おっさんと再会の日々
王都に到着した翌日の朝から会合があった。
王都の冒険者ギルト会議場での俺の発表は、耳に触りの良い言葉を並べるだけだった。
本音は言っていない。
姪や妹分が可愛くて資金提供しました。なんて口が裂けても言えない。
そんなこんなでほぼ聞いているだけの会合は夕方前に終わった。
俺、何しに来たんだろうって疑問に思う。まぁ、久しぶりの王都だ。
ちょっと観光でもしてお土産かって帰ろうか。
いろんな店を物色していく。
そして、フェノのお土産用に女性が好みそうな小物のお店で選んでいると他のお客さんとぶつかった。
「おっと、すみません。お嬢さ…」
「こちらこそゴメンなさ…」
そこにいたのはとても懐かしい顔だった。
「ね、姉さん?」
「あら?久しぶりね、元気だった?」
農場で忙しい両親に変わり、俺を育ててくれた長女のミア姉さんだった。
結婚した当時と変わらない20歳の頃のままの姿だ。
でも、実際はよんじゅう…
「ぐはっ!」
俺のボディに拳が刺さった。
「あんた、何考えてるの?殴られたいの?」
「…殴ってるじゃんか」
「下手な事は考えないほうがいいわよ?特に女性の年齢とか」
「了解だ、姉さん」
「それよりも、なんでアンタがここにいるの?彼女への贈り物?ついに結婚するの?」
「結婚する相手は常に募集中だ。これは馴染みの子たち+αへのお土産だ」
フェノはもちろん、宿の給仕姉妹に姪のルイン。あと、スコーピオンからも頼まれた物がある。
奴のお土産だけは絶対に買っていく。もし、忘れていたら貞操の危機かもしれん。
「まぁ、いいわ。それよりもゆっくり話したいからちょっといい?」
「まぁ、いいけど」
「よし、それじゃあこっち」
俺は姉の後に付いていくと、少しオシャレな雰囲気の軽食屋についた。
「ここがオススメなの。美味しいのがいっぱいよ」
「ふーん」
姉がドアを開けて入る。
落ち着いた雰囲気とどこからか紅茶の香が漂う。とても落ち着ける感じだ。
「いらっしゃいま…、おかえりなさいオーナー」
20歳前後の可愛い雰囲気の女性がカウンターに立っていた。
「たっだいまー。紅茶2つとケーキも2つね」
「かしこまりましたぁ」
お、オーナー?
「ほらこっち、座って」
俺は姉さんに急かされて奥のほうにある席に座った。
小さなテーブルに俺と姉さんが向かい合って座る。本当に結婚した当時のままだ。
20歳を超える子供が2人もいるなんて誰も思わないだr…
「へぐぅっ!」
メニュー表が俺の眉間を抉るように飛んできた。
「また余計な事を考えてたわね?メニュー表で殴られたいの?」
「メニュー表が飛んでの間違いじゃないのかな?いや、それよりもオーナーって?」
「ほら、上の子のジャン覚えてる?」
ジャンは姉さんが結婚してすぐに出来た子だ。当時の姉さん夫婦は実家の近くに住んで農場を手伝っていたんだ。俺はその間子守をしていた。とても活発で将来は剣士になるって棒を振り回していたのを覚えてる。
「ジャンがどうした?」
「あの子ったら、アンタがいなくなってから料理にハマっちゃって今じゃ王都でもちょっとした有名人よ?」
し、知らなかった。鼻水垂らして木の棒を振り回していたジャンが料理人で成功しているなんて。
「それで、このお店のケーキも紅茶のジャンがプロデュースしているのよ」
俺は、たった今置かれた紅茶とケーキを見た。
なるほど、商業都市で飲んでいる紅茶とは香が全然違う。
「あと、下の子のジャック。あの子も建築ギルドで頑張っているのよ?このお店の雰囲気もジャックが提案したのよ」
ジャックか、俺が覚えているのはいつもジャンの後ろを付いていく泣き虫だったな。虫に怯え、強風で揺れる窓に怯え、一人になるのも怖がっていた子だ。
「あのジャックがね…」
20年ぶりなんだ。人は成長して変わるもんだな。なんだが感慨深いものがある。
「それで、この店が1号店で王都にはあと4店舗あるわよ。どの店も落ち着いた雰囲気で人気店よ。ちなみにこの1号店は会員のみのプレミアム店なのよ」
姉さんすげぇ。王都に5つの店を持つオーナーとかマジすげぇ。
「それでロビン義兄さんは?」
「あら?そこにいるわよ?」
姉さんが指をさした先には先ほどの可愛い雰囲気の女性だ。
「え?まさか?」
「そうよ、アレよ」
驚愕する俺に気が付いたのか彼女?は俺の所にやってきた。
「お久しぶりです。元気でしたか?」
その声は誰が聞いても女の声だ。
「え、ええ。お久しぶりです?」
「ふふふ、戸惑っていますね。これからも、ヨロシクね」
あの、男というよりも雄といったほうが的確な表現の男性フェロモンの塊の人がどうしたら、こんなかわいい女性になるんだ?
