おっさんと本気っぽい日々
「温泉に行こう」
「「温泉?」」
俺の言葉にフェノとイリアが反応した。
いきなり脈略なく、朝食時に言った一言だ。
「ああ、仕事する気も今ないし、なによりもあったかい温泉に入ってゆっくりしたい」
「温泉か…、良いんじゃないか?」
イリアは賛成してくれた。フェノは…
「そうですね。たまには私たちも息抜きしたいですからね。明日から暫く休むって伝えてきますね」
「私も訓練所にいって明日から休むことを伝えて来よう」
2人は食事を終えるとそれぞれ席を立ち職場へ向かっていった。
俺は2人を見送ると部屋に戻り2度寝した。
昼過ぎに目が覚め、寝ぐせがついた頭のまま遅めの昼食を取り、宿の庭に行きベンチに座り日向ぼっこをする。
柔らかな日差しが気持ちいい。
この宿の庭では数名の冒険者が鎧や剣を洗ったり、素振りをしていたりすす。
もちろん、皆が見知った顔だ。
「おっさん、何してんだ?」
声の方に顔を向けると女性冒険者がいた。
火事になる前の宿から泊っている、よく見る顔の女性だ。
「やぁ、なんだか仕事で疲れちゃってね」
「そりゃ大変だな。おっさんのおかげでギルドも綺麗になったし、街も賑わっている。おっさんが少し休んでも誰も文句いわないよ」
「ははは、そういって貰えると気が楽になるよ」
「そういえば、何度かやばい目にあってるって聞いたけど護衛とか雇わないのか?」
「護衛は不要だよ。今まで色々とあったけど傷一つ付けられなかったからな」
「でも、これからも無事だと限らないだろ?もし、一人でいる所に盗賊に出会ったらどうする?」
「そうだな。とりあえず、盗賊の親分に樽一杯の金貨を渡すかな?」
「それで済めばいいけどな」
「大丈夫。気分の良い親分にゲームを提案するんだ」
「ゲーム?」
「ああ、俺が金貨の入った袋で子分を殴る。子分が立っていれば殴られた分の金貨を上げる。子分が倒れれば親分に金貨を上げるってゲームだ。ただのオヤジに殴られるだけで金貨が貰えるだ。子分も喜んで参加するさ」
実際にやったが、ウキウキ顔の子分を殴るのは面白かったな。もちろん、最後は親分もぶん殴ったが。
「なかなかえげつないゲームだね」
「だろ?このゲームは何度かやってるけど、今のところ俺が全勝してるけどな。油断している奴らなんて素人でも倒せるさ」
別に、俺が素人とは言ってない。一般論的な考えだ。
「たしかにそうなだ。それに、おっさんの事だからゲームに失敗しても何か策があるんだろ?」
「もちろんだ」
「それなら護衛も邪魔になるだけだな。護衛がいて危険になるなら、いない方が楽だね」
「そういうことだ」
「そんじゃ、邪魔したな。またな」
俺の心配してくれるなんて、良い奴だな。
そもそも、俺もCランクの現役冒険者だ。盗賊程度には素手でも負けはしないさ。
そして、その後も日向ぼっこをしながら、何人かの冒険者と世間話をしているとフェノとイリアが帰ってきた。
「やぁ、2人ともお帰り。そちらの彼は?」
イリアの横にいる若い冒険者に視線がいった。
「イリア先生のように素晴らしい女性がいるのに、他の女性とも結婚してるなんて納得できません!」
「…と、まぁこんな感じなんだ」
イリアが困ったような表情で助けを求めてきた。
「なるほど、世間を知らない若造か」
「お金にモノを言わせて女性を手にして男として恥ずかしくないんですか?」
「ふむ、それで?」
「それに、冒険者でもない人がイリア先生と釣り合う訳がない!」
「だから?」
「俺と勝負だ。俺が勝ったらイリア先生を自由にするんだ!」
「いいだろう、イリアを自由にさせよう。その後で誰と一緒になってもお互い文句はいうなよ」
「もちろんだ!勝負だ!ラグ!」
「おい、さんをつけろよ、でこすけ野郎。目上の人には敬語を使えと習わなかったのか?」
「う、うるさい!」
「まぁ、いいだろう。勝負は…そうだな、ここでは目立ちすぎる。ギルドの訓練場を借りるか。フェノ手配を頼む」
「ええ、いいわよ」
俺たちはギルドに向かい訓練場を借りた。今回はお互いの為に非公開だ。
訓練場には俺と若造とイリアとフェノがいる。女性2人は見届け人だ。
「で、勝負はどうする?剣の腕は差がありすぎるだろう?」
もちろん、俺の方が上だ。
「いえ、お互いが全力でやりましょう。全身全霊をかけてイリア先生を助けて見せます!」
一人で熱くなる若造。俺もあんな頃があっただろうな…。今は燃えカスだけど。
「まぁ、いいや。先に負けを認めた方が負けだからな」
「ええ、もちろんです」
俺も若造も模造刀を持ち向かい合った。
「いくぞ!」
若造の振り下ろしを紙一重に避けて若造の首筋に模造刀を当てた。
「一回」
「な!」
若造が慌てて距離を開けて仕切りなおした。
「いまのは偶然だ!行くぞ!」
若造が横なぎに払ってきたので、俺はしゃがみこんで躱し振り切った所で若造の首筋に模造刀を突き付けた。
「二回」
「!!」
「これでお前は2回負けた。まだ続けるか?」
「ま、まだまだ!」
若造は距離を取り、俺に向かって魔法を放ってきた。
「ファイヤーボール!」
炎の玉が手のひらから飛び出し、無防備な俺に当たると爆発した。
「や、やったか?」
「三回」
爆発した瞬間に若造の後ろに回り込んみ首筋に模造刀をあてた。
「あと、何回殺せば気が済むかな?」
「ま、まだ!」
そういうと、若造はまた距離を取った。
…
……
「二十三回だ」
「ック…。俺の負け…です…」
合計23回の死。それで若造は自分の負けを認めた。
「なんで、冒険者でもないのに、こんなに強いんだ…」
「料理が上手い者が全員料理人になってるか?絵が上手い者は皆画家か?違うだろ?」
だが、俺が冒険者ではないとは言っていない。
「…すみませんでした。訓練所で筋が良いと褒められて調子に乗っていました」
「若い時は何でもできると勘違いしてしまう。油断して死んでいく若者が多い中、お前は慢心しないことを学んだ。慢心がパーティーの崩壊を…、やめよう。年を取るとつい説教臭くなっちまう。とりあえず、俺が言いたいのは、常に冷静に心が燃えてても、頭は冷静に、だ」
「…心は燃えても頭は冷静に…」
「ああ、それと、イリア。俺と別れて自由にするって言ったら何をする?」
「何をしてもいいのか?」
「ああ、もちろんだ」
「それなら、ラグとまた結婚するさ」
イリアは耳まで赤くしながらキスをしてきた。
「お、俺の完敗です…」
まぁ、結果がわかってる勝負だったからな。
そして、追い打ちをかけておくか。
「おい、ボウズ。見てみろ。」
「え?」
俺は自慢のイチモツを見せた。
「な、なんてことだ…。剣でも負けて男でも負けたのか…」
「精進しろよボウズ」
俺様自慢の聖剣を見て若造が崩れ落ちた。
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