夢でダンジョン探索しています。~備えよ、そしてガチャれ~
ダンジョン。
モンスター。
そしてガチャ。
……いずれ現実に現れる、と誰かが言っている。
リセマラ?
課金?
ピックアップ?
しかし現実にはそれらは存在しない。地道に揃えていくしかない。
いずれ来ると言う現実のダンジョンに備えて。
男が歩いている。
軽装の鎧を着込み、手には斧槍を握っていた。
筋骨隆々とした体躯は巨木を思わせ、その腕は丸太のように太い。
しかし、それ以上に目を引くのは――顔だ。
容貌魁偉と賛美されそうな肉体の上には、悪鬼羅刹、仁王や明王もかくやと言わんばかりの恐ろしげな風貌が乗っているではないか。
見ず知らずの子供が泣くのは当然で、成人でも怯えて距離を取るような顔が、楽しそうな様子で鼻歌を歌いながら歩いていた。
そうして、男は目的の場所へ辿り着いた。
祭壇のある部屋だ。
近付き、手を翳すと――空中に光の窓が広がってゆく。
まるでゲームの表示画面のようなそれを、男は手慣れた様子で操作する。
実際、男は何度もここを訪れ、祭壇に触れてきた。
「んー。そろそろガチャを回すかねぇ。十連は……五回、か」
表示されている文字を読み、男は迷う事なく決定のアイコンをタップした。
すると、美しい音楽を奏でながら祭壇が光り始めたではないか。
最初は戸惑い、警戒していたが、既に何度もやっていれば慣れもする。しかし、ワクワクする。
男は黙って、その結果を待った。
そして――祭壇は五十もの様々な光を生み出した。白、銅、銀、金、虹。
それを見て、男はぐっと拳を握りしめてガッツポーズをした。
「おおっし! SSRが四つたぁ運が良い!!」
虹色に輝く四つの光。そんな中、一つだけぽつんと存在する黒い光があった。
「んん? こりゃあ一体……」
男としても初めて見る光だ。
しかし男は全く警戒していなかった。
この光の正体を男は知っているのだからそれは当然と言えた。
生み出された光は、全てが男の身体へと吸収される。
別口の表示画面を開いた男は、その画面を指でスクロールしていく。
獲得した光――スキルの詳細を確認しているのだ。
「ふむふむ……」
被りや使い道に困るようなスキルが殆どだが、使い道には困らない。
男が先程、言っていたようにこれはガチャだ。
ゲームのキャラやアイテムを得るガチャではなく、現実の自分を強化していくガチャなのである。
ただし、ゲームと違い、課金が出来ず、ピックアップは存在しない。
しかし制約は勿論存在する。自分の可能性をスキルへと昇華する為に、ガチャの対価を得る為に、敵性存在と戦闘しなければならないのだ。
他にも様々な制約、条件等が存在する。
しかし男はそれを受け入れ、嬉々としてこのダンジョンで戦っていた。
このダンジョンの名は、日本語で『夢幻迷宮』。
夢の中でしか訪れることが出来ないダンジョンである。
そして、このダンジョンを探索する男は、現実ではどこにでもいるような学生であった。
男は、獲得したスキルを確認していき、イレギュラーであった黒い光のスキルの詳細を見て、訝しんだ。
「こりゃあ……――ぐっ!?」
不意に胸を押さえ、男は苦しみ出す。
何かが溢れそうで、暴れ出しそうで、壊れそうで――頭が割れるような激痛が走り、男は手にしたSRスキルで作成したバルディッシュを取り落としてしまう。
頭を抱えようと両腕を目の前に動かし――
「なん――じゃこりゃあっ!?」
両腕が、異形の腕へと変貌していた。
太い腕は、更に太く長く凶暴に。
肌はまるで装甲のように堅くなっている。
指先もまた鋭く、獣の皮など容易く引き裂けるだろう。
体中から黒と金の何かが溢れ出す。
それらはすっぽりと男を包み、巨大な繭となった。
いや、卵だろうか。