20年ぶりなんだ。人は成長?して変わるもんだな。なんだか感慨深いものがある、のか?
注文お願いします、と他のテーブルから声がかかり彼女?はそちらに向かった。
「…あの人、錬金術が得意だったでしょ?私の為に若返りの秘薬を調合したんだけど…」
「だけど?」
「泥酔してキッチンで調合しちゃって、何を入れたか成分も分量もわからないのよ。私も出来上がったのをノリと勢いで飲んじゃったし、旦那も酔い覚ましの薬と間違えて飲んじゃうし、あんときは大変だったのよ」
姉さんが黄昏ているが、ノリと勢いでよくわからない薬を飲むって超危険じゃないのか?
確かに、薬は成功だ。飲んだ人を20歳の女性に変えるんだ。
俺は絶対に飲まないぞ。
「で、アンタはどうなの?ちゃんとやってるの?」
「ああ、大丈夫だ。少し前に魔境都市で色々と実体化した魔物を狩ったからお金だけならある」
「お金が大丈夫でも、これからどうするの?早くお嫁さんもらってお父さんたちに孫の顔を見せてあげないさいよ。兄弟で結婚してないのはアンタだけだよ?」
「相手がいてタイミングが合えば結婚は考えているが、今のところ未定だ」
「そんなはっきり言わなくてもいいわよ。…そうだ、私が相手を探してあげる。いま貯金はいくらあるの?」
俺は冒険者ギルドカードの残高を表示させて姉さんに見せた。
ブーー!
飲んでいた紅茶を盛大に噴き出して驚いた。
「ちょ、ちょ、なんでこんなに稼いでるのよ?」
確かに俺は稼いだ。あのドラゴン1体で国家予算の数倍はあったし、今もなんだかんだと国家予算の倍以上はある。
「だから、変な女と結婚できないんだよ。勝手に使われてもしたら、経済がおかしくなっちまう」
「…なるほどね。…そうね、アンタはお金があるなら何人か女性を囲えばいいんじゃない?お金の管理はアンタがしてさ。」
「それはない。何人か囲う前に最初の一人を探しているだ。ちゃんとした考えと性格の人をね」
「難しいかもね。その金額見て心が動かない自信はないわ。それよりも身の回りは安全なの?」
「ああ、大丈夫だ。俺は冒険者ギルドに投資しているんだ。俺になにかあれば、冒険者ギルドが黙っちゃいないさ。っていうか、少し前に貴族に攫われた時は冒険者が雪崩れ込んできた。貴族の屋敷に」
「貴族に喧嘩売るってすごい冒険者もいたのね」
「いや、商業都市では改革が起きてるんだ。悪い事をしたらお金を積んでも許されなくなっているんだ。それで、俺を拉致した貴族も極刑になったみたいだし」
「へー、そうなんだ。昔の噂と違うのね」
「ああ、そうなんだ。で、考えたんだ。どうすれば、安全に楽して楽しく生きて行けるか?」
「らくしてたのしくてって…」
「とりあえず、金を稼いで俺に敵意を持たない人に奢りまくって仲良くなる。それで信頼を得られればラッキー。俺に何かあれば助けてくれるだろうって考えだ。誰しも金づるは失いたくないからな。奢られた金額がリスクの値段だ。そうやって友ではないが俺の味方を増やしている」
「…うわぁ、成金の考えじゃん」
「ああ、成金だ。俺の資産見たろう?あれだけあれば、味方はたくさん作れる」
「たしかにそうだけど…。それよりも仲間のパーティーで集まってそれぞれ守り合えば良いんじゃないの?」
「あれ?言ってなかったっけ?俺ソロで活動してるから、パーティー組んでないぞ」
「へ?ソロ?」
「ああ、一人だ。だから等分されるはずの大金を全て一人で総取りできるだ」
「…なるほど。今は組んでないのね。昔からちょっと変わった子だとおもったけど、今も変わってるわね」
「姉さん、ひどいな」
「あ!時間だわ。ごめんね。これから会合があるの。お金はいいからゆっくりしていってね」
姉さんは席を立ったので俺も立ち上がった。
「いや、俺も行くよ。色々と楽しかったよ」
「あらそう?」
「ああ、商業都市もそんなに遠くないから、会おうとすればいつでも会えるさ」
「そうね、父さんたちにも会いに行くの?」
「…いや、今回はパスだな」
「まだ、兄さんが苦手なの?」
「…まぁ、その話はいいじゃないか。じゃあ、ご馳走様。」
俺は姉さんの言葉に返事をしないまま、店を後にした。




