忘れられない
~プロローグ
光、私の初めての人。
そばにいなくてもいい。別に会いたくもない。でも、そのささやくような指先だけが思い出されて、もどかしくなる夜がある。青臭いけど侮れない、幼いイドの記憶。
~現在
懐かしい十一年ぶりの広島の街。メタリック調ですっかり様変わりした広島駅新幹線口、十一番ホーム。先に「こだま」で着いた私は次の列車が来るのを待っていた。予定通りの時刻に、下りの「のぞみ」が到着した。紺のシースルーシャツに、オフホワイトのフレアースカート、脇にベージュのスプリングコートを抱え、ゆっくりと降りて来たしかめっ面の人。それが私の待ち人。三十年来の親友。
「セリ」
会うのは確か五年ぶり。小さく手招きすると
「ゆづ」
セリも私をみつけて大ぶりのヴィトンのバッグを抱えなおし、顔を緩めて私に手を振る。
「なんか『Sex and the City』みたいでかっこいいよ。」
久しぶりなんで、私はちょっとリップサービス。だけどセリはまんざらでもなさそうで、
「そりゃそうだよ。だって、ゆづに会うからめいっぱいお洒落してきたんだもん。」
なんて大きな声で笑う。そう、女はいつも、お洒落の対象は周りの男じゃなく、一緒に歩く女。
「ゆづこそ相変わらずサラ・ジェシカ・パーカーばりにスレンダーだね。うらやましい。」
「何言うてんの、セリのそのぴちぴちした肌の方が、うらやましいよ。」
時の流れに逆らえない部分は見ないふりで、お互いに自分にないものを褒め合い慰め合う。とは言え、傍から見れば、五十はまだかなと思うけれど四十はとっくに超えているとわかる、二人の熟女。
前はセリの住む横浜で会った。私が田舎に帰ってからはこれが初めてだ。たまにメールのやりとり、もっとまれに電話。この前電話をもらったのは、あれは高校生のメリちゃんに彼氏ができてどう対処していいかわからない、という相談だった。一年前だったかな。実際に子供がいるセリよりも、子供のいない私の方が、子供に近い考えを持っているんじゃないかと言って…。
「子供はそうやって成長していくんだから、見守るしかないじゃん。信じてあげたら?」
子供主体の私に
「それはそうだけど、やっぱり親として言うべきことは言わないと。」
親目線のセリ。
「親としてかあ…。なんか大人だねえ。」
「もう、ゆづは相変わらず子供っぽいね」
とセリが少し笑った。
そう、私はやっぱりまだ子供。いつも自分のことばかり。そして人を傷つけてばかり。
一年前のあの日、セリからの電話のあと、ずっと引き出しにしまって埃をかぶっていた、子供の頃のことを、私は久しぶりに取り出してみたのだった。




