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「これより頭領会議を始める!一同奥の間へ集まれえ!!!!」


予想を遥かに越えた大きな声にビクリとリンの身体が震えた。


「相変わらずでっかい声だねえ、ミヤジさん。鼓膜破れるっつーのにもう」


ミヤジの名前に顔をあげて声がした方をリンが向く。気づいたようにミヤジがリンに手を振ると、笑顔で振り返す様子にクアラはクワッと目を見開いた。


「雄の嫉妬は醜いわよ」

「んなっ!?」


ナタシアの一声に反発の声をあげようも続かない。


「ん、どうしたの?クアラ?」


顔を上げ、そのままぽてんとクアラの胸に倒れる。


「変な顔してる?」


手を伸ばして下顎をすりすりと撫でればふにゃりとだらしなく笑って。


「してたか?」

「してたと思うけど、かわいいからなんでもいいよ」

「可愛いのはリンだけどな」


マズルを柔らかな頬に擦り付けて、互いに笑うその幸せそうな様子に背後から「チッ」と舌打ちが聞こえた。


「おいクアラ、緊急招集で集まってきてるっつーのに平和ボケか?オガクズでも脳みそに詰まってんのかお前。狼もその程度になっちまったかよ、ざまあねえなケケッ」


身の丈、はリンと同等、いやそれよりかは大きいか。

耳の長い白く愛らしい見た目とは裏腹に、なんとも険悪な態度である。


「うるせえこの白兎め。相変わらず態度だけはでかいなマシラ」

「おめえも相変わらずだよ。あん?ガキに現を抜かしてんのはマジかよ。狼族の族長がよもやロリコンとは恐れいったぜ」


見た目はすごく可愛いのに凶悪だ。とリンはクアラの腕から下を覗いた。


「ふわふわちゃんだ・・・」

「誰がふわふわちゃんだよ!俺は天下の白兎、マシラ様だ。覚えておけよクソガキ」

「いいか、リン。このふわふわちゃんは有害だからな、近寄ってはダメだぞ」


狼と兎の喧嘩はどうやらいつも通りらしく、周りは特に我関せず。

奥の間へ促されるまま、入った順に席に座る。もちろんリンはクアラの胡坐の上だ。


「今回集まったのは既に周知の事実である【六眼】の出現についてだ」

「―――眉唾ものじゃないのか?」

「噂で収まるぐらいなら招集はしない。―――【六眼】は、いる」


飛び交う言葉【六眼】の正体を知らないリンは、すっと手を挙げて言った。


「あの、六眼って具体的になんなんですか?」


小さな子供の姿に、初めて熊族の長老が口を開いた。





「君のような、【異界からの渡り】を喰らうんじゃよ」




細められた眼が、怖かった。

それは、肉食の動物が獲物を見つけた時の眼に似ていたから。

そして、一斉にリンを見る複数の眼。その視線から守るようにクアラに抱きしめられる。太い腕が柔らかくリンを包んだ。


「俺のリンを見るな、減る!!」

「【渡り】を匿う気か、狼の。そやつは災い、我ら森の危機を生む。禁忌の子じゃ!!!」


毛むくじゃらの熊老が覚束ない体で立ち、近づいてくるのをミヤジが止めた。


「・・・じいさん、昔から言ってたじゃねえか。子は宝だって。どんな子でも変わらず森の宝だって。―――リンだって宝だ。渡りがなんだか知らねえが、こんな小さな子を守るのが俺たちの役目じゃねえのか!!」

「こやつは森のものではない。わからんのか!?災いじゃ、こんなものを置いておけば森は未曽有の大災厄に飲まれるだろう。【六眼】は絶対に諦めぬ。この【渡り】と惹かれあう。この森はもう終いじゃあああ!!!!」


狂ったように叫んだ熊老は力なくその場で気を失った。それほどの恐怖が彼を飲み込んだのだ。

残った族長、クアラとミヤジを除いて視線がリンへと集まる。


「災い、・・・森を奪うのか?」

「【渡り】は【六眼】と切り捨てられぬ縁で結ばれている。―――あの熊老があそこまで言うんだから、真実に違いない」

「じゃあ、どうするってんだ?こんな俺よりちっけえガキを餌に【六眼】倒すっつーのか?」


マシラの言葉にハッとする。そうだ。こんな白兎よりも小さな子を生贄にするのか、と。

―――子は宝。

出生率の低くなった現代では、どの種族の子も例外ではない。

そして、(アシュフォード)の暗黙の盟約であった。


「―――リンは俺が守る。狼一族は絶対に、リンを守る。【六眼】にも屈しない」

「俺よりちっけえ奴は問答無用で守る。ロリコンにゃ任せられねえけどな」


クアラの言葉にマシラがニヤッと笑った。


「ふわふわちゃん、ありがと!」

「誰がふわふわちゃんだ!!」


ひょっこり顔を出したリンの言葉にマシラがツッコミを入れて、場は少し和んだ。


「いったんお開きにしようや。我々だけで考えてもラチがあかねえ」


それぞれが立ち上がりばらけてそして。



「クアラ、外に行きたい」




ただ、陽の光が浴びたかった。


沈んだ気持ちを晴らしたかった。



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