働きたくないでござる③
冒険者ギルド
「たしかにオークキングの魔石ね」
俺が渡した魔石を見てフェノがつぶやいた。
「それにこんなに大きいの見たことがないわ」
たしかにあのオークキングは巨大だった。
「これで依頼完了だな。」
「ええ、Cランクの依頼を数時間で終わらせるなんて前代未聞よ。」
たしかにCランクの討伐対象は町や集落からは離れている。
それこそ現地まで馬車で数日、それから探索や罠をはり早くても10日前後が普通だろう。
今回も普通の冒険者グループなら船で数日、現地でキャンプ…は難しい数のオークがいたので、船を拠点に数日かけて数を減らしオークキングをしとめるのが普通だろう。
それを俺は一人でたった数時間で終わらせてしまった。
しかも、経費0の丸儲け。
「それじゃあ、報酬の金額…」
「いい、いつも通り振り込んでくれ」
俺はフェノにギルドカードを渡した。
このギルドカードはキャッシュカードにもなるし、身分証明書にもなる。
しかも個人個人の魔力パターンで認識しているので不正もできない。
カードを受けとったフェノは頷くと奥の部屋へ入った。
これから少し時間がかかるのはいつもの事。
俺は依頼ボードを眺めて待った。
あ、Cランクの討伐が新しく張られている。タイミングが悪かったな。
そんなことを思いつつしばらく待った。
「お待たせ。終わったわ。」
フェノからカードを受けるととズボンのポケットに入れた。
「さて、今日はこれで帰ろ「次の依頼はどれにしましょうか?」おい?」
俺の言葉に被せてくるフェノを軽くにらむ。
「他の人が数日かかる依頼をたったの2時間で終わらせたのよ?そんなに疲れてないはずよ?さぁ、次の依頼はどれにするの?」
「…いいか、よく考えるんだ。他の冒険者だったら数日でしかもパーティーで請け負う仕事を俺一人で短時間で終わらせたんだ。疲れていない訳がない。もう疲労困憊で倒れそうなんだけど?」
聞き耳を立てているほかの職員は思った。
(詭弁だ。疲労困憊の冒険者なら立ってにこやかに会話なんてできない!)
本当に疲労困憊な冒険者を何度も見てきた職員は心の中で突っ込んだ。
「そうね、無理に仕事しても危険なだけだものね。また疲れが取れたらお願いね」
「ああ、様子を見てまた来るさ。それに、何かあったらすぐに連絡してくれ」
何かあったら。
フェノは俺の強大な力を知ってる。
以前、冒険者ギルド職員誘拐事件で俺が助けたのがフェノだった。
何の原因か知らないが、メンツを冒険者に潰された貴族の息子が報復のために誘拐し殺害しようとしたんだが、ソイツの手にかかって殺される寸前に、
音速の鉄山靠を貴族にしたら言葉通りの木っ端微塵になったからな。
フェノはもちろん、貴族の手下も半分以上が気を失った。
彼女を救助し、安全な場所へ避難した。
あとは、話し合いという名の恫喝だ。
冒険者ギルドへ喧嘩を売ったんだ。多額の賠償金を支払わされたらしい。
その貴族がその後どうなったかは興味もない。
っと、話が逸れたな。
冒険者ギルドをあとにした俺は、食事をするために近くの食堂へ入った。
このお店は俺のお気に入りだ。
落ち着いた雰囲気の良いお店だ。高齢の店主の魂を込めた味付けが旨い。
悪くいえば、
寂れたお店に良くわからない味付けの頑固なジジイ。
たしかに、悪い意味を真に受ければ誰も来ないだろう。
だが、一度食べればハマる。
俺も一時期毎日のように来ていた。
メニューはもちろん無い。出されたものを黙って食べて金を払う。
たまに見る初めての人は文句を言ったり、出されたものを見てそのまま帰るのが大半だ。
ほら、今日も美味しそうな黄緑色と蛍光ピンクのスープに入った海鮮スープが旨そうだ。
そして、パンに野菜と一緒に挟まれた発酵した魚。
デザートは肉が入った寒天か。
…今日はいつもよりもレベルが高そうだ。
いつも角で座って食べている悪食のビルが吐きながら、食ってやがる。
レベルが高いってものじゃないな。
今日は試練の日か。
よく見ると店主の顔が腫れている。奥さんと喧嘩したのか?
なるほど、今日の調味料の仕上げは八つ当たりか。
楽しみだぜ。