しかしそれは即座に全体に亀裂を生じさせ、破片となって四散した。
生まれたのは、漆黒と黄金の獣。その姿は竜にも見えた。
太く、巨大な腕を持つ竜獣は、いつもよりも高くなった視線に違和感を感じ、己の身体を見下ろした。
長い首、堅い外皮、牙に爪。そして尾。
明らかに人外のそれへと変貌しているではないか。
ふと、足下に転がっている得物を見る。
いつも使っている得物が嫌にちゃちく見え、無意識に手に取ればそれは巨大化したではないか。
いつもの手に馴染むサイズに巨大化した斧槍。その姿も黒と黄金に彩られているのは見間違いではないだろう。まあこの斧槍も、己のスキルにて造ったものなのだ。持ち主が変身したのだから、武器も変身するのは当然なのだろう。……そう思わなければやってられない。
「……あの黒いスキル、ディザイアスキルってヤツだったのか」
自分の心の奥底にある欲望や願望を具現化するスキルで、何度もダンジョンを探索し、何度もガチャを回していればお目に掛かるのだと、時折遭遇する同業者から聞いてはいたが、確かに強力で癖が強いスキルだ。
しかし、出逢った同業者の中にディザイアスキルの保有者はいなかった。元より会った人数はそこまで多くない上に、そこまで深く交流したことはなかったからだ。
それは偏に――この顔にあった。
悪党呼ばわりされる事もあったし、問答無用で攻撃される事だってあった。
無論、そうではない人もいるにはいたが、しかし同行を望まない程度には、男は――少年は他者を煩わしく思ってしまっていた。
悪党のようだと面と向かって罵られた事は一度も無いが、しかし目を逸らされる頻度が多いのだ。時には、腕力で鳴らす不良や先輩、教師すらも。
他者よりも恵まれた高身長が更にそれに拍車を掛けた。
中学の頃より『夢幻迷宮』で戦ってきたせいか、現実の肉体にも徐々に反映されてきてしまったのである。
戦いを通じて醸し出される明らかに堅気に見えない雰囲気。
折れて斬られて何度も酷使してきた太く大きく長い手足。
掌だって広く厚い。拳を握ればそれだけでハンマーのようだ。
戦う為の肉体。
それが一層の威圧感を人に与えてしまう。
別段、誰彼構わず殴るつもりも、ましてや殺すつもりはないのだ。
しかし、脅威から遠ざかりたいのが人間というもの。距離を取られる事には慣れていた。
気持ちの良い同業者に出逢っても、向こうの相方が怖がり嫌がればそれで終わりだ。
だからこそ、少年は一層に力を求めた。
独りで生きたくはないが、しかし一人でしか生きられないのなら、備えなければならない。
――数年後に、ダンジョンが現実に出現すると知っているのだから。
せめて、両親を護らなければ。
家族の中でこのダンジョンに潜っているのは自分だけなのだ。
こんな恐ろしい風貌をしている自分を愛してくれる両親を、どうして見捨てられようか。
故に決めていた。
社会が混乱しようとも、家族を最優先に動く、と。
それが、少年――男の覚悟だった。
しかしそれ以上に、男には隠れた願望があった。
変身願望。
それが男のディザイアスキルの根幹である。
生い立ちのせいで若干捻くれた少年は、自分が思う強くて巨大で格好良いモノ全般に憧れたのだ。
その願望を汲み取った祭壇は、ディザイアスキル《IR‐化身‐《アヴァター》‐》を男の中から生み出した。
強くなればなる程に、様々な化身に変身する事が可能になるスキル。
そして、変身する為の材料は――手に入れたスキルやドロップ品だったようだ。今まで手に入れたアイテムがほぼ失われていたのだから。
彼が今まで手に入れてきた全てのスキルやアイテムは、《IR‐化身‐》によって誕生した竜獣の餌となった。
故にスキルで生み出された斧槍もその影響されたようだ。
「……こりゃあ。……うーわ」
