな方向で辱めたことの怒り。その他いろいろな感情から、天使側が即座に悪魔へ警告をした。

「これ以上好き勝手に暴れるなら武力行使に移る」と。


 さて、それを受け取った悪魔はどうしたか。

『煽った』そうな。

 一触即発だった空気は爆発。契約云々(うんぬん)はもうお構いなし。

 とにかく相手の種族を根絶やしにするための醜い争いが幕を開けた。


「――けど、あたしがそんなことを黙って見過ごすわけないでしょ」


 彩葉さんが自信ありげに言った。


「その戦争、あたしたちで阻止するんだよ。このままじゃあ、神様の面子(めんつ)も立たないし」


 とんでもない大事に、理苑は怯えている様子。


「そ、阻止できるんですか? 僕たちだけで……。それに、失敗したら……」


 理苑の言葉には同意だ。

 自分たちが命を落とすリスクがあったとしたら最悪としか思えない。

 ついこの前まで、ただの高校生だったのに。


 彩葉さんが承知していると伝えたいように頷いた。


「確かに。子供みたいな神様と巫女と、現役高校生2人だけだと心細いかな。けど、他にもいるじゃん。()()()()()()()()が」


 それらは完全に人間というわけでもないから、「人たち」と言うのは少しだけ間違いがあるのかもしれない。ただ、接してみればほとんど人間と変わらないことはその通りだが。


「ちょっとさ、全員呼び出してくれない?」


 彼女の一言で、会うはずのなかった者同士が集まることとなった。


 一人目――悪魔。

 名前を呼ぶだけで一瞬にして来てくれるから助かることこの上ない。


「超絶プリティ悪魔、ルンちゃんでーす。おにーさん、ご要件は何かな」


「おつかい頼めるかな。フィリード一家全員をここに連れてくるって内容で」


「めんどくさい。なんでルンちゃんが……」


 意外だった。これまで仕事熱心だった悪魔が、依頼を断るとは。


「だって、ルンのワープ機能があれば早いじゃん。な、頼むよ」


「ヤダヤダヤダ! フィリーちゃんのお(うち)まで飛ぶのが面倒なの!」


 やけに今日はぐずる。

 その原因はなんなのだろうか。


 ルンは暴れながら賽銭箱をちらちらと見ていた。


「もしかしてルン、報酬金が欲しいとか?」


 聞くと、ルンは大声を張り上げた。


「そうそう! ……でも、お金は別にいらないかなー! けど、何かご褒美欲しいなー!」


 彼女が何を訴えたいのか理解できなかった。しかし、すぐに知ることとなる。

 彼女が見ていたのは賽銭箱の奥にある建物だったようで、その中からこちらを伺っていた狐耳がひょっこりと出てきたのだ。

 その狐耳幼女は顔を紅潮させて――。


「そ、その褒美、あの、その……」


 目線を泳がせてごにょごにょと何かを言っているが、うまく聞こえない。

 だが、これもルンの策略通りなのだろう。間髪を入れずに畳み掛けた。


「あれー、変態さんじゃん。よく聞こえないけど、どうしたの?」


「あ、う……。い、いや、その……。妾が褒美を与えてやってもよい、と……」


「ほんとに? やったー、何をくれるのかな」


 ルンは屈み、幼女の視線を捕まえた。

 そのまま幼女の耳元に唇を当てる。


「恥ずかしがりな変態さんはぁ、ルンちゃんにぃ、どうしてほしいのかな」


「わ、妾を、好きにしてほし――」


「ルンちゃん、出発しまぁぁあす! おにーさん、すぐに戻るから首輪とか手錠買っておいて!」


 悪魔の翼が大気を押し、砂利を飛ばすほどの勢いで去っていった。


 純粋無垢な理苑が幼女へ駆け寄る。


「お狐様、大丈夫? 熱っぽくない?」


「リオンか……。妾はの、もう戻れないんじゃ。すまないの、(けが)れてしまって」


「ど、どういうこと? あ、ちょっとお狐様!」


 幼女は赤い顔をしたままふらふらと建物へ戻っていった。


 これ、無自覚だった変態趣味をルンが無理やりこじ開けたのでは?

