1 いつも通りの朝だったのに
ローファンタジーの定義ってどっかに書いてあるんですかね。
なろうに慣れていない作者が、日本を舞台にしとけばとりあえずローになるみたいなノリで書いてみた作品です。
とりあえずと言いつつ、そこそこ時間かけて頑張りますので、ぜひ最後まで読んでいってください。
ゲームというのは、いろんな要素を内包している。
テーブルゲームから始まったそれは、時を重ねるごとに進化を遂げている。そして、ゲームによって及ぼされる俺たちへの影響もまた、様々なものがある。
例えば、プレーによって得られる躍動感。
スポーツ勝負で勝った時や、難しい仕事を努力で片付けた時の「楽しい」という感情とは、似ているようでどこか違う。
やっている事は明確に非生産的だと分かっているものの、自分を正当化するためにあらゆる論を並べた結果、それが言い訳に聞こえてしまうような快楽の道具。
例えば、複数人のプレーで生まれる仲間意識。
俺は生まれてなかったから分からないが、協力にせよ対戦にせよ、同時に遊んでいる人間に抱く親近感とは、隣り合ってモニターを見ていた頃から共通しているものなのではなかろうか。
ソーシャルゲームなんていうのは「フレンドシステム」を少なくともどこかに取り入れているはずだし、俺もやっているFPSゲームでは、チームを組んで戦うモードがある。ネット上である程度繋がりがなければ、生き残れない世界だ。
俺はそんなゲームが大好きな人間だ。どこにでもいる、少しおデブな高校二年生である。
三度の飯よりゲームを優先するガチ勢ほどではないが、これと決めたゲームにランキング制があれば、日本の上位に食い込むぐらいにはやり込むゲーム馬鹿なのだ。
故に、俺の電車の中での過ごし方は、スマホゲームをする事以外にはない……嘘だ、試験前には一応単語帳を開く時もある。
目に悪いだとか、時間を無駄に使っているだとか言われているゲームだが、そもそもゲームとは娯楽である。
娯楽とは、人が余暇を過ごすためにする行為の事だ。
読書もスポーツも、あるいは酒を飲む事だって広義では娯楽と言えるかもしれない。
人間とは、便利さを求めて科学技術を発展させているのであって、では節約できた時間も仕事に使うのかと言われれば、そこまで勤勉ではない。
余暇というのは必然的に出来るもので、娯楽の無い生活なんていうのは、むしろ人間らしくないと言えるだろう。
ただし、娯楽である故にやり過ぎに対するダメ出しは容易だ。筋トレのやり過ぎで怪我をしたり、酒の飲み過ぎでアル中になるのと同じで、社会的に厳しめの評価を受けるのも当然。
そのため、現在電車の中でスマホゲームをしている俺を、隣に座っている女子高生が嫌そうな目で見ているのも当然の事だ。
運命と言い換えてもいい……やっぱり無しで。自分で言ってて気持ち悪かった。
彼女は、毎朝俺が乗る通学区間の途中で乗ってくる。なぜか結構な頻度で隣に座るのだが、それだけだ。
制服からして同じ学校の生徒のようだが、クラスはおろか学年も知らないただの顔見知り。少なくともクラスメートじゃないことは確かだ。
ちょっとした肥満体型も、イメージダウンを手伝っているだろう。このオタク、穢れるから触るんじゃないわよ、くらいには思っていそうだ。
やっていたのがギャルゲーの日なんか、向けてくる視線が冷たすぎて、思わずホームボタンを押してしまったぐらいだ。
そんなに嫌なら隣に座らなければ良いのに……始発駅から乗ってる俺に立てと言っているのだろうか。
まだ梅雨が明けたばかりなのに、サンサンと振り注ぐ太陽の光。週末明けの、少し憂鬱なごくごく普通の平日の朝。電車が走る音だけが響く、いつも通りの光景。
そういつも通り、学校へ行って帰るだけだった俺の学生生活は、いや俺たち人間の日常は…………その瞬間、何の前触れもなく消え去ったのだ。
突然、今まで感じたことのない、頭の中を直接触られているような感覚に襲われる。
思わず電源ボタンを押してしまい、しかし何かを考える余裕もないままスマホを手に頭を抱えると、腕が何かにぶつかる。見ると、隣の彼女も似たように手を頭にやっていて、車内の誰もがその状態だった。
普段と違う光景に俺が混乱していると、突然声が聞こえてくる。耳を通してではなく、頭の中に直接響いているような感覚だ。
〈あー、人類の諸君。急で悪いが、今から世界のルールに一部変更が生じる。君たちにはアドバイスを送るくらいしか出来ないが、まあいいか。別に儂が困るわけじゃないしのう〉
男の老人の声で聞こえたそれは、聞いただけで不思議と理解を促してくる。今喋っているのが、なにか超常的な存在なのだと。
〈君たちの作ったゲーム、特にRPGという概念。あれは面白いものじゃ。電子的な数値を現実や空想に出来る限り近づけたものじゃが、儂は驚いたぞ。ある意味、小さい宇宙を作り出しているようなものじゃ。儂にとっても参考になる代物じゃった〉
突然始まった怪現象の中で、突然始まったゲーム談義。ゲーム好きとしては、おそらく高次元の存在だと推測される人物(?)がゲームに好印象を持っているのは、非常に嬉しい所である。
あるのだが、脳が揺さぶられているような状態では、喜びを表す事すらまともに出来ないのであった。
〈故にじゃ、世界の在り方を弄れる儂がちょちょいと作り変えて、あるシステムを構築させてもらった。ロマン溢れる魔法だったり、エネルギー問題を解決出来たり、君たちにもメリットがあると思うぞ。その分、リスクもあるじゃろうがな〉
そこまで説明された所で、車内アナウンスが入る。
「急停車します! 手近なものに捕まってください!」
そう言われた瞬間、電車が唐突な減速を始めた。慣性力に引っ張られて、隣の彼女、さらにその向こうに座っている乗客の体重が押しかかってきて……重い、苦しい。
完全に停車するまでの間も、脳内の声は説明を続けている。
〈最初は既存の技術で対応出来るじゃろうが、日が経つにつれて次々と試練が始まるぞ。儂から送れるアドバイスは一つ、環境に適応するのじゃ〉
「ただ今、線路上に……子供? 子供の立ち入りが確認されています。安全が確認されるまで、しばらくお待ちくださ……きゃああ!!」
スピーカーから響く悲鳴に合わせて、どこか遠くで爆発が起きる。窓の外を見ると、今まで見た事のないような人型の生き物が複数いて、徐々にこちらに近づいていた。
いや、見た事ないのは現実での話だ。
色々なゲーム作品で扱われている、不健康そうな肌の色をした生き物。見たところ俺の半分くらいの大きさしか無いくせに、不自然に恐怖を感じるその生物の名前が、俺の頭に浮かんでいた。
そう……ゴブリンだ。
〈儂が用意した人類救済措置。システム改良とかルール変更とかの予定は全く無いから、安心してプレーするといいぞ。ではな〉
プツンと音を立てて、その存在のスピーチが終わる。同時に頭を襲う不快感が消えていき、そしてまた悲鳴が響き渡った。スピーカーではなく、同じ車両内で。
車内の視線が甲高い悲鳴をあげたOLに向かい、そのまま彼女が見ている窓の外へと向く。先程確認したゴブリンは、ゆっくりと、しかし着実に電車との距離を詰めている。
俺の乗っていた車内は…………パニックに陥った。
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