爪で表示画面をスクロール。
表示画面内に保存されているアイテムは、ポーション系や武器防具、道具の類だけで、素材系は軒並み全滅していた。
これでこの変身した姿が脆弱だった場合、一週間は立ち直れない。
何度もダンジョンより出されるクエストをこなさなければならない。それも何度も。
斧槍を手に祭壇の間を出ると、奇妙な眩暈を感じた、空間が歪んだ。
気が付くと、そこは広間だった。強制転移系のトラップだ。
闘技場を思わせるそこには、敵性存在――即ちモンスターがいた。
軽装の鎧に身を包んだゴブリンの集団。
ゴブリン・ソルジャーとでも言うべき連中が、剣や槍や弓や盾を構えてこちらを睨んでいた。
普段なら、命の危機を感じる人数だ。
ふぅ、と息を吐き。
「舐めんな……っ」
歯を剥いて威嚇する。
殺気を放ち、斧槍を構えた。
これまで何度も掛かったトラップだ。
即座に発動した食われたはずの鑑定系のスキル。どうやらこの手のスキルは、自分が使いたいと考えれば使えるようだ。
スキルが初期の頃に戻っているが、また後で設定を変えなければ。
そんな事を考えながら即座に距離を詰め、斧槍を一振り。
それだけでゴブリンは血煙に変わった。肉片一つ残さず、武器すら粉々になって。
余波で闘技場すら粉砕した。
「うわーお……」
そして、周囲の景色は元の通路へと戻っていく。
油断して祭壇の間を出ようとすると強制エンカウントするが、一定の実力があればボーナスステージでしかない。
この男には余り効果の無いトラップだったようだが、新人だった場合は獲得したスキル次第では一発でゲームオーバーとなる。しかしガチャを引かなければそのトラップは作動しない。
しかしこのガチャ、夢とは言えども
竜獣の姿が崩れ、黒と金の波へと変わる。
その波は男から一度離れ、男の身体へと勢い良く注がれていく。いや、戻っていく。
これは、この男の力なのだ。
迷宮という修練の場で研ぎ澄まされた――生き抜く為の力。
男は歩を進める。
感覚で分かる。もうすぐ夢から醒める時間だ。
表示画面を切り替え、マップを表示する。踏破した場所をオートマッピングするスキルも《IR‐化身‐》に食われた筈だが、普通に使えるようだ。
ふと、武具を作成するスキルを再度発動させる。
斧槍ではなく、槍を。
すると、金の柄と黒い刃を持つ槍が現れた。
「派手っつーか、またなんか悪役が持ってそうな槍だなぁ」
特に黒い刃と言うのがそれっぽい。刃に毒が塗ってあると言えば信じてしまいそうな印象だ。
ふと逆をイメージすれば、黒い柄に金の刃の槍も造ることが出来た。
どうやら、使えるスキルの一覧が脳内に浮かんでくるようだ。
次はこの二槍を使い、ダンジョンを探索してみよう。腕を磨く相手は事欠かないのだから。
こちらが何もせずとも、モンスターは探索者を殺そうと襲いかかってくる。
テイマー系のスキルを持った同業者もいたが、それ系統のスキルは男は保有していなかった。
歩を進めていくと、気配を感じた。
男は召喚した二槍を無造作に握り、構える。
広い通路をして、前方と背後に出現した殺気に、男は溜息を吐いた。
ここで安全を確保しなければ、『夢幻迷宮』から脱出する事は出来ない。周囲に敵性モンスターが存在する場合、殺されなければ迷宮からは解放されない。しかし殺されればその日に手に入れたスキルは失われる。
現状、男のスキルは《IR‐化身‐》一つのみ。数十を越えるスキルが一つに統合されたせいで、確実に死ねばロストするだろう。
どんなレアスキルでも、失われる時は一瞬だ。
故に、男はどんなモンスターが襲ってこようとも、確実に殺すつもりだった。
初手より出せる全力を出す。
様子見なんぞ以ての外だった。命が掛かっているし、死ぬ際の不快感は言い様がないのだから。
