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吸血のススメ~主人と下僕の社会再建物語~  作者: ごごまる
第一章 初めての下僕とその吸血
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15話 ルンちゃんと話す器

 悪魔が去ってからそこまで時間が経っていないのに、太陽は目まぐるしい早さで昇った。


 今日も今日とて同じ道を友と歩いている。


「真弥、あれからどう?」


 悪魔の件以降、理苑はやけに俺のことを心配してくれる。


「命を狙われるなんてことはなさそうかな。今日なんて一緒に寝たし」


「……どういう流れでそうなったの」


 ごもっともだ。

 俺だってこんな経験をするとは思ってもいなかった。


「かいつまんで言うと、悪魔の仕事。なんでもノルマがあるらしいぜ」


「へー。いいなー、僕も会いたいなー」


「最近そればっかりだな……」


「真弥は自分がどれだけすごい経験をしているかわかってないんだよ! 僕からしたらノーベル賞ぐらいすごいからね」


「いや、俺は何もしてないんだって。むしろ最近の流れについていけてない気さえする」


 最近は常に受け身。

 特にルンに対してだ。


 フィリードは話せるタイプだ。

 事あるごとにこちらの意見を聞いてくれて、互いが対等になるよう話をつけている。


 しかし、ルンはそう簡単ではない。

 話を聞かず、全てを自分色に染めていく。

 俺じゃなくても、というか理苑の方が受け身になってしまうのではないか。


「……理苑、一回会ってみるか?」


「え、会えるの!?」


「会えるはず。吸血鬼じゃなくて悪魔の方だけどな」


 契約をした今、ルンなら瞬時にこちらへ来れる。

 ちょっと会うくらいなら理苑に害もないだろう。


「どうやって!? 魔法陣とか書くの!?」


「いやいや、ただ呼ぶだけだよ」


 俺は呟くような声で「ルン」とだけ言った。

 すると、壁でも床でもなく、何もないはずの空中から黒い円がたちまち現出した。

 高さは3メートルくらいだろうか、空にある円から出てきた悪魔はその高さなんてお構いなしに翼を使い、ゆっくりと降下する。


「おにーさん、ちょっと前までベッドの上にいたばっかりなのに欲張りさんだね」


「悪いな。たびたび呼び出したりして」


 悪魔が足音もなく着地すると、その翼は霧のように消えた。

 実は翼も黒い円と同じように、支給された装置なのかもしれない。


「それで、おにーさん。次は何をお望みかな」


「今回は俺じゃなくて、こっちのお願いなんだ」


俺は理苑の方を向いた。


「理苑、会えたよ」


 理苑は感激しているようだった。


「すごい、初めて見た……」


 ルンをじっと見つめてぶつぶつ何かを言っている。


「だぁれ、この子。おにーさん、弟くんもいたの?」


「違うわ。俺の友達、同い年だよ」


 理苑は童顔だったり、低身長だったり、実年齢よりも下に見られがちな要素がコンプレックスになっている。

 さっきのは悪魔との対面に感動していたおかげで聞こえていなかったようだが、いつもなら怒っていただろう。


 しばらくして、そんな理苑がルンとの接触を試みた。


「あの、はじめまして。神山 理苑です」


「あー、せっかく教えてもらってごめんだけど、ルンちゃん、人の名前覚えられないんだよねー」


「全然大丈夫です。好きなように呼んでください」


「そう。じゃあ、好きに呼ぶね」


 ルンがニヤリと笑った。


 嫌な予感がする……。


「じゃ、こっちも自己紹介。超絶プリティな悪魔、ルンちゃんでーす。よろしくね、チビッ子くん」


「チビ……」


「あれ、どうしたのチビッ子くん」


「ルン、もうやめてあげて」


 いくらなんでも直球すぎるでしょ。

 ルンの発言は理苑の心を大きく(えぐ)ったようで、先ほどまで少年のように輝いていた目が一瞬で死んだ魚のようになってしまった。


「真弥、ごめん。僕には抱えきれない重荷だったよ……」


「気にするな。悪魔ってそういうヤツだから」


「うん……」


「勝手に呼んでおいてルンちゃんを悪者扱いしないでよー。おにーさん、早くお仕事ちょうだい」


「あぁ、今のが呼んだ理由だから。もう帰っていいぞ」


「はぁ、それだけ? つまんないの」


 ルンが空に向かって手をかざすと、空中にあった円が消えた。

 そして自分の足下に再び生成する。


「あまりつまらないことばかりで呼ばないでね。もっとちゃんとした稼ぎのある仕事で呼んでよ」


「基準がわかんねーけど……」


「……そこらへんも、おにーさんがフィリーちゃんの眷属になれば教えてあげるよ」


 円に飛び込み、姿を消した悪魔。

 

 それにしても、ルンが吸血鬼の契約にこだわるのはどうしてだろうか。

 もしかしてフィリードに噛まれると、俺も人智を超越したパワーを手に入れるのだろうか。

 人間ではなくなるのだろうか。


 まだまだ吸血鬼捜索の情報が足りないが、その情報を知るにはフィリードとの契約がスタートラインだ。

 俺は躊躇(ちゅうちょ)などしていられないのだ。


 自分が吸血鬼を支援する理由はない。

 けれども、秀一さんやシュリネスが俺を選んだ理由はあるはずだ。

 とりあえず、それを聞くまでは全力を尽くそうか。


 フィリードに噛まれる予定である満月の夜。

 運命の日は明後日に迫っていた。

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