おっさんと影響力の日々
魚港都市の戦いを終えて数日、俺の住む商業都市にもその話が伝わってきた。
空を覆いつくすワイバーンの群れを銀色の騎士が現れ全て倒したと。
いや、俺はワイバーンを1体も倒してないし、倒していたのは金剛戦斧とその仲間達だ。
以前の銀色の騎士のブームが落ち着いてきたと思ったが、コレで再燃焼した感じだな。
俺は今、フェノと一緒に街を散歩している。
フェノも受付主任から退き一般受付勤務になった。
しかも、勤務時間は朝のみのハーフタイム勤務。もちろん、給料は半分だが、俺の蓄えはいまだに国家予算の数倍はある。しかも、宿やメイド派遣、マッサージの売り上げの一部が俺に上がってくるようになってきている。
俺は金儲けがしたいんじゃない。金儲けができるまでのプロセスを楽しんでいるんだ。
まぁ、返してもらったお金は何かの形にして働いている人の役に立てよう。
そんな事を考えながら、フェノと2人で銀色の騎士が活躍する芝居を見ている。
銀色の騎士がワイバーンに攫われた娘を助ける物語だ。
青年の爽やかなイケメンの騎士と仲間の渋い感じで少し年をとった魔法使い、そして侍従する年若い少年。
物語が進み、彼らに敵対する黒い鎧を着たワイルド系なイケメン騎士が現れた。
この劇団の看板なのか彼の登場と共に歓声があがった。
まぁ、黄色い声援ったやつだ。
そして物語は進み、イケメン騎士とワイルド騎士の一騎打ち。
途中まで互角だったが、ワイルド騎士が『古傷が!』って言いながら逃げて行った。
うん、事実と全然違うな。
合っているのは銀色の騎士が男って所だけだ。
仲間もいないし、ライバルみたいな騎士もいない。
俺は孤高な存在なんだ。決してぼっちではない。
そんな事を思いながらも演劇はクライマックス。
ワイバーンを倒したイケメン騎士が攫われた娘を抱きながら馬に乗り去っていった。
俺が助けたのはひげ面の金剛戦斧って冒険者だ。間違ってもアイツと馬に一緒に乗ることはないだろう。
突っ込みどころ満載の演劇を見終えた俺たちは宿に戻ろうとしていた。
多くの人で賑わう道を二人で歩いていると正面から酔っ払いの集団がやってきた。
冒険者だろうか?鎧を着こみ、剣を腰に差している。
絡まれると面倒だから、俺は彼らとすれ違うさいに大きく道を譲った。
「おっと!」
そんな俺に対して酔っ払いが俺にぶつかってきた。
絶対にわざとだ。顔がにやついていたし、ふらついて当たるような距離ではない。
「おい、いてぇな。腕が骨が折れたじゃねぇか!」
その折れた腕で俺の胸倉をつかんでいる。
「すまなかったな。医者にいくか?治療費なら払おうか」
「ああ!舐めた態度してんじゃねぇ!」
周りの野次馬が俺たちを見ている。
「すまんな。ところで君たちは冒険者か?」
「ああ?!ちげぇよ!あんな腰抜けどもじゃねぇ!俺たちゃ、傭兵ギルドの『踊るシャーク』だ!」
踊るシャーク、鮫が踊るのか?想像したらちょっと可愛いかも?
「フッ」
「何笑ってんだ!」
俺はそのまま殴られて地面に倒れこんだ。
「おい、可愛いねぇちゃん連れてんな。そいつで勘弁してやんよ」
「ヒッ!」
そいつは折れた腕をフェノに伸ばしてきた。
が、彼の腕はフェノに届く直前で俺がその腕をつかんだ。
「彼女に手を出したら。容赦しないぞ?」
「ああ?おっさんが何言ってるだ?」
「周りを見て見ろ。お前ら囲まれてるんだぞ?」
周囲を見回すと野次馬がいつの間にか、冒険者や武器を持った街の人たちに変わっていた。
全員が酔っ払いの傭兵たちを敵視していた。
「な、なんだこりゃ?」
今、商業都市は空前の好景気だ。
多くのギルドに超多額の資金援助があり、多くの仕事が発生し、それに伴い多くの人が移住してきた。
それでも、仕事が余っている状況でどんどん賃金が上がっていて、今では王都と同じ仕事でも倍近い賃金になっている。
そして、その原因でもある超多額の資金援助の出資者が俺であるのは古くから住んでいる人なら皆知っている。
「その人たちにこれ以上迷惑をかけるなら俺たちが相手だ!」
声を上げたのは肉屋の主人だ。いつもニコニコ顔で穏やかな性格な彼が激高している。ちなみに、彼とは飲み仲間だ。
じりじりと傭兵たちを囲む輪が狭まっていく。
「ちょっと待ってくれ!」
輪の外から声がした。
「すまねぇ、通してくれ。」
現れたのは傭兵ギルドのギルド長と幹部たちだ。
「すまなかった、ラグさん!」
ギルド長は俺の目の前で土下座をした。
そして、他の幹部は酔っ払いを殴りつけている。
彼らも抵抗するが、実力世界の傭兵ギルドの幹部たちだ。酔っ払いくらい朝飯前という感じで全員をノックアウトさせた。
「ああ、大丈夫だ。気にするな。今回の被害者は俺だけだからな」
実際に胸倉掴まれて殴られたが、全然痛くないし、バランス崩している時に押されたような感覚だ。
それに、弱い子猫が虚勢を張って噛みついてきた程度だ。本当にきにしていない。
「本当にすまなかった。こいつらにはきっちりケジメをつけさせる!」
傭兵ギルド長の土下座は地面を頭で掘る勢いだ。
「ギルド長、立ってくれ。そんなんでは話もできない。それと、みんなありがとう。俺たち大丈夫だ。心配してくれてありがとう」
俺はギルド長を立たせ、俺の為に集まってきてくれた皆に礼を言って解散させた。
「ギルド長。彼らは酒に酔ってこんな事をしてしまったんだろう。今、傭兵ギルドも人で不足だ。彼らには厳罰ではなく、彼らに見合った仕事を斡旋させてやってくれ」
どこも猫の手を借りたいほど仕事が余っている。彼らも多額の報酬でつい飲みすぎたのだろう。
「…ラグさん。あったって人は…。わかった。彼らに相応しい仕事を約束しよう」
「さぁ、フェノ。帰ろう」
俺はフェノと一緒に宿へ向かった。
その後ろでギルド長と幹部は俺たちが見えなくなるまで頭を下げ続けていた。
後日、聞いた話では怒り心頭だったギルド長と幹部たちは『踊るシャーク』を特別任務として男娼として働かせられたとか。
実際に、俺の資金源と繋がりを嫉妬した商人からの嫌がらせがあり、飲み屋の席でポロっと『街を出ようかなー』なんて言った次の日には嫌がらせをした商人は全ての取引先を失ったと聞いた事もある。
お金の影響力ってすごいね。
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