 このままだと本当にルンの言いなりで動くペットになりそうだ……。


 悪魔が去って少ししてから、入れ替わりでもう一人の飛翔体が舞い降りた。


 二人目――天使。


「シンヤさん、お久しぶりですね」


「久しぶり。それと、ごめん。最後に会った日、フィリードが追い出しちゃったんだよね」


 シエルはいつもと変わらぬ柔らかな笑みを浮かべて応えた。


「謝らないでください。こちらこそこのような結果を招いてしまって、なんとお詫びしたらいいか」


「あぁ、いや、そんな……。お互い様、チャラってことで」


「はい! そう言っていただけて嬉しいです」


 シエルとの話は円滑に進むから好きだ。

 テンポが良い。


 それはそうと、理苑はシエルと会ったことがあるのだろうか。

 俺がそれを聞こうとした時、ちょうどシエルが理苑を目に入れた。


「リオンくんも元気そうですね」


「あ、シエルさん。聞いてよ、お狐様がちょっと変でさ……」


 知り合いだった。

 理苑がお姉さん系の女性と出会うと、だいたいの人がスキンシップをするが、さすがに天使は(わきま)えているようだ。


 そんな清楚の塊に、あんな幼女見せたらどうなるかな……。


 そっちが気になったが、そんなことを確認する間もなく団体様が到着。

 目の前に出現した黒いオーラを放つ円。そして中から悪魔と吸血鬼一家。


 三人目とそのご両親――吸血鬼。


 連れてきたルンにお礼を言おうとしたが、彼女は到着するなりすぐさま幼女のことを気にかけていた。


「おにーさん、手錠は! 目隠しは! 首輪は! 猿轡(さるぐつわ)は!」


 注文より数が倍多いのだが。

 それだけではない。悪魔が一方的に聞いてきた矢先、純血の吸血鬼も一方的に喋りかけてくる。


「なんなのよ、戦争とか。あんたが弱っちいから舐められてるんじゃないの」


 日傘を差してグチグチと小言を放つシュリネス。

 だが、悪魔も悪魔で暴走していて。


「どこ! ルンちゃんのペットは! ルンちゃんの声を聞いただけで発情するように開発してあげるんだから!」


 と。


 しかし、これで自分のするべきことは終わったのだ。

 俺は目線で彩葉さんに促すと、彼女はそれを感じ取ってくれた。


「少年、ありがと。全員揃ったし説明を――」


「ルンちゃんのペット! この中でしょ、ってシエルちゃん!」


「ルン、あなたですか! 神聖な存在をこんな淫らにしたのは!」


「妾は望んでおらんからな……。こ、これは仕方なくじゃ。そう……」


「お狐様、さっきから何言ってるの。本当に大丈夫?」


 巫女の声が完全に掻き消えるほどの騒ぎ具合。


 いきなり騒がしくなったので、無意識にそちらへ視線が動く。

 すると、目の前が暗闇へと(いざな)われてしまった。


「あ! 下僕、そっち見たらダメよ! また色目使う泥棒天使がいるじゃないの」


 フィリードの両手アイマスクだ。

 彼女はまだシエルへの闘志を燃やしている様子。

 

「下僕、もうこのまま戦争でいいんじゃないかしら。あの天使、メタメタにしてやりましょう」


 いや、ダメだろ。


「それいい! ね、ダーリン、悪魔だけに協力して、うるさい小バエ落とそうよー」


 まずい、シュリネスが乗り気だ!

 でも秀一さんなら大丈夫か……。


「ダメだよ、むやみに殺したりしちゃ。それより山石くん、うちの娘の両手を眼球で味わうなんていい身分になったね。目玉潰そうか?」


 ヤバい、この人の溺愛っぷり忘れてた!


「お父様!? やめて。やるならあの女の乳を削ぎ落としてちょうだい」


「いやいや、フィリーのためとかじゃないんだ。ただ僕自身がムシャクシャしてるんだよ」


「もう皆殺しでいいんじゃない? 一番早いでしょ」


 この一家に常識を求めたら負けな気がしてしまった。

 と言うか、この場にいるほとんどが常識なんて持ち合わせていなかった。

『常識』とはいかなるものかと、哲学的な思考に至るほどだ。


「あ、チビっ子くんじゃーん! 君もペットにしたいんだけどなー」


「リオン、妾が妖術で女子(おなご)の体にしてやるから……。一回だけじゃ、三人で寝てみぬか?」


「ちょっと! 青少年の教育に害のある言動をしないでください! ハレンチです、センシティブです!」


「チビ……。お狐様、僕、女の子に生まれ変わったほうがいいのかな……」


「誰か一人ぐらいあたしの話聞いてくれないの? もしもーし」


「あの女もなかなかに巨乳ね……。天使とか神に仕えたほうが大きくなりやすいのかしら?」


「フィリー、大丈夫だよ。そのままでも世界一かわいいし、何よりシュリーの血を引いてるからね」


「もう、ダーリンったらー。フィリード、きっとまだ血が足りないのよ。これからもっと成長できるって」


 誰か、このドリームチームのことをまとめられる人がいたら名乗りをあげてほしい。

 こんなまとまりのない集団で、戦争なんて止められるものだろうか。


 結果がどう転ぶかはまだ未知数だった。

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