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閑話◆アザリ


「そうねえ、これで採寸は大丈夫かしら……」


 あれとこれと……と、数えるように採寸箇所を見直しながらミナラは頷いた。


「ありがとう、ミナラさん。わたし、楽しみに待ってるね!」

「ええ!私も今から作るのが楽しみだわ〜……でも最初は靴を仕上げなくてはね。リンも毎回出歩くのにクアラが付いてきては迷惑でしょ。面倒くさい雄よね〜」


 穏やかだが、さすがはあのメンバーと幼馴染なだけはある。さらっと笑顔で告げる辺りは強い。


「クアラお仕事あるから、わたしばっかり構って逆に迷惑かけてないかなって思うんだけど……」

「ふは、……うん、リンは良い仔だな。だがそんなこと思わないでもっと我儘になっていんだぞ。クアラがあんなに過保護なのは初めて見るが、俺から見ても相当鬱陶しいからな」


 果実を絞ったジュースのような飲み物を出してくれるスマルが頭を撫でてくれた。


「ありがとう、スマルさん」


 スマルさんからしたらクアラは弟分にあたるそうだ。だからか扱い方は十分わかっている様子。


「さあその鬱陶しいクアラが迎えにくるまで、リンはゆっくりしていてちょうだい。ねえスマル、この間作ったクッキーまだ残っていたかしら」

「リンはクッキー好きかい?確かまだ有ったと思うから待ってなさい」

「はい!ありがとう」


 本当に村の人たちは優しく甘やかしてくれる。いくら見た目が小さいからといってこのまま甘えていいのかな?なにかわたしにも出来ることはないかなあ。



 コンコンコンコン


 早めのノック音と共に「スマルせんせー!ミナラねーちゃん、帰ってきたよー」と複数の足音と若い声が聞こえた。


「入ってらっしゃい。リン、挨拶が出来なかった仔たちが戻ってきたみたい」


 確か成熟期間近で狩りに出ていたというグループだっけ。どんなもふもふさんが来るんだろ……ワクワクする。

 ミナラさんの声に「おっ邪魔しまーす」と入ってきた彼らの視線が、大狼(おとな)の椅子に座る小さなリンにロックオンされた。


「うわっ、めっちゃ可愛い仔がいる!!」

「ちっせー!え!どこの仔?」

「あの、わたし、クアラにお世話になってる、あの、えと、リンですっ!」


 椅子が高くて一人では降りれないリンは、その場でぺこりと頭を下げる。


「あー……長が最近囲い出した噂の仔か」

「長の趣味はこうゆう感じだったんだ。そりゃ雌に靡かないわけだな」


 やんややんやと大狼たちに囲われるリンはどうしたらいいのかと慌てるが、そんな中屈んで目線を合わせる若い狼がリンの手を取った。


「俺、アザリ。リンって呼んでいい?」

「はい!大丈夫です、……えと、アザリさん?」

「アザリ。呼び捨てにして」

「でも、あの」

「呼んで、リン」


 両手を握りずいっと前に出る。

 さすがのリンもその押しの強さに、少し恥ずかしく頰を赤らめながら彼の名を口にする。


「……あ、アザリ?」

「リン、可愛い!!」


 がばっと抱きしめて小さな胸に頭を擦りよせる。


「うわあ、あ、あの……え、と」


 リンの顔にもふもふした頭が気持ちよく触れて、頬擦りしたくなるのを堪えているとすかさず飛び出た拳がアザリの頭を直撃した。

 いつの間にか周囲には空間がぽっかりと開き、アザリを気絶までに追い込んだ雄がそこにいた。


「俺のリンに触んじゃねえ!!」


 すかさずリンを抱き上げ救出したのはもちろんこの雄である。


「クアラ?」

「リン、大丈夫だったか?怖かったな、俺がいるからな」


 口を開く前にあれやこれやと言ってリンを抱きしめ擦り寄る。


「うわ、おっとなげねえ〜」

「アザリ死んだかな?二次被害に合う前に逃げるか」


 アザリと共に来ていた他の面々はそう言ってスタコラサッサと去っていく。

 合間に「またなおチビちゃん」「今度は長がいない時にな〜」と笑って手を振っていった。


 リンは手を振り返しながら、顔に当たるもふもふとしたクアラの耳にすかさず頬擦り仕返した。

 会ったばかりのアザリより、毎日触れ合う中で慣れたクアラには自然と身を任す。刷り込みのようにリンの中にはクアラに触れることは遠慮がなくなっていた。


「もふもふ、気持ちいい」


 そうして小さな手が、柔らかな顔が己に触れていることにクアラは一頻り感動して「リンは絶対俺が守るぜ」と今一度固く決心していたとか。



「クアラは本当にリンが本命なのかもな……」

「色んな意味でヤバイわアイツ」




 ぶち倒されたアザリを救出しながらスマルが呟くと、完全に呆れた様子でミナラが頷いた。




若きもふもふ青年アザリ登場です。

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