おっさんと新事業の日々
おかしい。最近の俺、忙しすぎる。
貴族向けの新事業も多くの下請けの理解が得られずに凍結にした。
保守的な貴族が多いだろうか。まぁ、いいや。
そして、第二案として考えたのが、劇場だった。
以前、見た演劇は舞台で芝居をする演者と背景は画または簡単に書かれたセットが全てだった。
俺から見たら学芸会レベルだ。
それを俺が音楽をつけ、大掛かりな舞台装置と魔道具で特殊効果をつけて臨場感を盛り上げる。
そのためには楽団を雇い、新たな魔道具の開発が必要だ。舞台装置は建築ギルドに相談したら、出来ないことは無いが、金が掛かると言われた。魔道具も金次第で可能と言われたので即注文した。まぁ、金で済むことなら障害にもならない。
そうそう、一番重要な劇団だが、他の劇団のイザコザで退団した連中を雇った。なんでも顔が良い若い役者とベテラン組の衝突らしい。で、団長が取ったのは看板でもある若い役者だ。それに嫌気が刺して辞めた所を俺が雇用したんだ。もっとも、俺は演劇がわからないので、ベテランの一人に団長をしてもらいまとめて貰っている。まだ劇場が建設中なので、しばらくは休養してもらおう。それに、脚本や演出も全て俺がやるんだ。時間と経験が圧倒的に足りない。毎日、団長に相談している。
で、相談して10日たち、演目が決まった。
『放浪の銀騎士物語』
流行りものだ。
まさか、本物が脚本をしているなんて誰も思わないだろう。
俺も悪夢だと思いたい。
内容は、仕えていた領主とその娘との婚約が決まり、幸せの中で焔の魔人が襲撃。愛する者を殺され復讐に旅立つ物語だ。
他の劇団がやっているような勧善懲悪や恋愛劇でもない、魂の籠った熱演と音楽、視覚効果で観客を虜にする代物だ。
一か月後、団長と話し合いながら作り上げた台本が完成するとほぼ同時に舞台も完成した。
そして、視覚効果の魔道具も完成した。あとは楽団だ。
楽団員と指揮者に稽古を見てもらい、このシーンは静かな感じで、このシーンは明るい感じでと、常に何か知らの演奏をしてセリフの間を埋めるようにオリジナルの楽曲を作ってもらった。
これで全てが整った。後は練習をして開園日まで質を高めていくだけだ。
…
……
そして、こけら落としの日。
告知は劇場前の看板のみだったが、多くの人が押し寄せてきた。
まぁ、宣伝活動と言ったら関係者の口コミだけだったはずなんだけどな。
そして、開幕。
騎士と領主の娘との恋。美しい旋律。
そして観客席の上を飛びながら舞台に着地する揺らめく炎を纏った男。
街を破壊し、領主の娘も炎に包まれた。
恋人の死に悲しみにくれる騎士。
復讐を心に誓い旅立つ。
焔の魔人探しの途中で盗賊から助けた娘が住む街で悪行三昧の領主を倒し旅立っていく。
彼の復讐は終わっていない。
第一部完
そう第一部なのである。
全部で何部作になるかも不明である。
だが、結果は大成功だ。
ド派手なワイヤーアクション、幻の炎を生み出す魔道具に臨場感を出す演奏。
他の劇団では見れなかった舞台だ。
あっという間に人気劇団になり、所属する役者や裏方、脚本家も雇った。
俺のイメージする騎士像を脚本家に詳細に伝え、あとを託した。
そして、第一部の演目開始から3カ月後に第二部が始まった。
もちろん、これも大成功だ。
そして、第一部を見ていない人ように、第一部の内容を書いた小説も劇場で売り出した。
新規のお客さんも分かり易いようにとの考えだ。
これも当たった。増刷につぐ増刷。
関係者全員がうれしい悲鳴を上げている中、俺の中の何かが切れた。
やる気である。
頑張りすぎたのだ。
劇場作りの打ち合わせから劇団の設立、脚本、演出、グッズ作りの為のデザイナーとの打ち合わせ、それを作る業者との打ち合わせと納期の確認。もちろん、それだけではない。事務もしないといけない。この劇団の為にいくら使ってそれぞれの給料に、衣装作りもある。他にも細々した雑務がたくさん。
それらすべてを引き継いだら、一気にやる気がなくなった。
燃え尽きちまったぜ、真っ白にな…
もう、すべてを放り投げ何処かへ行きたい気分だ。
何処かって?さざ、わからねぇがここではにどこかだな。




