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8

その日は酷く風が強かった。

森の木々がざわつくように鳴り身を揺らしていく。やがて空もどんよりとした灰色の雲で埋まっていき、遠雷が響く。

こんな日は五感の優れた森の住人たちも自慢の耳や鼻が役に立たない。音が多すぎて、やがて降る雨がなにもかも流してしまうから。

……なにかが身を潜めていてもおかしくはない。



「今日は雨ふっちゃうかなあ」

「そうだな、……この様子じゃあな」


窓から見上げた空はもう灰色だ。

重く暗くのしかかるように厚い雲が辺り一面に広がっていった。

ふとノックが三回。窓の外からはどんよりとした空とは違い賑やかな声が聞こえる。


「リン、時間だぞー」

「スマル先生だ!じゃあね、クアラいってきます!」


行かせたくない、と顔には書いてあったが腰を落とし両手を広げている。わたしはそこに飛び込み、ぎゅうっと抱きついてクアラの頭に三回キスをした。これはいわば「いってきます」の合図だ。ぎゅうっとしただけではクアラが一向に離さなくなるので、クアラから離れる時はそこにキスを三回。最初はなんだか気恥ずかしさが増したのだけれど、今は慣れた。これがわたしとクアラの約束事となった。


「リン、いってらっしゃい。早く帰ってこいよ?」

「ふふ、うん。クアラもお仕事がんばってね」


扉を開ければいつものメンバーに加えて、今日はリシルさんとナタシアさんがいた。


「リシルさん!ナタシアさん!こんにちは」

「ハーイ、リンちゃん。今日も可愛いね」

「気をつけて行ってきなさい」


二匹ともそれぞれにわたしの頭を撫でて、部屋へ入り逆にわたしは家を後にした。

その中でどんな話がされるか、想像もつかず笑顔でその場を後にした。


「いってきまーす!」



村には学校、というよりは託児所に近いスペースがある。仔狼(こども)が少なく群れで生活する一族なので、同時期の仔狼たちはこうして集団でみんなに守られていた。

ちなみに今日の授業は、この室内で過ごす。

昨日の森で見つけた植物のおさらいとクマさんのこと。この(アシュフォード)にはまだまだ多くの種族がいて、敷地の広さが測りしきれないってことを知った。一人で絶対に行ってはいけないよ、とみんな……特にナチアは要注意されていた。ふふ、わんぱくだもんねえ。


窓の外はまだ雨が降ってない。今日はいつもより少し早くに帰るのが良いだろうということで、授業の後にお昼を食べてからみんなで一緒に帰ることにした。



空を見上げれば灰色雲がどんどん埋まっていく。程なくして雨が降るだろう。それは分かる。

しかしこの周りのソワソワした感は分からない。なんだろう?と首を傾げていたら、頭にポツリと冷たさを感じた。


「雨だ!リン、雨が降ってきたよ!!」

「うん」

「やったー!!これでもっと遊べるよー」


るんたったるんたった、と小躍り始めるもふっ仔狼たちに首を傾げるリン。


「でも濡れちゃうよ?」

「バカねえ、そっれがいんじゃない!雨の中の醍醐味よ!!」

「雨はそれだけじゃないんだぜ……なんと言っても雨が上がった後まで楽しめる」

「水たまり最高!!」


いつのまにか獣化したユオキたちが追いかけっこしている。どうやら仔狼たちは揃って雨が大好きなようだ。

リンも以前の世界では長靴を履いて水たまりにポチャンポチャンと意味もなく浸かりにいったものだが……。

さすがに若返ったとはいえ自ら濡れに行くのは躊躇する。


「リンも一緒に遊ぼ!」

「ほら、こんなに楽しいんだぜ!」


徐々に雨足が強くなり、ぬかるんだ土にはユオキもルージュもスライディングして身体を擦り付けた。ナチアなど顔から突っ込んでいる。

ブルブルブルッとナチアが払った泥がべったりべたりと、リンの顔に服にと着いた頃には靴を脱いで走り出していた。

躊躇していた頃のリンは居らず、ただ全身で泥遊びを楽しむ仔狼たちの声が雨に混じって聞こえた。

いつまで経っても帰ってこない仔狼たちに、まさか……と心配したスマルとクアラが駆けつけた頃には、三匹と一人の泥んこズが見つかったとか。


「くちんっ!」


リンのこのクシャミでもちろん強制終了だ。


「こりゃ全員風呂場行きだな」

「もちろんリンは俺が入れ」

「リンとルージュは私と一緒に入るから、クアラは心配なくユオキとナチアをよろしくね」

「な、俺が」

「私に逆らおうって言うの?」

「…うっ」

「クアラ、お前の負けだ。行くぞ」


泥んこズの片割れたちを小脇に抱えながら渋々風呂へと向かうのであった。

一部修正しました。

シリアスは…たぶん次の回、…たぶん!

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