故に全力で、出現した豚の頭をした人型モンスターであるオークの集団を二槍で薙ぎ払った。
受け止める事も出来ずに、オークたちの胴は二つの槍で薙ぎ払われた。人の姿であろうとも、これまで培った力は常人を越えているのだ。例え弱い敵しか出ないような浅い階層であろうろうとも、蹂躙は可能だった。
スキルが使えなくとも、ダンジョンで長く戦っていれば超人と呼ばれるようになる。
「さぁて――戻ったら学校かぁ」
男は、表示画面――通称『ステータスウィンドウ』を操作し、ダンジョンから出ようとする。
その時だった。
「あれ?」
ふと、送られてきた《メール》を確認する。
この迷宮でモンスターを倒した瞬間に獲得する基本能力の一つである、同意した者同士でメールを送り合える機能があった。
しかし、宛先の人間の名前は自分の記憶に無いものだった。……というよりも、読めない。
文字があるのは解るのだが、理解が出来ないように阻害されているようだ。
「イタズラ……じゃねぇんだよな」
メールの本文を見れば、そこには何らかのスキルによって無作為にこのメールが送られている事への謝罪があった。
どうやら送り主は、この『夢幻迷宮』を最初期から攻略している古参らしい。
勿論嘘の可能性もあるが、その場合は容赦しないだけだ。
読み進める文面には、彼が善人である事が伺える内容だった。
曰く、
現実に出現するダンジョンは多種多様で、自分だけでは対応が出来ない。
その為に彼は無作為に人を選んでこのダンジョンに招き入れたらしい。
だが、無作為の為か、ダンジョンが出現しても人を助けないような人間が多いようだ。
このままでは日本は、暴徒と化した人やダンジョンから溢れたモンスターによって崩壊の一途を辿るだろう。
そうなった世界で、支配者になろうと画策する連中も少なくないとあった。
弱肉強食となり、弱者を今以上に食い物にしようとする連中が多く、彼は対処も検討しているらしい。
故に、ダンジョンでの行動をリサーチし、人道的な人間を無作為にこのメールを送ったとあった。
そして、このメールが届いた時点で次の日のダンジョン攻略を動画として、まだ招いていない新しいダンジョンシーカー(ダンジョンの攻略者を彼はそう呼んでいるようだ)へのガイダンスとするらしい。
「……つまり、次のダンジョン探索で、俺はWetuberや、ワラワラ実況者のダンジョン版に登場するって事か。……俺が?」
怖がられるような顔をしている俺だが、どうする?
仮面でも着けるか?
いいや逆に仮面は怪しすぎる。
……色の濃いサングラスで眼だけでも隠せばいいか。
「……どうすっかなぁ」
★★★
あー、これか。
へぇ、メカっぽいなぁ。
……あれ? 赤いランプ? もう始まってんの?
(頷く画面)
マジか。
……オホン。
えーと、どうもこんばんは。
俺はー、えーと……そう、ダンジョンシーカーの……えー、クロガネです。
あー、多分なんで俺なんかの夢を見てるのか解んないだろうけど、まあ今後の為と思って我慢をしてくれ。
多分、起きてもこの夢は覚えてるだろうけど。
えー、クロガネってのは偽名なんで。
ネットとかラジオでよくあるハンドルネームやペンネームってヤツ。
この夢を見てる人らは、いずれこっちにやって来る予定の人――らしい。身バレしたくないなら、こっちで名乗る名前も考えとくといい。
もし、俺のリアルを知っていてもそうじゃなくても、人に話さないでくれよ?
俺じゃなくてもここ関連の話をすれば、このダンジョンには入れなくなるし、忘れる事になるってさ。
辞退したって見做されるらしい。
……正直、将来の事を考えたらここで地力を上げるのは悪い話じゃねぇと思う。
さっき、俺は自分の事をダンジョンシーカーって呼んだよな?
