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液体化したキャラメル

光は高校三年生、受験生だ。十一月、今からが一番大切な時期。なのに、彼は毎晩私と一時間あまりも電話で話し、土曜日には私と会ってくれた。

「大丈夫?」

って聞くと、

「どうかな。」

だって。本気で勉強してるふうには見えない。

田舎町から通える大学は一校もなく、進学する者は必ず町を出る。光の志望校は自分の生まれ育った神戸の大学。彼の成績からはかなり高望みなところ。おまけに、勉強はしていない。


あれから、私たちはあいかわらず土曜日の午後、光の部屋で会ったけど、キスして抱き合って話をする、制服の上から少し胸を触られる、そんなところでとどまっていた。

光が少しでもその先に手を伸ばせば、私がその手をつかんでとどめる、そんなやりとりを、私も光も楽しんでいた。またあのキスまでのゲームの繰り返し。ステージが上がっただけ。抑え込んでも着実に、増幅している私の菌。


十二月、クリスマスには彼には会わなかった。私は同級生とクリスマスパーティーをして過ごした。クラスの男の子たちと遊ぶのもまた楽しかった。大人数でのトランプ大会は大いに盛りあがった。年末年始も会わないで、私はずっと家族とすごした。受験生の彼に一応気も遣っていた。家族には光とまた会っている事は内緒だった。母は、私が光と毎日長電話をしていることを知っていたけれど、ただの電話友達と言ってごまかした。クリスマスにみんなで撮った写真を見せて、このメンバーで土曜日もいつも遊んでいるかのように装った。


冬休みが終わる日、いつも家にいる母が、めずらしく朝から出かけていた。何もすることがなかった私はぼんやり朝のドラマをみながら、ふと、思った。

「光、どうしてるかな。」

昨日の電話では、夜中まで勉強を頑張って、今日は昼まで寝る予定だと言っていた。

私は即行でお気に入りの水玉のワンピースに着替え、十時二十分のバスに飛び乗った。なんとなく、きもちのいい、一月にしては暖かい朝だった。


光の家の玄関に立って、ちょっと様子を伺った。右手の洗面所あたりから水を流す音がする。彼の両親の二台の車はともになかった。妹の自転車もない。

彼だと確信して、私は耳をすませた。しゃかしゃかと歯磨きをする音が愛しく思えた。

私が玄関のチャイムを鳴らすと、彼が歯ブラシをもったまま、怪訝そうな顔でドアを開けた。

「よう」

と言うと

「おお」

と答えながら彼は目をまんまるくさせていた。

彼はパジャマっぽい上下そろいのグレーのスウェットを着ていて、髪の毛はいつも以上にぐちゃぐちゃで、ほんの今、起きたようだった。

「どした?」

「遊びにきてあげた。」

上がって待っててと言って、私を部屋に通し、彼は歯磨きを終えて、そのままスウェットを脱いで、着替え始めた。

部屋はベッド以外、きちんと整っていて、机には開きっぱなしの教科書とノートがあった。私はベッドの端に座った。あったかい。光の体温がまだ残っていた。いくら暖かいとは言っても、一月に、素足にワンピースはやっぱり寒い。火の気がない部屋で私はふとんに足を突っ込んだ。ふんわりと光の甘酸っぱいコロンの香りがした。

光は引き出しから出したシャツを着ようとした手を止めてこっちを見ていた。そしていきなり私に近づいてちゅっとキスをした。

彼はそのまま布団に足を入れて、私のとなりに座った。二人で布団に足を突っ込んだ形。

「寒い」

あたりまえ、彼は上半身裸だった。

私に体を摺り寄せて、彼はぎゅっと抱きついてきた。

「かぜひくよ」

私は布団を引っ張って、彼の肩にかけてあげた。私たちはキスをしながら、そのままベッドに横になった。歯磨き粉のはっかのにおいで口の中がスースーした。


彼がワンピースのすそをたくし上げて、私の胸に顔を埋めた。下に着ていたキャミソールとブラジャーごと、すっぽり上にたくしあげられて、私の目には、ワンピースの楕円にひしゃげた水玉のブルーが見えるだけ。ごわごわした毛の生地が鼻を擦る。天井を見上げながら、不思議な気分。光の舌の動きはくすぐったい感覚しかなかったけれど、体がジンジン熱くなっていくのを感じていた。光の顔は見えない。光には多分見えるよね。縮こまって流れもしない小さな胸が。陥没した薄いピンクの先端が。だけど、胸を見られる恥ずかしさよりも、触られてキスされるくすぐったい甘い気分に体ごと支配されてしまう。

