おっさんと結婚の日々
あれは数日前の事だった。
冒険者ギルド長との新たなる融資の話をし終えた俺は勤務終了したばかりのフェノとギルドの外で会った。
「やぁ、フェノ。仕事終わりかい?」
「ええ、ラグもギルド長との難しいお話お疲れ様」
「いや、難しくないさ。フェノの働く場所の環境を整えるんだ。いくらでも引き受けよう」
そう、この時の話は冒険者ギルド内の温度を一定に保つ高価な魔道具の購入に対しての融資の話だった。
俺が高価な魔道具を買って寄付という形にすると他のギルドからも寄付のお願いが来るので、融資という形にしてある。もちろん、無利子で返済期限は世界が終わるまでだ。
冒険者ギルドは立て替えて1年ほど経ったが、広い建物なので冬になると職員は厚着をして仕事をしている。
この辺は、雪は降らないが寒いものは寒い。今回の魔道具で夏は涼しく、冬は暖かくして過ごしてほしい。
「ありがとう、みんな喜ぶわ」
今回の魔道具は現場職員からの希望を聞いたうえで俺がギルド長に話をつけた。
「気にするな。それと、このあと飯でも食いに行くか?」
「ええ、もちろん」
最近の俺たちは俺の泊っている宿の食堂で食べるのが習慣化していた。今回も何も考えずに宿の食堂へ向かった。
…
激混みである。
安くて旨い、そして清潔感ある室内。人気が出ない訳がない。
食堂の入り口では入場整理の為に給仕の姉妹がいた。
「あ、ごめんなさい。今日はとても混んでいて食堂だと2時間待ちくらいだけど…」
「それなら部屋に頼めるかい?2人分でメニューは任せる。あとお酒も宜しく」
「ええ、任せて。美味しいのを持っていくわ」
給仕の姉妹、姉か妹かわからないが、料理をお願いして俺たちは部屋へ向かった。
1階のロビーから人気のない通路を歩きリネン室、倉庫を過ぎると俺の部屋、オーナー室がある。
1年も住めば色々と変わる。物が増えたり、模様替えしたり。
俺の部屋も以前は大きな執務用の机があったが、全く使わずにいたので撤去した。
その代わり、食事ができるテーブルとイスを置いた。
さすがに商談用のソファと低いテーブルで食事をするのは躊躇った。
フェノは室内に飾ってある感謝状を見ていた。
感謝状は冒険者ギルドだけではなく、領主からの感謝状もいくつかあった。
もちろん、その全てが金で解決できる案件に対する
フェノを椅子にエスコートして、俺も座ろうとしたとき、テーブルの上にある小さな箱を思い出した。
数日前に魔境都市で資金調達のために実体化した魔物を狩った時に、たまたま目に入った魔道具店で買った珍しい魔道具だ。
赤い魔石がついた指輪だ。普通の指輪にも見間違えるほど精工な作りだ。
効果は装着者の状態異常の回避だ。
冒険者は指輪はあまりしない。剣や矢の握った感覚に違いが出るのを嫌がる。
フェノもDランク程度の攻撃魔法使いと言っていたが、後衛なので指輪をしていても問題ないだろう。
「フェノ、俺からの気持ちだ。受け取ってくれ」
いつもフェノには融通を聞いてもらっている。
Aランク、Bランクの依頼を細工してCランクにしてもらったりしている。
本当はマズイのだが、達成していまえば問題ないらしい。
俺は指輪の入った箱を開け、指輪を見せた。
「…あ、ありがとう…」
フェノは俺に向かって指を差し出した。
俺から見て右側の手だ。
これは、指にはめて欲しいという事だな。
俺はフェノの手を取り、指輪を中指にはめようとした。
コンコン
不意になるノックの音
俺はついノックされた扉を見てどうぞと声を掛けた。
そして、視線をフェノの指に戻すと薬指に指輪がはまっていた。
「ラグ…、貴方の気持ちとても嬉しいわ。私の答えはイエスよ」
まさかのプロポーズで俺の思考回路がショートしていると、フェノは俺の手を両手で握り熱い視線で見つめてきた。
俺はその視線から逃げるように料理が乗っているワゴンを押している給仕の姉妹を見た。もちろん、姉か妹か判断できていない。
彼女は笑顔と違う、ニヤニヤした顔つきで俺たちを見ていた。
それかの事は覚えていない。何を食べたのか、飲んだのか。
ただ、自分の中の何か大切な物を失った感覚だけは覚えていた。
それからは色々と忙しかった。
冒険者ギルド長に結婚の報告と宿の支配人の女将に報告。
女将が、新婚で狭い部屋では不便だろう、ということでオーナー室の隣の倉庫の半分をオーナー専用の私室として改築になった。もともと倉庫には何も入っていなかったのでちょうどよかったと女将が言ってた。
改築は3日で終わった。それの合わせてフェノも職員寮から俺の部屋に引っ越してきた。
彼女が来たタイミングで模様替えも行った。
今まで使っていた部屋を来客を迎える部屋にして、奥に新しく作った部屋をリビングキッチン、その奥を寝室、また家具を色々と買い変えたりもした。
さて、フェノと一緒にくらして1週間。
そろそろ俺の秘密を打ち明けるか。
読んで頂きとても感謝しています。1PVごとに私のやる気が向上しています。