これは古参の人――まあ俺らみたいな連中をこのダンジョンに招待した人が、そう呼んでいたから俺もそれに倣ってるだけでな。
他に会った人は別名を名乗ってたりするよ。
冒険者とか、英語でエクスプローラーやダイバーって言ってるのもいるらしい。
まあ、呼び名なんて好きにすればいいさ。
ヤる事は決まってる。
こういったゲームでお馴染みのダンジョンを探索し、モンスターを倒す。それだけだ。
……こっちに来て、襲ってくるモンスターを倒せば、嫌でも理解するだろうさ。だから俺はこれ以上は言わない。
そこまでは責任持てないしな。
……お、モンスターのお出ましだ。
(人間の子供くらいのサイズのモンスターが五体現れる)
(しかしクロガネの二つの槍で薙ぎ払われ消滅する)
さて、俺が倒したこのモンスター、ゴブリンってんだが、基本最下級のモンスターだ。大体はコイツが出てくる。
どんな手段でもいいから倒せ。
コイツらは、ちょっとゲームに詳しければどういうヤツかは解るだろ? 基本的に男を餌に、女を繁殖にってのがデフォルトだ。強い個体もいるが、それでも基本的な行動は変わらん。
えー……あ、そうそう。
俺はこういった説明を受けてないから知らなかったけど、寝る時に手に触れていたモノを一番最初だけは持ち込めるらしい。
それこそバットやゴルフクラブ、木刀なんかあったらお勧めしとくわ。真剣や拳銃なんかあればいいんだが、日本で持ってる方が少ないだろうし。
で、モンスターを倒したら――この、『祭壇の間』に強制的に転移させられる。
どこにいようとだ。
で、こうやって祭壇の画面――『ステータスウィンドウ』を起動する。やり方はモンスター倒せば感覚的に解るだろうから省略。
で、十連ガチャを回します。
うん。十連ガチャを回します。
……そうだよなぁ。
なんでガチャなんだって話だよなぁ。
モンスターを倒す事や、ダンジョンを進んでいけば、この《スキルガチャ》を回せるようになる。
そういう仕様だって諦めてくれ。
俺なんかも随分苦労したし。
ただしこのガチャだが。
リセマラは出来ないし。
課金は無理だし。
ピックアップは無い。
ただ敵を倒せば、ガチャを回す為のポイントを稼ぐ事が出来る。
強い敵の方がポイントは高いが、弱い敵だって数をこなせば稼げる。
言いたくはないけど、命が掛かってるんでな。基本弱い敵を完封出来るようになってから、先へ進んで良いと思う。
冒険したいなら止めはしないけど、リスクはあるからな。
死ねば復活出来るけども、その日手に入れたスキルは全部無くなるぞ?
何もスキルを入手していなけりゃ、持ってるスキルがランダムで消えていく。
何も無い状態で死んだら……どうなるかは俺も知らん。
ただし、俺はその検証はしない。
やりたいなら自分の身でやってくれ。
……ああ、誰かを騙してこれをやるってヤツもいるかもな。もしダンジョンに入ってこんな事を言ってくるヤツがいたら、敵だと思った方が良い。
さて、今回俺が手に入れたポイントで、一回分のガチャが回せるようになった。
だからここで一回、俺はガチャを回してみよう。
流石に所持しているスキルを見せるのは嫌だけど、それくらいならやってやるとも。
…………基本的にガチャは渋いからなぁ。
一応ソシャゲをやってる人には釈迦に説法だろうけど説明しとく。
ランクはC、R、SR、SSR……それと、IRがある。
五種類のスキルで言えばSSRが最上位だ。IRは文字通りイレギュラーで、手に入れていたスキルの数で性能が変わる。
最初に手に入れても不便なスキルにしかならない。
ある程度スキルが無いと、マジで苦労するからな。
逆を言えば、SSRスキルをいくつか持っている状態でIRを取れば、ダンジョンの探索で頼りになるスキルになるかもな。勿論デメリットもあるぞ。IRを取得すると、今まで手に入れた全部のスキルが取り込まれるんだ。ランクに関係なく、全部だ。……まあ、流石にIR持ってて更にIR取ったらどうなんだってのは、流石に解んねぇけど。
で、このIRには異名がある。
ディザイアスキルって。
欲望やら願望って意味の英語だわな。つまりIRは、自分の心の奥底にある想いが形になったスキルって事さ。
願望や欲望を実現する為には努力や代償が必要だろ? そういう事らしい。
これは俺の憶測になるけど、スキルのレアリティーは本人の意識が関係している。俺にとってSSRが誰かにとってのRだった、なんてのもあるかもな。
ああそうだ。もし願望や欲望なんて言葉に嫌な感じがするなら、希望や夢とでも言い換えて納得してくれ。……それでも嫌なら、諦めて死ぬしかないぞ。
そうすりゃ、そのスキルはロストする。
だが、死に癖は付けない方が良いぞ。
現実じゃあ死に戻りなんて出来ないんだからな。
どんな未来が来ようとも、多分、こればっかりは変わらねぇと思う。
保証なんて俺には出来ないぞ。
でも、ここなら戦って、勝ち取って、備える事が出来る。
大切な人がいるなら、自分の命が大事なら、ここでの苦労は価値があると思う。
日常が退屈で、今を壊したいなら、ここで遊んで行け。それでも詰まらねぇって嘯くんなら……多分、一生そのまんまじゃねぇの?
