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周囲にはなにも見えない。暗い、自分がどこにいるか足元も手の平だって見えないほどの闇。
「…う、…は…ッ…」
暗がりの中で誰かの息遣いが届く。
唸り声が聞こえる。
苦しく呻きながらも、うつろう光があった。
鈍く光る赤の色は、一、二、三、四……五、……六。
あの時言っていた、六眼ってあなたのことなの?
【お前だ】
【お前を食わなければ】
なんで、
【落ちてきたお前を食わねばーーー】
確実にわたしを捉えた眼は
【見つけた】
【俺の餌】
嗤った。
「ああああああ!!!!!」
叫ぶように飛び起きる。隣でクアラが心配して抱きしめてくれた。
「リン、大丈夫だ。大丈夫、俺が傍にいる。大丈夫だ」
ぎゅうっと力強く抱きしめる。クアラの匂い、クアラの毛に顔を埋める。この獣は大丈夫。この人はわたしに安心をくれるから。怖くない。心地が良い。大丈夫。優しくて愛しい大切な人だから。
涙で濡れた頬を舐める。先ほどの恐怖に震えた表情は抜け落ちて、今はホッと安堵した表情で眠っている。
眠りたくない。
就寝前にリンはポツリと言った。
眠るのは怖い。
何故だと聞いたら。
夢に怖いものが出てくると。
唸る苦しい声が聞こえて、自分を食べるという言葉と光る赤い目がたくさんあると言った。
口伝でしか残らない獣がなぜこの時期に姿を現したのか。
毎夜見る悪夢。
リンを探しているのは親などではなく、―――六眼?
翌日には頭領会議がある。この状態のリンを手放す訳にはいかない。そして当たって欲しくないが、本当にリンを狙っているなら尚更離れられない。
頭領会議には口伝の事実を知る長寿老もくる。正しい助言をくれるだろう。―――リンを守る為に。
「というわけで、リンは今日連れて行く」
「六眼に狙われるなんてことが本当にあるのかしら」
「でも真実そうならば、兄貴と一緒にいた方がリンちゃんは安心するだろうし兄貴も守りやすいはず」
早朝に理由を話してリンを連れて行くことに納得してくれたようだ。
会議の出発までまだ時間があるので、睡眠不足のリンは少し寝かせておく。スマルが近くにいるから大丈夫だとは思うが。
◆
頭領会議に参加するのはクアラ、ナタシアさん、リシルさんとなぜかわたしも、クアラに抱っこされながら移動中です。なんでわたしも行くの?とクアラに聞いたら、一分一秒たりとも離れたくないんだって。甘えん坊さんである。でも置いていかれなくてほんとはホッとした。
最近夜に怖い夢を見る。真っ暗でなにも見えないのに、赤い光だけが煌々と不気味に輝いていて、そして嗤うのだ。
昨日はわたしを見つけた、と言っていた。飛び起きた先にクアラがいたのでとても安心したことを覚えている。
今日離れられない甘えん坊は、ほんとはわたしなのだ。クアラがそんなわたしを思って甘やかしてくれる。本当に優しい狼。もふもふ最高、幸せ。
すりすりぎゅっとリンが俺に抱き着いてくる。幸せだ。こうして番が自分の腕の中で甘えてくれるなんて、会議なんて行きたくないけど今回は嫌でも行く。リンの不安がなくなるのなら俺はなんでもする。
頭領会議は俺たち狼一族以外、森に住む代表一族たちが集まる。
熊族、獅子族、空鳥を代表して鷹族、小動物を代表して兎族、そして俺たち。五つの長と今回は六眼についてなのでこの森で一番長寿の熊老に話を聞くため、頭領会議は熊族のテリトリーで行われることとなった。
更新遅いですが、読んでいただき嬉しく思っています。
ブックマークもありがとうございます^^