おっさんの空腹な日々
イリマから助勢を請われ4日目。
毎日を昼過ぎに起きて早く寝るという平穏な日常をすごしている。
今日も昼過ぎに起きて食堂で飯を食べようとしたが、とても混んでいて座れる席が無かった。
しかたなく、近隣の店に行くが何処の店も混み合っている。
なんでも大きな交易船がいくつも来たらしい。
なるほど、たくさんの船乗りが下りて飯を食っているわけか。
まぁ、そのうち適当に探せば空いている店もあるだろう。
俺は都市の中をぶらぶら歩きながら食事が食える場所を探した。
その後も、多くの店に足を運んだがどこも入れず、しまいには食材が終わったので仕入れ後の夕方に来てくれなんて言われた。
ため息をつきながら通りを歩くと美味しそうな匂いがしてきた。
少し先に串焼きの屋台が出ていた。
俺は迷わず進んだ。
人のよさそうな青年が肉を串焼きにしている。
ああ、美味しそうだ。
肉を焼き、タレを付けてまた焼く。
口の中に広がる唾液。
屋台まであと数メートルという所で俺の持っている宝石が振動した。
方角は、屋敷の方角・・・じゃない。
これは、街の外か?
俺は空腹を抑えながら建物の影から高く飛びあがり、屋根伝いに街の外へ向かった。
イリマ
市長暗殺。
敵の狙いは貴族でもある市長とその娘の暗殺だったか。
まさか、昼間から暗殺者を仕向けた上に二重、三重の罠で私たちは分断されるとは…。
私はお嬢様を連れてなんとか、包囲網を突破したが追いつかれるのも時間の問題。
乗っている馬も毒の影響で今にも倒れそうだ。
そして、追いかけてくる中には暗殺者以外にも魔物の姿がある。
ライオンの頭とヤギの頭、蛇の尾をもつキマイラだ。
手練れの暗殺者からお嬢様を守るのも精いっぱいなのに、キマイラまで出てくるなんて…。
それも2体。
あのキマイラを倒すのは私とナーガがいて守る者がいなければ、時間をかけて何とか1体なら倒せるだろう。
そもそも、私とナーガは討伐よりも危険な地域から採取を得意としているチームだ。
キマイラがいる場所への採取なら事前準備を完璧にしていくような場所だ。
こんな街に近い場所に現れる魔物ではない。
ック!馬が倒れた!
私はお嬢様の手を引き走ったがすぐに追いつかれた。
「そこまでだ。そろそろ観念したらどうだ?」
「まだだ!希望がある限り私は諦めない!」
「ふん、希望がある限りか…。さすがのAランク冒険者でも魔獣であるキマイラを2体も持ってきたんだ。希望なんてない…。やれ!」
2体のキマイラが襲ってきた。
ラグ…早く来てくれ…
ラグ(主人公のおっさん)
宝石の反応をたよりに行った先にはキマイラがいた。
それも2体。
キマイラなんて久しぶりに見たな。
で、その先には少女と一緒にいるイリマ発見。
ヤバイ。キマイラが2人に向かっていった。
俺は、キマイラの横っ腹に向かってドロップキックをした。
威力はなく、どちらかというと吹き飛ばすのを目的としたキックだ。
目論見通りキマイラは吹き飛び、隣にいるもう一体も巻き込まれ飛ばされた。
予想外に威力がたかったのか、蹴られたキマイラは倒れたまま起き上がることはなかった。
「助かった!」
イリマの喜んだ声が聞こえた。だが、俺は起き上がるキマイラと暗殺者を見ていた。
「キマイラを戦闘不能にするとは…、それにその銀色の鎧は…」
「己の力を過信し溺れる者よ、より巨大な力の前に必ず敗れる。そして、己の力量の無さに悔いる…。人、それを『必滅』と呼ぶ!」
「貴様…!名を名乗れ!」
「貴様らに名乗る名はない!」
起き上がったキマイラが爪で襲ってきたが、俺はアストラルブレードで駆け抜きながら切り裂いた。
倒れたキマイラを見て不利を悟った暗殺者は逃げ出した。
俺はアストラルブレードを戻し、馬にのって逃げる暗殺者に向かって駆け出した。
いくら肉体強化の魔法を使っても馬の速度には追い付けない。
が、俺は追いつき飛び上がると前方宙返りしながら飛び蹴りを放った。
狙い通り暗殺者の肩に直撃、暗殺者は馬から吹き飛ばされた。
馬には怪我一つない。
それに、暗殺者も肩が折れているが生きてはいる。
「助かった。礼を言う」
追いかけてきたイリマに頷き返す。イリマから渡された振動する宝石のついたネックレスを持っていた宝石と接触させて振動を抑えた。
そして、イリマの隣にいる可憐な少女に目を奪われた。
前世で、最後になった任務で守り切れなかった護衛対象にそっくりだった。
「このたびは、助けて頂きましてありがとうございました。私はミレーヌ・エメレルと申します。良ければ、お名前を伺ってもよろしいですか?」
俺は、ミレーヌの前に膝を付き頭を下げた。
「私は護るべき者を護り切れず、その時に名を捨てました。いまさら、名乗れる名前はございません。」
「そう、ですか…」
「私は再び、護るべき人と巡り合いました。私の名前はミレーヌ様がお付けください」
「ならば、シルバー・ナイトではいかがでしょうか?」
「ハッ。これより私はシルバーナイトとしてミレーヌ様をお守りします」
「ありがとうございます。シルバー卿」
「それでは、こちらをお持ちください」
俺はイリマから返してもらった振動する宝石をミレーヌに渡した。
「これは?」
「常にお傍で護衛できればいいのですが、私の力を利用しようと考える者が必ず現れます。その宝石に魔力を通せば私が持っている宝石が知らせてくれます。その時は、すぐに駆け付けますのでお傍で控える事が出来ないことをお許しください」
「わかりました。このネックレスは預かります。今回の事件が終われば私も安全になります。その際にはお返しします」
「ハッ、かしこまりました。他の護衛の方も到着したようなので、私は陰から見守りましょう」
いつのまにか、俺たちの近くには護衛やミレーヌの父親らしき人物までいた。
俺はイリマを見て頷くと空に高く飛び上がった。雲を抜けたあたりで空を蹴り街の反対側の森に降りて何食わぬ顔で街に戻った。




