表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
突然ステータスが見えるようになった世界で  作者: 朝丸
第1章 改良パッチは唐突に
6/21

6 ひとときの終点を目指して

「えっと、先輩? 私は『身体強化』と『風魔法』、どちらにスキルポイント振ったほうが良いと思いますか?」


「なに? 『風魔法』だって?」


 レベル上げマラソンの一人目、ガミちゃんが戻ってきて相談してきた内容は、予想外のものだった。

 今は、二番目に名乗り出てくれた鶴見 恵子さんの時間だ。


「そのスキルは初めて見たな……他の2人が戻ってきてからまた相談でいいか?」


「はい、分かりました」


「うーん、防御力を上げるために『身体強化』を優先してもらおうかと思ってたんだけど……魔法枠は『火魔法』しか俺たちには出てきてなかったからな」


「ひょっとして、基本的には『身体強化』と魔法が一つあるって事なんですかね?」


「なるほど、一理あるな」


 次に戻ってきた鶴見さんにも話を聞いてみる。鶴見さんは、いかにも若妻って感じの少し色っぽい人だ。


「鶴見さん、体調は大丈夫ですか? もし良ければ少しお話ししたいんですけど」


「……ええ、大丈夫よ。生き物を突き落としたっていうのに、案外平気なのね」


「あれだけ殺意向けられてますからね。見てくださいよ、あのゴブリン」


 綾瀬さんが上手く一匹ずつ連れて行ってる間、残りのゴブリンは大人数集まっているこっちに夢中だ。ある個体は愚直に突進を繰り返し、ある個体は唾を飛ばしながら透明な壁をガンガン叩いている。


「そうよね。普通の動物とは明らかに違うわ」


「それでですね、獲得可能スキルって分かりますか?」


「ああ、なんだか向こうの2人も後で相談したいって言ってたわよ。あなたに伝えてほしいって。私のは『身体強化』と『付与魔法』ね」


「なるほど……分かりました。どうぞ、休んでいてください。まあ、あいつらが気になるでしょうけど。しばらくしたらまた移動なので」


「分かったわ…………待って。私、あなたに言わなきゃいけない事があるの」


 ? はて、いったい何のことだろうか?


「その、最初にゴブリンに襲われた時のお礼を言ってないと思って……ありがとう。あなたがいなかったら私、多分殺されてたわ」


「……気にしないでください。あんな状況で、男なら誰だって体張ると思いますよ」


「そんな事ないわ。あそこにたくさんいたサラリーマンなんて我先にって逃げ出したじゃない。彼……浅間くんだったかしら、彼も頭抱えて動けなかったし」


「俺だって、咄嗟に動けなかっただけですよ。最近、運動してなかったんで逃げ遅れただけです」


「あれだけ大立ち回りしておいてよく言うわよ。運動が得意そうな体型でもないのに……何か、習い事でもやってたの? 空手とか」


「いや、去年までサッカーやってただけですね。部活辞めてから、体動かさないのに食べる量そのままにしてたら、まあ……」


 とまあ、いい感じに彼女の緊張もほぐれたようで、ガミちゃんや他の人も一緒に話をしていた。

 バックのゴブリンがうるさかったが、なんとなく場の空気が柔らかくなったのだった。



 レベル上げが進むに連れて、処理も近場でさっと終わらせる感じになる。そして移動中にもう一度あった襲撃の時には、2人も慣れてきたようでほぼ流れ作業みたいになっていた。