ショーツに手がかかる。いつもなら、ここで私が手をとめる。だけど、私はちょっとだけ、もうちょっとだけ、次のステージに、進んでみたい気持ちになった。熱で液体化していくキャラメルのように体に力が入らない。

ノーリアクションの私に、手は躊躇しないで、体と下着を引き離し、私の下腹にすべりこんだ。自分でも触ったことのない未知の場所を光に優しく触られる。縦の線に合わせて前後に動く彼の指先の快感は、今まで感じたどんな快感とも違う感覚。コリオリの力を受けた嵐の時の波のように、大きくうねり、心臓を突き抜ける。指の刺激でゆらゆらと膨らんでいく私を光が壊さないように、はじけないように、丁寧に丁寧になでてくれる。息遣いが自然に荒くなる。私は変な声が出ないように、音を殺して息だけ吐いて吸う。


いつしか私は着ていたものをすべてとりさられ、動物のように体一つになる。ずっと自信のなかった体だけれど、私を求めてまっすぐに向かってくる光の前でだけは、なんだか自分が完全体であるような気がしてくる。彼は私の全身を包みこむように目に、耳に、首筋に、胸に、優しく優しくキスしてくれた。胸の下、おへその辺りまで行って、また上に戻ってきて、 私の唇を軽くもてあそぶようにキスしながら、光は言った。

「いい?」

答えに詰まる。

体はずっと熱くほてって彼を受け入れようとしている。一方で私の頭は冴えていて、冷静に自分と光を見つめてる。だけど冷静な私も、今は光を拒否できない。私の下半身が、もうすでに、光の体すべてを呑み込めるくらい肥大化しているような感覚があった。

光が自分のスウェットのパンツに手をかけた瞬間、間違って押した防災ブザーのような音がして窓のすぐ外で自転車が止まった。光は三秒くらい、動きを止めて、それから素早く立ち上がった。部屋のドアをあけて、すぐにばたんと閉めた時、ガラガラッと玄関ドアが勢いよく開いて、快活な女の子の声がした。

「お兄ちゃん、昼ご飯できた?」

「もうー、うちが帰るまでに作っとくっていうたやない。」

中一の妹に一方的に責められて、光は情けない顔をして再び部屋に戻ってきた。

私はベッドに入ったまま、手探りで服を着ていた。妹が入って来ないと分かって私はベッドから降りた。

「そのかっこ、なんか言われんかった?」

光は上半身裸で鳥肌を立てていた。

「俺、いつも変やから何も思わへんやろ。」

「あーさぶ」

と言いながら、彼はシャツを着始めた。

「あたし、帰るわ。」

そう言って部屋を出ようとした私に彼は

「俺のチャーハン、食ってけよ。」

って言う。

彼が時々料理を作るのは聞いていた。意外とおいしいという自己評価も。

「ほんとにおいしい?」

「食ったらわかるって。」

私もおなかがすいてきた。いつのまにか十二時を過ぎていた。


彼がキッチンにいる間、私は彼の部屋で待っていた。机の上に広げられた問題集の真ん中に私の写真がはさんであった。クリスマスの前に私があげた、家の前で父に撮ってもらった写真。

ノートのちいさく丸い、きちんとそろった彼の字は、大人びた外見に似合わず、とてもかわいらしくて、おもわず微笑んでしまった。本当は大人ぶってるだけで、この字のように子供なのかも。そんな風に思わせた。


光の部屋で二人V字に向かい合ってチャーハンをほおばった。チャーハンは葱と焼き豚が同じくらいに小さく刻まれていて、卵もごはんもさらさらで、本当においしかった。

「いいお婿さんになるね。」

と言うと、彼は

「さんきゅ」

と得意げに笑った。


私はそれからしばらくして二時二十分のバスで帰った。母が帰る前に帰っておきたかった。お気に入りのワンピースを着て、どこに行っていたのか詮索されたくなかったから。やましい気持ちが顔に出るのが怖かった。

