閑話◆禁忌の草
お待たせしました。閑話ですが楽しんで頂けたら幸いです^ ^
仔狼たちにはリシルがボッコボコにされたと大袈裟に話だが、実を言えばそうではない。
そう、あれはまだ私がアザリぐらいの時の話だ。クアラとリシル、ミナラやカルシア、ナタシアと一緒にこうして森を歩いていた。
幼馴染である5匹と一緒に連れ添うのはいつもスマルの役目だった。
成熟期に一番近い者がリーダーという暗黙の了解だったためだ。だが、リーダーというよりはお目付役といったところか。なにせスマル以外はその当時を知る村民一同頷くクソガキだったからだ。
その日は暇だと騒ぐクアラとリシル兄弟を筆頭に、五匹を探検という名の暇つぶしに連れ出した。
「ねーねー、スマルにーちゃん!僕お腹空いたー」
「おっれもー!なあお前らもだろ?この辺でおやつ探ししよーぜ!!」
特に目的もなく歩いていたのだが、程なくしてリシルが空腹を訴えクアラがそれに乗っかり、触発されて皆が食料を探すこととなった。
「ほどほどに取れよな、また取りすぎて怒られるのはごめんだぞ」
「はーい、スマルの言うことちゃんと聞くからミナラとデートしよ!」
「こらカルシア!枝を折るなって言ってんだろ、ナタシアは真似しないでいい!!」
「もう無視しないでよー、スマルのイケズー!!」
ギャウギャウと牙を見せながら拗ねるミナラの頭をわしゃわしゃっとスマルが撫でれば一気に機嫌は治る。
日常茶飯事のそれを周りは目もくれず、一心におやつを貪っていた。
ルドルを一つまた一つと口に運ぶリシルの手が、ぴたりと止まった。
その中にこの気まぐれホレホレ草があった。
食べた瞬間に直立不動で無言になったので、なんだか不気味さが余計に増した。
「リシルどうしたの?なんか変なもの食べたの?」
トンっとカルシアがリシルの肩を叩き、彼の眼がカルシアの姿を捉えた。
「ヒッ」
「カッ!カルシアッ、好きだー!!!」
そう叫ぶとガバッと抱きつき、尻尾をブンブン振る。
もちろん俺たちは突然のことに驚きすぎてすぐに反応が出来なくて・・・・・・。
「毎日カルシアのことだけ考えて生きていきたい!俺の生涯の番になってください!!!」
リシルが騒ぐ中、逆に静かになっていくカルシア。それがとても口では表現できないほど、冷たい空気が流れた気がした。
ブワッとカルシアの毛が逆立つ。
目がカッと見開いて、抱きついていたリシルの背中をガシッと掴んだかと思えば、放物線を描き空中に放り出されーーー。
ハッと我に返ったスマルが咄嗟に駆け出して、ギリギリのところでキャッチした。その衝撃で飲み込んだホレホレ草がリシルの口から飛び出し転がる。
「あたしは!リシル!あんたみたいな、乳くさくて弱いチビなんか絶対にごめんよ!!あたしより強くて、筋肉もムキムキで、逞しくて大きい狼以外はずぇったいに、嫌!!!」
グググッと握った拳からなんか闘気みたいな力が溢れていた。それに目は血走ってるし、毛は逆立って怒りが満ち溢れているのが分かる。
リシルはなんのことかわからないまま、カルシアの猛烈な怒りに耐え切れず「わああんあああん!!」と泣き出した。
ーーーわかる、俺でも怖い。
スマルは慰めるように抱き上げてあやして、ミナラとナタシアがカルシアを「落ち着いて、ねーさん」「カルシアの好みはちゃんと分かってるわ」と宥める。
当のクアラは呆気にとられすぎてオロオロと双方を眺めて、駆け寄る駆け寄るまいかしている。そんなクアラを呼んでリシルの泣き止ませるように促し、俺はこの原因となった気まぐれホレホレ草を手にして、全員が落ち着いたところで説明をした。
「と、いうわけでこの草は禁忌だ。頭のいいお前たちなら分かっていると思うが、絶対に悪用してはならない。こんなもので得た愛など、虚しいだけだからな」
リシルにとってはトラウマと呼ぶべきものとなったが、今ではいい笑い話だ。
初スマホ投稿です。不備があったらすいません…。