 2人も戻ってきて、現在『安全地帯』での話し合いの最中だ。


「いや〜、無事に終わったようでなによりです〜」


「無事じゃないですよ! 僕、ゴブリン抱えたまま壁の上にいなきゃいけなかったんですよ! 一歩間違えれば、あの高さから落ちていたとか、ああ……」


「だって〜、肩車しなきゃ高さが足りなかったんですから〜、仕方ないじゃないですか〜。それとも〜、スカートの中とか見たかったんですか〜?」


「なに? お前、そんな事考えていたのか? そうか、浅間がそういうやつだったとは思わなかったな……」


「最低ですね、浅間先輩」


「そんなわけないだろ!」


 浅間も無事、いじられキャラが定着したようだ。なんというか、安定感のある配置である。


「……おかしい……世界が変わったのになぜ僕はまだこっち側なんだ……」


「おーい、戻ってこーい。皆のスキルの話をするぞー」


「はっ」


「先輩の話によると、『身体強化』が安全パイだという話でしたが……」


 確かに、事前の話し合いでは下手に魔法を取るよりもステータスを重視すべきだという結論になったが……


「ああ、防御力を上げて生存率を上げるという話だったが、今回『安全地帯』を使ってみたら、あんまり意味がないように思えたな」


「それは〜、どういう事なのでしょうか〜?」


「綾瀬さんみたいに直接戦う人には大きいスキルですが、『安全地帯』の中だと何の意味もないんですよね。強いて言えば敵が遠距離攻撃を持っていた場合ですけど、その時も一方的にやられちゃうので」


「じゃあ、全員に『身体強化』じゃない方を取ってもらった方がいいのかな?」


「……今すぐ魔法を取っていいって人だけ取ってもらおうか。駅に着いたら俺と別れる事も考えられるだろうしな。俺も『火魔法』を取っておいた方がいいか?」


「えっ!? そんな事したら僕のオリジナリティがなくなっちゃうじゃん!」


「いや浅間先輩のプライドとかどうでもいいですし……」


 中々の毒舌だな、ガミちゃん。そして浅間よ、お前の頭はお花畑か。



 経験値稼ぎのために『安全地帯』は切って移動を再開する。駅までの移動も、レベル上げ前とは違って()()()()()()()()()()以外にも、皆の会話が弾んでいる。


 ……今の日本ってどういう状況なんだろうな。パトカーや救急車のサイレンは聞こえないのに、おそらく車が爆発しているのであろう音はたまに耳にする。


 線路横の壁に上っても、田舎の沿線だからか、あるいは時間帯なのか、人の姿は見当たらない。所々で黒い煙が上がっているが、モンスターに壊された車のものだろうか。

 モンスターらしき影が道路を歩いているのがかろうじて遠目に見える。


「こういう事態でも、政府機関はそこそこ機能してるのが多いんだよな。ネット小説だと」


「実際問題、SNSが使えないのは結構やばいと思うんですよね。私も友達と連絡取れませんしお母さんが心配です」


「通信局がやられてるって事なのかな? でもゴブリンにそんな事できる?」


「戦ってみれば雑魚だって分かるけどな、あの殺意には慣れてない限り対処できないだろう」


 平和主義を掲げる日本だ。治安部隊ならともかく、一般人がすぐ適応できるかは微妙な所だ。見える範囲にいないだけで、死傷者がそこそこ出ているであろう事は予想できる。


 一人っ子で両親や祖父母がすでに他界している俺には無用の心配だが、家族が心配な人もいるだろう。場合によっては、上手くフォローしないと、自殺に走ってしまう可能性もある。


「情報だ。なんでもいいから外の情報を手に入れないと、次の予定も満足に決められない」


「でもさ、僕ちょっとワクワクしてるんだよね。だって魔法だよ、魔法。なんでもできるって気にならない?」


「……あんまりそういう事言うなよ。将来、自分に返ってくるかもしれないからな」


「あっ、あれ駅じゃないですか?」


 言われて前を見ると、確かに屋根に覆われた建物が見えてきた。ようやく見えた移動の終点に、足取りが軽くなったような気がする。

 どうやら俺も、そこそこ緊張していたみたいだな。


 そしてたどり着いたホームで俺たちが見たのは……今まで飛び散っていたそれより明らかに面積が増えた、鮮血の海だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