「してほしいから行った。」

私の頭は冷静に、その気持ちを普段着のスウェットに隠した。




何食わぬ顔で居間で家族と夕飯を食べて、見たいテレビ番組もなかったので、八時ごろ二階の自分の部屋に上がった。スウェットの中に閉じ込めた私がもういいかいと顔を出す。昼間の未遂に終わった出来事を、最後まで叶えてと、手が、自分の体をなぞりたくなる。光に触られた体を、自分の目で、手で、確認したくなる。光の指が気持ちよくて、波のようで、もどかしくて…。もっともっと、その先に、何があるのか知りたくて…。私は自分の部屋で、光が私にしてくれたことを自分でやってみた。鏡の前で胸を触る。鏡に向かってキスをする。これくらいなら前にもしたことはある、だけど、それから、手を下に。直接こんなふうに触るなんて、生まれて初めて。

ずっと排泄をするためだけのものだと思っていた縦に割れたこの亀裂。どうしてこんなに気持ちいいのか。どこが気持ちいいのか。

すぐに、ポイントがわかった。ここだ。昔、ここからおしっこが出ていると勘違いしていた硬くてまるい突起。イガに包まれた果物と、かわいい小動物。クラスの男子が言っていたつまらないナゾナゾ。

それから、光が何度か指で探していたとこ、差し込もうとしていた部分も探した。光は探し当てられなくて、少し痛かったんだ。人が創られ、生まれてくる場所。本当は、厳かで、神聖な場所。学校でだってこの場所は習う。だけど、それは同時に卑猥で、汚らわしい場所にだってなりうる。卑しい呼び名もたくさんある。今はその、汚らわしい場所を私は探している。

なんとなく、滑り込ませそうな窪みが分かる。だんだん湿ってきていたその窪みは、あっけなく私の指をするりとのみこんだ。

十分くらい気だるい快感に酔いしれていたら、急に体中に電気が走るような刺激を感じた。今まで真ん中の薄い黄色でゆらゆらしていた信号が急に血のような赤に変わり、燃えるように光り始める。一気に激しく光度はあがり、眩しすぎて白になる。そのあとポッと青に変わって緩く点滅。とくん、とくん。もういいよ、そろそろ終わるよ。用意はいいかい。血流が奏でる点滅は徐々にフェードアウトして、完全に真っ暗になる。その一瞬、私は無になる。


暗闇の中で手探りで探す。自分がいた場所を。さっきまでの場所を。目を開けると明るい部屋が飛び込んでくる。机、教科書、並んだぬいぐるみ。ほんの数分前と変わらない日常がそこにある。自分がとても汚く思えた。わけもない憎悪が、自分と、光に向けられる。さっきのいやな、眩しすぎる赤い光線が目の端にちらついて、心がどろっと重くなる。みじめで、虚しくて、吐き気さえしてくる。

こんな行為に何が私をかりたてるのか、私は何がしたいのか、どんどんわからなくなっていく。

光と肌を合わせる事が気持ちいい、そしてそのあと、家に帰って得体のしれないいやな気分に縛られる。光と最初に会ってからだ。ずっとその繰り返し。六畳のこの部屋で、私は何度、赤い血のような鈍い光に負の感情を増幅させてきたことだろうか。

「いい?」と聞かれて答えられなかった私。体はもう、はちきれそうに膨らんで、そのまま最後までいっていたら私はどうなっただろう。

誘ったのは私だ。光の方じゃない。わざと素足でミニのワンピースなんか着て、彼のベッドにもぐりこんだ。身に着けていたのは薄いショーツとブラジャーとキャミソールだけ。

いつも冷静な私は体の奥にちゃんといる。そして奔放な私を嘲笑うように見ている。決まって行為の後に現れて、私に粘着質のつばを吐く。光とのときも、一人のときにも。

それが本能に基づく行為だとしても私はそれを受け入れることができなかった。受け入れられないのにしてしまう矛盾にうちのめされ、私は逃れる場所を求めていた。クリーム色に輝いた、昼の陽の当たる無菌の場所を。




一月末には光の受験が始まる。受験が終わる二月中旬まで会わない、電話もしない、勉強に集中してほしい、そう私から提案した。

光の邪魔をしたくない。だけど、自分のためでもあった。会わない方がいい。もう、これ以上会ったら、離れられなくなる。あのいやな気持に、ずっと支配されそうで、怖かった。ぎりぎりのところで自分をとどめていたかった。土曜日も遅くまで部室に居座って、そのまま家に帰った。

