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吸血のススメ~主人と下僕の社会再建物語~  作者: ごごまる
第一章 初めての下僕とその吸血
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10話 魅惑の囁き

 部屋の明かりが強すぎて、外の闇は一層濃く見える。

 夜が放つ唯一の光は、今日もまだ満ちていなかった。


 そろそろ二人が来そうな時間だ。


 俺はただ窓の外を眺めていた。

 夜の田舎は黒色しか見えないが……。


 ぼーっと外を見始めてからしばらくして、窓ガラスの鈍い音が聞こえた。


 いつの間に到着していたのか、自分が眺めていたのとは別の方角にあるガラスをノックされたのだ。


 音の主はフィリードだった。

 だがその後ろにもう一人、見慣れない影があった。


「待たせたわね、下僕」


 フィリードは部屋に入りながら言う。


「いや、それはいいんだけど……」


 ちらりともう一人を見る。


 恐らく、今見ている存在が悪魔。

 インターネットの中にあった参考資料のような禍々しさはなく、フィリードと同じようにただの人間に見える。


 見た目は女性であるが、やはりその背からは翼が伸びている。

 フィリードの翼とはまた違う翼。

 どう違うかと表現はしにくいが、翼全体に艶がかかっているような、どこか人工物的な色をしていた。


「さて、下僕。改めて、この子がルンよ」


「はーい、ルンちゃんでーす!」


 例の悪魔、ルンも我が家に入り、自己紹介タイムが始まった。


「おにーさんがシンヤさん?」


「そうだけど……」


 ジロジロと俺を見るルン。

 上から下、下から上と舐めまわすように見、また口を開いた。


「おにーさん、本当にただの人間なんだね」


「ちょっとルン。私の下僕に失礼よ」


 ルンが悪口っぽいことを言ったが、主人が制してくれた。


「フィリーちゃんこそ、『私の』なんて主張しちゃってさ。ヤラしー」


「ど、どこがよ! 本当に私の下僕なんだから、どこもおかしくないでしょ!」


「おにーさん、気をつけて。この調子だと、隙を見せたらフィリーちゃんに襲われちゃうから」


「襲わないわよ!」


 なんだ、このプロレス。


 本当にフィリードとルンは友達なのだろうか。

 仲が悪いようにも見えるが……。


「どーせ、おにーさんの血が欲しくて欲しくてウズウズしてるに決まってるって」


「同意してもらっているのよ! 部外者は黙ってなさい」


 俺は終息するかわからない喧嘩をとめるべく、口をはさむことにした。


「ごめん、フィリード。今さらだけど、今日は何をすればいいの?」


 フィリードはルンとの話をやめ、すぐこちらに反応してくれた。


「そうね……。ルンから話を聞いて、今後の作戦会議をしましょうか」


 フィリードに対してルンは消極的であった。


「おにーさんに言いたくないなぁ……。いつもの人ならよかったのに」


「……ルン、いい加減にしなさい。下僕への侮辱は私を(けな)しているに等しいのよ」


「あぁ、怒っちゃった。フィリーちゃんは短気だなぁ」


 この状況でどう行動すれば場の空気が良くなるというのか。

 バチバチな空気の中、俺はあたふたすることしかできていなかった。


 そんな俺にルンがすり寄ってくる。


「おにーさん。フィリーちゃん怒っちゃったけど、どうしようか」


 ルンはニヤニヤ笑いながら言う。


「どうするって、あんまりフィリードを怒らせないでくれよ……。話が進まねぇし」


「んっふふー。じゃあ、フィリーちゃんが怒らなければいいんだね」


 ルンは俺に「見てて」と耳打ちし、するりとフィリードへ接近した。

 その勢いのまま体を密着させ、傾ける。

 数秒にして、ルンはフィリードを押し倒したのだ。


 よりによってどうして俺のベッドで……。


