おっさんの芸術な日々
あれから何日目だ?
冒険者ギルドへ行ってからまだ20日しかたっていない。
その間、俺は一度も冒険者ギルドへは行ってない。
俺が働きすぎてCランクの依頼を取りすぎると他の冒険者の迷惑だからな。
決して、メンドクサイとかついつい忘れてたって訳じゃない。
さて、今日も昼飯すぎに起きていつも通り食堂で飯を食っていた。
すると離れて座っていた冒険者の椅子の足が折れた。
たしかに、彼は巨漢だった。さらに重い鎧も装備していたんだ。普通に考えれば潰れる。
給仕の娘が壊れた椅子を片付けながら新しい椅子を用意し、もう一人の娘が謝罪している。
給仕姉妹の連携は素晴らしい。
冒険者の男も気にした様子はなく食事を再開した。
あの壊れた椅子はどうするのだろうか?
「え?あの椅子?薪にして燃やすわよ?それがどうしたの?」
「なら、壊れた椅子の足の部分を貰えるか?」
「え?別にいいけど?」
よし、そこそこ大きい木材が手に入ったし、姉妹で区別がつかないこともバレてない。
食事を終えた俺は宿屋の裏庭み出た。
ここは冒険者が鎧や剣を磨いたり素振りを過ごしてるための場所だ。
どこの宿屋にも規模の差はあるが裏庭がある。
俺は折れた椅子の足を手に給仕の娘から借りた木が切れる小さなナイフを持ちながら
裏庭に点在する座れる石に腰をかけるとナイフで木材を削り出した。
イメージにそって、大まかに削る。
大胆かつ繊細な指使いで乙女を触るように優しく削る。
「おっさん、何してんだ?」
ふと、顔を上げると女性冒険者がいた。
彼女はこの宿に泊まる冒険者でよく見る顔だ。
会話するのは初めてだが。
彼女の鎧には返り血が付いていて、これからこの裏庭で洗浄するようだった。
「ああ、ちょっと木材が手に入ったから削ってみたんだ。」
「ふーん、それで何を彫るんだい?」
「ああ、ちょっと人物像でも彫ってみようかとね」
「へー、出来たら私にも見せておくれよ?」
「ああ、もちろんだ」
そういうと、彼女は離れた場所にある井戸へと向かった。
そこで、彼女は鎧を脱ぎ備え付けの桶に水を汲み、置いてあるたわしで剣の汚れと鎧の返り血を洗い流していた。
俺はしばらく彼女の様子を眺めていたが、再びナイフを動かし始めた。
一応、完成した。
ある人物を想像して彫ったんだが、出来上がったのはモアイみたいな顔だ。
右から見ても左から見ても空に掲げて下から見ても、どうみてもモアイにそっくりだ。
イメージは全然こんなんのじゃないんだが
俺の技術力の無さが悔しいな。
「おっさん、出来たのか?」
そこには先ほどの女性冒険者がいた。
「ああ、納得できるはずもない失敗作が完成した。イメージを想像しながら彫るのは難しいな。」
「ハハハ、最初はみんな素人さ。私ら冒険者も最初は剣の振り方を知らなかった。何度も練習してやっと一人前になるんだからね。」
「そうか、練習か…」
納得できるものを作ろう。
給仕の娘にナイフを返し、しばらく留守にすると女将に告げ、普段着のまま外へ出た。
大きなナイフと小さなナイフを買い山へ向かった。
山の中で自給自足をしながら全神経を木を彫る事だけに集中した。
その結果がこれだ。
宿屋の食堂に布で覆われた像の前には給仕の娘の他に、数名の冒険者もいる。
もちろん、その中にはあの女性冒険者もいる。
「おじさん、何日も宿を開けてこんなのを作っていたの?」
「ああ、納得できるものを作るのが男ってものだ。」
「はぁ、それでこれは何なの?」
「とくと見よ!」
布を引き、現れたのは給仕の娘によく似た顔をした裸婦像だった。
ほぼ原寸大で椅子に座った姿勢をしていた。
「「な、なによこれー」」
流石姉妹、驚いた声もハモるんだな。
「ふむ、妹たちの胸はこんなにないぞ」
いつの間にかいた、普段は調理場にいる給仕の娘の兄アルフレッドが呟いた。
「ア、アニキ!何言ってるのよ!」
姉妹の片方が叫びながらアルフレッドを殴った。
見事な右ストレートだ!
「なんの騒ぎだ?」
現れたのは厨房を仕切る親父だった。
「ん?これは・・・?」
俺の給仕の娘の裸婦像を見て何度か頷いた。
「なかなかよく出来ているな。これは飾っておこう」
「「ええー!」」
給仕の姉妹は不満ぞうだが、父親に逆らうことができないのか、そのまま黙り込んだ。
その後、姉妹は裸婦像に着せる服を手作りし、食堂の入り口に飾られている像に着せた。
他の宿泊客も、俺の作った像の完成度に驚き感心していた。
いやー、労働って貴いモノだな。