北北東の風が吹く、寒い月曜日。無愛想なバスの運転手に手袋のまま定期をかざして、いつものように古川のバス停でステップを降りると、目の前に光がいた。マフラーで半分顔を隠して、ちょっと照れくさそうに笑って、「よお」だって。

私はちょっと辺りを気にして、距離をとり、

「どうしたん?」

って問い掛ける。

「顔が、見とうなって。」

すごく小さい声でつぶやく。悪いことした子供みたいだ。

「もう。」

私は怒った顔をして光に背を向ける。いつもの怒ったふりではない。誰が見ているか分からない。私の家はここから歩いて十分。見るからに不良っぽい、地元高の光と一緒にいるところ、父や母の知り合いに見られたくなかった。ただ、親に知られたくなかったのだ。

「どうする?」

顔を見ないで聞いた。

「うん、顔見たし、もうええ。帰るわ。」

冷たい態度。だけど光は慣れている。

私は電話でも喜怒哀楽が激しい。相手が光だから。彼になら、自分が素直に出せた。気を遣わなくてよかった。誰にでも見せる素顔ではない。光はそれをわかってくれる。

でも今日は、しょんぼり縮こまって自転車に乗る後ろ姿が胸にちくちく痛かった。初めて光を喜ばせてあげたいと思った。抱き着きたかったけど、ここでそんなことできない。

しばらく光の後ろ姿をぼんやり眺め、急に私は横断歩道を走って渡り、ちょうど来た学校へ行く方のバスに飛び乗った。光を追いかけるんだ。でも、今からだと遠くまでは行けない。

もうすぐ六時、あたりはもう真っ暗。空気はキーンと張りつめていた。バスは二つ目の停留所ですぐに光を追い越した。その次のバス停で私は降りた。

私に気づいてびっくりした顔で光が来た。私たちは目ざとく人影のない裏道を探し出し、光は自転車をとめて、狭い路地に入った。

光が私を抱きしめる。

「あったかい。」

溜め息のように言う。冷たい光の体を抱きとめて、私はすごく切なくなる。

「だめじゃん、勉強に集中しなきゃあ。」

「どうせだめや。」

入試目前で弱気になっている。

「終わったら、いっぱい会ってあげるから。」

ぐるぐる巻きのマフラーを緩めて何度かキスをしたあと、白い溜息がふぁーっと広がる。

「終わったら、あげるよ。…私を、全部あげるから。」

言っちゃった。かわいそうで、何かしてあげたくて。

「ふっ。」

鼻を赤くして光が笑う。

「がんばれる?」

って聞くと私の頭をくしゃっとなでて、

「ありがと。」

光は私にキスをして、正面からじっと見つめた。さっきまでの情けない顔がぽっと明るく輝いていた。


約束を守って光は三週間、連絡してこなかった。

予定していた三校目の受験が終わった日、光から電話があった。

「終わった。」

「どうだった?」

「ん、たぶん、全滅」

「ほんと?」

その三校がだめだったら、エンジニアになるための専門学校に行くらしい。彼にとってはもうどっちでもいいって。いずれにしても、神戸に帰るのだ。神戸は彼の古巣なのだから。

「会いたい。」

光が言う。

「うん。」

って私も答える。本当は、会いたかったのかどうかわからない。光のことを忘れて充実もしていた。いなけりゃいないでやっていける、でも、声を聞いて、会いたくなったのは事実だ。

「今度の土曜日。」

約束の事は言わなかったけど、光はそのつもりかな。私も、そのつもりかな。他人事のようにぼんやり思った。


あっという間に土曜日になった。山越でバスを降りると光が待っていた。私があげたマフラーをして。

部屋に入っても私はちょっと距離を置いた。光がいつものようにコーヒーを入れてくれる。しばらくおしゃべり。今日は私がくっついていかないから、光も何もしない。「男は狼なのよ」なんてはやったけれど、そんなの嘘。いつも先に手を出すのは私。光は従順な羊。広大な牧場の草をついばむように時間はどんどんすぎていった。

