4 俺は、安全志向なんだ
「あのー、運転手さん。ちょっと疲れ気味の人もいるみたいだし、休憩を挟んだらどうです?」
「そうですか〜? 私的には、駅までノンストップでいけちゃいそうなんですけど〜?」
「俺たちはステータスが上がってますからね。スタミナも増えているとみていいでしょう」
「……なるほど〜。確かにそれは盲点でした〜」
浅間と俺で話しかけると、運転手さんは納得したようで、
「一旦、休憩にしましょう。足を休めてください」
と、皆に向かって言った。
あの不思議な声に加え、ゴブリンの襲撃があったのだ。誰もが相応の疲れを溜め込んでいたようで、壁に背をついたり、線路に腰を落ち着けたりして、各々休みをとっていた。
それにしても、素を知っている身としては、運転手さんの切り替えにはやはり戸惑うところがある。
なんというか、オンオフの差が激しい人だな。電車の運転手なだけあって、聞き取りやすく喋る事も出来るのに、俺たちと話す時はやっぱりあの口調だ。
「それで運転手さん」
「綾瀬 文といいます〜。あやお姉ちゃんって読んでくれても良いんですよ〜?」
「綾瀬さん、とりあえずステータスって言ってみてくれませんか?」
綾瀬さんの発言をスルーして、話を進める。一瞬、呼んでみてもいいかもと思ったのは内緒だ。
「は〜い、ステータス……ああ〜、こんな感じにもなるんですね〜」
「俺たちにはその画面見えないんですけど、綾瀬さんレベルはいくつですか?」
「3ですね〜。スキルポイントは2P溜まっていますね〜」
「なるほど、僕と同じだけゲットしたようですね」
なに?
「浅間、お前いくつスキルポイント持ってるんだ?」
「僕? 4Pだね。レベルが上がるごとに1Pもらってる」
「そうか……俺はそれが2倍になっている計算だな」
「はっ? うわ、チートじゃないか」
いや、検証もせずにいきなりチート呼びはひどいだろ。
自分が再現できない現象を全部チート扱いするのは、ゲーマーとしては許せないな。単なる実力不足って事も十分あり得るんだぞ。
格ゲーのコンボを決められただけで、ズルとかチートとか言うのは本当にやめていただきたい。
「いや、何か理由があるはず……多分これだ。称号に最初の適応者ってのがある」
「ああー、称号なんていうのもあるのか。しかもそれ、多分ユニークのやつだよね」
「じゃあ、えっと〜」
「大川 正信です。こっちが浅間」
「大川くんのスキルポイントは〜、8あるって事でいいんですか〜?」
「そうです。となると、他の違いも確認した方が良さそうですね」
その後、3人で色々調べた結果、
ステータス値は全員共通性が無い事、
誰もスキルを持っていない事、
レベルアップの必要経験値は共通らしい事、
そして俺が取れるスキルが他二人より二つほど多い事、
などが分かった。
「『安全地帯』はおそらく必須だな。スキルの説明から判断する限り、ある程度人数が集まっているところには定期的にモンスターが湧くって事なんだろう。俺は『身体強化』とこれを取るぞ」
「僕は『経験値増化』の方がいいと思うけどなあ。よく出てくるチートの一つじゃん」
「それも次取る予定だが、俺は安全志向なんだ。クールタイムはあるが、ノックバックの強制発動も出来る。この人数を確実に守る手段はこれで確保出来ただろう」
「なるほど〜、そうなると私は保留にして、浅間くんみたいに遠距離の攻撃手段を手に入れた方が良いんですかね〜?」
「いや、綾瀬さんは警棒の扱いが上手いんです。『身体強化』一点集中が良いと俺は思うんですけど……いやすいません、女性を前線に立たせるのはどう考えてもダメですよね。魔法獲得でも俺は全く構いません」
「大丈夫ですよ〜。大人が子供に戦わせる方がダメだと私は思いますし、大川くんの言う通りコレには自信がありますからね〜。『身体強化』をレベル2まで上げますよ〜」
結果として、俺が『安全地帯』のレベル1と『身体強化』のレベル3、浅間が『火魔法』のレベル3と『身体強化』のレベル1、綾瀬さんが『身体強化』のレベル2を習得する事になった。
スキルには10段階のレベルがあるらしい。獲得、またはスキルレベルアップに必要なスキルポイントは、浅間と綾瀬さんも習得できるものは1Pだが、俺だけが習得できるものは他に比べて膨大な量が必要になる。
身体強化 (パッシブ)
力、速、耐に上昇補正。
レベル上昇に伴って、補正値が上がる。
火魔法
火属性の魔法を使えるようになる。魔に上昇補正。
レベル上昇に伴って、使用可能魔法が解放され、補正値が上がる。
安全地帯 発動時間♾ クールタイム1分
自分の周囲5mに限り、そこにいる人を対象としたモンスターのスポーン率が0になる。一度発動すれば切らない限り効果が続く。
発動時に適用範囲にモンスターがいた場合、強制的に範囲外へ追い出す。ただし、テイムされたモンスターについては適用の選択が可能。
レベル上昇に伴って、範囲や仕様が追加される。
上二つしか二人は習得出来ないらしく、習得に1P、レベルアップも1P消費するらしい。他に比べて格段に説明が長い最後のは5Pも使わなければならない。ちなみに『経験値増化』も同じだけ必要だ。
あと称号にも説明があった。
最初の適応者
世界改変後、初めてモンスターを討伐した証。特定のスキルが獲得可能になる。獲得スキルポイントに上昇補正。
神(?)の説明途中で爆発が起きていたが、モンスターの討伐には関係なかったようだ。
「なんか、綾瀬さんには申し訳ないですね。この称号、綾瀬さんが貰うべきだったんじゃないかな」
「確かに戦い始めたのは私が先かもしれませんけど〜、大川くんだって立派に戦ったんですよ〜。怪我する人がいなかったのは大川くんのおかげなんですから〜、そんな事言わないでいいんです〜」
「そうだよ。僕なんて怖くて動けなかったのに、冷静にゴブリンに突っ込んでたからね。大川にぴったりの称号だと思うよ」
「……さっきまでチートって言ってなかったか?」
「悪かったよ。ごめんね」
いいだろう、許す。ゲーマーたるもの、些細な行き違いには目を瞑らないとな。
そんなこんなで、今後の方針を3人で話していると、ある壁にぶち当たってしまった。
「ステータスの説明をするためには、実際に体験させるのが一番と思われる」
「パーティが存在する事からして、組めば経験値共有が出来てレベルが上がる事が予想できるね」
「ただ〜、レベルが上がっていない現状ではステータス画面を開けないので〜、パーティを組む事が出来ませんね〜」
「「「う〜ん」」」
今まで見た事も聞いた事もない現象が次々に起こっているのが、今の状況だ。3人だけじゃ、対応できない敵とかも出てくるかもしれない。
自分の身を守る手段をここにいる全員に身につけてもらいたいのだが、どう考えてもモンスター突き落としをやらせなければ最初の一歩すら進めないのだ。
ここに残っている人は、全員が恐怖で動けなかった女性で、そんな人たちがモンスターを殺す事が出来るのかと言われれば……はっきり言って不安である。
「『安全地帯』はとりあえず切っておいて〜、移動は出来るだけ固まるようにしましょうか〜。事前に説明だけしておいて、大丈夫そうな人のサポートをするって感じでどうでしょう〜?」
「そうですね、俺はそれでいいと思います」「僕も」
「それじゃあ、これから説明しようと思うので〜、周囲の警戒をお願いします〜」
そう言って綾瀬さんは、休んでいる皆の所へ向かうのだった。