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吸血のススメ~主人と下僕の社会再建物語~  作者: ごごまる
第一章 初めての下僕とその吸血
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13話 デビルズ・ワーク

 悪魔との会談が昨日の出来事になった。


 今朝、結月の態度はいつも通りで、昨晩の悪夢などすっかり記憶から消えているようだった。


 ルンの性格からは意外だが、仕事に対して真面目なのかもしれない。

 しかし、外見はそれなりに幼さがあって自分よりも歳下にも思える。


 悪魔社会は人間社会よりも早い段階で労働を始めるのだろうか。

 それともバイトみたいな?


「おにーさん、ひとりで何してるの?」


「うおおぉぉぉ!?」


 ソファに寝ながら昨日の反省会と調べものをしていたのだが、そんな時にルンが出てきた。


 出てきた、壁から。

 厳密に言うと、壁に出現した黒い円からだが。


 いや、そんなことより……。


「家に結月いるって! さっさと戻れ!」


「えー、昨日も同じ状況だったじゃん」


「その同じ状況で、結局見られたじゃねぇか!」


 またあの悪夢を引き起こすのか。

 せめて本当に夢だったならいいものを……。


「まー、おにーさん。何かあってもルンちゃんはすぐに隠れられるから大丈夫だよ」


「隠れるって、この黒いやつにか?」


 壁に貼りついている黒い円。

 さしずめ、ワームホールのようなものか。


 俺がジロジロと円を見ていると、ルンは自慢げに語った。


「おにーさん、これ初めてだっけ。一瞬で移動できる便利グッズだよー」


「どうなってんの、仕組み」


 ルンはきょとんとしていた。


「そんなのわかるわけないじゃん。おにーさんは車の構造を完璧に理解してるの?」


 完璧に……。

 そう言われると説明に困るな……。


「……仕組みは不明でいいとして、これ、どうして昨日は使わなかったんだ?」


「あぁ、これね、契約者のところに行くために使うものだから。ほら、昨日はおにーさんが契約する前だったでしょ」


「え、それ以外に使えないの?」


「多分使える……けど、これお高いんだよねー。仕事ならタダで使えるからさ」


 俺のところに来れば無料かよ。

 なるほど、目的がわかってきたぞ。


「ルン、この近くに用があって来たんだろ。それで、移動が面倒だから俺を経由したと」


 これは完璧な推理だ。

 ルンの性格からすれば、きっとそんなくだらないことで使ったに違いない。


 俺の予想は、もはや自分の中では確信に近いくらいの信憑性だった。


 コイツは絶対に何の用もなく来たはずだ。


「おにーさんに用があって来たんだけど……?」


 ……。


 ………………。


「……話を聞こうか」


「おにーさん、ドヤってたね」


「言うな! 何も言うな!」


 だってそうじゃん!

 そんな理由だと思うじゃん!

 どうして仕事にだけはこんなにも真面目になれるんだよ!


「それで、俺に何の用なんだ」


「お仕事の宣伝。おにーさん、このままだとルンちゃんに頼らないで終わりそうだから」


「……そう言われても、頼る機会がないし」


「えぇー。おにーさんがしたいようにできるのに。だって、何やっても記憶いじれるんだよ?」


「いや、そんな犯罪じみたことしたくないが……」


「お願い! ルンちゃんは今、マッチを売る少女なの」


 だからそう言われても……。

 いっそ自分の忘れたい記憶を消してもらうか?


「おにーさん、ルンちゃんができることは洗脳だからね。記憶抹消以外のことも考えていいよ」


「洗脳……」


 フィリードは催眠だと言っていたか。


 催眠術……。


「あ、じゃあさ、今晩寝かしつけてくれない?」


 催眠術の定番である、『あなたはだんだん眠くなーる』を体験してみたいと思い立ったが故の発言。

 なのにルンは細目でニヤリと笑って。


「おにーさん、誘い方ヘッター」

 と煽ってきた。


 コイツ、頭ピンク過ぎやしないか?


「ルン、変なこと言わないと生きていけないのか?」


「またまた。おにーさんの奥底にある欲望を言ってるだけだってば」


 ルンは服をめくってチラチラと素肌を見せてくるが、残念ながら彼女にやましい気持ちは抱けなかった。


「おにーさん、つまんないね」


「妹で鍛えられてるからな」


 ガキの体に興味なんてないんだよ。


 俺の対応にルンは深いため息をついた。


「まぁ、おにーさんと変なことするのも気持ち悪いし、いっか」


「ルン、いろいろ気をつけろよ……?」


 世の中には怖い大人だっているんだから。


「その保護者(づら)ムカつく。ルンちゃんのスキルがあれば、おにーさんだってその人たちの仲間入りにできるからね」


「やめてくれ! こんな早くから犯罪者にはなりたくない!」


 しかも罪が低俗すぎる!


 よりによって相手はルンだし。

 ルンとよりも、どっちかと言えばフィリードの方がいいなぁ……。


「うわ。おにーさん、むっつり」


「……前から思ってたけどさ、ルンって他人の思考を読み取れるの?」


「話題変えても無駄だよ。フィリーちゃんに言ってやろー」


「よせ! あくまでもお前とフィリードを比べたらの話だ!」


「おにーさんのバーカ! 超絶プリティなルンちゃんの魅力に気がつくことができない哀れなバカ!」


 ルンはただひたすらに罵倒を繰り返しながら、黒い円に向かってジャンプしていった。

 ルンの姿が闇に吸い込まれたと同時に声も聞こえなくなる。


 結局、ルンは何がしたかったんだ……?


 とにかく、催眠の腕は確かだろうから今夜は安眠できそうだ。


 俺はふと妹を思い出し、なんだかんだ大声で話してしまったことに不安を覚えたが、その心配は不要であった。

 なぜなら、妹は寝ていたのだ。

 すやすやと。

 疲れでも溜まっていたのだろうか。


 今日の夕食は、俺が作るとしよう。

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