おっさんと結婚報告の日々
温泉宿でなんだかんだと2泊した俺たちは、ある貴族の屋敷にきていた。
温泉街からほど近い街にある勇猛果敢な貴族の家だ。
この街の領主ではないが領軍の指揮官を代々収める上に個人の武力も高いらしい。
ここまで言えば、わかるだろう。イリアの実家だ。
10年以上家出しているが、イリアはこの街で生まれ育った。
イリアの両親と兄に結婚の報告をするのは男としてのケジメと思い、ここまでやってきた。
屋敷の門番にイリアが要件を伝えると、すぐに応接室に通された。
しばらくすると妙齢の女性が入ってきた。
「イリア、おかえりなさい。よく帰ってきましたね。あなたが出て行ってからお父さまは落ち込んじゃって大変だったのよ?あの人ったら、毎月の貴方からのお手紙を大切にしまってあるくらい、貴方の事を心配しているのですよ?」
「ええ、ごめんなさい。中々帰りにくくて…」
「いいのよ。結婚おめでとう。そちらがラグさんね」
「はい、ラグと申します。この度はご挨拶が遅れて申し訳ございませんでした」
「あら、いいのよ。ラグさんも色々と忙しいって聞きました。お仕事も大変でしょうけど、私は早く孫の顔が見てみたいわ」
「が、頑張ります」
「それで、お父様と兄さまは?」
「昔と変わらずに軍の訓練をしているわ。行ってみる?」
「そうね。2人にも早く会いたいし、みんなとも打ち合いたいし、いこうかな?」
…打ち合いたいって?やはり脳筋か…
屋敷を出て訓練場へ3人で向かう。
向かった先は俺たちが入った街の門の反対側だった。そこは草原が広がっていた。
そこでは多くの騎士たちが実戦さながら打ち合いしていた。
「壮観だな…。みんなよく鍛えられている」
恐らくはBランク、一部はAランクの冒険者並の猛者がいるようだ。
「お父様!お兄様!」
イリアが豪華な鎧を身に着けている2人を見つけると手を振って走っていった。
「おお、イリア!」
一際豪華な鎧の壮年の男性が両手を広げてイリアを迎えた。
そして、二人が近づき、抱き合うかと思いきや…
ガキッン!
お互いが持っていた真剣で攻撃しあった。
「ほう、腕を上げたな!」
「毎日、剣を振ってますからね!」
なるほど、脳筋の親は脳筋か…。
「む、君がラグ君かね」
そういって今度はコチラに剣を振り降しててきた。中々の振りの速度だ。俺はその剣を避けもせず剣の横腹を押して軌道を逸らした。
「なんと!ならば、コレはどうか!」
今度は横なぎだ。俺は当たる直前で神速を持って紙一重に避けて、すぐに元の場所に戻った。
おそらくは切られたように見れただろう。だが、実際には傷一つもない。
「…ここまで差があるのか…」
目の前で起きた出来事に気が付いたみたいだな。
目の前で剣を仕舞い、俺をまっすぐ見つめてきた。
「娘をお願いします」
そして、一礼。
「絶対に幸せにします」
俺も深々と頭を下げた。
そして頭を上げてお互いの顔を見るとどちらも笑いが込み上げてきた。
俺も好き勝手生きてきたバカだが、このオヤジも剣を振り続けていたバカだ。
なんとなく、ウマが合いそうだ。
「父上!何を笑っているのですか!」
オヤジさんとよく似た顔の男が声を荒げた。おそらく兄貴のほうだろう。
「なに、逆立ちしても勝てそうにないんでな。それに、なかなか芯のある男だ。イリアにはもったいない相手だ」
バシバシと肩を叩いてくる。
「そんなどこの馬の骨とも知れない男を軽々しく信用しないでください。私は認めません!…そうですね。我が騎士団を突破して私を倒したら認めるかもしれませんが、どうしますか?」
どうしますかって?別に兄貴に認められなくても両親に認められれば、それでいいし…
イリアを見ると、ため息をついて頷いた。なるほど、ヤレって意味だな。
「いいだろう。お前を倒してみせようか」
「ふふふ、楽しみにしていますよ?」
兄貴は騎士団の奥へと歩いて行った。
そうそう。フェノは屋敷でイリアの母親と話をしている。よく、そんなに話すことがあるなと感心していまう。これが男と女の違いか。
なんて違う事を考えていたら騎士団の準備が出来たようだ。
数はおよそ200人くらいか。最前線には盾と槍を持った重装備が、その後ろに弓兵、魔法使いと続いている。
一人を相手にするには過剰戦力に思えるかもしれないが、俺を甘く見てもらっては困る。
俺はいつも腰にさしてある鉈を取ろうとして…、あれ?ない。
……どうやらフェノに預けてある魔法の鞄に入れっぱなしのようだ。
まぁ、いいや。
武器は現地調達でなんとかするか。
俺は無手のまま陣形を組む騎士団に向かって走り出した。
誤字、脱字、報告ありがとうございます。読んで頂きありがとうございます。




