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7

「ねえねえ、スマルさん。わたしクアラにおみやげ持ってきたくて……持って帰ってもいいのありますか?」


なにもかもが珍しいのか、リンが目を輝かせ問いかけた。


「リンが気に入ったものを持って帰るといい。クアラはリンが選んだものならなんでも喜ぶと思うよ」

「はい!……どれにしようかなあ」


リンが帰っただけでも感激するぐらい、クアラは当てられているからな。あの様子じゃリンが番だというのは間違いないだろう。

リンの方は番というものをまず知らないだろうから、ミナラも交えて我々の一族やこの(アシュフォード)のこと、そして他の種族や基本的な世界の常識を教えてやらねば。

それにリシルが今調べているとはいえ、どれぐらいこの子に関する情報が得られるのか分からない。それを踏まえた上で再度話し合いをするべきだろうな。

リンのために新しい授業を思い浮かべながら、これからのことを考えていた。

ーーーと、そこに。



「みんな、静かに…集まって」


アザリに目配せをして散らばった仔狼たちを自分の後ろへ集める。なにかが近づいてきている。耳を真っ直ぐに立てながら周囲を観察するも、それが危ないものではないと分かり警戒を解く。


「お前たちか、いきなり無言で近づいてくるなよ」

「チビたちがビックリするじゃねーか!」


俺とアザリの声に現れたのは、俺たちより更にでかい熊族。


「わりーわりー驚かせようと思ってよ」

「何気に一番ビビってたのはアザリなんじゃねーの?」


ゲハハと笑う熊が二頭、完全に面白がっている。 仔狼たちに目を配らせると、リンを除いた全員は熊が友好的な相手だと分かっているので警戒はしてない。リンは、と見ると。


「ほあー……」


開いた口が塞がってない様子。後ろに倒れるんじゃないかというぐらいに頭を上げている。


「お!見かけねー可愛こちゃんがいるな」

「そんな見上げてたら転ぶぞ〜」


よっこらせ、とリンの前にしゃがみこむのは二頭の内、若い熊族のガルロ。アザリより少し上ぐらいで、なかなか肝の座った若者だ。


「ふえ、おっきーくましゃんですね」


思わず噛んでしまう様子に和む。本人は噛んでしまった事実に気づいて恥ずかしそうだが、それが更に可愛さに磨きがかかってしまう。


「なんだよ、めちゃくちゃ可愛いな。俺は熊族のガルロってんだ」

「俺はミヤジってもんだ。よろしくな、可愛いおチビちゃん」


にしっと笑うもう一頭の熊族、ミヤジ。俺と同じ代ぐらいで熊族の中でも腕っ節が強い、次期の長候補に入っている雄だ。


「はい!あの、わたしはリンっていいます!よろしくおねがいします!」


今度は噛まずに言えた、と自慢げな様子に思わず笑みが溢れる。


ガルロとリン、他の仔狼たちが喋っている中ミヤジが俺に目配せをした。なにか話があるようだ。少し距離を置いて離れる。



「どうしたミヤジ」

「近々頭領会議が開かれる」

「なんだ何かあったのか?」


頭領会議、森に住む一族の長が集まり森でのことについて決断するものだがそう起こることでもない。それ故にとても緊急で重要なことだ。


「まだ憶測を出ていないが、もしそうならば、かなり、……」


端切れが悪そうな言葉に、事態があまりにも思わしくない可能性がある。


「ーーー【六眼(ロクガン)】だ」

「まさか、……」


よりにもよって、【六眼】。

これは一刻も早くクアラに報告せねばならない事案だ。


「うちの精鋭も森を巡回するようにはしているが、ーーーそうでないことを今は祈るばかりだ」

「わかった、情報ありがとう」

「ああ」


視線を向ければ、仔狼たちがガルロに抱き上げられて喜んでいる姿が目に入る。

こんな時がずっと続くような平和を保たねば…

…。


まだ巡回を続けるという二頭を見送り、俺たちも帰路につくことにした。

リンはクアラへのお土産をトルの花にしたようだ。小さな手に何束か、嬉しそうににこにこと終始笑顔を浮かべて大事そうに持っていた。


「ぼくね、まだまだリンには教えたいものがいっぱいあるからまた一緒に行こうね」

「俺も俺もー!」

「アタシが連れてってあげる」

「じゃあ俺も付いて行っちゃおっかなー」

「アザリは狩り組でしょ!」

「うん!いっぱい!いっぱい連れてって!」


仔狼たちの明るい元気な声とは別の場所で、望まぬ者が目を覚ます。


熊さん登場です。

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