 しかし、ルンの行動はまだ終わりではなかった。

 フィリードの耳に唇を当て、なにかを(ささや)いている。


「ちょっとやめなさいよ! やめてってば、変な感じするから!」


 抵抗するフィリードだが、ルンは脚を絡め、抱きつくような形で動かせまいとしている。


「下僕っ、たす、助けて!」


 フィリードの身に何が起きているのかはわからないが、悶えている姿は見て取れた。


 ルンは囁きながらフィリードの内腿(うちもも)を撫でたり、たまに耳を舐めたりを続けている。


「下僕ぅ! 何ボケっと見てるのよ!」


 もはやそれはこっちが聞きたい。

 俺は何を見せられているのか。

 それより見てていいのか。


 考えている今もルンの攻撃は続き、時折フィリードから声が漏れる。


「……下僕っ! げ、ぼく……」


 そろそろとめたほうがいいのだろうか。


 ルンから詳しい説明をされずに現在へ至ってしまったから、そもそもこれが何をしているのかさえわからないが……。


 だが、どうするか迷っていたところ、どうやら行為は最後まで終わってしまったようで、ルンから声がかかった。


「おにーさん。これでフィリーちゃんはさっきのことを忘れたと思うよ」


 ベッドを見ると、息を荒くしたフィリードがぐったりと伸びていた。


「……これ、大丈夫なの?」


「うん。少ししたら、いつものフィリーちゃんに戻るから。」


「……そもそも何したの?」


 ルンはベッドからゆらゆらと俺まで接近してきた。


「『悪魔の囁き』だよ。簡単な洗脳みたいなものかな」


 ペロリと舌を出すルン。


「洗脳って、あんな短時間でそんな……」


「そうだろうねー。人間には無理なんじゃない?」


 ルンが俺に密着した。

 人肌のじんわりとした温かさが伝わる。


「でも、ルンちゃんはできちゃうから。おにーさんもやられてみる?」


「やめろ、やめろ。フィリードみたいになりたくないわ」


 彼女はまだベッドの上で動かない。


 相当ヤバい技術なのではないか?


「……ルンの洗脳ってさ、どこまで俺たちを操れるの?」


「んー、本気になれば殺せちゃうかもね」


 はっきりと言いきった。


 『俺たち』であるから、この技術にはフィリードさえも抗えないのだ。


「びっくりしてるねー。でもさ、よく考えてみてよ。高いところから飛び降りなさいって囁いちゃえば二人ともアウトだよね」


「その邪悪さはまさに悪魔じゃないか……」


「あは! 今の言葉は嬉しかったよ。まぁ、ルンちゃんはそんなに酷いことしたの一回もないから、安心して」


 ルンはわざと恐怖を与えてはそれを喜んでいるようだった。


 小悪魔め……。


「でも、おにーさん。ルンちゃんの囁きはとっても気持ちいいんだよ?」


「フィリードの反応見てりゃわかるよ……」


 フィリードのあんな姿、見たくなかったなぁ……。

 というか、見てはいけなかったな。


「ルンちゃんの囁きは相手を気持ちよーくさせて、頭の中をぐっちゃぐちゃにしてから上書きするんだー」


 ルンがグイグイと俺の体を押してくる。

 上目遣いでニタニタと笑みを浮かべて。


「おにーさんも体験してみようよ。ほら、ほら」


「やめろって! ロクでもないこと囁くつもりだろ!」


「おにーさんがフィリーちゃんのことを抱き枕だって思うように吹き込んであげる」


「なんだよそれ!」


 ギャーギャー騒いでしまった。

 ここが我が家で、住民が俺だけではないということも忘れて。


「兄さんうるさい! 何時だと思ってるのよ!」


 シンと静まり、全員が固まった。

 俺も、ルンも、結月も。


 空気さえ固まったと思うほどだ。

 しばらくしてから沈黙を破ったのは、至極当然な言葉だった。


「兄さん、その人、誰……?」

 10話までいけました。

 いつもありがとうございます。

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