理由なんて何でも良い。
ここへ来て戦う覚悟を決めたんなら同業だ。
もしダンジョンで逢えたら、仲良くしてくれ。……こんなツラだからな。怖がらねぇでくれたら望外だ。
……話が逸れたわ。スマン。
んじゃあ、ガチャを回すぞ。
まあ基本俺は単発はCばっかなん――――え?
(虹色に祭壇が輝く)
え、ちょ、おい。
これ、SSRの確定演出……っ!
単発でこんなん一年振りだぞ!?
(祭壇から虹色の光の玉が飛び出す)
……マジか。
(SSR‐百万の腕‐を取得しました――の表示)
……はは。
このスキル……疑似的な腕を召喚するスキルか。
ある程度、数や大きさ、形も自由に出来るみたいだな。……使いこなすにゃ数をこなさねぇと。
(ふと、こちらを見る男)
あ、悪いな。
つい夢中になっちまった。
とまあ、こういう事もあるが、命の危険だって感じれば、実際に痛い思いもする。
同業者やモンスターに騙される事もある。
タチの悪いトラップで死にそうになる事だってしょっちゅうだ。
それでも俺はここで探索を続けて、ガチャを回してる。
そうしなきゃ、マジで将来死ぬかもしれねぇからな。
どういう事なのかは言わない。
自分でこのダンジョンへ来て、戦って、知って欲しい。
そうでもしなきゃ、嘘だって思うだろうからな。
だから、同業者は大歓迎だ。
……こんなとこでいいか?
(頷く画面)
そうか。
んじゃあ、俺はスキルの慣らしでもやるかねぇ。
……ん?
そこまで見せるの?
あ、始まりだけ?
(頷く画面)
……ああっと、言い忘れてた事がある。
もしこの《ガチャの祭壇》でガチャをした場合、部屋を出ようとしたら強制的にエンカウントすることになるんだ。
転移されるか、それともそのまま出てくるのかはランダムだけどな。
(通路からモンスターが襲い掛かってくる)
……今回はそのまま、か。
んじゃあ、今回手に入れたスキルを使ってみるか。
(クロガネが構えると、黒と金の腕が二つ召喚される)
……あと二つくらいは余裕か?
(更に二つ追加する)
んー、どこまで増やせっかなぁ。
取り合えず、殴らせてみる――
(徐々に画面がぼやけていく)
『彼が話した事は概ね事実だ。彼は見た目と違い、誠実な少年なのでね。嘘を吐いていない事は、選んだ私が保証しよう』
『そして、君たちもまた、変わりゆく世界を生き抜く為にここで学んで欲しい』
『求めなければ、一歩でも踏み出さなければ、自らの望んだ自分にはなれないのだから』
『この映像を見た翌日の夜に、君たちはダンジョンに招かれる』
『準備は一日だけだ。……辞退したければ彼が言ったように、現実でこのダンジョンの事を誰かに話せばいい』
『では……現実にダンジョンが顕れるまで――この『夢幻迷宮』を探索してくれ』
『さらばだ』
Q:怖い顔のマッスル系〇outuberが、サングラス付きでダンジョン探索での注意点を語っています。そしてガチャでSSRを手に入れました。(実はその前日にシークレットも当てています) さて、視聴者の反応は?
1:羨ましがる。
2:嫉妬する。
3;特定して晒そうとする(説明通りに忘却)
4:ダンジョンへ行く準備をする。
A:全部。