急に光が黙り込む。私の顔を覗き込んで

「俺、おまえに言うときたいことがあるんや。」

「なに?」

聞き返すと

「笑うなよ」

と念を押す。

「それはわからん。」

なんかもう、すでに笑いそうになって私は答えた。

肩をつかまれて、引き寄せられる。私は光に身を任せ、緩く抱かれたままでいた。ああ、このまま時が止まればいい。会って最初の肌のふれあいが一番好き。その一瞬の感動を、光が私に与えてくれる。

「俺な、おまえがどう思おうと、何言おうと、おまえが好きやねん。愛…してんねん。」

「ずっと、これからも、おまえだけを愛する。以上。」

私の頭の真上でそう言って、光は私をぎゅっと抱きしめた。


言われる前の幸せと、言われた後の幸せ。どっちがよかったのだろう。


たしかに感動したよ。もちろん。でも、その一方で、光の気持ちは重かった。私には受け止められない。そんな気がした。

でも、結局は彼も同じかも。ずっとこれから先のことなんて、誰にもわからない。光にだって、これから先の自分の気持ちなんてわからない。未来に絶対なんてありえない。条件は同じ。それを、認めるか、認めないか、その違いだけ。そう、未来の約束なんて、未来を今と同じようにとらえている者の勝手な妄想。

だけど、私は光になら、「今の私」をあげてもいいと思った。初めてその気持ちが「愛」かもしれないと意識した。そしてそれが私にできる今現在の最高級の愛の証。

私は自分から光にちゅっとキスをして、

「ありがと。」

って言った。

そりゃ、満足しないよね。愛してると言って、ありがとだけじゃ。彼の目は答えを求めていた。

「あたしは…愛なんてわからん。でも、光のことは一番好き。」

「それで十分。」

光はそう言って、私にキスした。


それからは、遊びのキスじゃなくて、本物の、深いキス。それから彼は私を抱き上げて、ベッドに運んだ。

彼の優しい愛撫。胸へのキスは気持ちいいけどやっぱりちょっとくすぐったかった。それから、指は少し激しくなって、私の窪みを探し始めた。そして今度はちゃんと辿り着いた。

彼が自分の下着を取った時、私は消え入るような声で言った。実は一番気になっていた事。

「大丈夫かな?」

「え?」

光は動きを止めないで声だけで答える。

「できたら…困る。」

光のそれは、もう、私の入り口に接触していて、私は硬い異物を感じていた。

「うん。」

光は予測していた。

「ちょっと目、つむって。」

言われるとおりに目をつぶると、彼は何か、ごそごそとやっている。

「これで、OK。」

ちゃんと用意してた。結構すばやかったのは、手元にしっかりと用意していたということ。練習もしたんだろうな。私が心配しなくても彼はきちんと考えてる。そんなところは用心深い。私は少しホッとして、抱き着いてきた光の動きに自分の動きを合わせようとする。お互い初めてだったけれど、自然に身を任せていけば多分大丈夫。そう思っていた。

だけど、やっぱりそう簡単にはいかなかった。ぴったりくっついた皮膚と皮膚をむりやり引き裂かれるような痛みに私は耐えられなかった。腰が引けた。光から、体は離れていくばかり。一方で、もう前しか見えない光は私を離すまいと余計に力を入れて押さえつける。

「いや。…痛い。」

私はもう、こらえられなくて、泣きそうになって外に聞こえるくらいの声で叫んだ。光はその声にびくっとして「ふー。」と力を抜いて、私の上に倒れこんだ。私の胸に顔を埋めて、しばらくそのままじっとしていた。

「重い。」

そう言うと光はやっと、私から体を離した。

くすくす、笑ってしまう。

「笑うな。」

光がにやけて言う。

「笑うとこうやで。」

私の体を触りまくる。 私はくすぐったいのと、おかしいのとで、ますますくすくす笑いながら体をくねらせた。

光が優しく愛撫してくれる。私の誰にも見せない、誰にも秘密の、深い、熱い、体の芯まで届く部分を。笑い声が吐息にかわる。これが本当の私なのだろうか。光とずっとこうしていたいと思うこの気持ちが、愛、なのだろうか。優しい光のなめらかな指先。その指先でいつまでも、いつまでも、私の体にささやきかけていてほしい。こうして凪いだ砂浜の波のようにおだやかに、永遠に感じていたかった。



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