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6

 

 集合場所は村の真ん中の広場だった。

 最近のわたしはあの顔合わせ以来、家から出て村の中を歩けるようになった。なぜならクアラにはお仕事があって、わたしを1人にさせたくないという理由でずっと家にいてくれたからだ。

 ――クアラは優しい。

 でもずっと独り占めしちゃいけない。だってクアラはこの村の長だから。

 そんなクアラを迎えにきたのは、あのカルシアさんの弟でナタシアさんっていうんだけど……、彼はクアラの側近だそうだ。側近というよりは秘書って感じなのかな?テキパキとしていて、棍棒の使い方がすごかった。

 とにかく強いこの村の長を棍棒一つで黙らせ、かつ素早い動きで自宅とは別の執務室がある場所へと連行されていった。その姿はまさしく売られていく羊のよう、……ドナドナドーナードーナ~の歌が頭に響いたのは内緒。

 なんだかちょっと可哀想だったから……うん、なにかお土産を見つけたいな。


 そんな彼の姿を迎えにきてくれたスマルさんと眺めて、促されるように広場へと向かったのだ。

 もうみんな集まっていてわたしとスマルさんが最後だった。



 一番前にスマルさん。その後ろ、わたしを間に挟んでアザリとルージュちゃん。最後尾をナチアくんとユオキくんが並んで村の周囲にある森を散策することになった。

 アザリが笑いながら、わたしの手を握る。クアラよりも大きくない、でも少し硬い手。反対側をルージュちゃんの柔らい手が握った。間に挟まれまるで囚われた宇宙人のようだなと思っていれば、「あたしは別にアザリでもいいけど」と声が降ってきた。


「さっすがルージュ、分かってるなあ!よしよし」


 見上げた先で声を拾ったアザリがルージュちゃんの頭をわしわしと撫でて笑う。


「もう!毛並みが崩れるじゃない!もう!」


 少し大人びた二匹はとっても可愛い。ルージュちゃんは照れたように、嬉しそうに声を荒げたがきっと彼女は…勘だけど、たぶん、そうだと思う。

 恋する乙女はどんな種族だって可愛いのである。


「はい、じゃあ気を取り直して出発!」


 スマルさんの声で、ようやく出発することになった。


 ここは、クアラがわたしを拾った森。

 森の名前はアシュフォードというらしい。恵みの森という意味なんだって。

 森自体は広く、いくつかの種族が生息している。わたしがいるこの村もその一つだ。

 この森は名前の通り恵まれている。川もあるし、その川にはいっぱい魚もいる。薬草、木ノ実なんかも豊富にある。わたしの好きなアジュガの実もなっていた。

それ以外にも見知らぬものが多くて、見ていて楽しい。両手を握られていなければあっという間に迷子になってると思う。


「リン、気になったものがあれば言ってごらん。みんなが教えてくれるよ」


 スマルさんの言葉に、じゃあと年甲斐もなくはしゃぎ問いかけた。


「この小さな青い実はなあに?」


 さっきからさくらんぼのように二つの実がいくつもなっている。色は鮮やかな青だけど、艶やかで瑞々しく見えた。


「これはね、ミーモの実よ。甘酸っぱくて美味しいの。ほら、あーんして」


 ルージュちゃんが一房とってその内の一つをわたしの口に入れた。最初に酸っぱさを感じたがすぐに甘さが広がる。


「ん!おいしーい!」

「リン、これ食べてみて!これはね~トルの花だよ。花だけどね、すごい美味しいよ」

「わっ、きれい!」


 ユオキくんがわたしに透明な花を持ってきてくれた。小さな硝子細工みたいで食べるのは勿体ないぐらい綺麗だ。


「あーんして」


 ユオキくんはルージュちゃんを真似てそう言って、口を開けたその中に入れた。


「ん!甘い!!すごーい、飴みたい!!」


 口の中でパリパリと音を立てて崩れていく。不思議な食感だ。


「トルの花はね、蜜がたまると黄色から透明になるんだよ。そしたらね、食べ頃って合図なんだ」


 本が好きなユオキくんは博識だ。その知識量は大狼顔負けだよってリシルさんも言ってたっけ。

 みんながあれやこれやと食べさせようと持ってくるその中で、一つ異色が混じっていた。ナチアくんが持ってきたものにあるものを見て思わずスマルさんが止めたのだ。


「こらこら、これはさすがに食べさせちゃダメだな」

「え?なんで、ルドルうまいじゃん!」

「確かにルドルには似てるが、四つ葉の中心に丸い柄が入っているだろう?」


 スマルさんの声に、アザリ以外が覗く。

 わたしはルドルも知らなかったが、それはどう見ても四つ葉のクローバーだった。


「あ、ほんとだー!全然気づかなかった!!」


 持ってきたナチアくんが目を丸くすると、ルージュちゃんとユオキくんと一緒にわたしも揃って首を傾げた。



「あれー?じゃあせんせ、ルドルじゃないの?」

「そう、これはこんなとこに生えていい草じゃないんだけど…」

「じゃあなんの植物なのかしら?」

「んん、…」

「俺、知ってるぜ。なあスマル先生、後学のためには教えた方がいんじゃね?」


 この年齢で教えていいものか、とスマルは考えた。

 しかし件の植物は気まぐれホレホレ草といい、その名の通り気まぐれに姿を現わす。自分がいないときに、こうしてまた出くわさないとは限らない。アザリの言葉も一理あるな、と頷いた。


「そうだなあ。昔、まだ私が君たちぐらいの時に腹を空かせたリシルが食べて、カルシアにボッコボコに殴られたこともあったからな。これからもし見つけたら、リシルの二の舞は避けさせたいしな。……ちゃんと見分けないと、リシルみたいな目に合うことも……有り得ない話じゃないだろ?」


 カルシアさんに植物の効力とはいえボッコボコ、の言葉に互いに顔を見合わせてそっと頷く。まだ会ったばかりのリンはさておき、日頃よく見ている者にはいい薬になるかもしれない。まあ、リンの場合は間違っても食べるようなことはしなさそうだけど。



「これはダメね…」

「うん、カルシアおねーちゃんにボッコボコは、…」

「師匠かっけー!!」


 さすがナチア、ブレないな。


「というわけで、この気まぐれホレホレ草は見境なく相手を好きになってしまう。自分がどんなにその意思に抗おうとも効力が消えないぐらい強いまやかしの力だから気をつけるように」

「まあ俺はそんな珍妙な植物になんか頼らないで、好きになってもらうけどな!」




 誰を、とは言わなかったがリンをロックオンしながらアザリは言った。

 アイツ、あのクアラを見てもやる気とは若いってすごいなあ。

 


 初恋はなんとやらとは言うが、頑張れよアザリ。





いつもありがとうございます!


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